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第7話

مؤلف: 雨模様
朔はすぐ遥に追いついた。

「まずは車に乗れ。今夜はお前の実家に帰るのも、ホテルに泊まるのも駄目だ。屋敷で宴の準備をしているから、俺と一緒に来るんだ」と、朔は遥の手首を掴んで言う。

遥は朔の方を向いた。

「何のこと?」

朔は少し黙り込む。

「結婚3年目の記念日だ」

遥はふっと笑った。

その笑みは氷が溶けていくように儚く、冷ややかだった。

朔自身が自分を警察に突き出し、世間には自分を徹底的に叩かせた。

それなのに今、結婚記念日の宴に出席しろと?

「行くわけないでしょ」遥はきっぱりと言い放つ。

しかし、朔は聞こえないふりをして、強引に遥を車に押し込んだ。

道中、車内の空気はとても重かった。

屋敷に着くと、庭には明かりが灯り、華やかな雰囲気が漂っていた。

今夜招かれていたのも、神宮寺グループと取引のある旧家の人々ばかりだった。招待客は皆質の良い着物や袴をまとい、旧家らしく品のある挨拶を交わす。

遥が宴会場へ一歩足を踏み入れると、無数の視線が突き刺さった。

探るような目、見下すような目、好奇の目。

視線が集まる中、朔は長細い箱を遥に差し出した。

箱を開けると、中には深みのある光沢を放つ黒真珠の首飾りが入っていた。ひと目見るだけで、高価なものだとわかる。

「記念日のプレゼントだ」と彼は言った。

周囲からどよめきが漏れる。

「さすが神宮寺家。あんな騒動があっても、ちゃんと嫁の顔は立てるんだな」

「神宮寺社長は奥さんを甘やかしすぎだよ」

「あの真珠、てっきり次期当主の奥さんの証だと思ってた……」

周囲の声が聞こえてくるが、遥は何も感じなかった。

こんなの、朔にとっては都合のパフォーマンスに過ぎない。

自分を地獄に突き落としておきながら、大勢の前で宝石を捧げてみせることで、周りに自分があたかも誠実で完璧な夫だと思わせるのは、彼の常套手段だった。

遥はその首飾りを受け取らなかった。

朔も無理強いはせず、使用人に片付けさせた。

宴も半ばにさしかかった頃、給仕が不注意で酒を遥の服にこぼしてしまった。

遥は特に気にすることもなく、着替えのためにその場を去る。

2階の部屋で着替え終わった遥は、廊下を歩いていた。この屋敷の2階廊下は、いつもかなり静かだった。

一回に降りようと、階段に足をかけたその時、遥は瞬時に足を止めた。

階段に、薄く油が塗られていることに気づいたのだ。

灯りの下では、ほとんど判別できないが、小さい頃からカーレースに参加していて動体視力の良かった遥は、その微妙な反射に違和感を覚えたのだった。

もしそれに気づかず足を踏み出していたら、間違いなく、頭から落ちて大惨事になっていたに違いない。

その場に立ち止まっている遥の心に、冷たい怒りが込み上げてくる。

遥は掃除を担当している使用人を呼び出し、誰がこの場所を清掃したのかを問い詰めた。

使用人は震えてしまい、上手く言葉が話せない。

遥はさらに問い詰めると、やっと泣きながら、紗絵側の使用人が30分ほど前に来ていたと白状した。

遥は踵を返して離れへと向かう。

離れの扉は少し開いていて、遥が扉に手をかけようとしたその時、中から声を抑えた紗絵の話し声が聞こえてきた。

「油はたっぷり塗った?ちゃんと塗らないと転ぶだけで済んじゃうから、ちゃんと顔から叩きつけられるぐらいにしないと。あの女の顔がめちゃくちゃになれば、朔さんだってあの女を人前に連れ出したりはしないはずだしね。

だって、あの女の1番の自慢はあの顔でしょ?だったら余計に壊してあげなきゃ」

遥は迷わず扉を蹴り開けた。

振り返った紗絵が叫び声を上げるよりも早く、遥は力いっぱい平手打ちを食らわせる。

部屋に乾いた音が響き渡った。

「紗絵」遥の声はゾッとするほど落ち着いていた。「そんな私に殺されたいの?」

遥はそばの飾り棚にあった竹製の杖を手に取ると、紗絵のスマホを叩き割った。

破片が四方に飛び散る。

泣き叫ぶ紗絵の襟元を掴むと、遥はそのまま外へと引きずり出した。

「離して!正気の沙汰じゃないですよ!」

「うん。もう正気なんかとっくに失ってるから」遥は冷たい目で紗絵を見る。「最初からこうすればよかったんだよね」

紗絵を回廊の突き当たりまで引きずった。そこには凍りついた、錦鯉の池がある。

抵抗しようとする紗絵にもう一発平手打ちをくらわし、そのまま突き飛ばした。

バシャーン――

池の中に投げ出された紗絵は、あまりの冷たさに絶叫する。

足を挫いた上に、薄着のドレスが絡まり、立ち上がることもままならないのか、水の中で溺れそうにもがいていた。

宴会場は大混乱に陥った。

騒ぎを聞きつけた朔も駆けつけた。彼の目に飛び込んできたのは、池の縁でずぶ濡れになりながら、惨めな姿でうずくまっている紗絵と、廊下で冷ややかに見下ろしている遥だった。

「遥!」朔の声は震えるほど低かった。「またお前がやったのか?」

紗絵は即座に彼の足にしがみつき、激しく泣き崩れた。

「朔さん……私、何もしていないのに……遥さんが突然入ってきて、私を叩いたと思ったら、最後には池に突き落として……きっと、警察に連れて行かれたこと、まだ根に持っているんです……」

遥は朔をじっと見て、はっきりと言う。

「この女は階段に油を塗って、私に大怪我させようとしたの。私はただ――」

「もういい」朔は冷たく遥の言葉を遮った。

朔は「証拠は?」とも聞かず、ましてや遥が危うく踏みかけた階段のことなど気にもしてくれなかった。

彼はいつもと同じように紗絵の味方をし、遥を悪人と決めつけた。

「たとえ紗絵が何かをしていたとしても、暴力を振るっていい理由にはならない。遥、その身勝手な性格、いつになったら直るんだ?」

遥はそんな朔を見て、言い訳する気力さえ消えてしまった。

自分が真実を訴えたって、聞いてもくれない。

ましてや、自分を一回たりとも信じようとしてくれなかった人間に何を言えと?

遥は口角を歪ませ、諦めにも近い笑みを浮かべる。

「朔、私はもう何も言わないよ。あなたが思ったことが全て正解」

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