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第3話

مؤلف: 雨模様
電話を切った遥は、廊下でしばらく動けずにいた。

真実を知った瞬間は、暴れたり、物を投げたり、朔のもとに駆け込んで心中してやろうかとまで考えていた。

しかし、今の彼女の心は非常に静まり返っている。

離婚を決めた以上、この場所を去る前に、この3年間で奪われた自由を取り戻さなくてはならない。

遥は仲のいい友人に連絡を入れた。

午後はウィンドウショッピングをして、夜は美容室で髪を整え、そのままバーを回る。

友人たちは開口一番、「遥、今日はなんか人が変わったみたいだね」と言った。

遥はバーカウンターに座り、真っ赤なネイルを施した指先で、グラスをゆっくりと回す。

「もうすぐ離婚するからね」

友人たちはグラスを落としそうになりながら固まった。

「え!あんなに朔さんのことが大好きだったじゃん!

朔さんと結婚するために、お茶まで習ったのに。それもまた、なんで……」

遥は一気にグラスの中身を飲み干す。

液体が喉を通り、焼けるような痛みが胸に広がった。

「もう好きじゃない」遥は呟いた。「これからも、一生好きになることなんかない」

遥がそう言うや否や、爆音で流れていた音楽が突然止まった。

照明が一気に明るくなり、あやうげな雰囲気が一瞬にして吹き飛ぶ。

黒いスーツを着た大勢の警備員がなだれ込んできて、店内から次々と客を追い出し始めた。

店長も顔を青ざめさせながら、何度も頭を下げて謝り続けている。

不満げに店を追い出される客たち。遥の友人たちも、例に漏れず店の外へ連れ出された。

店内が、あっという間に静寂に包まれる。

神宮寺家の執事が、遥の前に立ち、深々と頭を下げた。

「遥様。大奥様が家でお待ちです」

遥はソファに座ったまま、面倒そうに視線を向けた。

「私は行かないよ。それと、おばあ様に伝えてくれる?私はもうすぐ朔とは他人になるから、神宮寺家の古いしきたりなんて私に関係ないって」

しかし、執事は表情一つ変えず、ただ軽く手を上げる。

すると次の瞬間、遥は背後から両腕を抑えつけられた。

遥もすぐさま反応し、手に持っていたグラスを投げつける。

グラスは地面で粉々に砕け、酒がそこら中に飛び散った。

しかし、今日はピンヒールの靴を履いていた上に、バーの床は滑りやすく、多勢に無勢だ。

薬品の匂いがするハンカチを鼻に当てられ、目の前が真っ暗になっていく。

次に目が覚めたときには、神宮寺家へと連れ戻されていた。

畳の香りが漂う広間は不気味なほど静まり返り、外に見える庭には手入れの行き届いた枯山水があるものの、部屋の空気は息苦しいほどに張り詰めていた。

上座には久美子が鎮座し、冷たい目で遥を見下ろしている。

「遥。あんたは何度、神宮寺家の面目潰せば気が済むんだい?

診察も受けず病院で大騒ぎし、診察室を壊した挙句、夜遊びなんて。結婚して3年も経つのに、礼儀すらまともに身についていない。紗絵は身分こそ高くないけれど、自分の立場を弁えてる。あんたとは大違いだよ」

畳に膝をついていた遥は、思わず笑いそうになった。

やっぱり。

どんな失敗を紗絵が犯しても、最後には全て自分のせいにされる。

怒りの収まらない久美子は、遥の目の前に家訓の書を放り投げた。

「今夜から、仏間で家訓を百回書くんだよ。書き終えるまで寝てはいけないからね。行儀というものを理解できるまで、出てくるんじゃないよ」

遥はその書物をちらりと見ると、鼻で笑った。

「なんで私がそんなことをしなきゃならないんですか?」

広間が沈黙に包まれる。

久美子は遥を冷ややかに見つめ、「なんだって?」と聞き返した。

遥はゆっくりと顔を上げ、冷たい瞳でまっすぐに見据える。

「どうして、私がそんなことしなきゃいけないんだって言ったんです。

それに、神宮寺家の後継者がほしいと言いながら、私に問題があると決めつけて、朔に理由すら聞いていませんよね?紗絵が茶碗を割った今日だって、あなた方は彼女を叱りもしないくせに、病院のことでは私をすぐ呼び出しました。なのに、私に家訓を書けと?

私のこと何だと思ってるんですか?」

「何を生意気に!」久美子が怒りで立ち上がった。

使用人たちがすかさず久美子を支える。

遥は自分のそばに立っていたボディーガードを振り払う拍子に、横にあった花瓶を肘で倒してしまった。

花瓶は地面で無残にも粉砕する。

「遥!!」

「そんな目で私を見ないでください」遥は久美子を睨みつけ、言い放った。「私はあなたたちが飼ってるペットじゃないんですから」

その後、引きずられるようにして連れていかれた仏間の外では、いつの間にやら雪が降り始めていた。

遥は冷たい畳に座らせられ、目の前に筆と白紙が用意された。

誰も飲み物など与えてくれず、立ち上がることすら許されない。

夜が深まっていく。

足は痺れ、膝も痛い。

それでも遥は、一文字も書こうとはしなかった。

どのくらいの時が経っただろうか。外で誰かの気配がした。

わずかに開いていた仏間の襖から、聞き慣れた声が耳に届く。

紗絵だ。

「朔さん、今日は助けてくれてありがとうございました。遥さんの病院のことが大事になっていなかったら、おばあさんに茶碗のことでなんと言われたか。この家から追い出されていても、おかしくありませんでした」

朔が低く、「うん」と返した。

紗絵の声が、さらに甘くなる。

「でも……私のせいで、仏間に閉じ込められちゃったから、私のこと恨んでるんじゃ……」

「俺がいるんだ。お前には何もさせない」

一呼吸置くと、朔は付け加えた。

「これからも、もし何か嫌なことがあったら、黙って俺のところに来たらいい」

紗絵は安心したように、鼻を啜る。

「朔さん。どうしてそんなに、優しくしてくれるんですか?」

仏間の中で、筆を折らんばかりに握りしめていた遥は、朔の答えを聞くことはなく、次の瞬間には、意識が遠のき、そのまま力尽きて倒れ込んでしまった。

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