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第432話

Author: 藤原 白乃介
「このクソガキ、俺が酔ってる間に嫁を奪おうなんて、そうはいくか!」

智哉はそう叫ぶと、ベッドに腰掛けていた佳奈をくるりと引き寄せ、そのまま抱きしめ、唇を重ねた。

佳奈は慌てて彼の胸をぽかぽか叩きながら言った。

「智哉、飲みすぎてるのよ、酔って変なことしないで。子どもが見てるわよ!」

しかし智哉はまるで聞こえていないかのように、佳奈の頬にキスを繰り返した。

その様子を見ていた悠人は、目を丸くして固まってしまった。

佳奈は慌てて言った。

「悠人、今日はもう遅いから、パパとママのところで寝てね。明日またおばちゃんと遊ぼう」

悠人は名残惜しそうに何度も振り返りながら、部屋を出ていった。

扉が閉まると同時に、智哉のキスは徐々に深くなっていく。

酒の香りを孕んだ舌が、不意に佳奈の口内へと入り込んできて、ただのキスだったはずが、いつの間にか情熱的なものへと変わっていた。

気がつけば、佳奈のドレスは床に滑り落ちていて、智哉の瞳は赤く染まり、熱い吐息を漏らしながら、彼女の肌に遠慮なく唇を這わせていた。

熱く湿った唇が肌を這うたびに、佳奈の身体はびくんと震える。

喉から漏れる小さな吐息は、智哉の理性を溶かしていく。

「カチャッ」という音がして、佳奈はハッとした。ベルトのバックルが外される音だった。

一気に意識が戻る。

彼の黒髪に手を差し入れながら、か細い声で言った。

「智哉……ダメよ……赤ちゃんに何かあったら……」

智哉は彼女の耳たぶを甘く噛みながら、酒のせいで低くかすれた声で囁いた。

「大丈夫、入れないよ……」

その声はまるで人を惑わす魔物のようで、佳奈の理性を溶かしていった。

佳奈は知らなかった。夫婦って、こんなこともできるなんて――

智哉に導かれるまま、彼女は未知の快感に身を委ねていった。

全身汗まみれになった二人は、シャワーを浴びてから、また智哉の腕の中で眠りについた。

佳奈の頬はほんのり上気し、白い肌が桃のように紅く染まっているのを見て、智哉はまた何度もキスを落とした。

情事の余韻を残したかすれ声で、彼はそっと囁いた。

「佳奈、盛大な結婚式をしてやるよ。そして、特別な新婚初夜にしてやる」

そのころ。

結翔は口では「クソ男」と罵っていたが、二人が仲睦まじくしているのを見て、内心では嬉しくてたまらなかった。

大切な妹を、幼
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