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第448話

Author: 藤原 白乃介
玲子があんな感じなら、忠義はそれ以上だ。

結翔は拳を握り締めたまま、さらに問い詰めた。

「忠義は今どこにいる?」

「玲子がよく通ってたあの美容院の地下室。そこが佳奈が飲まされた媚薬の製造拠点だったの。私はそのスタッフで、忠義が責任者。彼が玲子とそこでやり取りしてるのを何度も見た。この任務も忠義の指示だった。終わったら、私を海外に逃がして、息子と再会させるって」

その言葉を聞いて、結翔の目に暗い光が宿る。

以前、媚薬の出所を調査していたときは、海外の闇市場で流通しているものと考えていた。

だからこそ追いやすいと思っていたのに、調べても手がかりはつかめず、いつの間にか国内で広がっていた。

まさか、源がここだったとは。

結翔は長い指で眼鏡を軽く押し上げ、冷えた声で言った。

「これだけ人が関わってるのに、お前が佳奈を襲ったら逃げられるわけがない。どうやって助け出すつもりだった」

石川さんは傷の痛みに顔をしかめながら答えた。

「忠義が言ってた……あなたたちが私を捕まえても、高橋社長の性格じゃ警察に引き渡さず、絶対この地下室に監禁するはずだって。

彼はこの家に詳しいから、助けに来てくれるって」

その言葉に、結翔は皮肉な笑みを浮かべた。

どうりで最初、石川さんが何をしても口を割らなかったわけだ。

助けが来ると信じてたから、耐えていた。

この地下室は高橋家本邸の極秘スペース。

忠義は昔の執事だから、構造も出入り経路もすべて把握しているに違いない。

そう思うと、結翔の瞳の奥に鋭い光が宿った。

彼はゆっくりと立ち上がり、後ろに控えるボディガードに命じた。

「外に情報を流せ。この女は骨が硬くて、どれだけ叩いても口を割らなかった。今は意識不明で、医者を呼ばなきゃダメな状態だってな」

「了解です」

ボディガードが出ていくのを見届けると、結翔はポケットから小さなカプセルを取り出し、石川さんの口に押し込んだ。

1分もしないうちに、彼女の体は完全に弛緩し、まるで死んだように気絶した。

地下室にはボディガードを2人だけ残し、他はすべて撤退。

あとは大物が罠にかかるのを待つだけ。

結翔はすぐに車を走らせ、病院へ向かった。

すべての情報を智哉に報告した。

その話を聞いた智哉の脳裏に、ある人物の顔が浮かんだ。

深夜0時。

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