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白紙

Author: 伊桜らな
last update Last Updated: 2025-08-13 22:19:43

優仁のご両親に挨拶を済ませ、私たちは結婚に向けた準備を始めた。形式ばった顔合わせや結納も、本来なら行うべきだろうけれど、私は妊娠していたし、安定期に入るまでは控えたほうが安心だということで、少し先延ばしになった。

 それでも、心の中は不思議なほど穏やかで、幸せに満ちていた。プロポーズされてからというもの、優仁は以前よりもずっと優しく、そして甘くなった。ほんの些細な仕草や、言葉の端々に込められた気遣いに、私は日々胸をときめかせていた。彼が私を見つめるその瞳の中にある、変わらぬ愛情を感じるたびに、友人だった頃よりももっと深く、彼のことが好きになっていくのを実感していた。

 妊娠の影響でつわりは依然として続いているものの、幸い検診も順調で、体調さえ許せば仕事も普通にこなせていた。朝、制服に袖を通すたびに、少しずつ母になる覚悟を心の奥で確認していく自分がいた。これまで抱えていた不安や迷いが、ほんの少しずつ光に変わっていくのを感じる。あの時、勇気を出して想いを告白して本当に良かった——そう思わずにはいられなかった。

「最近、幸せそうね、花耶。体調はまだ戻ってないみたいだけど」

 出勤前、優仁が微笑みながら声をかけてくる。私はふわりと笑って答える。

「うん、ちょっとね。ふふ、また桃花にはちゃんと話すよ」

「楽しみにしてるよ、今日も一緒だし、頑張ろっかね」

 朝の空気はまだ冷たく、手元のカバンが少し重く感じる。更衣室に入り、白を基調とした制服に着替える。ピンク色のスカーフを取り出して、慎重に蛇腹折りをして襟の部分にある通し穴に通し、リボン結びを整える。その一連の動作さえ、心の中では“今日も無事に一日を始められる”という小さな安堵感と共に、慎重に行われていた。

「花耶、スカーフ確認しよ」

 互いに鏡を見ながら身だしなみを確認し合う。ささいな日常の中にある、二人だけのやり取りが、私にとって心を落ち着ける儀式のように感じられた。

 出勤の打刻を済ませ、クルーミーティングに向かう。今日の乗務列車の運行情報を確認し、伝達事項や携帯品の確認を行う。その日常のリズムは、心のどこかで私を支えてくれる柱のようなものだった。けれど、どこか胸の奥には、まだ甘く危うい幸福の影が潜んでいることも知っていた。

 そんなある休日。珍しく、つわりの症状がひどく、私はベッドの中で丸まっていた。吐き気と頭の重さ、体のだるさが押し寄せ、身動きひとつもままならない状態だ。本当は優仁と会う予定だったけれど、今日の私は完全に「ベッドとお友達状態」だった。

 携帯が震える音で、ふと目を覚ます。画面には優仁からのメッセージが届いている。

【どうしても会って話したいことがある。いつものカフェに来て欲しい】

 普段なら、こんな強引なことは言わないはずだ。体調が悪ければ心配して電話もしてくれるのに……。そんなことを思いながらも、私は身体を無理やり起こした。手に取ったのは、先日彼が買ってくれたワンピース。汗ばんだ体をそっと拭き、ゆっくりと着替える。鏡の前で少しだけメイクをし、頬にほんのり色を差す。

 歩くたびにめまいがふわりと襲ってくる。心臓が早鐘のように打ち、呼吸が少し浅くなるのを感じながら、低いパンプスを履き、寮を出発する。足元の感覚が頼りなく、心の中で「どうか無事に着きますように」と繰り返し祈る。

 カフェに着くと、見慣れたテーブルに優仁が座っていた。微かに背筋を伸ばす彼の姿。けれど、普段の柔らかさとはどこか違う、少し緊張した雰囲気が漂っている。

「待たせちゃってごめんね」

「いや、いいんだ。呼び出したのはこっちだし……」

 その声にはいつもの優しさがあるけれど、目線はどこか落ち着かない。私はメニューを手に取りかけて、思わず尋ねる。

「何か頼む?」

 しかし、その手は彼の手によってそっと止められた。

「頼む前に、話が……話すことがあるんだ」

 声のトーンは落ち着いているけれど、その冷静さが逆に恐ろしさを増幅させた。胸の奥で何かがきしむように響く。

「? うん、わかった。どうしたの?」

 問いかける声は、自然と震えてしまっていた。

 優仁はお冷を一気に飲み干し、テーブルにカップを置くと、淡々とした口調で一言。

「別れてほしい」

 ——今、なんて……

「……えっ、なんて言ったの?」

 体調のせいか、頭が混乱する。これは夢だ、きっと夢だ——そう思いたくて、必死に声を震わせる。

「俺と別れてほしい。好きな女性ができたんだ」

「好きな人……? 優仁、だけど、お腹の中には赤ちゃんがいるんだよっ」

 言葉が喉の奥で詰まり、涙が勝手に溢れそうになる。けれど、優仁は冷静に応える。

「あぁ、知っている。申し訳ないと思ってるが、好きになってしまったんだ。だから別れたい。もちろん、慰謝料は払う。子育てが大変ならその子は引き取るよ」

 ——何を言ってるんだろう、この人は……

 心の中で怒りと混乱、悲しみが渦巻く。私の頭の中で、過去の楽しかった時間も、甘い思い出も、全てが霧のように消えていく。

「その人とはどうやって、……出会ったの?」

「母さんの友人の娘で、母さんのお茶会でね。花耶は会ってくれないから寂しかったんだ。彼女はいつでも会ってくれるんだ」

 ——なんで……。会いたくなかったわけじゃない。体調が悪くて、ただそれだけだったのに……。

「今日だって俺が言わなきゃ体調悪いって言ってくれなかっただろ」

「それは悪阻で身体が辛かったんだよ。会いたくなくて会わなかったんじゃないよ」

 私の胸は張り裂けそうになる。どんなに説明しても、彼には届かないのだろうか。

 その時、聞き慣れない女性の声が割り込んできた。

「話は終わった? 優くん」

 振り返ると、瑚乃美と呼ばれた女性が微笑んで立っている。彼女はまるで完璧に育てられたお嬢様という雰囲気で、私を威圧するような清潔感と自信に満ちていた。

「瑚乃美ちゃんが来たんだし、紹介するよ。この子が俺の好きな子で、服部医療機器のご令嬢だ。君とは違って育ちも良いし可愛らしい」

 彼の腕に絡みつきながら、瑚乃美は甘い声で囁く。「可愛いだなんて、もう優くんったら〜」

「優くんは私にぞっこんなのよ。だから別れてよ。お金が必要ならお金くらいどれだけでも出すわよ。私のパパが出してくれると思うし」

 ——本当に、なんで……。

 私は目の前の景色がぐらりと揺れるのを感じながらも、震える足で立ち上がる。彼らとは目を合わせず、静かにカフェを出た。

 ***

 部屋に戻ると、空は茜色に染まっていた。いつ帰ってきたのか覚えていない。足元の感覚もおぼつかず、ただベッドに倒れ込むように横になった。涙が自然に頬を伝い、体の奥から力が抜けていく。

 洗面所に向かい、鏡を見た。目は真っ赤に腫れ、泣き疲れた自分の顔が映る。冷たい水で顔を洗い、タオルに保冷剤を巻いて目に当てる。少しずつ腫れは引いたが、心の中の痛みは消えない。

 数分、目を閉じて静かに呼吸を整えた。そのとき、インターホンが鳴る。モニターを見ると、そこには友人の桃花が立っていた。

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