Masukアメリカに住む両親との連絡は、コミュニケーションアプリのラインを介して行うことにした結葉だ。 マンションにいた頃は、偉央が固定電話から両親へ電話してくれていたけれど、あの家を出た今、同じようにすることは不可能だったから。 美鳥の携帯番号も、茂雄のものも、予め知っていたから、想に手伝ってもらって電話番号によるアカウント検索をして、友達登録申請をした。 あちらの二人にとっては、結葉の新しい携帯番号は初見になるので、予め想にお願いして、結葉の新しい番号を連絡してもらっておいた結葉だ。 ニューヨークと日本の時差はおよそ十三時間。 こちらの方があちらより半日ちょっと進んでいる感じだ。 時刻はいま二二時過ぎ。あちらは朝の八時頃だろうか。 父・茂雄はきっと仕事中か、もしくは通勤途中か何かなんだろう。 家にいると思われる美鳥はすぐに既読になったけれど、想のメッセージ自体、茂雄の方は未読のままとのことで。(朝の忙しい時間だもん。仕方ないよね) そう思って茂雄のほうとはすぐに連絡を取ることを諦めた結葉だ。 とりあえず、想のメッセージをすぐに読んでくれて、結葉からの申請に対しても割とすんなり追加をしてくれた美鳥と先に話そうかな、と思って。 でも――。 今回結葉が両親と連絡を取るための手段を構築した理由は、偉央とのことを話さねばならないからに他ならない。 内容が内容なだけに、どう切り出したらいいのか分からなくて、なかなか音声通話のボタンがタップ出来ない結葉だ。 繋がったばかりの美鳥の連絡先をじっと見詰めたまま止まってしまっていた。 と、手にしたままだったスマートフォンが着信を知らせてきて。 見れば、結葉がなかな
想に至極真摯な眼差しで射抜かれた上、そんなことを言われてしまった結葉は、にわかに緊張してしまう。「あの……」 戸惑いを眼差しに乗せて、恐る恐る想を見上げたら「俺の部屋で話そっか」とくるりと踵を返された。 結葉は訳も分からないまま想に付き従うしかなくて。(想ちゃん、何だかすっごく怖い顔してた) それが、想らしくないから落ち着かなくて堪らない。 無言で想のあとについて階段を昇って。 結葉がいま使わせてもらっている部屋の並びとは階段を挟んで斜め向かい側に当たる想の部屋に入る。「お邪魔します……」 そうつぶやいて結葉が中に入るなり、想が入り口ドアに鍵を掛けてしまった。「あ、あのっ。想ちゃん?」 カチャリという無機質な音に不安になって、結葉が思わず想に呼びかけたら、「ごめんな、結葉。不安にさせちまって」 想が肩にかけたままだったリュックを、部屋の中央に置かれたローテーブルの上に下ろしながら眉根を寄せる。 その表情を見たら、少しだけ緊張の糸が緩んだ気がした結葉だ。「ううん、平気。……全部、何か理由があるんでしょ?」 そうでないと、想があんな思い詰めたような怖い顔をするはずがないことも、わざわざ結葉を不安にさせてまで部屋に施錠をすることがないことも、分かっている。「ああ、実はな、御庄さん――、えっと……お前の旦那から今日、うちの会社に書留が届いたんだ」 言いながら、想が机上に載せたリュックの中からA4サイズの封筒を取り出して。「偉央さん&helli
「ただいまぁ〜」 夕方、いつも通り十九時頃に想が帰宅してきて、結葉は日課のように想を玄関先で出迎えた。 想は弁当箱の入った小さな袋を手にして、左肩にいつも仕事に行く時に持って行っているリュックをかけていて。 作業服姿の想は、いつ見ても男らしくてかっこいいな、と思ってしまった結葉だ。 偉央は公私ともにキチッとスーツを着こなしていることが多かったけれど、想は圧倒的に平日は作業着率が高い。 じゃあ休日はどうかというと、パーカーにジーンズ、みたいなラフなスタイルを好むみたいで。 スーツを着た想が、結葉には想像がつかないのだ。 そういう全てが何だか結葉には逆に新鮮に感じられた。***「お疲れ様、想ちゃん」 言って、スッと手を差し出して想の手からお弁当箱の入った袋を受け取ったら、今日も綺麗に完食してくれたのか、軽くて嬉しくなる。「今日の卵焼き、いつもと違ってたな」 しみじみとそんな喜びに浸っていたら、不意に言われて、結葉はドキッとして想を見上げた。「もしかして……美味しくなかった?」 不安に揺れる瞳で想を見詰めたら「まさか! その逆! すっげぇ美味かった!」とニヤリとされて。「なんか切り口が鮮やかでふた開けた瞬間、滅茶苦茶ワクワクしたんだけど」 子供みたいに笑う想に、結葉はホッと胸を撫で下ろす。「だし巻き卵にね、小さく刻んだカニカマと小ネギを入れてみたの」 イメージ的には「茶碗蒸しみたいなお味になったら良いなぁと思って作ったの」と続けたら「茶碗蒸し……」と想が驚いた顔をする。「想ちゃん、茶碗蒸しが好きだって純子さんがおっしゃ
「ご飯の量、少なくなかった? ちゃんと足りた?」 そこでふと、この弁当箱が手元に届くまでの経緯に思いを馳せてしまった結葉だ。*** ここで暮らし始めて二日目の夕方。 夕飯後、キッチンに残った結葉は、純子にせっつかれるようにしてお弁当作りのことを想に切り出したのだけれど。 想は一瞬驚いたような顔をしてから「えっ。マジで? ……いいのか?」と恐る恐る聞いてきて。「うん。想ちゃんさえ迷惑じゃなければ」 結葉が不安気にそう言ったら「迷惑なわけねぇよ! って言うか逆にすっげぇ助かる!……し、えっと、その……」 そこですぐそばに立つ純子を気にしてチラチラと睨むように見詰めてから、結葉の耳元に屈み込んで唇を寄せる。 そうして結葉にだけ聞こえるぐらいの小声で、「作ってもらえたらめちゃくちゃ嬉しい」とささやいた。 想の吐息が耳に当たって、結葉はゾクリと肩を震わせて。 思わず見上げた想が耳まで真っ赤にしているのを見て、当てられたように自分もぶわりと顔が熱くなってしまう。「や〜ん。何なの、二人ともっ! 想像以上に可愛いーんだけどっ♡ お母さん妬けちゃ〜う♡」 純子が満足そうにそんな二人に声をかけて、「想が使えそうなお弁当箱、あったかなぁ〜」と言いながら「あ、邪魔者は消えるからあとは二人でゆっくりお話、煮詰めてね♪」とにっこり笑ってキッチンを出て行った。 結局、――台所以外のどこを探したのかは不明だけれど――使えそうな弁当箱は見つからなかったと純子から報告を受けた二人は、「新しいのを買おう」と話して。 早速翌日に想がどこかで買って来て「これでお願いします」と結葉に差し出した、仕切り付きの大きな弁当箱を使って
結葉が山波家で生活をするようになって一週間ちょっと。 皆が皆、各々に五人での暮らしにも大分慣れてきた。 結葉は公宣と純子の気遣いで、お風呂やトイレ、それから洗面所は基本的に二階にあるゲスト用のものを使わせてもらっている。 幸い想と一緒に暮らすことを決めた時、シャンプーやトリートメント、ボディソープなども結葉用に一式揃えてもらっていたから、それをお風呂場の一角にちんまりと置いてみた結葉だ。 まだ仕事をしているわけではない結葉は、日がな一日家にいて純子と過ごす割合が一番多い。 結葉が住まわせてもらっている山波邸は、結葉から見ると豪邸の部類に入る。 そこをお手伝いさんも雇わず一人で切り盛りしている純子さんはすごい!と思ってしまった。 のほほんとしているように見えて、純子は家事全般を結構手際よくテキパキと無駄なくこなす。 結葉はそんな純子の足手纏いにならないよう気を付けながら、彼女のサポート役に徹していたのだけれど。「あの、純子さん、二階の水回り関係は私が丸っと掃除させて頂いても構わないでしょうか?」 そもそもそこを主に使わせてもらっているのは他ならぬ結葉自身なのだ。 大分純子のやり方も分かって来たし、そこぐらいは責任を持って綺麗にしたいな、と思って。 恐る恐る提案してみたらめちゃくちゃ喜ばれた。「わ〜。助かるぅ〜。実は私、基本的には一階で過ごしたい派なのぉ〜」 嘘か真実かは分からないけれど、純子は「階段の昇り降りは朝晩の一回ずつだけでいぃーっ!」と力説して。「本当はね、この家建てる時も平家がいいって言ったんだけど……公宣さんがそれだと土地を食い過ぎるからダメだって」 ムゥッと唇をとんがらせる純子を見て、奥さんに甘々に見える公宣にも譲れない部分があったんだなとちょっぴり感心してしまった|結
実は昨夜、ついうっかり両親に兄のところに結葉が来ている話をしてしまった芹だ。 結果、いつものほほんとしている母親が結葉のことをとても心配し始めて、父と何やら遅くまで話しているなとは思ったのだけれど。 まさかその翌日にはこんなことになってしまうだなんて思いもしなかった。***「うん。お家、狭くしちゃってごめんね」 テーブルに、ほかほかと湯気のくゆる料理を並べながら、どこか申し訳なさそうに結葉が言うから、芹はブンブン手を振って。「この家、広いだけが取り柄だもん! 全然そんなこと思わないっ! それより寧ろお姉ちゃんが出来たみたいであたし、すっごく嬉しい!」 実際、大きな声では言えないけれど、ある程度物心がついてからはずっと。 芹は名実ともにいずれはそうなるものだと信じていたくらいなのだから。(お兄ちゃんと結葉ちゃんが結婚しなかったの、あたし的にはホント大誤算だったのよぅ) でも、このところの兄と結葉の様子を見ていたら、もしかしたら、と期待もしてしまっている芹だ。(結葉ちゃんみたいな綺麗で優しいお姉ちゃんが出来たら、あたしすっごく嬉しいんだよね) 子供の頃から芹に優しくしてくれた、〝お隣の結葉ちゃん〟は、いつしか芹にとって本当に姉のように思える存在になっていたから。(お兄ちゃんも優しいけど、やっぱり同性の姉妹とは違うもの) 一緒に料理を楽しんだり、買い物に行ったり。 考えただけで楽しそうだと芹は思うのだ。 それに、女同士だからこそ分かち合える話題もあると言うもの。 いくら優しくてもさすがに想と下着のデザインの可愛さや、付け心地なんかについて盛り上がれたりはしないし、化粧品の話にしてもそう。 そういうアレコレを話せるのは、やはり同性の特権だと思って。「結葉ちゃんが来







