LOGIN母は、ソファに座り込んだ。
顔は蒼白で、手が震えている。
「アレクシス……あなた、何を言ってるの?」
「事実です」
アレクシスは母の前に立った。
「俺は、兄さんのことが好きです。初めて会った時から、ずっと。この気持ちを抑えることなんてできなかった」
「でも、二人は――」
「血は繋がってません。法律的にも問題ない」
アレクシスの声は、静かだが力強かった。
「それでも、ダメですか?」
母は言葉を失った。
レオンは、アレクシスの横に立った。
「母さん、俺たちは本気だ」
「レオン……」
「最初は、俺も混乱した。義弟に惹かれるなんて、おかしいと思った」
レオンは母を見つめた。
「でも、アレクシスは、俺の全てを受け入れてくれた。完璧じゃない俺も、弱い俺も、すべて」
「……」
「俺は、アレクシスを愛してる」
その言葉を聞いて、アレクシスの瞳が潤んだ。
母は、二人を交互に見つめた。
「本気なの? 二人とも」
「はい」
アレクシスが答えた。
「でも、分かってるわよね? これが公になったら、二人とも大変なことになる」
「覚悟はしてます」
レオンが言った。
「仕事を失うかもしれない。世間から批判されるかもしれない。それでも」
レオンはアレクシスの手を握った。
「俺は、この関係を守りたい」
母は深いため息をついた。
「あなたたち、本当にバカね」
だが、その目には涙が浮かんでいた。
「母として、賛成はできない。でも……あなたたちが
「母さん……」
アレクシスは、母に近づいた。
一年後。 パリ。 レオンとアレクシスは、セーヌ川沿いのアパルトマンで暮らしていた。 朝の光が、窓から差し込んでくる。 レオンは、バルコニーでコーヒーを飲んでいた。 眼下には、セーヌ川が穏やかに流れている。 パリの街並みが、朝靄の中に浮かんでいる。「兄さん、コーヒー」 アレクシスが、もう一つのカップを持ってきた。「ありがとう」 二人は並んで座り、コーヒーを飲んだ。 静かな朝。 穏やかな時間。 かつて、レオンが夢見ていた日常が、今ここにある。「今日の撮影、楽しみですね」 アレクシスが言った。「ああ。久しぶりのパリのランウェイだ」 レオンとアレクシスは、再びモデルとして活動していた。 以前ほどのオファーはないが、それでも十分に仕事はあった。 特に、LGBTQフレンドリーなブランドからは、多くの依頼が来ていた。 二人は、カップルモデルとして、世界中で活躍していた。「兄さん、何考えてるんですか?」 アレクシスが、後ろから抱きしめてきた。「お前と出会えて、良かったって」「突然、どうしたんです?」「いや、本当に」 レオンは振り返り、アレクシスの唇に口づけた。「俺の人生で、お前と出会えたことが、一番の幸運だった」 アレクシスは嬉しそうに笑った。「俺もです。兄さんに出会えて、愛されて――これ以上の幸せはありません」 二人は抱き合い、朝日に照らされた。 かつて、レオンは完璧であろうとしていた。 完璧な容姿。 完璧なキャリア。 完璧な恋愛。 すべてが、虚像だった。 本当の自分は、不完全で、弱くて、男にしか反応できない欠陥品だった。 それでも――。 アレクシスは、そんなレ
撮影当日。 都内のスタジオには、前回とは違う雰囲気が漂っていた。 スタッフたちは、レオンとアレクシスを温かく迎えてくれた。「レオン、アレクシス、来てくれてありがとう」 編集長は、笑顔で二人を迎えた。「今日の撮影は、『愛の多様性』がテーマです。二人のありのままの姿を、美しく撮影したい」 レオンは、アレクシスと顔を見合わせた。 もう、隠す必要はない。 この関係を、恥じる必要もない。「よろしくお願いします」 二人は、揃って頭を下げた。 撮影が始まった。 最初のポーズは、二人が向かい合って立つもの。「もっと近づいて。そう、自然に」 カメラマンの指示に従い、レオンとアレクシスは距離を縮めた。「いい表情! 愛し合ってる二人の、自然な笑顔が素敵よ」 次のポーズは、抱き合うもの。 レオンはアレクシスを抱きしめた。 もう、ためらいはない。 これが、俺たちの関係だ。「完璧! 次は、キスシーンを撮りたいんだけど、いい?」 編集長の提案に、レオンは少し驚いた。 だが――。「ああ、構わない」 レオンは頷いた。 アレクシスも、嬉しそうに微笑んだ。「じゃあ、お願い。自然な感じで」 レオンは、アレクシスを見つめた。 琥珀色の瞳が、愛おしそうにレオンを見返している。 そして――レオンは、カメラの前で、アレクシスに口づけた。 優しく、愛情を込めて。 周囲からどよめきが起こる。 だが、レオンはもう気にしなかった。 これが、俺たちの愛だ。「素晴らしい! 完璧よ!」 編集長の興奮した声が響く。 撮影は続き、様々なポーズで二人の姿が撮影された。 手を繋ぐ姿。 見つめ合う姿。
数日後、週刊誌がスクープを掲載した。 『トップモデル・レオン、義弟と禁断の関係!』 大きな見出しとともに、レオンとアレクシスの写真が表紙を飾った。 記事は瞬く間に拡散され、SNSは炎上した。 「気持ち悪い」 「兄弟なのに、ありえない」 「モデルの仕事、全部キャンセルすべき」 批判、中傷、興味本位の視線――全てがレオンとアレクシスに向けられた。 レオンの事務所には、抗議の電話が殺到した。 いくつかのブランドは、契約解除を通告してきた。 ミラノのファッションショーも、出演をキャンセルされた。 レオンは、自宅に籠もっていた。 外に出れば、パパラッチが待ち構えている。 携帯には、知らない番号からの着信が続く。 すべて、ゴシップ記者だった。「くそ……」 レオンは、ソファに座り込んだ。 これが、代償なのか。 愛を選んだ、代償。 インターホンが鳴った。 レオンは警戒しながら、モニターを確認する。 アレクシスだった。 ドアを開けると、アレクシスが飛び込んできた。「兄さん、大丈夫ですか?」「……ああ。お前は?」「俺も、仕事がいくつかキャンセルになりました。でも」 アレクシスはレオンを抱きしめた。「兄さんが心配で」 レオンは、アレクシスを抱き返した。「すまない……俺のせいで」「違います」 アレクシスは顔を上げた。「これは、俺たちが選んだ道です。誰のせいでもない」「でも、お前の仕事まで――」「いいんです」 アレクシスは微笑んだ。「兄さんと一緒にいられるなら、何も怖くない」 その言葉に、レオンは胸が熱くなった。
母は、ソファに座り込んだ。 顔は蒼白で、手が震えている。「アレクシス……あなた、何を言ってるの?」「事実です」 アレクシスは母の前に立った。「俺は、兄さんのことが好きです。初めて会った時から、ずっと。この気持ちを抑えることなんてできなかった」「でも、二人は――」「血は繋がってません。法律的にも問題ない」 アレクシスの声は、静かだが力強かった。「それでも、ダメですか?」 母は言葉を失った。 レオンは、アレクシスの横に立った。「母さん、俺たちは本気だ」「レオン……」「最初は、俺も混乱した。義弟に惹かれるなんて、おかしいと思った」 レオンは母を見つめた。「でも、アレクシスは、俺の全てを受け入れてくれた。完璧じゃない俺も、弱い俺も、すべて」「……」「俺は、アレクシスを愛してる」 その言葉を聞いて、アレクシスの瞳が潤んだ。 母は、二人を交互に見つめた。「本気なの? 二人とも」「はい」 アレクシスが答えた。「でも、分かってるわよね? これが公になったら、二人とも大変なことになる」「覚悟はしてます」 レオンが言った。「仕事を失うかもしれない。世間から批判されるかもしれない。それでも」 レオンはアレクシスの手を握った。「俺は、この関係を守りたい」 母は深いため息をついた。「あなたたち、本当にバカね」 だが、その目には涙が浮かんでいた。「母として、賛成はできない。でも……あなたたちが本気で愛し合ってるなら、私が止める権利はないわ」「母さん……」 アレクシスは、母に近づいた。
翌週、レオンは大手ファッション誌のインタビューを受けていた。 都内の高級ホテルのスイートルーム。 窓の外には東京タワーが見える。 インタビュアーは、業界で有名な女性ジャーナリストだった。「レオンさん、最近雰囲気が変わったと話題ですね」「そうですか?」 レオンは完璧な笑顔で応じた。「ええ。以前はクールで完璧なイメージでしたが、最近は柔らかい表情が増えたような」 彼女はペンを走らせながら続けた。「もしかして、恋人でも?」「プライベートな質問には、お答えできません」 レオンの返答は、プロフェッショナルで完璧だった。「そうですよね。でも、読者は知りたがってますよ。レオン・ヴァルガスの恋愛事情」 彼女は意味深な笑みを浮かべた。「特に、義理の弟さんとの仲がいいって噂ですが」 レオンの心臓が跳ねた。「……義理の弟?」「ええ、アレクシス・ノワールさん。最近、よく一緒にいるところを目撃されてるそうですね」「兄弟なんだから、当然だろう」 レオンは平静を装ったが、内心では動揺していた。「そうですよね。でも、ちょっと親密すぎるんじゃないかって声もあるんです」 彼女はタブレットを取り出し、何枚かの写真を見せた。 カフェで手を繋ぐレオンとアレクシス。 レストランで見つめ合う二人。 夜のマンションに一緒に入っていく姿。 すべて、ゴシップ記者に撮られた写真だった。「これらの写真について、コメントをいただけますか?」 レオンの顔から血の気が引いた。 だが、表情は崩さない。「兄弟が一緒に食事をしたり、会ったりするのは普通だ。それ以上でも以下でもない」「そうですか」 彼女は満足げに頷いた。「でも、世間は興味津々ですよ。完璧なレオン・ヴァルガスの、完璧じゃない一面にね
レオンとアレクシスの秘密の関係は、さらに深まっていった。 だが、レオンは気づいていた――自分が、完全に変わり始めていることに。 仕事中、ふとアレクシスのことを考えている自分。 彼の声を聞きたくて、休憩時間に電話をかける自分。 次に会える日を、何よりも楽しみにしている自分。 これは――恋、なのだろう。 認めたくなかった感情。 だが、もう否定できない。 レオンは、アレクシスに恋をしていた。 ある日の撮影現場で、レオンは共演者の女性モデルと話していた。「レオンさん、最近雰囲気変わりましたね」「そうか?」「ええ。以前はもっと近寄りがたい感じだったけど、今は優しい雰囲気があります。恋人でもできたんですか?」 レオンは、アレクシスの顔を思い浮かべた。「……さあな」「秘密なんですね。でも、羨ましいです。そんな風に表情が柔らかくなるって、よっぽど素敵な方なんでしょうね」 素敵な方――。 確かに、アレクシスは素敵だ。 美しくて、優しくて、情熱的で。 ただ、義理の弟で、男だという問題があるだけで。 撮影が終わり、控室に戻ると、携帯にメッセージが届いていた。 アレクシスからだった。『今夜、会えますか? 久しぶりに一緒にディナーでも』 レオンは微笑みながら返信した。『ああ、いいぞ。どこに行く?』『兄さんの好きな店で。予約しておきます』 こんな風に、恋人のようなやり取りをしている自分が、不思議だった。 以前のレオンなら、考えられないことだ。 その夜、レオンとアレクシスは銀座の高級レストランにいた。 個室で、二人きり。 窓の外には、東京の夜景が広がっている。「兄さん、今日の撮影はどうでした?」「順調だった。お前は?」