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背徳の蜜~冷徹義兄に奪われて~
背徳の蜜~冷徹義兄に奪われて~
Author: Langit Parama

第1話

Author: Langit Parama
「他の男の種を貰ってこい、和葉」

その朝、九条魁(くじょう かい)の放った言葉は、まるで重い鉄槌のように浅野和葉(あさの かずは)の胸を打ち砕いた。妻でありながら手つかずの彼女は、あまりの衝撃に目を見開いた。

自分の夫が、これほど平然と「他の男の子供を身籠れ」と言い放つなど、一体どうしてあり得るだろうか。

「あ、あなた……本気で言ってるの?」

和葉は信じられない思いで、喉を詰まらせながら呟いた。

「冗談よね?どうして私が他の男の子供を……?」

魁は苛立たしげに深いため息をついた。

「もううんざりなんだよ!母さんが跡継ぎのことで何度もせっついてくる。そんなプレッシャーにはもう吐き気がする。いつ妊娠するんだとしつこく聞いてくるんだ」

和葉は苦しげに唾を飲み込んだ。

「それなら……どうしてあなたじゃダメなの?私には夫がいるのに、なぜ他の男の人と?」

「お前と?冗談じゃない!お前なんかのために、俺の夜を無駄にするもんか!」

魁のその言葉は、和葉の心を無残に切り裂いた。彼女は口を開けたが、言葉は何も出てこなかった。

「できれば身元のしっかりした男を探せ。無理なら、俺が手配してやる」

魁の声は冷酷で、一切の反論を許さない響きがあった。

「これは決定事項だ。交渉の余地はない」

和葉の胸は、内側から激しく締め付けられるように痛んだ。両手は体の横で固く握りしめられ、指の関節が白く変色していた。

抗議しようと口を開きかけた彼女を遮るように、魁の声が先に飛んできた。

「いいから妊娠しろ、手段は問わない!ただでさえお前と結婚したせいで兄貴たちの前で肩身が狭いってのに、その上、跡継ぎすら作れずに俺に恥をかかせ続けるつもりか?」

魁は胸の前で腕を組み、冷え切った威圧的な視線を向けた。

「だから、言う通りにしろ。さもなければ、お前の祖父の治療費の援助を打ち切るぞ!」

和葉は弾かれたように首を振った。そんな脅しを受け入れるわけにはいかなかった。

「やめて、あなた!おじいちゃんにそんなことしないで、お願い!おじいちゃんが治るまで、莫大な入院費が必要なのよ」

魁は重い息を吐いたが、そこに躊躇いは微塵もなかった。

「なら、今日中に決めろ。祖父の治療費を打ち切られたくなければな」

従うか、否か。和葉にとって、これほど残酷な選択はない。しかも、それは祖父の命に直結しているのだ。

二人の結婚生活はまだ一年しか経っていない。そしてこの一年で、和葉は夫が自分を少しも愛していないという事実を思い知らされた。

政略結婚。そう、魁は祖父の遺言のせいで、仕方なく彼女と結婚したのだ。彼の祖父がかつて和葉の祖父と大親友であり、お互いの孫を結婚させることを約束していたからだ。

こんなことになると最初から分かっていれば、和葉は絶対に魁とは結婚しなかった。この一年、彼女は夫を愛そうと必死に努力してきたというのに。

だが、この男は彼女の歩み寄りに微塵も応えようとはしなかった。

「どうなんだ?」

魁は片眉を上げ、和葉の決断を急かした。

和葉は重苦しく唾を飲み込んだ。

「私……もう少し、考えさせて……」

魁の視線は冷ややかなままだった。

「いいだろう。三日だけ待ってやる」

そう言い残し、彼は寝室を出て行った。

和葉は部屋の中央で立ち尽くしていた。残酷な現実を突きつけられ、足から力が抜け落ちそうだった。

愛情がないだけでなく、夫の要求はあまりにも異常だった。

和葉は震える息を小さく吐き出した。

「身元のしっかりした男の人なんて、どうやって探せばいいの?しかも……その子は九条家の跡継ぎになるのに……」

途方に暮れたように呟いた。

ふと壁時計に目をやった和葉はハッとした。すでに朝の6時半、もうすぐ朝食の時間だ。

「いけない!」

パニックになり、和葉は慌てて部屋を飛び出し、小走りでキッチンへと向かった。

義母、義兄夫婦たち、そしてその子供たち。九条家の朝食の準備という、彼女の毎日の過酷な日課が待っている。

九条家は、家父長制の伝統を厳格に重んじる大財閥だ。全員が一つ屋根の下で暮らしている。義母、息子、嫁――目に見えない厳格なヒエラルキーが、常に重苦しい圧迫感として家の中に立ち込めていた。

そして、他の二人の義姉のように外で働いていない末っ子の嫁である和葉は、必然的にこの家の家事の全権を担わされていた。料理、掃除、すべてを完璧にこなすこと。

もちろん一人ではない。手伝ってくれるメイドたちもいる。これほど豪華で広い屋敷でも、メイドがいれば管理自体は難しくない。

しかし、一切のミスを許されず、すべてを完璧に行うよう求められる和葉にとっては、決して生易しいものではなかった。

無数にある部屋、そのどの角を曲がっても完璧さを要求されるのだ。

約三十分後、和葉は二人のメイドと共に、ようやく朝食の準備を終えた。ここからは、義母と夫に給仕をするのが和葉の役目だ。

「お義母様、緑茶をお持ちしました」

和葉は温かいお茶を義母の前に差し出した。

「ご苦労様」

清華は視線すら向けずに冷たく言い放った。

次に和葉は夫に給仕をする番だった。しかし、彼女が魁のためにトーストを置こうとすると、彼はすぐさま自分の皿を引き寄せた。

「自分でやる。お前はさっさと座れ」

彼は冷淡な口調で言った。

和葉は力なく微笑み、夫の左側の席に腰を下ろした。

彼女の手が自分のトーストに伸びようとしたその時、義母の鋭い声がダイニングの静寂を切り裂いた。

「一年。和葉が九条家に嫁いできてから、丸一年が経つわね」

清華は顔を向け、その射抜くような視線を和葉へと向けた。

「それなのに、あなたはいまだに身籠る気配すらない」

伸ばしかけて宙で止まっていた和葉の手が、力なく膝の上へと戻された。

彼女はうつむき、拳を固く握りしめた。誰のことも見られなかった。特に義母のことは。

ダイニングテーブルの両側から、義姉たちの嘲笑うような視線が突き刺さるのを感じ、胸が締め付けられた。

惨めだった。当然だ。夫の家族は、由緒ある名門一族なのだ。

義母の九条清華(くじょう せいか)とその亡き夫の九条源造(くじょう げんぞう)、彼らは若い頃、国内外で事業を展開し、製造業、ホテル、病院など、多くの子会社を束ねる。

その莫大な富は、三人の息子たちに引き継がれている。長男の九条怜司(くじょう れいじ)、次男の九条宗佑(くじょう そうすけ)、そして末っ子の魁。

「腕のいい産婦人科の予約を取っておいたわ」

清華はそう続け、左側に座る魁の前に名刺を押し出し、和葉に渡すよう顎で促した。

魁は億劫そうにそれを受け取り、そのまま妻へと差し出した。その動作には、微塵の関心も思いやりもなかった。

そして清華が冷酷に付け加えた。

「言い訳は聞かないわ!すぐに診てもらいなさい」

「お義母様、もしかして和葉さんは不妊症なんじゃありませんこと?」

長男怜司の妻である西園寺絵里香(さいおんじ えりか)が口を挟み、食卓の全員の視線が彼女に集まった。夫である怜司自身は、彼女を冷ややかに一瞥しただけだった。

「あり得ますわね、お義姉様。本当は自分が妊娠できない体だと分かっていながら、離縁されないために、お義母様や魁さんには黙っていたんじゃないかしら!」

次男宗佑の妻である霧島麗奈(きりしま れいな)も、面白がるように言葉を重ねた。

二人の義姉は、天と地ほどもある身分格差を理由に、常に和葉を見下し、蔑んでいた。

絵里香は、A国の名門大学でデザインの修士号を取得している。それだけでなく、大実業家の令嬢であり、現在は自身で大きなブティックを経営していた。

そして次男の妻、麗奈は法学の修士号を持ち、現在は弁護士として働いており、国内最大の法律事務所のオーナーの令嬢でもあった。

対する和葉はただ、偶然この一族の嫁候補になる幸運に恵まれただけの、しがない女だった。彼女の祖父が、清華の父親であり魁の祖父でもある人物の古い友人だったという、ただそれだけの理由だった。

彼らの結婚は、約一年前に二人が正式に結婚する直前に亡くなった、先代の遺言によるものだった。

「不妊症」という言葉は、和葉の心に突き刺さった。その理不尽な言いがかりは、魁に一度も抱かれたことのない彼女の脆い自尊心を深く傷つけた。

和葉は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。縋るように隣の魁を見たが、彼は退屈そうな表情で自分の皿を見つめているだけだった。まるで、聞き飽きた雑音でも耳にしているかのように。

いつものことだ。魁が母親や家族の前で彼女を庇うことなどあり得ない。何も言わず、和葉が家族の前で罵倒され、侮辱されるのをただ黙って見ているのだ。

和葉は顔を上げ、震える瞳で義母を見つめた。

「お義母様、私は……私の体は、どこも悪くありません」

彼女は震える声で、必死に自分を守ろうとした。

ダンッ!

清華が手に持っていたジャムナイフの柄でテーブルを強く叩きつけた。食卓の誰もがビクッと肩を揺らしたが、清華の視線は氷のように冷酷だった。

「『悪くない』なんて言葉は通用しないのよ、和葉!私の言う通りにしなさい。そして検査結果を提出すること。私がこの目で確かめるのよ!」

「母さんの言う通りにしろよ、和葉」

長い沈黙を破り、ようやく魁が口を開いた。しかしそれは妻を庇うためではなく、一緒になって彼女を追い詰めるための言葉だった。

和葉は重苦しく唾を飲み込んだ。守ってくれるはずの夫が、むしろ自分をさらに追い詰めたことで、先ほどから赤くなっていた彼女の瞳から限界を迎えた涙が零れ落ちそうになった。

「それに」

魁は冷淡に言葉を続けた。

「どうせ問題があるのはお前の方だ。医者に診てもらって、妊娠できる体かどうかハッキリさせた方がいいだろ」

膝の上に置かれた和葉の手は、屈辱と悲しみを抑えきれずに小刻みに震え始めていた。指の関節が真っ白になるほど、強く、強く手を握りしめた。

自分の夫が、家族全員が揃う食卓で、どうしてこんな残酷なことが言えるのだろうか?

「よく聞きなさい」

清華が再び口を開き、その声には絶対的な権力者の響きがあった。

「今から三ヶ月の猶予を与えるわ。その間に必ず身籠りなさい」

その言葉の端々が重く和葉を圧迫し、彼女は息をすることすら苦しかった。しかし清華の追撃は止まらなかった。

「もしできなければ、私から魁に離縁を命じる」

清華の声は容赦なく、鋭い刃のように和葉の胸を突き刺した。

「そうしたら、あのボロボロの実家に帰って、病気のお祖父さんの看病でもして残りの人生を過ごすことね」

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