LOGIN地下室には、ダイヤル式の大きな金庫がある。
ルーナもちょくちょく地下室には入っていたので、金庫の存在は認知していた。 しかしその中身に関しては、聞いても答えてくれないことを重々承知していた為、尋ねたことはない。 ……。 何も語られないまま、2人は自然と金庫前へと立った。 「ルーナ。今から(炎の巫女)と(空の王)について教えるわ。でもまずは見てもらう方が早いと思う。」 カタリナはそう言うと、金庫のダイヤルを回していく。 カチッ という音とともに、中から小箱と、封筒が出てきた。さらにカタリナは小箱の鍵を開ける。 「綺麗…。」 小箱の中から出てきた赤いリングに、ルーナは思わず声を漏らした。 「これは(フレアリング)。これこそが(炎の巫女)の力を引き出す特別な指輪なの。」 「よく…分からない…。」 ルーナの返答に、カタリナは軽く頷いてから、封筒の中から数枚の紙を取り出した。 「これって…。」 ルーナは1枚の写真を指さして聞いた。 「あなたのお父さんよ。」 カタリナは淡白に答えた。 「空を…飛んでる…?」 「あなたのお父さんはね。(空の王)と呼ばれた英雄なの。名前はロシェ。」 カタリナは少し俯きながら話を続ける。 「空を操る特別な力を持っていたの。この国の平和を、命をかけて取り戻した英雄よ。そして私は…。この(フレアリング)を使って、ロシェと共に戦った。(フレアリング)は特別な資質を持つ者に、炎を自在に操る力を与えてくれる。だから私は(炎の巫女)と呼ばれているの。」 あまりに唐突で、複雑な話に、ルーナの脳は追跡が追いついていない。 「少し落ち着きましょう。」 カタリナは話を止めて、地下室の椅子に腰掛けた。ルーナも横に座る。 ……。 20分ほど沈黙が続いた。 「お父さんとあ母さんがすごい人だというのは分かった。」 ルーナがそう言うと、カタリナは少し微笑む。 「私たちは守りたかっただけ。でも私自身は1番守りたかった人を守れなかった…。」 「お父さん…。」 「ずっと黙っててごめんね。」 カタリナはそう言うと、ルーナの頭を撫でた。 「お母さん…。私こそ、本当にツラいのお母さんなのに…。強く当たってごめんね。」 2人は束の間抱きしめあった。 本がぎっしりと並ぶ地下室の中。 丸テーブルに簡素な椅子が2つ。 カタリナは本題を話し始める。 「全ての戦いが終わった後、私はとある地下室で(空の国)についての壁画を見た。」 「壁画?」 ルーナが聞くと、カタリナは頷く。 「空の国と深く信仰のあった国。歴代の(空の王)はその地にて心技体を学ぶ。そう書いてあったわ。」 「(空の王)ってことはお父さんも?」 カタリナは少し考えてから答えた。 「ロシェは過去からきた人。それに歴代(空の王)の中でも一部の者にしか扱えないと言われていた(空を操る力)を持っていた。そんな人物が、空の国と密接な関係の地に行っていない訳がないと私は思っている。」 ルーナは黙って聞いている。 「それに壁画には続きがあって。(空の王)の血を引く者。すなわち次世代の(空の王)は、その地にて儀式を受けなければならない。と…。」 「それって…。私だよね?」 ルーナが聞くと、カタリナは頷く。 「分からないことだらけ…。」 ルーナは明らかに困惑している。 カタリナは優しくルーナの頭を再び撫でた。 「ここから先はルーナ!あなた次第。正直私にも何があるのか、何が起きるのか分からない。でも行けば恐らくお父さんのことは少し理解できると思う。でも今はもう平和な世界。もちろん空に国もない。行かなくても誰も咎めたりしない。だからあなたが決めていいのよ。」 カタリナの言う通りで、平和な国に生まれたルーナは何も背負う必要なんてない。ただ好きな踊りを極めて、国いちばんの踊り子を目指せばいい。 しかしルーナの答えはそうではなかった。 「私は…。正直なんにも分かってないけど。少しでもお父さんを知ることの出来るチャンスがあるなら。行きたい!!」 ……。 カタリナは少し言葉を詰まらせた。 「そうだよね…。」 カタリナはそう答えると、(フレアリング)の入った小箱を手に取った。 「国の外は危険も多い。私も久しぶりに(炎の巫女)になる時が来たわね。」 小さくそう呟くと、ルーナの手を握った。 「ルーナ!行きましょう。空の国と親交の深かった国ヤンガミへ!!」 ルーナは少し嬉しそうに頷いた。「さて。これからどうしようかな。」バルドレは天馬を空に向かって進ませている。しかし先程のルーナの一撃で、一時的に脅威は去ったとは言え油断は禁物。すぐにでも空の王と接触して、この記憶の墓地から脱出したいところだが…。「ルーナ。傷は大丈夫かい?」「だいぶ落ち着いた。」ルーナの回復力には驚かされる。ラオムの拳をまともに受けた時は、全身が悲鳴をあげている状態だったにも関わらず、そこ30分程度で、ある程度動けるほどになっているのだから。「キミはホントに不思議だね。」「バルドレもね。」ルーナの言うとおり、たまたま本屋で出会い、たまたまヤンガミに眠る宝具が使えただけなのに、ルーナと共に命を賭けているのだから不思議なものだ。「とにかく空に向かおう!空の王って呼ばれるくらいだし!きっと空にいる!」バルドレがそう言うと、ルーナは頷いた。浅い考えだとは思うが、なんとなく理にかなっている。可能性は高さそうだ。しかしルーナにはそれ以上に、ラオムが気がかりで仕方なかった。雷炎の龍をぶつけた時に、あの化け物は笑っていたように見えたからだ。それも当然で、太古の昔から空の王と激しくぶつかり合っていたこともそう。15年前に、その存在だけで国を壊滅させたこともそう。全て今のルーナの全力ごときでどうにか出来るわけがない証明となっている。「バルドレ。とにかく急いで空に向かおう!」「もちろん!」「でも気をつけて。いつまたあの黒いサークルが現れるかわからない。」「だよねぇ。あれだけ幻想的な一撃を見せてもらったから言いにくかったけど。あの化け物は、仕留めれていないよねぇ。」「当然だ。時間稼ぎにしかならない…。」ルーナの悔しげな表情が切なかった。「気に病むことはないよ。そのおかげでこうして生き延びれたわけだし。ほら?言ったでしょ?生き残ることが勝ちなんだって!」バルドレは、あえて陽気に振舞った。かなり空の奥地まで登ってきたようで、雲が下に見えている。「どこまで行けばい
ルーナには何が起きたのか理解できていなかった。ただ気づいた時には、瓦礫の上に倒れていた。全身が痺れるように痛む。内臓にもダメージが及んでいるのか、呼吸すらも苦しい。たった一撃。されどその一撃が、致命的なモノとなる。古の機械ラオムの恐ろしさは理解していたはずだった。でも…。それは想像を遥かに凌駕していた。「おまえ。炎と雷を使ったな?」塔の上の男の声だ。「おおかたあの忌々しい炎の巫女と空の王の娘。と言ったところか。」ルーナは気持ちで立ち上がる。「俺も。そこの古の機械も。おまえの両親には恨みがある。こんなところで憂さ晴らしができるとはな。」塔の上の男は高らかに笑った。バルドレが駆けつけてルーナの横に立った。「ルーナ。大丈夫なのかい?」「…なわけないでしょ
「まったく。次から次へと不思議なことばかりで頭が混乱しちゃうよ…。」バルドレは腰を抑えながら呟いた。「巻き込んでしまう形になって申し訳ない。」ルーナがそう言うと、バルドレは笑って答えた。「謝らなくて大丈夫!やっぱりキミといるとワクワクするよ。」「あなた。子供なの?」「キミよりは大人だと思うよ!でも芸術家なんて好奇心の塊だからさっ!」ルーナは聞き流すかのように足を進める。「待ってよ。」バルドレも後を追う。「ルーナさん。どこに向かうの?」「ルーナでいい。墓石に飲み込まれた時、チラッと目に入ったのだけれど。この空間には、記憶の具現化がされていると掘っていた。」「記憶の具現化?」ルーナは頷いて、話を続
老人は語り出した。「ロシェ•カエルム様は、太古の昔。空の国を統べていた国王で御座いました。歴代の空の王でもごく一部の者にしか扱えないとされる空を操る力を持っており、空の国歴史上最強の王と謳われております。そんな王の元、空の国は平穏な日々を暮らしておられた。」ルーナとバルドレは黙って聞いている。「しかし。空の国の中には、さらなる発展を求める者もおり…。彼らは叡智を絞り、王の目の届かぬ場所で、とんでもないモノを作り上げてしもうたのです。」「とんでもないモノ?」バルドレが聞くと、老人は頷いた。「古の機械ラオム。それを取り巻く古代兵器たち。しかし古の機械ラオムは、国の発展を望んだ科学者の気持ちとは裏腹に、国を乗っ取らんと空の国へと攻め入ったのです。異空間を自在に操る古の機械ラオム率いる古代兵器軍と、空の王ロシェ様、空の王の守り人である炎の巫女との戦闘は長きに渡ったと言われております。」「異空間を操るって……
バルドレの右腕に、ルーナは布を巻いた。「すまない。悪気はなかったんだ。」「わかってる。」ルーナはそう答えると、3人の老人に目を向けた。「話を続けましょう。」老人たちはまだ驚きを隠せていない。(この子…。リングなしで炎の力を使ったのみならず。雷までも生み出した。底なしの才能を秘めておる…。)真ん中の老人が、左右に座る老人に目で合図を送る。それに合わせて、左右に座る老人は立ち上がり、怪我をした従者たちの手当を始めた。そして真ん中の老人はゆっくりと立ち上がり、ルーナに声をかける。「ルーナ様。ついてきてくだされ。」「分かりました。」続いて老人は、バルドレの方に顔を向ける。「バルドレか…。ヤンガミが誇る天才絵師。まさか宝具を扱えるとは…。おまえもついてきたまえ。」「え?ボクも?」「誰にでも天命はある。」その老人の言葉に、バルドレは少し笑って答えた。「年寄りの言葉は重たいねぇ。」3人は広間から奥に繋がる廊下を進んだ。その先は行き止まりだ。巨大樹の中央付近なのだろう。吹き抜けになった呼吸口から通る風はかなり強い。老人が口を開く。「まさかワシの代でこの上に行くことが叶うとは……。」「どうゆうことですか?」ルーナが聞くと、老人は答える。「かつて空の国と信仰を築いていた時。ヤンガミの根幹はこの上にあったのです。この上には空の国とヤンガミの過去が眠っておる。そしてルーナ様。あなたのお父様ロシェ•カエルム様も太古の昔。この上の地で、空を学ばれたのです。」「お父様が太古の昔って。よくわからないね。」バルドレが口を挟むと、老人は鋭い眼光で突く。「わかってるよ。黙ってればいいんでしょ。」「バルドレ。風描きの筆を右の台座に置くのだ。」老人に言われた通り、バルドレは台座に置いた。「何も…起きないね。」バルドレは不思議そうに
街の中央に聳える巨大樹。使者のうちの1人が、その巨大樹に右手を当てた。そしてブツブツと何やら呟いている。(この3人·····。どこまで信用していいのかしら。)ルーナの中にある懐疑心は拭えない。しかし他にアテもないのでついてきたに過ぎない。使者が巨大樹から手を離した途端。まるで口を開くかのように、幹に裂け目ができた。「どうぞ。」使者に案内されるままに、ルーナはついて行く。「ここはヤンガミでも一部の人間しか知らない裏街です。」「裏街?」ルーナが聞き返すと、使者の1人が答える。「そうです。裏街は、太古の昔。空の国との交流を実際に行っていたヤンガミ人の純血の子孫しかおりません。」「ここが本当のヤンガミの歴史ってことね。」「その通りです。ヤンガミは今でこそ、アートの街なんかと持て囃されておりますが、本来は空の国の歴史を知る古き伝統の街でございます。その気持ちを失わぬように、表街と裏街に分けているのです。」そんな話をしながら、巨大樹の中の螺旋階段を登っていく。しばらく歩いていると、広間が見えてきた。「ルーナ様。お待たせしました。こちらへどうぞ。」使者の1人が、ルーナを広間の真ん中の席に座らせた。「何が始まるのですか?」ルーナが聞くと、使者は答えた。「空について。知っていただきます。」ルーナは辺りを見渡した。人数は15人ほど。自分の真正面には、明らかに威厳がある年寄りが3人。きっと彼らがここを統括しているのだろう。そして、その3人の後ろには、大きな壁画がある。空に向かって絵を描いている男性と、空に浮かぶ島?のような壁画。ルーナは先程の本を思い出す。(あれが宝具!)壁画の下に、ガラスケースで保管されている、羽のようなデザインの筆が目に入った。よく目を凝らすと、ケースの下に名が掘られている。(風書きの筆·····







