LOGIN依然として震災の影響は色濃く、国の中枢からは何の指示もでない。国民たちは疲弊しきり、不満を抱く者も多い。一部では王が何かの目的で人為的にこの大震災を引き起こしたのではないかという説も飛び出してきており、不信感は募る一方だった。突拍子もない説に思えるが、この国においては不可能な話ではない。年中太陽を有して、時に人為的に雨を降らせる人工気候装置なるものを作り上げたくらいなのだから、大地を操る何らかの機械を完成させていてもおかしくはない。とまあそんな仮説を頭に描いていても実際のところは調べようもなく、国民たちはただ心の中でのみ自分の思いをぶちまけていた。実際に声に出してしまえば殺されてしまうかもしれない。そんな恐怖感がこの国を支配していた。カタリナからすれば、黙って順応していくだけの者も等しく罪だと思っている。それは悪い国の典型だ。築く者がいて、従う者がいる。だから不恰好なままに歯車は回ってしまうのだと思う。
スタレスを始末したカタリナは、アクアストール内北部地方へと一度退避していた。もともとここは人が多い住宅街だったが、跡形もなく消え去っていた。瓦礫の上を歩くたびに心の中に聞こえてくるのは、失われた多くの命の魂の叫び。カタリナがここへ来た理由は身を隠すためである。下っ端とはいえ、特殊警察の一人を葬ったのだから、すぐに国の中枢は動き出すだろう。まとめて相手をしても勝ち目がないことは理解できる。フレアリングはあくまでも一対一を有利進めるための武器であり、複数人を相手に戦えるのかは解らない。それにここなら、ヘカーソンの屋敷が残っているかもしれない。あの地下室は相当頑丈な作りだったから、身を隠すには丁度いいと考えていた。しかしカタリナの想像よりも早く、国の中枢は動いていたようで、追っ手はすでに背後にまで来ていた。 「待て。」 その声でカタリナは、振り向かずともそれが機械であることを認識した。強いて言うなら人間独特の抑揚がないと言ったところだろうか。普通の人間には見分けるのは難しいだろうが、カタリナにはすぐにわかる。 「私に何か用?」 「少し話を聞かせろ。」 「何の話?」 カタリナは静かな口調で答えながら、声の主の方へ振り返った。改めてこの国の技術の精巧さに感服する。見た目には全く人と遜色はない。それもそうだろう。人を材料にしているのだから。かつてへカーソンの家の地下室でその工程を目にしている。 「どこへ行くつもりだ?」 「どこって。とりあえずここに来たかっただけよ。」 カタリナは警戒している。機械の全身を捉えて、気付いたのだ。こいつはスタレスとは比べ物にならないほどに強い。同じ人型機械でもスタレスのように明らかに右腕だけを機械化していれば、対応策は練りやすい。しかしこの機械の場合、外見はただの人間だ。全身を機械で構成されていると仮定すれば、行動パターンや能力値が未知数である。何処から何が飛び出してくるか解らない以上、全身を警戒しなければならないため、最も厄介なタイプといえるだろう。 「これ以上行っても何もないぞ?」 「そうみたいね。じゃあ帰るわ。」 カタリナがそう言うと、その機械は薄ら笑みを浮かべた。 「まぁ待て。」 どうやらカタリナを逃すつもりはないらしい。 「まだ何か?」 「俺が人ではないことに気付いてるいるようだが、おまえはいったい何者だ?」 カタリナは少し驚いた。この機械は相手の心を読むような特殊能力があるのかもしれない。 「何のこと?」 カタリナがとぼけるようにそう答える。 「今、嘘をついたな?」 やはり何らかの方法で心を読んでいる。こうなるとカタリナも覚悟を決めるしかない。判断の難しい敵ではあるが、十年も修練に注ぎ込んだ自負がある。それにここで死ぬわけにも行かない。 「質問を変えよう。スタレスという男を知っているか?」 「知らないわ。」 もちろん嘘だと気づかれることは分かった上でそう答えた。 「また嘘をついたな?」 「嘘じゃない。弱すぎて覚えてないだけのことよ。きっと今頃地獄の業火に身を焦がしてると思う。」 「やはりおまえが殺したのか。」 機械は何やら嬉しそうだった。 「何が楽しいの?」 「楽しい?そうだな。楽しいのかもしれないな。スタレスを弱いと言うおまえがどれほどのものなのか。確かめたくて仕方がない。」 「どうせ私を殺すつもりなんでしょ?」 「そうだ。死刑は免れない。でもただでは殺さない。本当の機械の恐怖をじっくり味わって死ぬといい。」 「あのスタレスとかいう男みたいに、拍子抜けさせないでよね。」 「俺をあんな半端な機械と同じだと思わない方がいい。すぐに後悔することになるぞ。」 そんな事は言われなくてもカタリナには理解できている。攻撃のパターンが読めない以上、カタリナは全てに対応する必要がある。そっとフレアリングに祈りを込めた。 「出力二倍。強度八十パーセント。」 機械はそう言うと、クラウチングスタートで突っ込んできた。そのスピードはカタリナの想像よりも速く、すぐ眼前へと現れる。 「業炎の滝。」 カタリナがそう呟くと、機械の真上から炎が滝のように流れてきた。しかし機械は圧倒的な反応速度でそれを後方に回避する。もっともカタリナもこれで終わるとは思っていない。あくまでも自分と機械との間に壁を作りたかっただけだ。 「出力三倍。強度九十パーセント。」 機械は炎の壁に近づいて、右拳を振りかざした。その凄まじい風圧は壁に大きな穴を開けた。 「フレア。炎剣の舞。」 カタリナは炎の剣を手に取って、相手の出方を伺う。機械が選んだのは真っ向勝負だった。凄まじいスピードで飛び込んで、カタリナに拳を振るう。カタリナは炎の剣を振り機械の左足を斬りながら、その拳を感覚で避けたのだが、強度九十パーセントから放たれた拳の風圧は、炎の壁に穴を開けるほどである。カタリナの体は後方へ大きく跳ね飛ばされ、瓦礫の山へ体を打ちつけた。機械は寸前で切り落とされた左足を拾い上げた。断面が熱で変形している。 「修復モード。」 機械がそう言うと、切断面が徐々に元の状態へと戻っていき、それを接合させた。つまり機械の方は無傷である。そして瓦礫に打ち付けられたカタリナは体の痛みに耐えながら何とか立ち上がった。 「馬鹿力ね。」 「おまえはなかなかに速いな。あれを避けたのはおまえが初めてだ。それにその妙な武器。スタレスが負けたのも頷ける。ますます興味が湧いてきた。」 「お世辞はいい。続きをしましょう。」 「そうだな。」 機械はそう答えると、その距離を保ったまま右の手のひらをカタリナに向ける。どうやら近接格闘だけではないようだ。 「シングルレーザー。」 機械の手から一本の光線がカタリナ放たれた。カタリナはそれを右に跳ねながら避ける。後ろを見てみると、光線が当たった部分の瓦礫が溶けていた。 「ダブルレーザー。」 今度は両手のひらを、カタリナに向けた。そして勢いよく解き放つ。当たればひとたまりもないそれを、カタリナは辛うじて避けた。 「ここからが本番だ。ダブルレーザー追従モード。」 二本の光線が再びカタリナ目掛けて飛んでくる。カタリナはそれを避けるが、後方で光線は百八十度反転してカタリナを追従する。それを何度も繰り返す。 「そして追撃だ。」 機械が、今度は空に向かって両手のひらを掲げた。 「鉛雨。」 放たれたのは無数の鉛玉だった。それが光線を避け続けるカタリナの上空へ降ってくる。カタリナはフレアリングに祈りを込めた。 「炎天の龍。」 炎の龍に乗って、鉛玉を溶かしつつ、光線を避ける。そして炎の剣を手に持って、機械に向かって突っ込んだ。 「今度は私の番よ。」 カタリナは機械の胸に炎の剣を突き刺そうとした。しかし機械の右拳が先にカタリナの身体にクリーンヒットしてしまう。カタリナは気付けば遥か後方の瓦礫の上に倒れていた。速さ、破壊力、戦闘経験。どれをとってもカタリナより機械が上なのは明白だった。 「うぅ。骨までいっちゃったかな。」 カタリナはそう言いながら起きあがろうとするが、立つことができない。機械はその姿を見て笑っていた。光線を消したということは、まだ殺すつもりはないということだろう。 「かなり不味いわね。」 カタリナの頭の中に現状を打破する算段はなかった。 「こんなものか。まったくスタレスは情けないなぁ。この程度の小娘に消されるとは。」 機械は距離を保ったままそう言った。カタリナからすればこの距離が最も分が悪い。近づいてくれれば奥の手もあるのだが、この機械は想像以上に戦闘知能指数が高いのだろう。迂闊に近づいたりはしてくれないようだ。 「このままだと一方的に殺される。それなら一か八か。一気に距離を詰めて速度勝負に出るしかないわね。」 カタリナは折れた骨を庇いながら懸命に立ち上がった。戦争から2年。まだまだ途上ではあるが、幸せな雰囲気が街には溢れていた。壊れたものを立て直すことは非常にツラい作業と言える。しかし苦しい期間が長かったこの国では、その復興作業すら、幸福の風のように感じてしまう。カタリナは時折、海辺に腰掛けて、空と会話していた。(ねぇロシェ。今のこの国は笑ってる。笑ってるんだよ。私たちがずっと手に入れたかったモノ。この国が本当の意味で笑顔になれるってこと。それは叶ったんだよ。)「ママ?」小さな女の子が、カタリナの右手を握る。「どうしてママは1人でお話してるの?」カタリナは、女の子の頭に手を置いて答えた。「パパとお話してるんだよ。」「パパはお空にいるの?」「うん!いつも見守ってくれてるんだよ。」「いつかパパにも会いたいなぁ。」子供の悪気ない一言が、カタリナの心をエグる。「いつか……。きっと会えるよ!」カタリナは滲む涙をこっそりと拭った。民の祈りが草木を肥やすかのように、国は緑溢れる平穏な地へと変貌を遂げていく。小鳥の声も以前より溌剌としているようにも感じられる。カタリナは、ロシェとの間に生まれた奇跡の子に、ルーナと名前をつけていた。ルーナ・カエルム。それが次の時代を紡ぐ者。空と炎を紡ぐ者の名前だ。
「私に隠していることがあるよね?」「気づいていたのか?」「気づかないわけがない。」 カタリナは賢い。ゆえに人よりも小さな情報から結論を見出すことができてしまう。「ちゃんと話す。聞いてくれ。」 ロシェがそう言うと、カタリナは頷いた。「僕たちは時代を変えることができた。復興作業をする人たちの顔。辛いだろうに笑顔に溢れている。」 ロシェの言う通り、人々の表情に笑顔は戻りつつある。「そうね。」 カタリナは静かにそう答える。ロシェの服は先ほどよりも染み付いた血の量が増えてきている。「カタリナ。すまない。僕は。」 ロシェはそこまで言ったところで口から血を吐き出した。体には古の機械との戦いで負った傷が戻り始めている。「ロシェ。」 カタリナはロシェの肩を支えた。溢れてくる涙を必死に我慢しながら。目の前で起ころうとしている現象から目を背けてはならない。そんな風に思っているのだろう。ロシェは一度深呼吸をして話を続ける。「僕はやっぱりあの戦いで死んだんだ。カタリナがアクアリングに祈ってくれたから、最後に少しだけ新時代を歩く時間がもらえた。でももう時間切れみたいなんだ。」 ロシェはそう言いながら涙を拭う。「私はけっきょく、あなたに何もしてあげられなかった。全部一人で背負わせてしまった。」 カタリナは溢れ出る後悔を口にする。あの時一緒に戦っていればこんなことにはならなかったかもしれない。しかしそれを今更言っても時間は戻らない。「それは僕が望んだことだ。それにカタリナと過ごした時間は僕にとって大切なものになった。君がいてくれたからどんなことも乗り越えられたんだ。」 ロシェの言葉が、悲しみに暮れたカタリナを優しく包み込んでいく。「結婚の約束。守れなくてごめん。」 それにカタリナは被りを振る。「今日まで一緒にいてくれたじゃない。それで十分よ。」 カタリナは溢れ出る涙を拭い、ロシェの手を握った。「僕は空から見守り続ける。勝手なことを言うようだけど、これからも僕を愛していてほしいんだ。」「そんなの。あたりまえよ。」「ありがとう。カタリナはもう三つの鍵を手に入れている。あとはその想いを胸に舞えばいい。」 ロシェは最終奥義のことを言っているのだろう。しかし今のカタリナはロシェとの別れに頭を持っていかれていて、整理がつかない。「立派な国にしてくれ。」
数日後。王が死んだことを知った国は一時混乱に陥った。喜びを噛みしめる者もいれば、路頭に迷う者もいた。二人はその全ての人たちに手を差し伸べて、決して見捨てることはしなかった。その小さな努力が積み重なって、三ヶ月が経つころには、皆の顔は同じ方向へと向かっていた。何者にも支配されない幸せな国を築いていこうと。 ロシェとカタリナはアクアストールにいた。民たちの活躍もあり、ゆっくりだが確実に復興は進んでいるように見える。「カタリナ。一つ思い出したことがあるんだ。」 ロシェが唐突にそんなことを言い出した。「なに?」「炎の巫女の最終奥義についてだ。」 カタリナは目を丸くした。「もう戦いは終わったのよ?最終奥義は必要かしら?」「地形操作の舞を知っているか?」「知ってるもなにも。私はそれがされた場所で修行を積んだの。」「そうか。なら話は早い。フィナは邪竜を追い払うために何者と生存できない地形へと変化させた。これに逆があるとすれば?」 ロシェの話を聞いて、カタリナは驚いた。「つまり命が芽吹く地形に変形させられるってこと?」「そうだ。」「でもどうやって。やり方がわからないわ。」「僕の勘が正しければ、ここの地下に巨大な神殿があるはずなんだ。そこに手掛かりがあるかもしれない。」「それなら探してみましょう。」 二人はサウンズロッドの内部へと入った。月日が経っても中は何も変わっていない。迷路のような一階フロアはカタリナが、吹っ飛ばしていたので捜索は案外スムーズに進んだ。「カタリナ。ここだ。」 二人は地下への扉の前に立つ。そしてロシェがゆっくりとその扉を開いた。「随分長い階段ね。」「古の機械の封印にはそれなりの巨大な空間が必要だったと思う。この先はかなり広く続いているだろう。」 ロシェがそう言うと、カタリナは小さな炎で辺りを照らした。「行こう。」 二人は地下へと足を進める。階段を下り終えると、そこにはカルトゥナやガリュウの時とは比べ物にならないほど広大な敷地が広がっていた。「たしかに広いわね。」「あぁ。でもここがかつての空の城の地下だとすれば僕にはどこに何があるか理解できる。ついてきてくれ。」 ロシェはそう言うと奥へと歩き出した。カタリナもそれについて行く。しばらく歩くと、古い扉が視界に入った。「あそこだ。」 二人はそこに向かった。
ロシェとカタリナはグレートニールに向かって歩いていた。ロシェが古の機械と戦った時、カムはアクアストールを封鎖していたようで、目撃者などはおらず、民は王が死んだことなどもちろん知らないままであった。唯一変わった状況といえば、人型機械が活動を停止したことだろうか。人工気候装置が破壊されたことにより、太陽が常に出ているわけではなくなった今、あれだけの高性能な機械を維持する体内エネルギーが枯渇してしまったのだろう。道中には動かなくなった人型機械がたくさん転がっていた。この光景を見て、民たちは国の異変に気づくのだろう。「ねぇ。ロシェ。」 カタリナが突然口を開いた。「どうした?」 ロシェは優しく聞き返した。「本当にもう平気なの?体。」 カタリナが心配になるのも、仕方のない話である。なぜならあの時、ロシェの心臓は完全に止まっていた。たしかに死んでいたのだ。「あぁ。大丈夫だ。心配してくれてありがとう。」 ロシェは優しい笑顔でそう答えた。「それよりカタリナ。これからこの国をどう立て直していくんだ?」「そうね。もう王はいらないわ。みんなの力を合わせることが大事ね。」「そうか。国は壊すことよりも築くことの方が難しい。」 ロシェのその言葉に、カタリナはカムの言葉を思い出した。「そうよね。」「あぁ。みんなが同じ方向に向かうのが一番難しいことだと思う。ましてや率いる者を立てないのであれば。」「そうね。」 カタリナは少し俯きながらそう答えた。「カタリナ。何も焦る必要はない。ゆっくりと一歩ずつ進んで行けばいいと思う。」 ロシェは笑顔でそう言った。カタリナはその笑顔を見て、再び心に誓ったことがあった。この国を素敵な笑顔に包まれた国にしようと。 思い返せばアクアストールで全てが始まって、戦場から戦場へと移動を重ねた。あの時もロシェとカタリナはこの道を歩いていた。その時は気づきもしなかったのだが、ここにも美しい花は咲いている。きっとカタリナが目指している理想の国には、こういう小さな気づきが溢れているのだろう。安泰な平和とはまだまだ言い難いほど国は疲弊しきっているのが現状だけれども、二人は確実にその一歩を踏み出している。国民全てがその姿を描ければ、それが同じ方向を向くということに繋がる気がする。いつかは花が満開に咲くと信じて、二人は歩いている。「カタリナ。見て
カタリナは最上階の扉を開こうとしていた。ふと外が静かなことに気がつく。頭の中には色々な憶測が飛び交ったのだが、その雑念全てをかき消して、自分が成すべきことに注力すると決意した。そしてゆっくりと扉を開く。「ミレアを倒したか。」カムはソファに腰掛けたままそう聞いた。「えぇ。」カタリナはそうとだけ答える。「モニター見てみろ。空の王ロシェ=カエルムは死んだ。古の機械も滅んだ。全ては俺の想定の範囲で進んでいた。誤算だったのはおまえだけだ。」モニターには見るも無惨に穴だらけとなり横たわっているロシェの姿が映っていた。カタリナは込み上がってくる感情を懸命に押し殺した。「私は選択を間違えてしまったようね。」「そうだな。俺の想像を遥かに凌駕するおまえの力があれば、ロシェ=カエルムが死ぬことはなかったかもしれない。でもおまえは自分の目的を優先してここへ来た。」「あなただけは何が何でもここで葬る。」カタリナはフレアリングに祈りを込めた。「フレア。煉獄の監獄。」カムの周り半径十メートルほどに炎のサークルが形成された。「そこから出ようとすると、全身を焼かれ死ぬことになるわ。そのソファから一歩たりとも動かないことね。」カタリナのその言葉を聞いて、カムは背もたれに腰を預けた。「なぜそこまでして俺を恨む?」「恨んでないわ。ここにくる時、あなたの兄の墓を見たわ。あなたも根っこから腐ってるわけではないようね。無理に悪を演じている。そんな風に私には見えるわ。」「おまえは知らないのだろう?俺の父がどのような人物だったのか。心優しく民からも愛される王だった。しかし突然命を奪われたのだ。それなら俺は逆に悪のカリスマとして国を支配すると決めたのだ。」「そう。あなたには同情するわ。でもしてはいけないことに手を染めて、奪った命が多すぎる。」「そうだろうな。」カムは頭がいい。こう話してるうちに何か打開策を練っているのかもしれない。しかしカムの額に滴る汗からは現状に覚悟を決めているかのようにも見える。カタリナにはこの男がよく読めなかった。「たかだか炎を操るだけのちっぽけな存在だと考えていたが、まさかおまえがこれほどの力を有していたとはな。どうだ?おまえの信じる王はもう死んだのだ。俺のこれからを信じてみないか?」「ふざけないで。あなたにこれからはない。ここで確実に死ぬべき人間
「あちゃ。やっぱり強いな。」「もう十分でしょ?行かせてもらうわね。」カタリナはそう言うと、背中を向けて歩き出した。「待って。」「まだ何か?」「私まだやれるよ。もっと遊んでよ。」ミレアは立ち上がっていた。そしてダークリングに祈りを込めている。「カムという男は、あなたがそこまでして守りたい人なの?」カタリナの問いかけにミレアは被りを振った。「私は今、カム様を守るために戦ってるじゃない。楽しくて戦ってるのよ。」「そう。確かにあなたは巫女としての素質は高いわ。でもね。経験が浅い。あの頃の私を見ているかのようなの。」「経験値かぁ。そればっかりはどうしようもないね。」「これから積めばいい。その後にまた相手してあげるわよ。」「だめよ。私はもう決めてるの。自分の死場所はここだって。」「そう。ならもう何も言わないわ。」カタリナはフレアリングに祈りを込めた。「炎剣の舞。」「そうこなくっちゃ。闇剣の舞。」ミレアは闇の剣を持って、カタリナに向かって走る。「フレア。疾風の炎舞。」カタリナは炎の剣を持ったままそう呟いた。次の瞬間、カタリナはミレアの後ろに立っていた。ミレアの右腕を斬り落として。「見えなかった。」「でしょうね。」ミレアは斬り落とされた右腕を見ながら、小さく笑った。「これじゃあ。もうダークリングも使えない。」「それが狙いだからね。じゃあ私は行くわ。殺人の趣味はないの。」「待ってよ。ちゃんと殺してから行って。」「全て終わったら回復させてあげるから、そこまで待ってなさい。」カタリナがそう言うと、ミレアは株を降った。「そんなこと望んでない。ちゃんと殺してって言ってるの。でなければここから先に行かせるわけにはいかない。」「なぜ命を粗末に扱うの?」カタリナが聞くと、ミレアは少し考えてから答えた。「大事に扱っているからこそ、炎の巫女の手で終わりにしてほしいのよ。生きていてもいいことなんてないって分かっているから。」ミレアにも辛い過去があるのかもしれない。カタリナはかつての自分と重ね合わせた。「そう。分かったわ。でも私も急いでいるの。一瞬で終わらせてもらうわ。」「ありがとう。」カタリナは炎の剣でミレアの首を斬り落とした。「私も出会う人が違えばこうなっていたのかもしれないわね。」カタリナはそう呟くと、ミレアの骸に背を向け