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第2話

Author: ミントソーダ
彼女がそう言いかけていると慎也のスマホに、メッセージの着信の知らせがあった。

彼は画面をスワイプすると、目元に笑みを浮かべた。

一方、澪は離婚の書類を握る手に、思わず力を込めた。

その表情を見れば、誰からのメッセージなのかはすぐに分かったから。

慎也は片手でスマホを操作しながら、もう片方の手でそれらを受け取ると、彼女に視線を向けることなく離婚協議書と一緒に離婚届にもサインしてしまったのだった。

そしてサインをし終えると、澪は彼の力強い筆跡を見つめ、静かに口を開いた。

「離婚の手続きは成立したら、九条家を出ていくね」

でも慎也の意識は、完全に美羽とのラインのやり取りに集中していて、澪の言葉に返事をしなかった。

しばらくして、彼はやっとスマホをしまうと、いつもの冷たい表情に戻った。

「これから欲しいものがあるなら、秘書の内田に言えばいい。わざわざ記念日まで待つことはない」

そう言い、澪は一瞬きょとんとして、思わず尋ねた。

「ねえ、さっきの話、聞いてた?」

だが、慎也は面倒くさそうにネクタイを緩め、ソファに体を預けた。

「記念日の贈り物に、物件を購入したいから契約書にサインさせたんだろう?他に何か用か?」

それを聞いて澪の胸に、切ない痛みが広がった。

この人は家に帰ってきても、心は美羽のところに残ったまま。妻である自分のことなど、少しも気にかけていないのだ。

でも、そんな虚しい毎日も、もうすぐ終わる。

そう思うと彼女は首を振って、離婚の書類をしまった。

すると慎也は立ち上がって2階へ向かった。ダイニングを通り過ぎる時、とっくに冷めきった料理を一瞥して、彼は珍しく約束の言葉を口にした。

「来年の記念日は、一緒に過ごそう」

だが、澪は彼の後ろ姿を見ながら、自嘲気味に口元を歪めた。

来年?

慎也、「来年」はもう記念日なんてないのよ。

翌朝、澪はもうわざわざ早起きをして、慎也のために胃に優しい食事を用意することはなかった。

前日の夜に、作り方を使用人の谷口恵(たにぐち めぐみ)に伝えておいたのだ。

だから、澪が階下へ降りると、テーブルにはすでに朝食が並べられていた。

すると、恵は、不思議そうな顔で尋ねてきた。

「奥様、旦那様のお食事はご自分が用意してあげたいと仰っていたのに、どうして昨夜、私に作り方を……奥様がもうお作りにならないのですか?」

しかし、澪は、まだ湯気の立つ食事を見つめ、「ええ」とだけ答えた。

慎也は大学時代から会社の仕事を手伝うようになり、すっかり仕事人間になってしまった。学校と会社を行き来する生活で、食事も不規則だったから、彼の胃腸はいつも弱かった。

慎也が胃の痛みを薬で抑えているのを、澪は何度も見てきた。

そのたびに彼女は慎也の体を心配して、仕事より体が大事よ、と説得した。

けれど慎也は、ただ黙って痛み止めを飲むだけだった。

「一日も早く、会社を掌握しないといけないんだ」

当時彼がそういう理由は分からなかったが、それ以来、澪はいつも彼の体を労わって、毎日いろいろと工夫をしながら手料理を用意してきたのだ。

結婚してからも、その習慣はずっと続いていた。

澪のそんな気遣いのおかげで、慎也が胃の痛みを訴えることはほとんどなくなった。

でも今になって思えば、彼があれほど急いで会社を掌握し、九条家での主導権を握りたがったのは、美羽と結婚するためだったのだろう。

それから、テーブルにつくと、慎也はいつものように朝食に手をつけた。

しかし、味噌汁を飲んだ途端、彼は眉をひそめて澪を見た。

「なんだ、いつもと味が違うな」

「今日は谷口さんが作ったのよ」

慎也は思わず言った。「いつもお前が作っていただろう?なぜだ?」

澪は静かな口調で答えた。

「疲れたの」

どれだけ尽くしても、慎也に振り向いてもらうことはない。

そんな生活には、もう疲れ果ててしまった。
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