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南の島の歌姫

Author: 吟色
last update Huling Na-update: 2025-09-12 04:13:45

北の大陸での任務を終えて二週間が過ぎた。

海竜アクアは温暖な南方の海上を快適に飛んでいる。

暖かい潮風に包まれ、七人は次の目的地へ向かっていた。

「次は『ラグーナ諸島』ね」

セリアが地図を広げて確認する。

「ここは昔から多様な海語族が住んでいたけど、最近は『標準海語』の普及政策で問題が起きてるって」

「標準海語?」

ユウリが首を傾げる。

「統一された海語のことよ」

マリナが複雑な表情で説明する。

「海語族にはたくさんの方言があるの。でも最近、『効率的な海運業』のために、一つの標準語に統一しようって動きがあるの」

『それも、また言語統制ですね』

ティオの心の声が憂いている。

「北の大陸とは違う形だけど、根本は同じ問題か」

カイが考え込む。

遠くに美しい島々が見えてきた。

エメラルドグリーンの海に浮かぶ珊瑚礁の島々。

しかし、近づくにつれて異変が見えてきた。

「あの島、なんか黒いものが立ってる」

トアが指差す。

確かに、メイン島の中央に巨大な黒い塔のようなものが建っている。

それは明らかに自然の景観を破壊する、機械的で冷たい建造物だった。

「あれは『海語統制センター』ね」

エスティアが咎読で看板を読む。

「『標準海語普及本部』って書いてある」

アクアが島の港に着水する。

港には多くの船が停泊しているが、漁師たちの表情は暗い。

七人が港に降り立つと、島の人々の様子が明らかに変だった。

みんな、口を動かさずに手話のようなジェスチャーで会話している。

「おかしいわね」

セリアが小声で言う。

「海語族は歌うように話すのが特徴なのに」

その時、港の向こうから美しい歌声が聞こえてきた。

それは確かに海語の歌だったが、どこか人工的で感情がない。

♪「標準海語は美しい、みんなで歌おう統一の歌」♪

スピーカーから流れる機械的な音楽に、人々はうんざりした表情を見せている。

「あの歌……」

マリナが眉をひそめる。

「海語なのに、心がない」

年老いた漁師が七人に気づき、恐る恐る近づいてくる。

彼は標準海語で話しかけた。

「旅の方ですか?この島では、標準海語以外の言語は禁止されています」

声は機械的で、まるで暗記した文章を読み上げているよう。

「私たちは言語大使です」

ユウリが身分証を見せる。

「言語多様性の調査に来ました」

漁師の目に、一瞬希望の光が宿る。

しかし、すぐに周囲を警戒するように
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