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07

Author: 槇瀬陽翔
last update Last Updated: 2025-08-07 17:49:42

学園を出てバスに乗り込み、いつものバス停で降りて足早に家へと向かう。

少しだけ焦る気持ちを抑えながら鍵を開けて中に入るけど母の靴は見当たらない。

「まだ来てねぇのか…」

俺の方が早く着いたらしい。

しんとする家の中。相変わらず誰もいねぇ。

俺は靴を脱ぎ捨てて2階へと上がり自分の部屋に入る。クローゼットを開けて制服から普段着に着替えて1階へと戻りリビングに入る。

リビングの壁に掛けてある時計を見れば13時45分。

「相変わらずだな。いつもの時間とかいいつつ遅いし」

いつもの時間と言いつつ来るのはいつも遅い。

俺はソファに横になり雑誌を取り読み始めた。もう読み終わった雑誌だからつまらないけど…。

半分ぐらい読み終えた頃

ガチャン

玄関が開いた音がする。帰ってきたのか。俺はどうこうするわけでもなく、そのままの体勢で雑誌を読んでいた。

「あら…いたの…」

俺の存在がリビングにあるのに気が付いて驚く。

「ん」

俺は短く返事をした。

わかってる、俺を見てるわけじゃない。ただ、存在を確認しただけ。そこにいると…。

足音がリビングから離れていく。

「お金いつものように振り込んでおいたから」

いつもと同じで声だけが飛んでくる。いつもそうだ、決して俺を見て話しはしない。

「ん、ありがとう。そうだ、ビールがなくなりそうなんだけどさ」

俺もあえて声だけで返事をする。母親の存在を確認するつもりはない。相手だってそれを望んでるわけじゃないから。

「いつもの場所に置いてあるわ。安かったから多めに買ってあるし、他のお酒も安売りしてたから買っておいたわ。後、タバコもいつもの場所よ」

あぁ、やっぱり言葉だけが飛んでくる。俺自身を一度も見ようとはしない。

俺は立ち上がり確認しに行く。テレビの横にある棚の引き出しにタバコが3カートン。キッチンの棚の中にビールが3ケース。ウイスキーとかワインとか入ってる。

ホント、普通じゃねぇよこんなの。未成年にこんなの買って与える親ってどうなんだ。ホント普通じゃねぇ。

まぁ、当たり前か今の状況が普通じゃねぇんだから…。

俺の家庭はとうに崩壊してるんだから…。壊したのは両親。壊れたのは俺自身。

「他に何かいるものあった?」

ほんと言葉だけが飛んでくる。

「今はいい」

だから俺も言葉だけで返事をする。

俺の存在って何?

俺ってあんたたちの何?

俺ってあんたたちの子供じゃない
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