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第七十七話

Autor: 久遠遼
last update Data de publicação: 2026-10-12 09:49:55

墓地からの帰り道。

玲司が運転する車の窓から見える景色は、すっかり夜の闇に包まれていた。

街灯の明かりが流れるように過ぎ去っていく。

私は助手席に身を預けたまま、窓ガラスにうっすらと映る玲司の横顔を盗み見た。

墓地をあとにしてから、玲司はほとんど口を開いていない。

その表情からも、何を考えているのかはまるで読み取れなかった。

紗良さんが私に臓器を提供したこと。

その事実を告げたときの玲司の反応は、私が想像していたものとはあまりにも違っていた。

もっと激しく怒ると思っていた。

私を責め立てるか、あるいは、母への憎しみを募らせるのではないかと。

けれど、玲司は驚くほど冷静だった。

もしかすると、あの報告書を見た時点で、すでに何かを察していたのかもしれない。

臓器提供の事実が記された報告書。

その中にあった、不自然に黒く塗り潰された部分。

あれを見た瞬間、玲司は私が気づかなかった何かに気づいていたのだろうか。

だとしても、あまりにも静かすぎる。

仮に事前に予想していたとしても、紗良さん自身に臓器提供の意思があったとしても、そ
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    「……ええ」 「どうして?」 自然と声が強くなった。 「玲司にとって、紗良さんは妹だったんでしょう?」 「わかっているわ」 「だったら、一言くらい……!」 玲司は紗良さんを殺されたと思い込み。 母を憎みそして私まで憎んだ。 その原因が今、目の前にある。 「玲司君には、手続き上の決定権がなかったの」 佐伯さんが静かに口を開いた。 「決定権?」 「その頃には玲司君はすでに星見の丘を出て、久我家の人間になっていた」 「……うん」 「玲司君と紗良ちゃんは、本当の兄妹でもなければ、戸籍上の家族でもない」 私は唇を噛む。 わかっている。 でも、それと気持ちは別だった。 「当時、紗良ちゃんの立場について責任を負っていたのは星見の丘だった」 そこで私は手元の資料へ視線を落とす。 「……榊原慧一郎」 「ええ」 佐伯さんが頷いた。 「当時の施設長よ」 臓器提供の承諾書。 そこに記されていた名前。 「だから、榊原さんが承諾した……」 「そういうことよ」 少なくとも。 そこまでは理解できた。 私は深く息を吐く。 「わかった」 二人を見る。 「玲司に法的な決定権がなかったことも。榊原さんが関わっていたことも」 でも。 「それなら余計にわからない」 母の顔が強張る。 「玲司が調べたんだけど」 私は資料を手に取った。 「当時の手術記録、おかしいところがあるんでしょう?」 「…………」 佐伯さんの表情も変わった。 「記録された時間が合わない。関わった医師の名前にも不自然なところがある。それに……あとから手を加えたような箇所もあるって」 「千影……」 「どうして?」 母の言葉を遮る。 「紗良さんは自分からドナーになるって言ってた」 「…………」 「榊原さんもそれを知っていた」 「…………」 「私は実際に移植を受けて助かった」 資料を強く握る。 「だったら、どうして記録を改竄する必要があったの?」 返事はない。 「ねえ」 胸の奥に嫌なものが広がっていく。 「移植の時、本当は何があったの?」 「…………」 「紗良さんに、何があったの?」 佐伯さんは目を伏せた。 母も唇を固く結んでいる。 「お母さん」 「…………」 「教えて」

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  • 虚飾の檻 ~余命僅かな私は、私を憎む夫が隠した真実を追う~   第三話

    聞き間違えるはずがない、香澄の声だ。 頭が真っ白になりかけながらも、必死に言葉を絞り出した。「お願い……少しだけでも来て……!」『千景』 低く、面倒くさそうな声だった。『自分の母親のことだろ? それぐらい自分で対応しろ』「……え?」『病院なら医者がいる。俺が行ったところで何ができる』「でも……」『明日の朝には家に帰る。その時なら話を聞いてやる』 プツッ、と一方的に通話が切れた。 耳元で鳴り続ける無機質な電子音だけが聞こえるスマホを握ったまま動けなかった。 微かに感じた希望は、そもそも私の気のせいだった。 窓の外では、イルミネーションが流れていく。今日はクリスマス

  • 虚飾の檻 ~余命僅かな私は、私を憎む夫が隠した真実を追う~   第二話

    息ができない。 視界が滲む。 潰れた車体と瓦礫の隙間から、かろうじて外の光だけが見えていた。 遠くで、誰かの声がする。「香澄! 大丈夫か!?」 切迫した玲司の声で、意識が引き戻された。 私は必死に顔を上げる。 けれど、玲司が真っ先に駆け寄ったのは、私ではなかった。 助手席側にいた香澄だった。「やだ……っ、痛い……!」「大丈夫だ。今助けるからな!」 香澄は泣いていた。 腕から血を流していたけれど、意識ははっきりしている。身体も動いている。 それなのに玲司は、瓦礫に押し潰された私ではなく、真っ先に彼女の方へ駆け寄った。 私は……? 声を出そうとしても、喉が震える

  • 虚飾の檻 ~余命僅かな私は、私を憎む夫が隠した真実を追う~   第一話

    「申し上げにくいのですが……久我さんに残された時間は、このままだともうあまり多くありません」 「え……?」 真っ白な診察室で、私は医師の言葉を聞き返すことしかできなかった。 久我千景(くが ちかげ)。 それが、私の名前だ。 数年前の事故で負った怪我の経過を見るため、いつものように病院へ来ただけだった。 今日も、形式ばかりの説明を受けて終わる。 そう思っていた。 けれど、医師の口から告げられたのは、あまりにも予想外の言葉だった。 「先日の血液検査と追加検査の結果、久我さんは血液を作る骨髄そのものが壊れていく病気だと分かりました」 「血液を作る骨髄が壊れる病気…

  • 虚飾の檻 ~余命僅かな私は、私を憎む夫が隠した真実を追う~   第四話

    面会を終えてICUの外へ出ると、今度は事務員が私を待っていた。「久我様、入院手続きと費用についてご説明があります」「……費用?」「集中治療室での管理になりますので、通常の入院より費用が高額になる可能性があります。また、今後の治療内容によっては、保険適用外の費用や差額室料、保証金なども発生いたします」 事務員はそう言って、差し出してき書類を受けとる。 私はそこに記載された金額を見て、息が止まった。「……こんなに?」 私の貯金をすべて使っても、到底足りない額だ。「まずは入院保証金として、こちらの金額をお願いしております」「今日中に、ですか?」「原則としては二十四時間以内です

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