Masuk「千尋っ……、せめて、風呂から出るまで我慢しろ」
「嫌。せっかく先生とこうしてるのに、我慢したくない」 言葉とともに指が付け根まで、内奥に埋め込まれた。和彦は、前に逃れようと伸ばした手で湯を叩き、また水音を立てる。「うっ、あっ、あぁっ」 指が内奥で蠢き、そのたびに湯が入り込んでくる。絡みついてくる腕の強さから、千尋にやめる気がないのは明らかだ。湯の中で暴れても疲れるだけだと嫌でも悟った和彦は、仕方なく千尋の胸に体を預ける。「……お前、誕生日が終わったら覚えてろよ」「何かお仕置きしてくれるわけ?」 耳元で楽しそうな声で言いながらも、千尋の指は巧みに内奥で動き続ける。「相手をするとお前が喜ぶだけだから、しばらく会わないというのはどうだ?」「そうなったら、この部屋に転がり込んで、住み着く」 千尋のわがままには敵わない。和彦は顔をしかめてから振り返り、千尋と唇を触れ合わせ、そっと噛み付く。千尋の興奮を煽るのは簡単だっ残念だ、という言葉を呑み込んだ和彦は無意識のうちに、千尋の左腕に巻かれた包帯に指先を這わせる。それに気づいた千尋が、笑いながら教えてくれた。「次の治療で、タトゥーの残りの部分全部にレーザー当てるらしいんだ。あとは様子を見て、という感じ。カサブタが剥がれたところから、けっこう消えていってるしさ。傷跡も、思っていたより醜くないし、けっこう順調だよ」「苦労して消して、次は、本格的に刺青を入れるのか……」「そう。時間をかけて、一生ものの本気なのを」「――……こんなにきれいな体と肌をしているのに、な」 千尋の剥き出しの肩を撫で、ぽつりと和彦は洩らす。引き止めたい気持ちがある一方で、千尋の父親である賢吾の、艶かしくて生々しい大蛇の刺青が脳裏に蘇り、胸の奥で妖しい衝動が蠢く。どんな図柄を入れるつもりなのか知らないが、千尋のきれいな体に彫られる刺青は、さぞかし映えるだろうとも思ってしまう。 和彦のわずかな変化を感じ取ったのか、千尋が熱い吐息を洩らして唇を吸ってくる。「考えるだけでゾクゾクする。俺の体に入った刺青を、先生が撫で回してくれるのかと思ったら」 千尋の熱に刺激されたのか、身震いしたくなるような欲情が急速に和彦の中で大きくなる。そんな自分自身に戸惑い、慌てて千尋を押しのけてベッドから出ていた。「先生……?」 イスにかけてあるバスローブを取り上げて、和彦は上擦った声で応じる。「喉が渇いたから、水を飲んでくる。お前にも持ってきてやるから、待っていろ」 バスローブを羽織り、半ば逃げるように寝室を出る。キッチンに入った和彦は、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを二本取り出す。一本を開けて、さっそく口をつける。 喉を通る水の冷たさのおかげで、自分の体がどれほど熱くなっているのか実感できた。ほっと安堵の吐息を洩らしたところで、前触れもなく背後から抱き締められる。驚いて振り返ると、裸の千尋がにんまりと笑いかけてきた。気配も感じさせずに、和彦のあとを追いかけてきたのだ。「……待っていろと言っただろ」
** 汗に濡れた茶色の髪に指を絡めていると、何かを思い出したように千尋が顔を上げる。和彦の腕の付け根辺りに顔を埋めておとなしくしていたため、とっくに眠ったのかと思ったが、こちらを見上げてくる千尋の目は、まだ爛々と輝いている。 行為のあとの気だるさを持て余している和彦とは、大違いだ。 「どうした?」 「今晩、じいちゃんと飲んだときさ――」 この状況での守光の話題に、和彦は微妙な表情となる。いくら千尋に知られたとはいっても、取り澄ました顔ができるほど、図太い神経はしていないのだ。正直、守光との関係に対して、まだ戸惑っている最中だ。 「花見会の話題が出たんだ」 「……先日会長と旅行に行ったとき、少し説明してもらった。警察からは、総会と呼ばれていると……」 「そうだよ。警察にとっては、春の訪れを感じる行事らしいよ。なんといっても、大物ヤクザが勢揃いだから、対応が大変だ」 腕枕をしている和彦の腕が痺れるとでも思ったのか、ごそごそと身じろいだ千尋が頭を上げる。 「新年会は、あくまで身内のための会なんだ。総和会に名を連ねる十一の組の人間しか参加が許されない。だけど花見会は、それ以外の組や団体からも人が集まる。この世界の人間は注目してるんだよ。今年はどこに、総和会会長からの招待状が届くか、って。総和会からの覚えがめでたいと、けっこう美味しい思いはできるし、揉め事にも利用できるから」 「ぼくの理解している花見とは、ずいぶん規模が違いそうだな」 「すごいよー。でかい屋敷を貸し切ってさ。そこの庭で花見するんだけど、右を見ても、左を見てもヤクザばかり。俺は高校生の頃、オヤジに連れられて一度だけ行った。別に楽しくはなかったけど、気前のいいおっさんたちが、やたら小遣いくれるんだ」 「お前は変なところで大物というか、無邪気というか……」 いまさらながら、千尋がどれだけすごい環境で過ごしてきたのか痛感する。何よりすごいのは、そんな環境で揉まれてきながら、千尋が底なしの甘ったれだということだ。 和彦が髪を撫でてやると、千尋は心地よさそうに目を細め、顔を寄せてくる。唇を触れ合わせるだけのキスを繰り返しながら、話を続け
千尋はもう、若い獣らしい、危ういほど傲慢で魅力的な表情を取り戻していた。興奮と欲望で両目は強い輝きを放ち、和彦を威圧してくる。 トレーナーをたくし上げられ、露わになった胸元に千尋が顔を埋めてくる。和彦は、両腕でしっかりと、しなやかで熱い体を抱き締めてやった。 硬く凝った胸の突起に、千尋がしゃぶりつく。強く吸われたかと思うと、舌先で転がされ、歯が立てられる。その間にも、スウェットパンツを下着ごと脱がされ、手荒く欲望を掴まれた。「先生、すぐ入れたい」 切羽詰った声で訴えられ、和彦は片腕で千尋の頭を抱き締めて、もう片方の手を頭上に伸ばす。棚に置いた小物入れの中をまさぐり、潤滑剤のチューブを取り出して千尋に手渡した。 千尋はすぐに潤滑剤を指に取り、性急に内奥に施す。自分でトレーナーを脱ぎ捨てた和彦は、自ら両足を抱えて大きく左右に開く。恥知らずな姿勢を取ることに抵抗はあるが、今はそれ以上に、千尋の望むとおりにしてやりたかった。 千尋がもどかしげに、内奥の入り口に張り詰めた欲望を押し当ててきた。「あっ、ああっ――」 凶暴な熱が容赦なく、狭い場所をこじ開けるようにして侵入してくる。潤滑剤に濡れた襞と粘膜を強く擦り上げられ、痛みを感じる間もない。電流にも似た心地よさが背筋を駆け抜け、和彦はピンと爪先を突っ張らせる。千尋は軽く眉をひそめた。「……先生の中、ギュウッと締まってる。きつくて、俺の食い千切られそう……。でも、いいよ。すげー、気持ちいい」 和彦の両膝を掴み、千尋が腰を突き上げてくる。内奥深くで重々しい衝撃が生まれ、それがじわじわと肉の疼きへと変化していく。和彦は甘い眩暈に襲われながら、緩やかに首を左右に振っていた。「あっ、あっ、ち、ひろっ――。うっ、くぅ……、んうっ」「先生、俺より感じまくってるね」 笑いを含んだ声で言いながら、千尋の指に反り返った欲望を弾かれる。たったそれだけの刺激で、和彦のものは先端から透明なしずくを滴らせた。興奮したのか、内奥で千尋の欲望がドクンと脈打つ。そしてすぐに、大胆に腰を使い始めた。 いつに
「俺としては、そんな先生が、じいちゃんにも気に入られて、認められたらいいなと思ってたんだ。オヤジがそうなったように、じいちゃんが先生に骨抜きになっても、俺は納得はできた。先生を、長嶺の男たちで大事にするんだ。」「……だったらどうして、そんな複雑そうな顔をする」 靴下を脱がせた和彦は、次にスラックスを引き下ろす。「――……先生を取り上げられるかもしれないと思ったんだ。『総和会会長のオンナになった』と、じいちゃんから言われたとき」「だったらお前は、長嶺守光のオンナになったと言われたら、あっさり頷けたのか」「それもどうだろ。納得できるから、先生を独占したいって気持ちがなくなるかというと、それは絶対にないよ」「長嶺の男の理屈は、難しい。……もともとぼくは、人間関係にそう執着するほうじゃなかったし、お前みたいに、肉親を強く信頼することもなかったしな。普通の人間より、気持ちの機微に鈍いだけなのかもしれないが」 そもそも長嶺という存在は、極道の中では異質だ。力がものを言う世界で、何より血を重んじている。その異質さを極端に現しているのが、男である和彦を、〈オンナ〉として三世代で共有しつつある状況だ。 これはもう、理屈を理解できるかという話ではなく、受け入れるか否かが重要なのだろう。 和彦はそんなことを考えながら、今度はワイシャツを脱がせていく。千尋は、年相応の青年らしい顔に深刻な表情を浮かべながら、露骨な問いかけをしてきた。「――先生、この先も、俺のオンナでいてくれる?」「嫌だと言ったら、どうするんだ」「誰にも先生を抱かせない。もちろん、オヤジやじいちゃんにも。先生に最初に目をつけたのは、俺だ。俺のオンナになってくれないなら、誰のオンナにもさせない」 長嶺の男は確かに情が強い。千尋なら、子供のような傍若無人ぶりを発揮して、誰にも和彦に近寄らせないぐらいのことはしそうだ。そうする権利があると、千尋は本気で思っているのだ。「つまり、お前を拒めば、ぼくは誰のオンナにもならずに済むということだな」 あっ、と声を洩らした千尋が
玄関のドアを開けた途端、千尋が抱きついてくる。驚きで目を見開いた和彦は、次の瞬間には思いきり顔をしかめた。「……酒臭い」 傍迷惑なほど人懐こい犬のように、千尋は容赦なく和彦の首にしがみつき、体重をかけてくる。和彦はよろめきながらも千尋の体を支え、玄関の外に立っている男に視線を向ける。千尋の護衛についている組員で、申し訳なさそうに頭を下げた。「先生、すみません。千尋さんがどうしても、こちらに寄りたいとおっしゃるものですから――」 十分ほど前に急に電話がかかってきて、やけに上機嫌な千尋から、今からマンションに行くと言われたのだ。そのためこうして出迎えたのだが、ここまで千尋が酔っ払っているとは思わなかった。「それはかまわないが、こいつがこんなに酔っ払うのも珍しいな」「先代たちとご一緒されていたんです。かなり酒を勧められたようで、店から出てきたときにはこの状態で」「先代って……」「――じいちゃんのこと」 ぼそぼそと千尋が答え、間近から見つめてくる。本能的に感じるものがあった和彦は、表情を押し隠しつつ組員に告げた。「あとはぼくが面倒を見るから、朝、迎えにきてくれ」 千尋を支えながらドアを閉めると、苦労して靴を脱がせ、半ば引きずるようにして寝室に連れて行く。 多少乱暴に千尋の体をベッドに転がし、和彦はその上に遠慮なく馬乗りになる。いまさら、長嶺の男が突然部屋にやってきたところで、和彦は気を悪くしない。千尋の上に馬乗りになったのも、もちろん首を絞めるためなどではなく、身につけているものを脱がせるためだ。 千尋は目を閉じ、されるがままになっている。基本的に甘ったれ気質の男なので、あれこれと世話を焼かれるのが好きなのだ。「千尋、水を持ってこようか?」 なんとかジャケットを脱がせてから問いかけると、千尋が薄く目を開ける。「あとでいい。……先生、全部脱がせて」「甘えるな」 そう応じながらも和彦はネクタイを解き、ワイシャツのボタンも外していく。すると千尋が、酔っているとは思えない明晰な声
「うあっ」 中嶋が喉元を反らし、一方の和彦は、押し寄せてくる快感に身震いして、背を反らす。 頭の片隅で、自分と体を重ねてきた男たちはこんなとき、どんなことをして自分を悦ばせてくれただろうかと考えてはみるのだが、初めて味わう感覚に思考力すら奪われてしまう。 中嶋を犯していながら、まるで自分が犯されているようだ――。 そんなことを思った次の瞬間、和彦は呆気なく絶頂を迎え、低く呻き声を洩らして中嶋の内奥深くに精を放つ。 一気に体の力が抜け、中嶋の胸に倒れ込んでいた。「俺の中は、よかったですか?」 中嶋からの露骨な問いかけに、息を乱しながらも和彦は顔を上げ、苦笑する。「いつも秦にも、そんなふうに聞いているのか?」「あの人が相手だと、俺はこんなふうに口を開く体力は残っていませんよ」「……それは、悪かった。ぼくが相手だと物足りなかっただろ……」「身震いするほど、興奮しました。倒錯した感覚っていうか、先生に抱かれているようで、ずっと抱いているような感じで」 汗で額に張り付いた髪を、中嶋が指先で掬い取ってくれる。なんとなく察するものがあり、和彦は誘われるように中嶋と唇を触れ合わせる。次第に口づけは熱を帯び、いまだ消えることのない互いの欲情を煽る。 汗に濡れた互いの熱い体を擦りつけるように、狂おしく抱き合う。和彦が内奥から欲望を引き抜くと、すかさず体の位置が入れ替わり、中嶋が上となる。「あっ……」 さきほど犯されたばかりの内奥に、熱く硬いものを浅く含まされる。この瞬間、和彦の全身には電流にも似た感覚が駆け抜けた。逞しいもので貫かれたいと、本能的に思ったのだ。和彦にとっては馴染みのある、オンナとしての欲望だ。「――……性質が悪いな、先生は。怖い男たちが骨抜きになるわけだ」 中嶋はどこか楽しげな様子でそう呟くと、やや強引に和彦の体をうつ伏せにする。腰を抱え上げられた拍子に注ぎ込まれていた中嶋の精が溢れ出し、その感触に和彦は動揺する。羞恥のため腰を捩って逃れようとしたが、そ
** 無事に内覧会を終えた安堵感に、和彦はソファに腰掛けたまま、ぐったりとする。ようやく一人となり、緊張は完全に解けてしまった。 最後の招待客を見送ったあと、スタッフたちに手伝ってもらってクリニックを片付け、来客用に用意したテーブルやイスも、業者によって運び出された。 ただ、内覧会のために移動させた家具をまだ元の位置に戻していないので、待合室はどこか雑然としている。 そろそろ帰ろうと思うのだが、疲れきった体はなかなか動かない。 もう少しこうしていようかと思っていたところに、待合室に入ってくる足音がした。顔を上
察するものがあり、和彦は反射的に立ち上がろうとしたが、遅かった。中嶋に腕を掴まれて引っ張られる。「おいっ……」「先生は、俺を慰めるのが得意でしょう」「いつ、そうなった」「先日、先生に慰めてもらったときに」 悪びれた様子もない中嶋を睨みつけた和彦だが、本気で怒るつもりはない。こういう甘さを、中嶋に――ヤクザに見透かされてしまっているのだから、勝ち目があるはずもなかった。 空になったペットボトルを傍らに置くと、待っていたように中嶋に抱き寄せられる。和彦はおとなしく中嶋の両腕の中に閉じ込められ
「先生?」 ふいに唇を離した中嶋に呼ばれた和彦は、自分の中の疼きを自覚して、うろたえる。思わず視線を伏せると、そんな和彦に何かを刺激されたように、中嶋がまた唇を寄せてくる。和彦は顔を背けようとしたが、簡単に唇を塞がれていた。 熱心に唇を吸われているうちに、和彦の脳裏に秦の言葉が蘇る。伏せていた視線を上げると、中嶋と目が合い、そのまま視線が逸らせなくなった。 和彦は、中嶋の首の後ろに手をかけると、秦にされたキスを忠実に再現する。今度は中嶋がうろたえた素振りを見せたが、それも一瞬だ。次の瞬間には、和彦のキスに応え始めていた。「んっ&hellip
肉まんを食べ終え、しっかりとお茶も飲んでから、一呼吸置いて切り出した。「――その後、彼とはどうなんだ」「秦さんですか?」「他にないだろ。君がなかなか本題を切り出さないってことは」「先生はすっかり、俺の恋愛カウンセラーになりましたね」 ピクリと肩を震わせた和彦は、もう一口お茶を飲んでから、しっかりと口を湿らせる。そして、さりげなく指摘した。「恋愛、か」「おっと、口が滑りましたね。言葉のアヤなので、あまり突っ込まないでください」 芝居がかった中嶋の口調すら、なんだか健気に思えてくるから困る。言っ