LOGIN内奥から指が引き抜かれ、恫喝するように鷹津の熱い高ぶりが擦りつけられる。内奥の入り口をわずかに押し開かれたところで、和彦は悔しさを噛み締めながら震える舌を差し出し、鷹津にむしゃぶりつかれた。
痛いほど舌を吸われながら、握り締められたものを手荒く扱かれると、先端から透明なしずくをはしたなく滴らせる。吐き気と、否応なく引き出される快感が、交互に和彦を責め苛んでいた。 そんな和彦が見せる表情と反応に、明らかに鷹津は興奮している。「この状況でも、やっぱり感じるんだな。――淫乱」 獣じみた口づけの合間に下卑た口調で囁かれ、また少し内奥の入り口をこじ開けられそうになる。「嫌、だ……。あんた、なんかに……」「口ではどれだけ嫌がろうが、俺次第だ。今なら、すぐにお前の尻を犯せるぞ」 この瞬間、和彦は鷹津を強く見つめる。自分ではどんな目をしたのか自覚はなかったが、サソリのように嫌な男を刺激したのは確かなようだ。 乱暴に体の向きを変えられてドアに押し「浴衣が擦れても気になるんだ。だから、おとなしく横になっていたというのに、父子揃って――」「海で泳いで日焼けか……。優雅でけっこうなことだ。俺たちはこの暑い中、ダークスーツで汗だくになっていたというのに」 バリトンで紡がれる皮肉は、なかなか痛烈だ。おかげで眠気がいくらかマシになり、しっかりと目を開けることができる。「……そんな皮肉を言われるぐらいなら、ぼくはマンションで一人、のんびりと過ごしたかった。だいたい、誰のせいで、せっかくの連休に振り回されることになったと思うんだ」 賢吾と千尋は、それぞれ互いの名を出した。 和彦は大きく息を吐き出すと、体に回された千尋の腕を押し退け、緩慢な動作で体を起こす。賢吾がすかさず手を差し出してきたが、あえて無視したうえで、たっぷり恨みがこもった視線を向ける。「ぼくだけ別の部屋を取ってくれてもよかったのに。知っているんだからな。あんたの名前で、別の部屋を取っていることを」 賢吾がちらりと苦笑を浮かべる。「何かあったときのためだ。まさか、長嶺組の組長と跡目が同じ部屋にいるなんて、うちの者以外に知られるわけにはいかねーからな」「だったら……、ぼくは今から、その部屋に移動する。ここだと落ち着いて寝られない」「――素直に行かせると思う?」 無邪気な口調で、悪魔のようなことを言ったのは、千尋だ。和彦が露骨に顔をしかめると、賢吾がおかしそうに声を洩らして笑う。叩き起こされて不機嫌な和彦とは対照的に、長嶺父子は機嫌がよさそうだ。 賢吾が寝乱れた髪を掻き上げてきて、千尋は背後から首筋に顔を寄せてくる。大きな獣にじゃれつかれているような気分を味わいながら、和彦は仕方なくこの状況を受け入れる。法要を終え、賢吾も千尋もようやく気を緩められているのだろうと思うと、本気で抵抗するのも気が引けた。「本当に肌が赤くなってるな。痛そうだ」 和彦の腕を取り、賢吾が浴衣の袖を捲り上げる。「痛そう、じゃない。痛いんだ」 てのひらでそっと腕を撫でられて、その手つきの優しさに思わず口元を緩める。つら
そう答えたのは三田村だ。さきほど見せた笑顔はすでになく、和彦を護衛するための緊張感で引き締まっていた。中嶋はどうするのかと、ちらりと視線を向ける。「君は?」「先生の遊び相手を務めたので、今日のところはお役御免ではありますが、長嶺組長にご挨拶をしておきたいので、店までご一緒させてもらいます」 こういうのをアピール上手というのだなと、和彦は素直に感心した。 店まで近いということなので、歩いて行くことにする。暑いうえに疲れているのだから車で、と三田村には言われたが、初めて訪れた場所を、少しでもいいから自分の足で歩いてみたいという好奇心には勝てない。「まあ、疲れついでだ」 話がまとまり、さっそく三人で宿を出る。このとき三田村は鋭い視線を周囲に向け、中嶋ですら同じ行動を取る。 自分のわがままのせいで申し訳ないなと思っていると、三田村と目が合う。次の瞬間、ふっと眼差しが和らいだ。三田村の言いたいことは、それだけで伝わってきた。 土産物屋が並ぶ短い通りを抜け、道路沿いに十分ほど歩いたところで、三田村が前方を指さす。ハンカチで額の汗を拭いながら和彦が見たのは、店らしき建物と、見覚えのあるいかつい車の一団が駐車場に停まっている光景だった。 店の前には組員が立っており、和彦たちに気づいて一礼する。三田村が声をかけ、少し前に賢吾たちが到着したということなので、時間としてはちょうどよかったようだ。 貸切となっている店の奥の座敷へと通されると、上座についた賢吾が唇だけの薄い笑みを向けてきた。さすがに寛いだ様子でジャケットを脱いでおり、ネクタイも緩めている。どうやら法要は問題なく終了したようだ。「さあ先生、どうぞ」 そう言って組員に、上座に近い席を案内されそうになる。 正直和彦は、席次がはっきりわかる場は苦手だ。よほど形式張った行事であれば指示に従うところだが、身内だけの食事会であれば多少の意見を通せる。賢吾や千尋の側に座るのは遠慮して、一番下座についた。 中嶋はさっそく賢吾の側に行き、何事か言って頭を下げている。堂に入った所作は、いかにも外見は普通の青年のように見えても、筋者のそれだ。賢吾は鷹揚な態度で応じ、二言、三言
同じように、鷹津にも要求するのだろうかと想像しかけたが、エレベーターの扉が開いたのをきっかけに、半ば強引に頭を切り替える。 三田村が傍らにいて、中嶋が待っていて、海がすぐ近くにあり、とりあえず今のこの時間を楽しもうと思った。和彦がそうすることを、男たちは望んでいるのだから。 中嶋と合流して、さっそく海に繰り出す。 長嶺の男たちが法要に出席している中、のんびりと自分だけ楽しんでいいのだろうかと、ささやかな罪悪感の疼きに苛まれていたのは、海に浸かってわずかな間だった。 ごくごく普通の家族やカップル、学生らしいグループたちと同じように泳ぎ、ときにはただ波に身を任せて浮かんでいると、頭の中は空っぽになる。水の心地いい冷たさと、頭上に降り注ぐ強い陽射しに、夏の一時を楽しめと諭されているようだ。 ただ、こんなに気楽なのは和彦だけのようで、砂浜で交替で荷物の番をしている中嶋は、海に入っている和彦を目で追いつつ、携帯電話で誰かとたびたび連絡を取っていた。三田村も、涼しい店に入るどころか、目立たないよう身を潜め、こちらの様子をうかがっているだろう。そういう男なのだ。「――秦さんに羨ましがられましたよ」 休憩のためレジャーシートに座ってお茶を飲んでいると、前触れもなく中嶋が切り出す。「羨ましがられるって……、何を?」「今、先生と海にいて、泳いでいると言ったんです。あの人、ここのところ休み返上で仕事をしているんで、海の画像でも送りつけようかと思って」 さきほどまじめな顔で、そんなことを秦と話していたのかと、和彦は微苦笑を洩らす。「あの男の場合、なんの仕事で忙しいのか、さっぱり見当がつかない」「相変わらずいろいろやっているみたいですね。――長嶺組と組んで」「気にはなるが、知りたいとは思わない。せいぜい、雑貨屋の経営が順調なのかどうかぐらいか、聞けるのは」 軽く頭を振ると、髪の先からしずくが落ちる。すかさず中嶋がタオルで拭いてくれた。「あっ、そうだ。先生の水着姿を撮って送ろうかな」「……男の水着姿なんて見ても、誰もおもしろくないだろう」
賢吾の態度といい、一体なんなのかと、和彦が口を開きかけたそのとき、襖が開く。現れた人物を見て、和彦は驚きの声を上げた。「三田村っ」「――すみません。俺もいます」 三田村の後ろから、中嶋がひょっこりと顔を出す。もう一度驚いた和彦だが、同時に、この感覚には覚えがあった。何かと思えば、五月の連休中の出来事だ。あのときは、総和会が管理する別荘に連れて行かれ、そこに三田村がいて、あとから中嶋も登場したのだ。 用意周到だとか、最初から教えてくれればいいのにだとか、賢吾に対して言いたいことはあったが、とりあえず和彦は、機嫌は直ったとアピールするため、笑みをこぼした。** 長嶺組の男たちが出かけるのを、物陰からこっそりと見送って、和彦はやっと肩から力を抜く。そして改めて、自分の傍らに立つ二人を見遣った。「この三人で顔を合わせるのは、五月の連休以来だな」 和彦の言葉に、中嶋がにこやかな表情で頷く。「先生の遊び相手といったら俺、とすっかり認知されたようで、嬉しいですよ」「総和会で上を目指す君には、さほど名誉じゃないだろう」「いえいえ。むしろ羨ましがられるぐらいで」 本気で言っているのだろうかと疑いかけた和彦だが、自分に注がれる優しい眼差しに気づき、照れ隠しもあり、こんなことを言っていた。「大変だな、あんたも。ぼくに何かあるたびに、引っ張り出されて」「組長のお心遣いだ。理由があったほうが、堂々と先生に会えるだろうと」 三田村が、賢吾たちが乗った車が走り去ったほうに視線を向けたので、つられて和彦も同じ方角を見る。 賢吾なら言いそうなことだと思いはしたが、だからといってあの男が優しいかというと、そうではない。傲慢なほどの余裕の上に成り立つ配慮は、優しさとは別物なのだ。「――それでは先生、時間も惜しいですから、泳ぎに行きますか」 中嶋の提案に、和彦は目を丸くする。「えっ」「あれっ、泳ぐんじゃないんですか? せっかく海に来たのに。俺なんて、張り切ってあれこれ準備してきましたよ。水着の予備もあるので、安心してください」
いつものように距離を縮めてくる千尋をさりげなく牽制しながら、建物に入る。目立つ千尋の隣にいて、さらに目立つマネはしたくない。千尋は不満げに眉をひそめはしたが、さすがに大声で抗議するようなことはしなかった。 にぎわうロビーを横目にチェックインを済ませ、千尋と並んで歩きながら和彦は、こっそりと洩らす。「お前たちと泊まりで出かけると、犯さなくていい犯罪を犯すことになって、複雑な気分になる」 フロントで宿泊者カードを記入するとき、千尋は平然と本名を書くのだが、和彦だけは偽名を使い、住所も、住んだこともない地名を書いている。 千尋は肩を竦めて笑った。「ごめんね。俺たちの場合、どんなことで警察に引っ張られるかわからないから。だけど先生の場合、素性を知られることのほうが怖い。ヤクザじゃないんだから」「……わかってる。言ってみただけだ」 今夜宿泊する部屋は、いかに護衛しやすく、何かあったときに避難しやすいかに重きが置かれたらしく、非常階段の近くだった。部屋自体は広くて手入れの行き届いた和室だが、和彦が少しがっかりしたのは、海がまったく見えないことだった。 窓を開け、車が出入りしている駐車場を見下ろし、軽くため息をつく。「――見えないけど、海はすぐそこだよ」 笑いを含んだ声で千尋に言われ、和彦は慌てて窓を閉める。一拍置いてから、澄まし顔を取り繕って振り返った。「知ってる」「今日はこの部屋で我慢してよ。うちの組だけじゃなく、他の組や、総和会の人間たちもけっこう泊まっているから、とにかく安全第一で部屋を取ったから」 千尋の口ぶりはまるで、子供の機嫌をうかがっている大人のようだった。普段、千尋を諭すような物言いになってしまう和彦としては、妙な気持ちだ。さまざまな人間に囲まれ、経験を積んでいくうちに、必然的に千尋も成長していくのだと、当たり前のことを思い知らされる。「別に不満なわけじゃない。海が見えるものだと、ぼくが勝手に思い込んでいただけだから」 もごもごと和彦が応じていると、荷物を運び込んだ組員たちと入れ違うように、賢吾が部屋にやってくる。和彦たちよりどれほど先に到着していた
**** 海だ、と和彦は心の中で呟く。 ウィンドーに顔を寄せ、ようやく視界に現れた景色にじっと見入る。スモークが貼られているため、くっきりと色彩鮮やかというわけにもいかず、それを不満に感じた和彦は誰にともなく問いかけた。「……窓、開けていいか?」 数秒の沈黙のあと、助手席に座る組員が答えた。「少しだけでしたら」 いかつい車が連なって走行しているのに、物騒なことを考える人間はそうそういないだろうと思いながら、和彦はありがたくウィンドーを少しだけ開ける。 冷房がよく効いた車内に、ムッとするような熱気が吹き込んでくるが、それでも和彦にとっては心地いい。「潮の匂いだ……」 そう呟いたのは、和彦の隣に座っている千尋だ。車での長時間の移動は、気心が知れた相手と同乗したいという密かな和彦の希望は、和彦と同乗したいという千尋のわがままによって叶えられた。前列に座るのは長嶺組の組員だ。「海に来たって感じだよなー。あー、みんな楽しそう」 砂浜には海水浴を楽しむ人たちの姿があり、千尋の言葉通り、確かに楽しそうだ。「先生、ジムのプールではよく泳いでいたみたいだけど、海に泳ぎに行ったりしなかったの?」「海ではあまり泳いだことがないな。医者になってからやっと、海外に遊びに行ったときに――」 無防備に思い出話をしようとした和彦だが、ここでハッとする。これは千尋にしてはいけない類の話だと気づいたからだ。 和彦は一時期、外傷外科医として救命救急の現場にいたことがある。和彦が一番、肉体的にも精神的にも疲れ果てていた時期でもあり、この仕事に向いていないと、嫌というほど痛感もしていた。 そのため転科を考え始めた頃、ある男とつき合っていたのだ。同年齢ではあったが、仕事で苦悩し、忙殺されかかっていた和彦とは違い、親の残した資産で優雅に遊び暮らしている男だった。 生まれ育ちがいいという点では、和彦と共通したものを持っていたが、話を聞く限り、家庭環境は雲泥の差があった。それでも不思議と気は合い、遊び相
「……いい加減、この世界で自分の足場を作らないといけないと思ったんだ。ヤクザなんかに、医者の腕より、男を咥え込むほうが上手いなんて言われたら、やっぱり悔しい。それを、長嶺組の組長に正直に話す自分の弱さも」 「立場は違うけど、俺も似たようなもんですよ。総和会では、俺はまだまだ、使い捨てにされる程度の存在だ。だからこそ、あの中でのし上がる手段を探さないといけない。いつか、自分がいた組に戻るかもしれないけど、そのときのためにも箔ってやつは大事なんですよ」 ヤクザの言葉は疑って聞くようにしている和彦は、中嶋の言うことすべてが真実だとは思っていない。ただ、一杯飲む相手としては
和彦は最初、性質の悪い男なりの笑えない冗談かと思ったが、そうではないようだ。 指先に唇を割り開かれ、押し込まれる。舌を刺激され、口腔から出し入れされるようになると、和彦も言われたわけではないが賢吾の指を吸い、舌を絡める。賢吾のものをそうして愛撫したように。賢吾の腰の動きが次第に同調し、内奥から逞しいものを出し入れされる。 指ではなく、口づけが欲しいと率直に思った。和彦がおずおずと片手を伸ばすと、口腔から指が引き抜かれ、甘く残酷に囁かれる。 「さあ、どうするんだ? 俺は名前を呼ばれないと、お前の欲しいものはやらないぞ。もうこっちには、お前の欲しいも
「……長嶺組との関わりですら荷が重いのに、この間、総和会の仕事をさせられたぞ。お前の部屋にいたところを、お前の父親に踏み込まれたときのことだ。覚えているだろ?」 「うん。――先生、あまり総和会に気に入られないようにしてよ」 「どういう意味だ」 「長嶺組から総和会に、先生が召し上げられる可能性があるってこと」 召し上げられるという表現が気に食わないが、今は置いておく。最近の和彦は、組関係で気になることがあれば、詳しく説明を聞く方針にしたのだ。 「今の先生の存在は、言葉は悪いけど、所有権は長嶺組にあるんだ。だから先生を自由に使える」
もう一度賢吾に唇を吸われてから、伴われて寝室へと向かう。この部屋だけは殺風景さとは無縁で、過不足なく家具が調えられ、小物に至るまですべて賢吾の好みで統一されている。深みのある赤を基調とした空間は和彦には渋すぎるように感じられるが、賢吾のほうは非常に満足そうだ。 ドアを開けたままなのを気にしながらも、ベッドに腰掛けた賢吾が両足を開いて鷹揚に構えたのを見て、和彦はため息をついて、これからの時間に集中することにする。 賢吾の両足の間に身を屈め、カーペットに両膝をつくと、スラックスのベルトを緩めて前を寛げる。何も言わず、引き出した賢吾のものに舌を這わせた。