LOGINすっかり色づいた胸の突起を指の腹で擦り上げながら、鷹津はもう片方の手で頬に触れてくる。指で唇を割り開かれたので、和彦はその指に噛み付いてやった。
「ぼくは、あんたのものじゃない。あんたが、ぼくの番犬になったんだ」 「ああ、そうだったな……」 鷹津の肩を押し上げると、あっさりと体の上から退く。手を掴んで引っ張り起こしてもらった和彦は、格好を整えた。そんな和彦を眺めながら鷹津は、今日は不精ひげを剃っているあごを撫でる。 「佐伯、一つ忘れるなよ」 「……なんだ」 乱れた髪を手櫛で適当に整えながら、和彦はさりげなく立ち上がる。こんな男の隣にいると、いつまた押し倒されるか気が気でない。 「俺は、損得だけでお前の番犬になったわけじゃない。お前を口説くために都合がいいから、この役目を引き受ける気になったんだ」 この男は突然何を言い出すのかと、和彦は露骨に警戒しながら鷹津を見つめる。サソリの毒のように、物騒な性質を持つ男の言葉だ。何が潜んでいるか、わかったものではない。 和彦の反応に、煙草を取り出衝撃の波が去り、和彦はぎこちなく息を吐き出す。「こういうとき……、父がかつてお世話になりました、と言えばいいんでしょうか」 冗談ではなく、本気で言った言葉だが、守光は低く笑い声を洩らした。「人の縁は不思議だ。こうして、あのときの青年の息子と、枕を並べて同じ部屋で寝ているんだ」 俊哉に関する秘密を抱えて、その息子である和彦を巡る関係を観察していたのだろうかと思うと、ヒヤリとする感覚が背筋を駆け抜ける。守光が怖いというより、不気味だった。「――あんたは、父親とよく似ている」 守光の言葉に、和彦はちらりと苦笑を浮かべる。「初めて言われました。ぼくも兄も、顔立ちは母方の血が濃く出ていると言われ続けてきたので」「顔立ちのことを言っているんじゃない。あんたも、自覚はあるんじゃないか。自分のどの部分が、父親とそっくりなのか。……佐伯俊哉という人間に会ったのは数回だが、人となりを調べることは可能だ。間違いなく、あんたは父親の〈性質〉を受け継いでいる」 守光の言う通り、自覚はあった。だがそれは、心を抉られるような痛みを和彦に与えてくる。認めたくはないのに、認めざるをえないほど、和彦と父親はある性質がよく似ている。 和彦は返事をすることなく再び寝返りを打ち、今度は守光に背を向ける。そんな和彦を気遣うように、守光が優しい声で言った。「おやすみ、先生」 おやすみなさいと、和彦は小さな声で応じた。**** 久しぶりに父親の夢を見た。 幼いときの和彦にとって俊哉は、ただ畏怖の存在だった。抱き上げてくれることも、手を繋いでくれることもなく、どこかに遊びに連れて行ってもらった思い出もない。だが、成長していくに従い、それすら恵まれていたことなのだと思うようになった。 俊哉は、和彦に一切の関心を示さなくなったのだ。まだ、厳しく躾けられていたほうが遥かにまともな状態だった。少なくとも、父親として接してくれていたからだ。 中学生の頃には和彦は、佐伯家での自分の立場を理解していた気がする。
** 守光と向き合ってお茶を飲むのは、ひどく落ち着かない気分だった。居たたまれない、といってもいいかもしれない。 静かな表情でお茶を味わっている守光をまともに見ることができず、つい隣の部屋へと視線を向ける。すでに二組の布団がきちんと敷いてあった。その様子を見て、つい数十分ほど前までの自分の痴態が蘇る。 一人で動揺する和彦とは対照的に、守光はあくまで何事もなかったように泰然としている。 守光はさきほどの淫らな行為で、相手が自分であると隠そうとはしていなかった。和彦は確かに目隠しをして、何も見られない状態ではあったが、ほとんど意味をなさないものになっていた。守光なりの、もう目隠しを取ってもいいというサインだったのかもしれない。 必要なのは、和彦の覚悟次第ということか。「――今日は疲れただろう」 守光の言葉に、和彦はピクリと肩を揺らす。『おもしろい話』をいつ切り出されるかと、身構えてしまうのだ。「少し……。遠出は久しぶりなので」「まあ、あんたの場合、気疲れといったところだな。わしと一緒にいることに、多少は慣れてきているようだが、それでもまだ肩に力が入っている」「……すみません」「謝るようなことじゃない。――そのうち、嫌でも慣れる。わしとこうして茶を飲むことも、総和会の人間に囲まれていることにも」 どういう意味かと尋ねようとしたが、そのときには守光は立ち上がっていた。「そろそろ布団に入ろう。横になっても話はできる」 和彦は頷き、部屋の電気を消してから守光の隣の布団に入る。 変な感じだった。布団の中で身を硬くしながら、隣にいるのは一体誰なのだろうかと考えてしまう。もちろん、長嶺守光という名で、総和会会長という肩書きを持つ人間だということは知っている。しかし、こうして隣り合って寝ている自分との関係は、よくわからない。 いや、あえて曖昧にしているのだ。だから目隠しという、布一枚分の理屈を必要としていた。 和彦はそっと寝返りを打ち、守光のほうを向く。枕元のライトをつけるまで
「――……どうして、ここに?」 和彦の目の前までやってきたかと思うと、開口一番にこう問われた。無視するわけにもいかず、露天風呂がある方向を指さす。「露天風呂に入っていました」「もう上がったのか」 変なことを言うのだなと、眉をひそめながら和彦も問いかけた。「それで、あなたはどこに?」「露天風呂に行こうとしていた。本当は、風呂であんたを捕まえるつもりだったんだ。まさか、こんなに早く上がるとは思っていなかった」 悪びれた様子もなく南郷が言い放ち、和彦は唖然とする。貸し切りで和彦一人が入っていた露天風呂に、南郷は押しかけるつもりだったのだ。 もし、露天風呂で出会っていたらどうなっていたか――。 和彦は南郷を睨みつけると、足早に庭の小道を歩く。部屋に戻ろうとしたのだが、当然のように南郷があとをついてくる。「……ついてこないでください」「部屋まで送る。――物騒だからな」 階段を上っていた和彦は、振り返ってもう一度南郷を睨みつける。嫌な笑みを浮かべた南郷がゆっくりとした動きで片手を伸ばし、和彦の腕を掴んでこようとする。それをあっさりと躱したが、すかさず、今度は素早い動きで南郷が間合いを詰め、和彦の体を手荒に手すりへと押し付けた。「なっ……」「そんなにふらついた足じゃ、階段から転げ落ちるかもしれない。なんなら、抱き上げて連れて行こうか?」 南郷は本気で言っているわけではない。おもしろがるわけでもなく、ただ和彦の神経を逆撫でるようなことを言って、反応を観察してくる。それがわかるからこそ和彦は、南郷が苦手で――不気味だった。 息を詰め、ほとんど虚勢だけで南郷の目を見据える。和彦のそんな眼差しすら、南郷は観察している様子だったが、思いがけない声が二人の間に割って入った。「――南郷」 窘めるように南郷を呼んだのは、さきほど和彦が耳元で聞いた声だ。顔を上げると、渡り廊下に立った守光がこちらを見ていた。「先生に、礼を欠いた態度を取るな。長嶺の家だけじゃなく、総和会にとっても大切な人
和彦が切羽詰った声を上げる頃、ようやく内奥で律動が刻まれる。恥知らずな歓喜の声を立て続けに上げると、まるで褒美のように精を注ぎ込まれた。 必死に頭上の枕を握り締め、快感の奔流に耐える。そうしないと、今度こそ相手にしがみついてしまいそうだったのだ。今度は、和彦の従順さに対する褒美なのか、相手は再び絶頂へと導いてくれた。 二度目の精を迸らせた和彦が脱力するのを待ってから、繋がりは解かれる。だが、これで終わりではなかった。 喘ぐ唇を軽く吸われ、ごく当然のように和彦は舌を差し出し、絡め合う。汗に濡れた体を撫でられ、心地よさに小さく声を洩らしていた。 長い口づけを堪能したあと、唇が耳に押し当てられる。「――一階の露天風呂を貸し切りにしてある。ゆっくり入ってきなさい」 耳に注ぎ込まれたのは、賢吾に似た太く艶のある声だった。目隠しの下で和彦が目を見開いている間に、ベッドが揺れ、相手が下りた気配がする。そのままベッドの上でじっとしていると、数分ほどして、部屋のドアが閉まる音がした。 和彦はおずおずと目隠しを外し、わずかに体を起こす。快感からまだ完全に醒めていないのか、頭がふらついている。それでも、自分が放った精や、鮮やかな愛撫の痕跡が残る体を見て羞恥する程度には、理性は戻っていた。 床に落ちた浴衣を拾い上げた和彦は、とりあえず下肢の汚れを拭うことにする。こんな状態では、とてもではないが部屋を出られなかった。** 一階の露天風呂は、部屋についているものとは違い、さすがに広かった。貸し切りということで、誰かが入ってくる心配もないため、情交の跡が残る体を隠すことなく入浴することができる。 体の汚れを流した和彦は、湯に浸かりはしたものの、風呂から見渡せる景色を堪能することなくすぐに上がる。部屋の風呂にゆっくり浸かったあとに、濃厚な行為に及んだのだ。いまだに体に熱が留まっており、あっという間にのぼせてしまいそうだ。 脱衣所で浴衣と茶羽織を着込むと、洗面台の前に置かれたイスに腰掛け、少しの間ぼうっとしてしまう。体には確かに、嫌というほど覚えのある情交後のけだるさがあるのに、まるで夢を見ていたような感覚に陥るのは、目隠しを
すっかり硬く凝った胸の突起を、いきなりきつく吸い上げられる。そうかと思えば、濡れた舌先にくすぐるように舐められ、転がされ、軽く歯を立てられた。和彦は喉を反らして震える吐息を洩らし、促されるまま両足を開いて、身を起こしかけた欲望を握り締められた。「あっ、あっ」 軽く扱かれて、爪の先で感じやすい先端を弄られる。ビクビクと腰を震わせて和彦が身悶えると、下腹部から胸元にかけてじっくりと舌を這わされる。 これまで以上に和彦が乱れるのが早いと感じたのか、相手もペースを合わせてくる。濡れた指に内奥の入り口をまさぐられた。 今夜は潤滑剤ではなく、唾液を使って濡らしているようだった。少しずつ内奥をこじ開けられながら、指を出し入れされる。和彦は息を喘がせてシーツを握り締める。他の男たちの愛撫にはない慎重さがもどかしく、そう感じる自分の浅ましさが、感度を高めているようだった。 ようやく指がしっかりと内奥に挿入されたとき、意識しないままきつく締め付ける。相手は巧みに指を蠢かす一方で、反り返った和彦のものをもう片方の手で握り、扱く。前後から押し寄せてくる快感に、和彦は甲高い声を上げて腰を浮かせていた。「うあっ、あっ、んんっ――」 再び欲望の先端を爪の先で弄られ、今度は腰が砕けるように力が抜けた。 思わせぶりに内奥から指が引き抜かれ、片足を抱え上げられる。目隠しをされていて見えるはずもないのだが、相手の強い眼差しを感じることはできた。指で綻ばされてひくつく部分を、じっと見つめられているのだ。 本能的な怯えから身を捩ろうとしたが、その行動を封じるように熱く硬いものが内奥の入り口に擦りつけられた。「あっ……」 和彦が声を洩らしたときには、内奥の入り口をこじ開けるようにして欲望が押し入ってくる。咄嗟に頭上の枕を握り締めて、顔も見えない相手と繋がる。「くっ……ぅ、うっ、うっ、ううっ」 たっぷりの唾液をすり込まれた襞と粘膜を強く擦り上げられ、苦痛が一瞬あとにはゾクゾクするような肉の疼きへと変化していく。 ある程度まで欲望が内奥に埋め込まれると、両足を折り曲げるようにして抱えら
あえて、千尋と引き離されたのだろうか――。和彦はふっとそんなことを考えてしまう。『先生?』「あっ……、聞いている」『いい機会だから、じいちゃんにたっぷり甘えて、いろいろ買ってもらうといいよ。なんといっても総和会会長は、太っ腹だから』「……返事がしにくいことを言うな」 守光に代わろうかと聞いてみたが、あっさりと千尋に断られた。 和彦が携帯電話をポケットに仕舞うと、守光が楽しそうに話しかけてきた。「薄情な孫だな。わしの声は聞きたくないと言ったんだろ?」「そこまでは……。お腹が空いているらしくて、これからラーメン屋に行くそうです」「だったら千尋の分まで、しっかり料理を味わっておこう」 守光の言葉に、座椅子に座り直した和彦はぎこちなく微笑んで頷いた。** 夕食後すぐに、部屋の露天風呂にゆっくりと浸かった和彦は、板の間の籐椅子に腰掛けて、体の火照りを鎮めていた。 外はすでに闇に覆われており、窓から見えるのは、微かな月明かりが生み出す木々の影ぐらいだ。街中で生活していると、これほど人工的な明かりのない夜というのも珍しい。 和彦は改めて、ここは旅先なのだと実感していた。総和会の人間と行動をともにしながら、ずっと肩に力が入っていたが、そのおかげというのも変な表現だが、抱えた問題について考える余裕はなかった。 一人になって落ち着いた今になって、里見と英俊が一緒にいた光景が脳裏に蘇る。見かけたときの衝撃は少しずつ薄まりつつあるが、嫉妬してしまったという事実は、胸の奥で重みを増しているようだ。 首筋を伝い落ちる汗をタオルで拭い、ペットボトルの水を飲む。 いくら昼間は春らしい気候だったとはいえ、夜の山間はさすがに少し冷える。湯冷めする前に、ベッドの上に置いた茶羽織を取ってこようと和彦が立ち上がりかけたとき、前触れもなく部屋の電気が消えて暗くなった。「えっ……」 反射的に洋間のほうを振り返った和彦が見たのは、こちらに近づいてく
保管されていた郵便物は、大した量ではなかった。また、重要書類の類も皆無だ。和彦は丁寧に礼を述べて受け取る。 本当は、郵便物などどうでもいい。すでに表の世界の事情から切り離されている和彦に、ダイレクトメールは意味がないし、郵便物で繋がっているような知人もいない。そもそも、処分してもらってもよかった。 だが、あえてそう伝えておかなかったのには、理由がある。万が一、という事態を想定しておいたのだ。 やや緊張しながら和彦は、さりげなく本題を切り出した。「――わたしが引っ越してから、誰か訪ねてきませんでしたか? 突然の海外研修だったものですから、友
苦しさよりも、早く三田村を悦ばせたいという感情が上回っていた。腰を緩く揺らして和彦は、熱い欲望を少しずつ内奥に受け入れる。 パジャマの上着を脱がされて、興奮のため、これ以上なく尖った胸の突起を音を立てて吸われた。「あっ……ん」 和彦は恥知らずな声を上げると、三田村の頭を抱き締める。すると三田村も腰を抱き寄せてくれた。二人は、これ以上なくしっかりと繋がった。 性急に快感を追い求めるのがもったいなくなるほど、三田村との一体感は深い陶酔を和彦に与えてくれる。三田村も似たような感覚を味わってくれているのか、大きく息を吐
「おとなしくていたら、俺が手を上げる人間じゃないと、この間のことでわかったはずだ」「……手を上げなかったら、何をしてもいいのか。あんな、汚らわしいことをしておいてっ……」「いつも尻に、男の精液を入れられている奴が、何を言ってる。体にかけられるぐらい、大したことじゃないだろ」 怒りと屈辱から、一気に頭に血が上る。気がつけば、押さえられていないほうの手で鷹津の頬を打っていた。大きく手を振り上げられないため、さほど痛くなかったのだろう。パチンと間の抜けた音がしただけで、鷹津は顔をしかめもしなかった。だが
「なるほど。先生のきれいな指が、他の男の体を這い回るのかと思うと、少しばかりムカつくな」「変な言い方をするなっ……。用が済んだんなら、ぼくはこれで帰るからな」 立ち上がろうとした和彦だが、すかさず手首を掴まれて引っ張られ、バランスを崩して賢吾の胸元に倒れ込む。そのまましっかりと両腕で抱き締められた。「先生への本題はこれからだ」 嫌な予感がした和彦は、露骨に顔をしかめて見せる。すると賢吾は表情を和らげてから、耳元に唇を寄せてきた。「頼みたいことがある」「……聞きた