تسجيل الدخول「どうかしたのか、佐伯」
澤村に声をかけられ、和彦は正面に向き直る。「いや……、なんか、変な気配を感じたというか……」「気配?」「気のせいかな。誰かに見られていたような感じがしたんだ」 そう答えながら、もう一度周囲に視線を向ける。「お前、疲れてるんじゃないか。意外に神経質なところがあるからな。それで神経が過敏になってるってことはないか?」「……ああ、そうかもしれない」 表の世界から、裏の世界へと引きずり込まれたときから、和彦は庇護される存在となった。守られることが、当たり前の生活となったのだ。その生活に慣れてしまうと、組の人間から離れて行動することに多少の不安感を覚える。 友人と楽しい時間を過ごしていながら、その不安感は消えなかったらしい。「あまり気にするなよ。少なくともお前以外は気づいてないみたいだし」「そう、だな……」 そうすべてを見透かしたような千尋の目で見つめられ、和彦は露骨に顔をしかめる。「そんな厄介な性質、ぼくは持ってない」「えー、本当に?」 返事を避ける和彦の顔を、おもしろがった千尋が覗き込んでくる。ムキになって顔を背けようとしたが、その前に千尋に唇を塞がれていた。 油断すると、すぐに千尋の背に両腕を回しそうになる。我に返って自重しようとするが、口づけが熱を帯びると、つい腕が動いてしまう。それを二度、三度と繰り返したところで、千尋が悪戯っぽい表情で提案してきた。「手、縛ってあげようか?」「……聞くまでもなく、すでにやる気満々だろ」 そう答えた次の瞬間には、和彦の体はひっくり返され、浴衣の帯で後ろ手に縛られる。すぐにまた仰向けにされると、いきなり両足を抱え上げられ、腰の下に枕を突っ込まれた。「千尋っ……」 制止する間もなく、両足を左右に大きく開かされ、千尋が顔を埋めてくる。内腿に熱い息遣いを感じ、和彦は身を竦めた。 羞恥を感じる部分をじっくりと千尋に観察され、それだけで体が熱くなってくる。千尋は、和彦の反応を楽しむように、欲望にフッと息を吹きかけてきた。反射的に和彦は腰を震わせるが、しっかりと両膝を掴まれているため、足を閉じることもできない。当然、縛められている両手も動かせない。 相手が千尋であるせいか、怖さはない。むしろ緩やかな拘束は、官能を高める刺激となっている。「反応いいね、先生」 そう言って千尋が、身を起こしかけている和彦の欲望に唇を這わせ始める。先端を舌先でくすぐるように舐められてから、括れを唇で締め付けられる。欲望の付け根から指の輪で扱き上げられながら、欲望を口腔深くまで呑み込まれていた。「うっ、うっ……。あっ、い、ぃ――」 浅ましく腰が揺れる。もっと興奮しろと言わんばかりに、千尋の片手が柔らかな膨らみにかかり、優しい手つきで揉みしだかれる。和彦は上体を仰け反らせて反応していたが、そんな和彦の反応に煽られたように、千尋の愛撫が激しさを増す。「うあっ」 柔らかな膨らみにも舌が這
布団に押し倒された和彦の上に、千尋がのしかかってくる。この部屋で、いつも和彦に覆い被さってきて、顔を覗き込んでくるのは賢吾だが、こういう形で千尋を見上げるのは、違和感よりも後ろめたさを感じる。そして、抗い難い高揚感も。 浴衣の帯を解かれて前を開かれる。二日ほど前に賢吾から与えられた愛撫の痕跡が、ようやく薄くなりかけていたところだが、まだ完全に消えてはいない。千尋は、和彦の体を見下ろしながら、それを確認しているようだった。「こうして見ると、オヤジってやっぱり、先生のこと大事にしてるよね。優しく撫で回すんじゃなく、大蛇らしく、ギリギリと締め上げてる感じ。何かの拍子に先生を抱き殺しそう」「……楽しそうな声で、不吉なことを言うな」「でも、オヤジにそこまで想われるって、嬉しくない?」 この場合、どう答えればいいのか、和彦には咄嗟に判断がつかなかった。顔を背けると、千尋の唇が耳に押し当てられる。「俺も、先生のことを想ってる」 熱い舌に耳朶を舐られたあと、チクリと痛みが走る。千尋が耳朶に噛みついたのだ。身震いしたくなるような疼きが背筋を駆け抜け、和彦はうろたえていた。「――噛み付いて、先生の血も肉も味わいたいぐらい」 首筋を舐め上げられて呻き声を洩らす。すでに興奮している千尋を煽るのは容易く、和彦の体の上で獣が猛る。 浴衣と下着を剥ぎ取られ、肌に千尋が食らいついてくる。もちろん、血が出るほど噛み付いてくるわけではなく、強く肌を吸い上げ、自分の痕跡を残し始めたのだ。「お前……、この部屋だから、興奮しているのか?」 千尋の髪を撫でながら和彦が問いかけると、上目遣いに見上げてきた千尋が、恨みがましい口調で応じる。「俺は必死なのに、先生は余裕たっぷり……」「びっくりしてるんだ。お前が……必死だから」 千尋は大きく息を吐き出すと、和彦の唇を軽く吸い上げてくる。「俺はいつでも必死だよ。先生に触れるときは、頭がカアッとして、難しいことは考えられなくなる」「…&h
この家で過ごしながら、生活パターンの違いから、何かとすれ違うことの多い千尋だが、やはり何かを感じ取っているらしい。 千尋が軽くため息をつき、畳を片手で叩く。和彦は座椅子から下り、畳の上に座り直すと、待ちかねていたように千尋が胸元に抱きついてきた。本当に行動が犬だなと思いながら、苦笑しつつも和彦は、千尋の頭に手を置いた。「……先生がここにいるって、すげー実感できる」「大げさだな。食事時には、けっこう顔を合わせていただろ」「でも、ゆっくり話せてないじゃん。……俺、先生に知ってもらいたいこと、いっぱいあったんだ。先生が、自分の兄貴に会いに行くって知ったときは、ものすごく切羽詰ってたこととか。先生がもう二度と、俺――俺たちのところに戻ってこないんじゃないかって、本気で心配してたことも」 殊勝なことを言う千尋が、先日自分に何をしたのか思い出し、和彦は複雑な心境になる。 まるで体に呪詛でも刻みつけるように、千尋は守光とともに、和彦の体を貪り、嬲ってきたのだ。賢吾の執着心の強さを知っている和彦だが、千尋もまた、強い。若くて純粋で無謀な分、怖いとさえいえる。 ただ、守光については、執着心と表現していいのだろうかと、判断がつきかねていた。「それに、仮に無事に戻ってきても、先生が……、精神的に参って、別人みたいになってたらってこととかさ。俺、先生の様子を、ちょっとだけ観察してた。――大丈夫、だよね?」 強い輝きを放つ目に、うかがうように見つめられて、和彦の胸は締め付けられる。長嶺の男の本質にあるのは、間違いなく傲慢さだ。同時に、毒のように強烈な甘さも併せ持っている。だから和彦は、簡単に翻弄されるのだ。 千尋の引き締まった頬を撫でながら、柔らかな声で応じる。「生憎だがぼくは、お前が思っているよりずっと、ふてぶてしいみたいだ。というより、ぼくが落ち込むことを許さないように、周りの男たちがかまってくれるからな」「……何、先生。俺のことは放ったらかしのくせに、もうそんなに、いろんな男たちとは会ってたわけ?」「変なことを想像
「あの家が、ぼくを必要としていると知ったところで、少しも嬉しくないんだ。きっともう、ぼくとあの家が歩み寄ることはできない。それが確認できただけでも、会ってよかったと思う。間に入った里見さんには、申し訳ないけど」 座卓に置いた文庫本の表紙を、手慰みに撫でる。そうしながら和彦の脳裏に蘇るのは、英俊と会ったときの光景だ。 思い返すたびに息苦しい感覚に襲われていたが、自分を駆り立てるように仕事をこなし、すっかり慣れ親しんだ男たちと顔を合わせていくうちに、その感覚も薄れつつある。だから、里見に連絡を取ることにしたのだ。今回は、悲壮な覚悟は必要としなかった。「兄さんに、言いたいことは言えたと思う。そのことを、あの人たちは納得しないだろうけど、ぼくはこれ以上話をするつもりはない。また里見さんに何か頼んできたときは、そう伝えてもらえるかな。一生連絡を取らない――という決心まではしていないけど、当分、話をするつもりはない」 電話の向こうから聞こえてきたのは、深いため息だった。一瞬、里見を失望させただろうかと身構えた和彦だが、次に耳に届いたのは、鼓膜をくすぐるような笑い声だった。「……里見さん?」『ごめん。最初の頃は、君は誰かに脅されていると思っていたんだ。だけど直接君に会って、英俊くんからも話を聞いて、今の君の言葉を聞いて、ようやく受け入れるしかないと思った。――君は、今いる場所で必要とされて、それ以上に大事にされているんだって』 里見が想像しているのは、穏やかで優しくて、美しい環境なのだろうと思うと、現実とのギャップに和彦もつい声を洩らして笑ってしまう。だが、男たちの情や、複雑な事情に雁字搦めになりながらも、和彦にとってこの世界が心地いいのは間違いない。「そう……、単純なものじゃないけどね」 ほろ苦い気持ちを噛み締めながら和彦が呟いたとき、廊下を歩く足音が聞こえてくる。「それじゃあ、もう切るね」『和彦くんっ』 携帯電話を耳元から離そうとしたとき、突然里見が大きな声を発する。「何?」『この電話を切ったあと、携帯の番号を変えたりしないでくれ。英俊くんに番号を知
ファミリーレストランで、三田村と向かい合って朝食をとるというのも、なんだか妙な感じだった。 パンを一口かじった和彦は、何げなく視線を上げてドキリとする。三田村が、フォークを持ったまま、じっとこちらを見つめていたからだ。 優しい眼差しだった。柔らかな感情のすべてを傾けて、和彦を包み込もうとしているような、そんな眼差しだ。 慌しい空気に満ちている店内にあって、自分たちがついているテーブルだけ、異質な空気が漂っているのではないかと、少し和彦は心配になってくる。 いつもなら、周囲の様子に気を配るのは三田村の役目のような気がするが、今朝ばかりは様子が違う。「……そんなに眺めるほど、ぼくは変わってないだろ。寝不足で、目の下に隈ができているぐらいだ」 さすがに気恥ずかしくなってきて、ぼそぼそと和彦が洩らすと、三田村はわずかに目を丸くしたあと、口元に苦笑を湛えた。「正直、先生が落ち込んでいるかもしれないと、ずっと心配していたんだ。しかも、クリニックも休まないと聞かされて、驚いた。先生のことだから、周囲の人間に迷惑をかけまいと、無理をしているんじゃないか」「無理か……」 パンを置いた和彦は、ふっと息を吐き出す。 今朝は、早い時間に賢吾と一緒に総和会本部を出て、自宅マンションに寄ってもらった。ゆっくりする間もなく出勤の準備をする傍ら、三田村に連絡を取ったのだ。本当は、声を聞くだけで満足するつもりだったのだが、三田村のほうから、朝食を一緒にとらないかと誘ってくれ、今のこの状況だ。「無理ならしている。肉体的にも精神的にも疲れているから、本当なら今日一日ぐらい、部屋でゆっくり過ごしてもよかったのかもしれない。だけど、そう思う以上に――ぼくの日常を取り戻したかったんだ。自分は、実家の事情に引きずられたりしないと強がりたい……、と言ってもいいのかな」「先生は、タフだ」 そう呟いた三田村の口調は、苦々しさに満ちていた。和彦の無理を窘めたい気持ちがある一方で、和彦の気持ちも汲み取っている、三田村の誠実さが滲み出ているようだ。「…&
「うああっ――」 内奥の入り口をこじ開けられ、太い部分を一息に呑み込まされる。繋がった部分を指先でなぞられると、それだけで上擦った声が出る。背後から緩く突き上げられて、腰から痺れが這い上がり、吐息を洩らす。さらにもう一度突き上げられて、悦びの声を上げていた。 賢吾と深く繋がっていきながら、引き絞るように内奥を締める。欲しかった、と言葉ではなく、体で訴える。和彦の訴えを、賢吾は受け止めてくれた。「……しっかりと、俺を欲しがっているな。本当に、可愛いオンナだ……」 腰を掴まれて、ぐうっと奥深くまで欲望を捩じ込まれる。和彦は声も出せずに、ビクッ、ビクッと腰を震わせていた。賢吾が笑いを含んだ声で言った。「尻で、イったな」 巧みに官能を刺激されて、頭の芯まで快感に浸される。賢吾の欲望に内奥深くを突かれるたびに、堪えきれず嬌声を上げていたが、おそらくその声は、部屋の外にも響いているだろう。和彦の理性ではもう声を抑えることができず、賢吾にしても、あえて〈誰か〉に聞かせるように、和彦の快感を煽ってくる。「あっ、い、ぃ――……。賢吾、奥、いい……」「どこもかしこも、いいところだらけだな。――和彦」 内奥深くを重々しく突き上げられ、一瞬息が詰まる。全身に快美さが響き渡り、小刻みに体が震える。賢吾は、和彦のそんな反応をいとおしむように、背後からきつく抱き締めてくれた。「一度抜いていいか?」 快感に恍惚としている和彦の耳に、賢吾の言葉が届く。和彦は子供のように必死に首を横に振っていた。「嫌だっ。まだ……、このままがいい」「俺もそうしたいが、それ以上に、お前のいい顔を見ながら、尻を可愛がってやりてーんだ」 ズルリと内奥から熱い欲望が引き抜かれ、和彦は短い悲鳴を上げる。このとき、自分の体に何が起こったのかを、和彦の体を仰向けにした賢吾に指摘された。「お前が、突っ込まれる瞬間に弱いのは知ってたが、抜かれる瞬間もよくなってきたか?」 賢吾に、精を放ったばかりの欲望を
和彦はゆっくりとまばたきを繰り返し、なんとか賢吾の話を頭に留めようとする。いろいろと考えようとするのだが、思考はどこまでも散漫だ。「……蛇蝎の、サソリ……」「ああ、そうだ。あれは、悪党ってやつだ。暴力団担当の刑事だったくせに、その立場を利用して悪辣なことをヤクザ相手にやらかして、それこそ蛇蝎みたいに嫌われていた。そこで、ある組が鷹津をハメたんだ。かなり大問題になってな、警察の監査室まで引っ張り出して、県警の本部長のクビが飛ぶかという話までいった」 淡々と話す賢吾のバリトンの響きが耳に心地いい。ふ
**** 電卓を叩いた和彦は、表示された数字を見て、一声低く唸る。 クリニックに入れる医療機器・備品は決めたのだが、医療機器に関しては、どの専門商社と取引するかという点で、頭を悩ませていた。いままで医療機器の価格など、聞いたところで他人事だったのだが、いざ自分が導入するとなると、やはり臆してしまう。例え、ヤクザの金を使うにしても。 やはり商社間の入札で、今後のメンテナンスまで含めた価格を決めてしまうほうが、結果として安くつくかもしれない。 コンサルタントに勧められながら、大まかな金額を計算
「あの――」「すぐに、アルコールを準備しますから、欲しいものがあれば遠慮なく言ってください。なんといってもここは、客に飲ませてなんぼの、ホストクラブですから」 秦にそう言われて、和彦は喉に手をやる。この店についてから、まっさきに水を飲ませてもらったのだが、さらに喉の渇きを覚えた。 興奮しすぎて、体の水分がずいぶんな速さで汗になったのかもしれない。着ているシャツが汗で濡れて、少し不快だ。それでも、空調を入れた店内の空気はゆっくりと冷え始めていた。 和彦がほっと息を吐き出すと、隣に腰掛けた秦に笑いかけられる。「何を飲みます?」
「迎えにきてくれるのは、先日の花火大会のとき、必死な様子でクラブまで先生を捜しに来た方ですか? 確か、三田村さん……」「ぼくの本当の護衛です。というより、頼めば、家の片付けすらしてくれるので、世話係みたいなものですね」「今日は先生についていなかったのは、どうしてですか?」「最近、本来の仕事が忙しいみたいです。組のトラブル処理に当たっているそうです。ぼくは、組絡みのそういった事情には首を突っ込まないようにしているので、詳しくは知りませんが」 ワインをグラス二杯飲んだぐらいでは酔わない和彦だが、今日は気が高ぶっている