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第16話(28)

Penulis: 北川とも
last update Tanggal publikasi: 2026-02-15 14:00:24

 山の中にある保養地ということで、とにかく暖かい服装をしろと言われたが、バッグに詰め込んで持ってきた着替えでは限りがある。コーデュロイパンツと、カシミアのニットの下にシャツを着込んだ和彦は、賢吾から贈られた毛皮のコートにおそるおそる手を伸ばす。さすがに、羽織って出かけるいい機会ではないかと思ったのだ。

 このとき、座卓の上に置いた携帯電話が鳴る。表示された名を確認した瞬間、和彦の心臓の鼓動は速くなった。

 大きく深呼吸をしてから電話に出る。

「――……どうかしたのか、こんな時間に」

 努めて平素の調子で問いかけると、電話の向こうから返ってきたのは、少し緊張したような中嶋の声だった。

『すみません、せっかくのお休み中』

「いいんだ。もう起きていたし。それで――」

『先生、今日、会えませんか?』

「……唐突だな」

 そう洩らした和彦は、静かにため息をつく。電話を通して伝わってくる中嶋の気配は、切実であると同時に、凄みも感じさせる。そこに、元
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  • 血と束縛と   第26話(26)

     連休中はどこかに出かけるのかと尋ねられ、まさか今のような状況になるとは思ってもいなかった和彦は、自宅でのんびりと過ごすと返信したのだ。一方の里見は、仕事が忙しくて休みどころではないらしい。 のんびり過ごすと返信した手前、いつ里見から連絡がきても応対できるようにと、こうして携帯電話を持ってきたのだが、三田村もともに過ごしているこの場所で、果たしてこれは正しい行動だったのだろうかと思わなくもない。「本当にぼくの生き方は、そういうことで成り立っているな。厄介で物騒な男たちの事情に雁字搦めになって、受け入れて、身を委ねて……」「そんなふうに言われると、俺の目の前にいる人は、自分の意思がなくて、弱いのかと思えますが、違いますよね。先生は、したたかでタフだ」「昔から、鍛えられているからな」 自分でもわかるほど素っ気なく応じて、携帯電話をナイトテーブルの上に戻すと、仰向けで再びベッドに横になり、窓の外に目を向ける。「……今は、甘やかされていると思っている。それに、いろいろと不便で窮屈なところもあるが、少なくとも、佐伯和彦という存在は認識されているし、必要ともされている」「その言い方だと、認識すらされていないときがあったみたいだ。――総和会も長嶺組も、徹底して先生のことは調べ上げているはずなのに、先生には秘密があるんじゃないか、なんてことを考えてしまいますよ」「そうだ。ぼくには、大きな秘密がある」 軽い口調で応じた和彦は、ニヤリと中嶋に笑いかける。虚をつかれたように目を丸くした中嶋だが、同じような笑みを返してきた。「聞いたところで、教えてくれないんでしょう。その様子だと」「冗談だ。本気にしないでくれ。ぼくは、長嶺の男に目をつけられるまでは、普通の暮らしをしていた、遊び好きの美容外科医だった。それだけだ……」 ふうん、と意味ありげに声を洩らして、中嶋が和彦の隣に横になる。ごろりと転がってうつ伏せになると、やはり窓のほうを見て目を細めた。「昼寝するには最高の陽気ですね。午前中は体を動かしたし、昼メシも食ったあとだし。俺も、釣ってきた魚の下処理

  • 血と束縛と   第26話(25)

     今回の別荘の滞在で、中嶋は世話係として本当にうってつけの人材だと、改めて感心する。一応、一人暮らし歴は長かったため、料理以外のことはソツなくこなせる和彦だが、三田村も中嶋も、器用さとマメさのレベルが違う。「君と三田村が側にいると、ぼくは一人暮らしでなんの経験を積んできたのか、という気になる……」 和彦の言葉に、中嶋は楽しげに声を上げて笑いながら、針に餌をつける。釣り竿を差し出されたので仕方なく受け取ると、無様な姿勢で湖に向けて仕掛けを投げた。「――先生は、それでいいんですよ。てきぱきと患者を治療して、クリニックの切り盛りまでして、そのうえ家事まで完璧にこなされると、世話を焼く人間がつまらない。少しぐらい隙があるほうが、かえって周囲から愛されるものです」 だったら自分は隙だらけだなと言いかけた和彦だが、それがとんでもなく自惚れた発言になることに気づく。寸前のところで別の言葉に言い換えた。「周囲にいるのがデキる男ばかりで、たっぷり甘やかされてるよ」 和彦の背後で中嶋が、クスッと笑い声を洩らした。もしかすると三田村も、唇を緩めるぐらいはしたかもしれないが、浮きの動きに集中する和彦には、そこまで確かめる余裕はなかった。** 開けた窓から入ってくる風があまりに心地よくて、スリッパを脱いだ和彦はベッドに転がる。そこで視界に飛び込んできたのは、ゆっくりと雲が流れていく青空と、緑豊かな山々だ。 ぼんやりと眺めていると、日ごろの多忙さや、自分の厄介な立場すらも遠いことのように思えてくる。今こうしてのんびりできるのは、その多忙さや、厄介な立場があってこそのものなのだが。 マンションの部屋の工事は進んでいるだろうかと、ふと気になった和彦は、寝返りを打った勢いで起き上がり、ナイトテーブルに置いた携帯電話に手を伸ばそうとする。このとき、部屋の前に立っている中嶋に気づいた。一方の中嶋も、驚いたように目を丸くしている。「……すみません。ドアが開いていたので」「風通しがよくなるから、開けておいたんだ。さすがに知らない人間がウロウロしているなら気をつかうが、そうじゃないし

  • 血と束縛と   第26話(24)

    **** 男三人が、静かな別荘地で何をして過ごすか――。 密かに和彦は、この問題をどうするべきなのかと心配していたのだが、意外なほどあっさりと解決した。主に、中嶋の働きによって。 垂らしていた糸がピンと張り詰め、両手でしっかりと持った釣り竿がしなる。和彦は半ば反射的に、隣で同じく釣り糸を垂らしている中嶋を見る。「先生、魚がかかるたびに、そう動揺しないでください。適当にリールを巻いて、魚の引きが弱ったら、釣り上げるだけです」「適当ってなんだっ……。その適当の加減がわからないんだ」 和彦が反論する間にも、掛かった魚が激しく暴れる。慣れない手つきで慌ててリールを巻き、竿を立てようと奮闘していると、背後で苦しげな息遣いが聞こえてきた。振り返ると、顔を伏せた三田村が肩を震わせている。「三田村、笑っているんなら、交代してくれ」「ダメですよ、先生。掛かった魚は、責任を持って本人が釣り上げないと」 和彦はじろりと、横目で中嶋を見る。言っていることはもっともだが、明らかに中嶋も笑っている。「……ぼくがオロオロしているのを見て、二人とも楽しんでいるだろ」「普段マイペースの先生が、おっかなびっくりで釣りをしている姿が、なんだか可愛くて。つい、からかってしまうんです。三田村さんも同じ気持ちですよね?」 中嶋に問われ、三田村は曖昧な返事をする。さらに言い合うのも大人げないので、まずは掛かった魚を釣り上げることに専念する。初心者ながら、さきほどから意外に釣果は悪くないのだ。 やや物騒な理由から、総和会が所有する別荘で連休を過ごすことになったが、別に和彦個人が狙われているわけではなく、身を隠しておく必要はない。賢吾からも、護衛をつけておく限り、自由にしていいと言われている。 では、自由に何をするか、という話題になったとき、朝食の後片付けを終えた中嶋が、別荘近くの湖で釣りをしないかと提案してきたのだ。道具一式は揃っており、冷蔵庫には餌になりそうなものものが入っていると言われれば、断る理由はなかった。「先生は、

  • 血と束縛と   第26話(23)

    「ぼくのオトコの感触だ……」 意識しないまま和彦が呟くと、三田村は口づけで応えてくれる。緩やかに舌を絡め合い、もっと互いを味わいたいとばかりに唾液を交わし、啜り合う。そんな口づけを交わす間にも、和彦の内奥は猛った欲望の感触に馴染み、強い刺激を欲し始める。 腰をわずかに揺らすと、それだけですべてを察した三田村が律動を刻み始める。内奥の襞と粘膜を擦り上げられ、鳥肌が立つほど和彦は感じてしまう。「うっ、ううっ、うあっ――」「……俺は、こういう先生も見たかった。首筋まで真っ赤に染めて、感じている先生を……」 三田村の唇が首筋に這わされ、ささやかな愛撫の感触にすら狂わされる。三田村に触れられる悦びで、体が蕩けてしまいそうだ。 うわ言のように三田村を呼び続けながら、必死に背にすがりつく。そんな和彦を惜しみなく三田村は愛してくれる。淫らな蠕動を繰り返す内奥の深い場所にまで欲望を突き込まれ、呻き声を洩らして和彦は感じる。「あっ、あっ、三田村っ……。奥、すご、い……」「ああ。よく締まってる。先生が、俺を欲しがっている」 狙い澄ましたように最奥を突き上げられ、そのたびに痺れるような法悦が溢れ出し、全身に行き渡っていく。内奥と欲望を擦りつけ合うだけの行為だというのに、気がつけば和彦は、二度目の絶頂を迎え、今度は自分だけではなく、三田村の下腹部も濡らしていた。 このとき恥知らずな嬌声を上げていたかもしれないが、惑乱した和彦には気にかける余裕もなく、ただすがるように三田村を見つめるのが精一杯だった。誘われたように三田村が目元に唇を押し当て、滲んでいた涙を吸い取ってくれる。 熱い吐息がこめかみに触れ、反射的に和彦は目を閉じる。内奥深くで三田村の欲望が爆ぜ、たっぷりの精を注ぎ込まれる。満たされる悦びに、浸っていた。 三田村の筋肉の強張りが一気に解ける。全身の血がめまぐるしく駆け回っているのか、熱い体から汗が噴き出し、流れ落ちていく。まるで、何かから解放されたようだなと思いながら、和彦は優しく三田村の体を撫でてい

  • 血と束縛と   第26話(22)

     さらに和彦の興奮を煽るように、三田村の指が内奥の入り口を軽く擦り始める。刺激に弱いその部分はすぐに物欲しげにひくつき、押し込まれる指を少しずつ呑み込み始める。和彦自身の汗と、三田村の唾液が垂れて湿っているせいもあり、引き裂かれるような痛みはなかった。何より、三田村が慎重だということもある。 挿入された指が円を描くように内奥で蠢き、自分でもどうしようもない反応として和彦は、引き絞るように内奥を収縮させた。その感触を楽しむように指を出し入れされ、そうしているうちに、三田村を受け入れる態勢ができてくる。 指の数を増やされて、内奥の浅い部分をある意図を持って押さえられる。三田村の口腔で和彦のものが完全に熟し、あとは破裂する瞬間を待つだけとなる。すると三田村が口腔での愛撫をやめて顔を上げ、内奥からは指を引き抜いた。「三田村……?」 声を発した瞬間、和彦は羞恥で燃え上がりそうになる。甘ったるくてすがりつくような自分の声が信じられなかったのだ。三田村も気づいたはずだが、何も言わず、口元に微かに笑みめいたものを浮かべてすぐに、表情を引き締めた。 片足をしっかりと抱え上げられて、綻んだ内奥の入り口に猛った欲望が押し当てられる。指とは比較にならない大きさと熱を持ったものが、内奥を押し広げていく。 息苦しくなるような異物感に、眩暈がするほどの高揚感を覚え、たまらず和彦はきつく目を閉じる。瞼の裏では鮮やかな色彩が点滅し、飛び交っていたが、それもわずかな間だ。一気に真っ赤に染まった。 混乱するほど強烈な感覚――快感が和彦に襲いかかっていた。「んあっ……」 ビクビクと体中を震わせながら目を開けると、三田村は食い入るように和彦の下肢を見つめていた。三田村の欲望を内奥に受け入れながら、和彦は絶頂に達していたのだ。迸らせた精で、下腹部が濡れている。「――〈これ〉を、見たかったのか?」 和彦が抑えた声で問いかけると、ふっと眼差しを和らげて三田村が頷く。「ああ」 三田村が腰を進め、内奥深くまで逞しい欲望を埋め込まれる。息を詰めて重々しい衝撃に耐えていると、三田村が覆い被さってきた。和彦は

  • 血と束縛と   第26話(21)

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  • 血と束縛と   第15話(39)

     不遜だ、というのは簡単だが、ヤクザの世界にハッタリは必要だ。それがわかったうえで、男たちはしきたりを守っているのだ。 上座の壁には、三軸の掛け軸が掛けられている。そこに描かれているのが、賢吾の言う神なのだろう。物の良し悪しの判断は和彦にはできないが、掛け軸をかけてあるだけだというのに、大広間の空気がピリッと引き締まって感じる。「手伝うのはかまわないが……、組員でもないぼくが手を出していいのか?」「ヤクザの手に比べたら、先生の手なんざ、まっさらの絹布みたいにきれいだろ。うちの組の守り神さんも、先生に手伝ってもらうほうが喜びそ

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-01
  • 血と束縛と   第15話(33)

     和彦の体の上で、再び鷹津が動き始める。すでに、鷹津に対して従順になっている襞と粘膜は、行き来する逞しいものに絡みつき、吸いつく。体はとっくに、鷹津を受け入れているのだ。それどころか、和彦の気持ちも――。 奥深くを間断なく突き上げられ、波のように肉の悦びが押し寄せてくる。狂おしい快感に乱れながら和彦は、ただ本能的に鷹津の背に両腕を回し、しがみついていた。「うっ……ぁ、んうっ、うっ、はうっ……、うっ」 刺青のない背を撫で回し、爪を立てる。内奥で、鷹津のものが震えたような気がした。閉じた瞼の裏で鮮やか

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-31
  • 血と束縛と   第15話(5)

     忘れていた――というのは失礼な表現だろうが、実は今日まで、自分と中嶋の関係が微妙な状態にあることを、意識していなかった。 中嶋が一瞬、訝しむような眼差しを向けてきたので、気を取り直した和彦は笑みを浮かべる。「まさか、君が来てくれるとは思っていなかった」「先生にはお世話になっていますからね。ありがたいことに、先生は、俺には気を許していると思っているみたいなんですよ。うちの組織は」「そう思われていることに、君は意見しなかったのか?」「する必要はないでしょう」 悪びれたふうもなく、こんなことを言えるのは、中嶋の特性だ。総

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-31
  • 血と束縛と   第15話(3)

    「大丈夫よ。難波組長、もう先生のこと警戒してないから。バカ息子の鼻を治してあげたんでしょ?」 思いがけない由香の発言に、聞いていた和彦のほうがぎょっとしてしまう。由香は、やけに赤い舌をチロッと覗かせて笑った。「ナイショね、今言ったこと」「……ぼくだって命が惜しいからね」「わたしだって惜しいよ。だってここ、怖い人もけっこう来てるし」 由香の言葉の意味をすぐに理解し、和彦は小さく声を洩らす。由香は楽しそうに目を輝かせ、周囲を見回す。「難波組長と、ときどき一緒に飲んでいる人も、何人か来てるみたい

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