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第16話(4)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-02-10 17:00:38

 元日から、なんとも気が重くなるような仕事だった。

 和彦の本来の仕事は美容外科医で、患者のコンプレックスを取り除き、幸せになる手助けをするのが仕事だ。普段は、こういった理想や理念を意識することはなく、患者の望みに近づけるよう努めるだけだ。

 しかし長嶺組の専属医となってから、和彦はいくつかの不本意な手術を手がけていた。

 初詣をした神社の駐車場で賢吾と別れ、組員が運転する車で向かったのは、『池田クリニック』だ。さすがに元日だけあってビル全体に人気はなく、こんな日に慌しく動いているのは、後ろ暗いところがあるヤクザと、そのヤクザに手を貸す美容外科医ぐらいかもしれない。

 そんな皮肉っぽいことを考えた和彦が引き合わされたのは、中年の男だった。凡庸な顔立ちながら、一目で筋者とわかる険しさが顔に張り付いている。

 その男が何者なのか和彦は尋ねもしないし、同行している組員たちも話そうとはしない。組絡みの仕事は、これが普通なのだ。

 和彦への依頼は、男の顔を変えてほしいというものだった。それがどう
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  • 血と束縛と   第33話(25)

     欲望への愛撫に合わせて、ゆっくりと内奥を突かれる。「ふあっ……、あっ、あっ……ん、あぁっ――」 千尋にも賢吾にもない落ち着いた攻めに、和彦は静かに狂わされていく。自覚もないまま両足を大きく左右に開き、背をしならせるようにして、内奥深くで刻まれる守光の律動をよりしっかりと感じていた。「あんたはもう数えきれんほど、長嶺の男たちと交わり、精を受けてきた。こうして、じっくりと丹念に中にすり込まれていると、自分と長嶺の男たちと溶け合っているという感覚にならんかね」 守光の言葉に唆されたように、内奥を行き来する熱い欲望をきつく締め付ける。守光が抉るように内奥深くを突き上げてきた。「あんたのこの反応は、肯定と受け止めていいんだろう。――医者のあんたからすると、バカバカしいと嘲笑うかもしれんが、わしは、あんたが長嶺の血を受け入れてくれていると思っている。溢れるほどの精を受け入れ、情を受け入れ、子は成せんが、あんたは長嶺という家の繁栄のために欠かせない人間だ。宝だよ」 意識は朦朧としていても、守光がとんでもないことを言っているということはわかる。言葉が発せない代わりに和彦は必死に首を横に振るが、守光は薄い笑みを浮かべ、覆い被さってくる。唇を塞がれ、深い口づけを与えられていた。 内奥に深々と欲望を穿たれているうちに、肉の悦びの虜となる。浅ましく腰を揺らして、守光に応えていた。それを待っていたようにこう囁かれる。「この先もずっと、長嶺の男たちの側にいてくれ。よく尽くし、よく支え、よく愛してほしい。その見返りとして、わしらも、あんたに尽くし、支え、愛す。今晩のこれは、その契約を交わすためだ。決して裏切ることのない、裏切ることを許さない、血の契約だ」 守光の言葉は、恫喝だ。この状況で和彦が逆らえるはずもなく、否という返事を、長嶺の男たちは最初から聞き入れる気はない。 恐怖に押し潰されても不思議ではないのに、和彦の体は歓喜していた。頭上に伸ばした両手を、それぞれ賢吾と千尋に握り締められ、反射的に握り返してしまう。「ぼ、くは――、何も、できな……」「あんたは、あん

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     和彦は背を弓なりに反らして、意識が舞い上がるような感覚に襲われる。ほんのわずかな間だったのか、それとも何十秒も続いていたのか認識できなかったが、ふと息苦しさを感じて、大きく息を吸い込む。同時に、一気に体中の力が抜けた。「大丈夫か?」 そう問いかけてきた賢吾に、和彦は頷き返すこともできない。頭がふらつき、自分の体も支えられないのだ。見かねたように千尋が腕を伸ばしてきて、抱き寄せられる。賢吾との繋がりが解けた途端、内奥からドロリと二人分の精が溢れ出し、反射的に体を強張らせる。できることなら、こんな姿を見られたくないのに、長嶺の男たちは気にしないどころか、むしろ自分たちの成果として確認したがった。「嫌、だ……」 和彦は弱々しい声で訴えたが、当然のように聞き入れられない。今夜、できうる限りの淫らな行為に耽りたいという思いが、男たちにはあるようだ。 布団に仰向けで横たえられ、力をなくした両足を容赦なく賢吾に掴み上げられる。二人の男の欲望にこじ開けられ、擦り上げられた内奥は閉じることもかなわず、浅ましくひくついている。白濁とした精を垂らす一方で、組み紐で縛められた欲望は反り返ったまま、先端を透明なしずくで濡らしていた。和彦の淫奔さを雄弁に物語っている部分を、まるで視線で愛撫をするかのように、三人の男たちに凝視される。 快感で蕩けた頭でも、わずかながら羞恥を感じる思考力は残っていた。和彦はやめてくれるよう哀願していたが、当然のように無視された。「うあっ、あっ――……」 欲望に巻きつく組み紐をなぞるように、賢吾の舌先が卑猥に動く。欲望を舐めているようで、直に舌先が触れているわけではないもどかしい刺激に、和彦は腰を揺らす。呻き声を洩らすと、枕元に這い寄ってきた千尋が身を伏せ、和彦の唇をペロリと舐めてきた。 父子の舌が、同時に和彦の欲望と口腔を嬲り始める。快感による地獄だと思った。これまでも、賢吾と千尋と同時に交わったことはあるが、ここまで切迫した感覚には襲われなかった。今の和彦は、とにかく与えられる快感が怖い。抜け出せなくなりそうで。 和彦のすべてを貪り尽くす前に、ようやく賢吾と千尋が体を離す。このとき

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     淫らな蠕動を始めた内奥の感触を堪能するように、少しの間動きを止めていた千尋だが、ゆっくりと律動を再開する。背に重なる千尋の胸元から、激しい鼓動が伝わってくるようだった。もしかすると、内奥で動き回る欲望の脈動かもしれないが、和彦にはもう区別がつかない。自身の鼓動が、狂ったように鳴っているせいだ。 神聖な儀式に立ち合っているかのように、和彦と千尋が繋がってから、他の長嶺の男たちは口を開かなかった。いや、これは立派な儀式なのだ。和彦に、長嶺の男たち共有のオンナとしての、見えない刻印をつけるための。 自分はとっくに長嶺の男たちに所有されていると思っていたが、男たちにとって、和彦のその認識はまだ生ぬるかったようだ。「ううっ、あっ、はあっ、はあっ――……」 千尋の熱い欲望が、爆ぜる。もう何度も、千尋の精を内奥で受け止めてきたというのに、それでもやはり、この行為は特別な気がする。千尋の欲望を締め付けたまま、和彦は再び軽い絶頂状態に陥っていた。 余韻なく千尋が体を離したが、そのことを寂しいと感じる間もなく、喘ぐ内奥の入り口に逞しい感触が擦りつけられ、挿入される。衝撃に、声も出せなかった。 乱暴に背後から突き上げられ、逞しい欲望を根元まで捩じ込まれるが、たっぷり潤っている和彦の内奥は貪欲に呑み込み、淫らな襞と粘膜で包み、締め付ける。「――あれだけ美味そうに千尋のものを味わっていたのに、俺のことも欲しがってくれるのか、和彦」 笑いを含んだバリトンで意地悪な言葉を紡ぐのは、賢吾だった。しっかりと腰を掴まれたかと思うと、次の瞬間には、上体が浮き上がる。一体何が起こったのか、すぐには理解できなかった和彦だが、視線を上げると、正面に千尋がいた。傍らには守光が。「あっ」 繋がったまま賢吾の腰の上に座らされているのだと気づき、和彦は激しくうろたえる。腰を浮かせようとしたが、内奥深くまで賢吾の欲望に刺し貫かれていることを強く意識させられただけだった。「これ、嫌だ……」 和彦は弱々しく訴えたが、返事のつもりなのか賢吾が腰を揺すり、内奥を掻き回される。うなじに軽く噛みつかれて、全身が震えるほど感じて

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     長嶺の男たちの舌も指も、執拗に和彦の感じやすい部分をまさぐってくる。守光は、熱くなり始めている欲望の先端を繊細な指づかいで擦り、一方の賢吾は、左耳に唇を押し当てたあと、耳の穴に舌先を潜り込ませてきた。 三者三様の攻めに、男たちの愛撫に慣らされている和彦の体は、瞬く間に蕩けていく。そのため賢吾に、背後から抱えられるようにして膝を掴まれ両足を持ち上げられても、抵抗できなかった。 秘部と呼べる場所をすべて晒し、そこに守光と千尋の視線が注がれると、身を焼くような羞恥に息も止まりそうになる。「――昨日、触ってあげたばかりなのに、もうきつく窄まってる」 そう言って千尋が触れてきたのは、内奥の入り口だった。軽く擦られて、和彦は唇を噛む。「中身は淫奔だが、見た目は貞淑というのは、あんたの存在そのものだな」 これは、潤滑剤のチューブを手にした守光の言葉だ。 和彦のさらなる発情を促すように、内奥に潤滑剤を施される。襞と粘膜にたっぷりすり込まれながら、長い指を出し入れされる頃には、淫靡な湿った音が室内に響くようになる。それに、和彦の乱れた息遣いも。「うあっ、あっ、い、や――。あっ、ううっ……」 内側から官能を呼び起こされ、少し前までとりあえず貞淑さを保っていた部分は、もう真っ赤に熟し、喘ぐように綻んでいる。その様子を、守光は冷静に、千尋は食い入るように見つめていた。賢吾の表情を見ることはできないが、耳元に注ぎ込まれる息遣いは、さきほどより少し荒くなっていた。 内奥の浅い部分を特に念入りに擦られて、反り返った欲望の先端から透明なしずくを滴らせる。「蜜がこぼれ始めたな」 ぽつりと洩らした守光が内奥から指を引き抜く。続いて千尋が、新たに潤滑剤を指に取り、内奥に挿入してくる。和彦は呻き声を洩らしながら、意識しないまま指を締め付けていた。「先生の中、すごい締まってる。ねえ、気持ちいい?」 ゆっくりと円を描くように指を動かされて、和彦は腰を揺らす。千尋はもう一度潤滑剤をたっぷり指に取り、ヌルリと挿入してきた。ひんやりとした潤滑剤が、己の熱でじわじわと溶け出していく感覚がおぞましく、同時に異様な高ぶり

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    「言葉でいくら、先生は大事で可愛いオンナだと言っても、こちらの気持ちのすべてを伝えきることはできないだろう。言葉は、偽ることもできるし、取り繕うこともできる。だったら、それ以外の方法が必要だ。先生の欲しがるものを与えて、先生が逃げ出せないよう立場や情で雁字搦めにもして……、だが、それでもまだ足りない」 賢吾の手が肩にかかり、呼応するように千尋が片手を差し出してくる。この場の空気に呑まれてしまった和彦は、何も考えられないままその手を取り、軽く引っ張られてその場に座り込んだ。「先生は冗談だと思っただろうが、前に、俺の養子になるかと言ったのは、本気だ。――どうやら同じ口説き文句を、別の男も言ったようだが」 賢吾のやや皮肉交じりの言葉に応じるように、守光が口元に淡い笑みを湛える。「そういう形式的なことはあとで考えるとして、まずは先生に、自分がどれだけ特別な存在なのか、体で実感してもらわないと」 いつになく興奮した様子で、両目に強い光を宿した千尋がのっそりと和彦に迫ってくる。反射的に身を引きそうになったが、背後から賢吾に抱き締められて捕われる。「先生は、俺たちにとって、長嶺組にとって、俺個人としてはあまり嬉しくないが、総和会にとっても特別だ。特別な、大事で可愛いオンナだ。誰も先生の代わりにはならない。先生は無力なんじゃない。優しいから、与えられた力を振るえないだけだ。だがそれすら、俺たちにとっては愛しい」 耳元で賢吾に囁かれながら、千尋に唇を吸われる。和彦は、賢吾がどうしてこんなことを言うのか、薄々とながら理由が推測できた。もともと賢吾なりに、和彦を気遣ってはいたが、御堂の復帰によって、その気遣いの目的は、より明確なものとなったようだ。 オンナという〈立場〉ではなく、〈生き方〉として受け入れろと、傲慢な男たちは強引に、しかしそれ以上に淫らに迫ってくる。「んっ……う」 千尋にあごを持ち上げられ、唇が一層深く重なる。熱い舌が性急に口腔に押し込まれると、和彦は拒めない。眩暈がするほど間近に千尋の両目があり、覗き込んでいるうちに、狂おしいほどの欲情に呑まれてしまいそうな危惧を覚える。千尋だけではない。視界

  • 血と束縛と   第33話(20)

    「今、広間のほうで、みんな集まって宴会してるんだ。さすがに先生にも顔を出せなんて言わないから、ここに晩メシを運ばせようか? 俺、つき合うから」「何言ってるんだ。長嶺組の跡目を独占するわけにはいかないだろ。ぼくは、一人でゆっくり過ごさせてもらうから、お前は行ってこい」 一緒にいてほしいという言葉でも期待していたのか、不服そうに唇を尖らせた千尋だが、和彦のほうから唇を吸ってやると、ちらりと笑みをこぼす。「先生、機嫌よくなったみたい」「今なら、お前の多少のわがままでも、笑って受け流せそうだ」「受け止めるんじゃなくて、受け流すんだ……」 離れがたい様子の千尋だったが、和彦が促すと、渋々といった顔で立ち上がる。「オヤジたちには伝えておくから、ゆっくり晩メシ食ったら、風呂に入るといいよ。大浴場からだと、もっとよく海が見えるらしいし」 そう言い置いて千尋が部屋を出て行く。再び一人となった和彦は立ち上がると、窓を開け、海と夕日という贅沢な組み合わせに見入る。そうしていると、千尋が伝えてくれたらしく、食事が運ばれてきた。 一人での食事というのは久しぶりだった。本部だろうがクリニックだろうが、食事のときには、常に誰かが側にいる状態だ。そのことを疎ましいと感じることはなかったが、たまには完全に一人というのも気楽でいいと、刺身の美味しさに感心しつつ和彦は思う。 食事を終え、膳を下げてもらってから、テレビのニュース番組を漫然とチェックしていたが、大事なことを思い出し、慌てて浴衣に着替えて大浴場に向かう。部屋に露天風呂は付いているが、こういうときでもなければ広い風呂に入る機会はない。 予想した通り、和彦以外に人の姿はなく、おかげでゆっくりと、湯と、大浴場の窓からの景色を堪能することができた。堪能しすぎて、危うく湯あたりを起こしそうになったぐらいだ。 急いで部屋に戻る必要もないため、和彦は大浴場を出たその足で、今度はラウンジに向かう。 オレンジジュースを飲みながら、体の火照りを冷ます頃には、外はすっかり暗くなっていた。空には星が輝いているが、海には漆黒の闇が広がり、その闇に見入ってしまう。「――部

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    **** 別に、やましいことはしていないのだ。 誰に対してなのか、和彦は心の中で言い訳する。やましいことはしていないはずなのに、どうしてこう、悪いことをしているような妙な罪悪感を覚えるのか――。 ガラス張りのショールームをぐるりと見回した和彦は、落ち着かない気分で髪を掻き上げる。自意識過剰のつもりはないが、この店に着いたときから、誰かに見られているような気がして仕方ない。 原因はわかっている。和彦についている、長嶺組の護衛のせいだ。「――佐伯先生、どうかしましたか?」

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    **** ブランケットに包まってうとうとしていた和彦は、窓を叩く雨の存在に気づいていた。朝から雨というと、普通なら憂鬱になりそうだが、ここのところの晴天続きに辟易していたところなので、雨音が妙に耳に心地いい。 ただし、湿気を含んだ暑さを堪能する気はないので、今日は部屋に閉じこもって、書類仕事を片付けてのんびりしよう――。 和彦は取り留めもなくそんなことを考えながら、雨音を聞いていた。しかし、そんな穏やかな目覚めをぶち壊すように、無遠慮に電話が鳴った。この時間、電話をかけてくる人物はわかっている。

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  • 血と束縛と   第5話(5)

     嫌という生易しい感覚ではなかったが、さんざん快感を与えられ続けた体は、蜜を含んだように重く、思考もまた、同じような状態だった。 「―― 俺の〈オンナ〉の中を、指できれいにしてやってくれ。お前も、まったく知らない場所じゃないだろ。うちの組で、俺と千尋以外に先生の尻を開いてやったのは、お前だけだ」  ビクリと腰を震わせて、一瞬だけ和彦は抵抗しようとしたが、三田村の指が内奥に挿入されたとき、賢吾の腕の中で悶え、溶けていた。****  長嶺の本宅で、布団に横になっていた和彦は、三田村の手を取って胸元に

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