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第18話(13)

last update publish date: 05.03.2026 14:00:54

「先生と二人きりだから、ついうっかりしてました」

「それをつけたのは――」

「秦さんです」

 和彦は大きく息を吐き出すと、中嶋の隣に再び腰掛ける。

「……上手くいっているみたいだな」

「慣らされている最中です。今のところ秦さんは、紳士ですよ」

 臆面もなく言い切られ、和彦は返事に詰まる。中嶋は、酔いのせいだけとも思えない、妖しい流し目を寄越してきた。

「先日は、いいものを見せてもらいました。長嶺組長と先生の絡み合う姿に、すごく興奮したんです。……俺は、あんなふうに秦さんに抱かれたい。でも同じぐらい、先生をあんなふうに抱いてみたいとも思いました。もちろん、先生に抱かれることにも興味がある」

 話しながら、中嶋がペットボトルを差し出してくる。受け取った和彦も水を飲み、喉を通る冷たい感触を堪能する。あまり意識していなかったが、アルコールのせいか、暑いぐらいの暖房のせいか、顔が火照っていた。

 ペットボトルをテーブルに置いて、頬に手の甲を押し当
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  • 血と束縛と   第26話(28)

     思いがけない三田村の言葉に、きつい眼差しを向ける。「どうしてだ?」「……明日、長時間車に乗るんだ。体に負担がかかる」「いまさらだな。ぼくがそんなに柔じゃないのは、知ってるだろ」 和彦の眼差しを避けるように、三田村がわずかに顔を伏せる。その反応で薄々とながら、実は三田村が何を気にかけているか推測できた。夕方かかってきた賢吾からの電話だ。「もしかして、あんたにも、組長から電話がかかってきたのか?」「いや……」「でも、組長のことを気にしているだろ」 三田村は少し困ったような笑みを浮かべ、和彦の額に唇を押し当てた。「先生は鋭い」「鋭くなくてもわかる」 和彦を抱き締めたままじっとしていた三田村だが、深く息を吐き出したのをきっかけに、ぽつりと洩らした。「――……俺の〈痕跡〉をつけた先生を、組長の元に返すことが、いまさらながら怖くなった」 和彦は、三田村の頭を撫でながら応じる。「ここに来てから、あんたの本音をいくつも聞けた気がする。嫉妬したり、怖がったり……。ずっと、三田村将成という男は、寛容で優しくて、強いと思っていた」「がっかりしたか?」 まさか、と答えて和彦は笑う。「俺は、先生に嫌われたくない。そう思えば思うほど、自分のみっともないところを先生に見せていないことを痛感するんだ。先生を騙しているみたいで……」「ぼくなんて、あんたに初めて会ったときからずっと、みっともない姿を晒し続けている。そのうえ今じゃ、厄介で複雑な立場だ。それでもあんたは、こうして側にいるし、ぼくに触れてくれる」「……俺にとって、先生は特別だ。どんな姿だろうが、しっかりと目に焼き付けておきたいぐらい、貴重なんだ」「『どんな姿』でも?」 和彦の声に滲む猜疑心を感じ取ったのか、三田村は怖いほど真剣な顔となって応じた。「ああ」「だったら、信じる。その代わりあんたも、ぼく

  • 血と束縛と   第26話(27)

    『先生は薄情だ。離れてしまうと、もう目の前にいる男以外、どうでもよくなるんだろ』 ドキリとするようなことを言う賢吾だが、口調はあくまで楽しげだ。電話越しの和彦の反応をおもしろがっているのだろう。『四日間、のんびりできたようだな。その辺りは、自然だけはたっぷりあるが、言い換えるなら、それぐらいしかないような場所だ。退屈はしなかったか?』「いや……。三田村や中嶋くんに、ずいぶん気をつかってもらったから、楽しかった。連休中だから、車で少し出かければ、あちこちで何かしらイベントもやっていたし」『なんだったら、連休が終わるギリギリまでそこに滞在してもいいぞ』「その口ぶりだと、もしかして部屋の工事は終わったのか?」『とっくに。千尋だけじゃなく、俺もそろそろ先生の顔が見たくなった』 こういう場合、なんと答えればいいのだろうかと考えている間に、タイミングを失ってしまう。結局黙り込んでしまうと、電話の向こうで賢吾が低く笑い声を洩らした。『先生はそうでもないだろうが、やっぱり、側にいないと落ち着かないもんだ。――明日、戻ってこい』「……ああ」 電話を切った和彦は、いつの間にか自分にとって、長嶺の男の側が〈戻る場所〉になったのだと、唐突に実感していた。 連休が終わるまで別荘に滞在していいと言ったすぐあとに、当然のように、明日戻って来いと命令する賢吾の傲慢さに、ちらりと苦い表情を浮かべる。「ぼくの反応を、試したな……」 ギリギリまで滞在したいと和彦が言ったとしたら、賢吾はどう返事をしたのか、興味がある。もちろん、大蛇の化身のような男の反応を試す度胸は、和彦にはないが。 携帯電話をパンツのポケットに突っ込んだところで、気配を感じる。デッキチェアから身を乗り出して窓のほうを見ると、三田村が立っていた。窓は開けていたため、和彦が電話で話している声は聞こえていただろう。「――明日帰ってこいと言われた」 和彦が話しかけると、三田村もテラスに出て、側にやってくる。「先生のおかげで、のんびりと過ごせた」

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  • 血と束縛と   第26話(23)

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  • 血と束縛と   第4話(27)

    「――先生」  呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」  泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」  賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する

    last updateLast Updated : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第4話(2)

     また指で呼ばれ、和彦は賢吾のあとについていく。工事後は待合室となるホールでは、施工業者の人間が集まって持ち込む機材について話し合っている。その様子を一瞥した賢吾は、奥の部屋へと向かう。 「……護衛の人間は?」  ホールを見て、賢吾が一人でこのフロアにやってきたのは確認した。 「物騒なツラした人間を、一般の業者がいる場所に連れてくるわけにはいかないだろ。設計士は前からの馴染みだが、業者のほうはそうじゃないんだ。クリニックを始める前に、妙な噂は立てたくない」 「自分は物騒なツラじゃない、と言いたいんだな」  皮肉でもなんでもなく、思ったまま

    last updateLast Updated : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第4話(16)

     他人が見ている前でキスしたことが、賢吾の情欲に火をつけたらしい。  帰りの車に乗り込んだ途端、和彦が羽織っていた麻のジャケットは脱がされ、肩を抱き寄せられると同時に深い口づけを与えられた。  そこに、運転席と助手席に護衛の人間が乗り込んできたため、反射的に顔を背けようとしたが、頬に賢吾の手がかかり動けない。  三田村には見られ慣れているという状態もノーマルではないのだろうが、とにかく三田村以外の組員に、賢吾とのこんな場面を見られるのは抵抗があった。長嶺組の人間すべてが、和彦が長嶺父子の〈オンナ〉だと知っているとしても。 「んんっ」  口

    last updateLast Updated : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第4話(25)

     長嶺組の組員なら、和彦の存在の意味を知っているだろうが、だからといって際どい光景を見たいとは思わないだろう。  和彦なりに気をつかった故の行動だったが、千尋は不思議そうに首を傾げる。 「先生?」 「お前たちから、ぼくに触れてくるならともかく、ぼくから、お前に触れているのを見たら、やっぱりいい気持ちはしないんじゃないかと思ったんだ。組にとっては、組長や、その跡取りとなると特別な存在だろ。だから――」  千尋が急に、ぐいっと顔を寄せてくる。驚いて目を丸くする和彦に、千尋はにんまりと笑いかけてきた。 「いっぱい撫でてよ。俺、先生が何げなく頭と

    last updateLast Updated : 2026-03-19
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