Beranda / BL / 血と束縛と / 第18話(24)

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第18話(24)

Penulis: 北川とも
last update Tanggal publikasi: 2026-03-07 17:00:39

「下で、うちの者たちが騒然となっていたぞ。お前がここに足を運ぶなんて、滅多にないからな。来るのは歓迎だが、せめて事前に連絡ぐらいしろ」

「だったら俺も言わせてもらうぞ。――勝手に俺の〈オンナ〉を連れ出すな」

 威嚇するように賢吾が低い声を発する。普通の人間なら、何かしら危険なものを感じて体が強張るだろう。和彦も例外ではなく、ビクリと身をすくめる。だが、さすがというべきか、守光は楽しげに口元を緩めている。千尋のほうは、巻き込まれたくないとばかりに和彦の側に寄ってきた。

「先生は、うちの組で大事にしているんだ。ジジイの茶飲みにつき合わせるぐらいなら大目に見るが、得体の知れない輩がうろついている本部に連れ込むなら、まず俺の許可を取れ」

「息子と孫が大事にしている先生を、わしの自宅に呼んだだけだ」

「それだけじゃねーから、わざわざ俺が出向いたんだ。……俺が来なかったら、素直に先生を帰す気はなかっただろ」

「どうかな」

 遠慮のないやり取りは、父子だからこそだろうが、和彦はどうしても、二人から
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  • 血と束縛と   第43話(36)

     再び歩き出したとき、南郷はいくらか歩調を緩め、こちらのペースに合わせ始める。この男の見た目に似合わぬ気遣いがもともと苦手だったが、今はさらに拍車がかかっていた。和彦自身のことなどどうでもよく、守光と賢吾のために、〈オンナ〉を丁寧に扱ってやっていると、そんな南郷の心の声が聞こえてきそうなのだ。 自意識過剰だと、あるいは被害妄想だと嗤われるかもしれないが――。 ふと南郷が振り返り、何もかも見透かしたような一瞥を寄越してくる。和彦は身構えた。「何か……?」「いや……。あんたは、この先にある場所に行ったことがあるか?」 南郷が指さしたのは、車も通れないほどの細い道だった。一瞬、和彦が表情を緩めると、それで南郷は察した。「あるようだな。この先は、いい散歩コースになってる。暖かい時期は釣りや水遊びが楽しめるんだが、さすがに今はな」 知っていると、心の中で頷く。和彦にとっては、微笑ましい思い出を作った場所でもあるのだ。千尋とは雪に塗れてはしゃいだし、三田村や中嶋とはのんびりと釣りを楽しんだ。 そんな場所に南郷と行きたくないなと思ったが、あまりに子供じみた感傷かと、表に出さないよう努める。「――俺はもう、何者にもなれない男だ」 数歩先を歩く南郷が唐突に切り出す。それが自分にかけられた言葉だとわかり、和彦は軽く目を見開いた。「えっ……?」「薄汚い野良犬が、ここまで成り上がれたんだ。望外の出世というやつだ。それもこれも、オヤジさん……長嶺の男たちのおかげだ」「ぼくは……、あなた個人に興味はありません」「だが、俺が、長嶺の男たちに与える影響には、興味があるだろ?」 南郷は前を向いたままで、どんな表情で言ったのか知ることはできない。ただ、和彦を挑発するために言っているわけではないと、不思議な確信はあった。「俺は、オヤジさんが築いてきたもの、築こうとしているものを守りたい。要はそれだけだ。結果としてそれが、あとに続く長嶺の男たちのためになる」「&

  • 血と束縛と   第43話(35)

     それでも、吐いてしまえば、驚くほど楽になった。体調が悪いというより、過度な緊張に胃が耐えられなかったのかもしれない。 和彦はトイレットペーパーで口元を拭って流したあと、ドアに目を向ける。気配を感じたわけではないが、この向こうに南郷がいると確信があった。このまま閉じこもっていると、こんなドアなど簡単に蹴破って押し入ってくるだろう。 おそるおそるドアを開けると、タオルを手にした南郷が立っていた。和彦は何も言わず洗面台で口をすすぐと、差し出されたタオルを受け取る。「レトルトだが、お粥がある。温めようか?」 ダイニングに戻る途中で南郷から提案されたが、和彦は首を横に振る。「サンドイッチ、もう少し食べます。……体調が悪いわけじゃないんで」「まあ無理はしないでくれ」 改めてテーブルにつくと、南郷は紅茶を淹れ直し始める。 見た目からは想像もつかないような南郷の甲斐甲斐しさには、覚えがあった。隠れ家だというもとは保育所だった建物に連れて行かれたときのことだ。皮肉を言われながらも世話を焼かれたが、あのときも、そして今も、もちろん心は動かない。 ただ和彦がどう受け止めようが、南郷には関係ないだろう。重要なのは、〈佐伯和彦〉という存在に利用価値があるという一点のみのはずだ。 和彦は、苦い事実をサンドイッチと共にじっくりと噛み締める。自身の勝手な行動のせいで、総和会に付け込まれたのだ。 情けなくて泣きたくなったが、そんな権利すら今の自分にはないだろう。和彦はぐっと奥歯を噛み締めたあと、無理やりサンドイッチの残りを胃に収めた。** 朝食のあと和彦は、部屋に戻る気にもなれず、別荘の敷地内を歩き回る。守光についている総和会の人間も大半が引き揚げたのか、離れの様子をうかがっても、人の気配は乏しい。当然、吾川の姿も見かけない。 一刻も早くここを出たい和彦としては、このまま軟禁状態が続くのではないかと、気が気でなかった。 庭に出て、南郷が設置したという電気柵の前でしばらく立ち尽くしていたが、ワイヤーに触れてみる勇気もなく、結局、ため息をついて引き返す。 

  • 血と束縛と   第43話(34)

    ** 寝起きの気分は最悪だった。 和彦は布団の中で、体の節々が痛んでいることを確かめると、慎重に体を起こす。部屋の暖房が効きすぎており、額や首筋がじっとりと汗ばんでいた。 頭はぼうっとしており、すぐには思考が働かない。そもそも昨夜、自分はどうやって部屋のベッドに入ったのかすら、記憶は曖昧だ。 和彦は、カーテンの隙間から差し込む弱々しい陽射しを漫然と眺める。そうしているうちにやっと、自分の身に起こった出来事が蘇ってきた。 慌ててベッドから出ると、はっきりと筋肉痛を自覚する。もちろん、それだけではなく――。 和彦は唇を噛むと、落ち着きなく室内を歩き回る。そうしているうちに、ようやく思考が正常さを取り戻す。大きく息を吐き出したあと、ひとまずカーテンを開けた。 厚い雲の合間から、陽が差している。どこか神秘的ですらある光の帯がうっすらと伸びていたが、雲が流れたことによってあっという間に消えてしまう。そこで和彦も我に返った。 時計を見れば、午前九時を少し過ぎている。いつもより遅めの起床となったが、あまり眠った気はしない。 また横になりたい誘惑に駆られた和彦だが、ゆっくりしている場合ではないとすぐに思い直す。とにかくここを出たかった。こんなところに閉じ込められたままでは何もできないことは、昨夜痛感した。 ため息をついて再び窓の外を見ようとしたとき、突然、ドアをノックされる。和彦はビクリと体を震わせ、声も出せずにその場に立ち尽くす。 再びのノックはなく、いきなりドアが開いた。「――起きてたか、先生」 のっそりと部屋に入ってきた南郷が、和彦の姿を認めるなりニッと笑いかけてくる。その表情に馴れ馴れしさを感じたのは、ある種の被害妄想かもしれない。和彦は直視できず、反射的に顔を背ける。「下りてきて、朝メシを食ってくれ」 昨夜のことなど一切匂わせない南郷の言葉に、一瞬激高しかける。しかし、怯えが上回ってしまう。「食欲はないです……」「まあそう言わず、一口、二口でいいから、口をつけてくれ」「いりませんっ。放っておいてくださいっ―

  • 血と束縛と   第43話(33)

     無謀なことをしているとわかってはいるが、あの場を逃げ出さずにはいられなかった。このままでは守光の野心に食らい尽くされてしまうと、本能的に悟ったからだ。 せめて、抵抗の意思だけでも示さなければ――。 そんな和彦の想いは、しかしすぐに揺らぐことになる。 午前中、南郷の運転する車で通った道は、今は真っ暗だった。遠くにぽつんと街灯の明かりが見えるが、だからこそ別荘周囲の暗さが際立つ。足元さえよく見えないのだ。 慎重に歩き出しはしたものの、まだ残っている雪に足を取られそうになる。こんな状態で人家がある場所まで行けるはずもないが、前に進むしか和彦にはなかった。 サンダル履きで剥き出しとなっている爪先はすでに感覚がなくなっている。息をするたびに冷気が肺に突き刺さり、もうすでに息苦しい。ふらついた拍子に、道の脇に転がり落ちそうになり、咄嗟に木にすがりつく。地面に落ちた毛布を拾い上げる気力もなくなっていた。 このままではすぐに凍死するのではないかと、ふとそんなことが脳裏を掠める。思考まで凍り付きそうになっており、それもいいではないかと和彦が投げ遣りになった瞬間、まるで戒めるように、賢吾の顔が思い浮かんだ。 賢吾だけではない。自分に情を注いでくれた男たちの顔が次々と。「ふっ……」 嗚咽を一つこぼし、和彦はその場に立ち尽くす。もう、前にも進めなくなっていた。 耳元で聞こえる風の音に交じって、背後から近づいてくる音があった。半ば確信して振り返ると、懐中電灯らしき明かりがちらちらと揺れながら、こちらに近づいていた。しかも複数。 明かりに目を射抜かれて顔を背けていると、足音が側までやってくる。「そんな格好でいると、風邪をひきますよ」 声をかけてきたのは吾川だった。その後ろに二人の男たちがついているが、南郷はいない。 男の一人からダウンジャケットを受け取った吾川が、和彦の肩にかけてくれる。「さあ、別荘に戻りましょう。すぐに、温かい飲み物を準備しますね。落ち着いたら、部屋で休みましょう。やっぱりリビングだと、ストーブをつけていても寒いですから。ああ、飲み物と一緒に、鎮痛剤も出しておきま

  • 血と束縛と   第43話(32)

    「ぼくに、長嶺の男たちの側にいてほしいと言いながら、どうして、南郷さんと……」「あんたが、その長嶺の男たちにとって、大事で可愛いかけがえのないオンナだからだ」 会話が堂々巡りに陥りそうになっているのを察し、和彦は強い苛立ちを表に出す。守光は肝心なことを誤魔化そうとしているのではないかとすら考え始めていた。「――賢吾の大事なものが欲しかったそうだ」 和彦は数秒息を詰めたあと、ゆっくりと目を見開く。ぽんっと投げて寄越された守光の言葉を、すぐには受け止めきれなかった。「自分とは何もかもが違う特別な男と、同じものを手にしてみたいと……、そう、南郷は言っていた。わしが、何か欲しいものはないかと聞いたときに」「それが、ぼくだと……?」「ああ。あんたをわしのオンナにした時点で、南郷の希望を叶えることはできたが、それではあまりに情緒がない。だから少し無茶もしたが、あんたを南郷という男に慣らしていった。あんたの持つ性質なら、情を抱いて南郷を受け入れてくれるかもしれないと期待をしていたが、南郷のほうがよくわかっていたよ。あんたはそうはならないだろうと。ただ、だからこそ、互いに溺れることはないだろうと言われて、なるほどと納得した」 穏やかな口調で、この人は一体何を言っているのだろうかと、和彦は瞬きも忘れて守光を凝視する。自覚はなかったが、足が小刻みに震えていた。もちろん、寒さからではない。 自分の隣に座っているのは人の皮を被った怪物だと実感していた。「できることならもっと時間をかけて様子を見たかったが、あんたが佐伯家に里帰りすることになって、予定が変わった。あんたには、何があっても年明けにはこちらに戻ってきてもらわねばならん」 和彦は自分の膝をぐっと押さえつけてから、頭に浮かんだ疑問を口にした。「あんなことをされて……、ぼくが戻ってくると考えているんですか?」「仮にあんたが戻らないとして、どんな事態が起こり得るか、想像を働かせてみるといい。佐伯俊哉という男が、わざわざわしと連絡を取り合っていたのは、相応の理由がある。わ

  • 血と束縛と   第43話(31)

     大蛇が棲む肌の下に満ち満ちていたのは敵意だと、和彦は感じ取っていた。 それは、根拠のない噂によるものかと、浅薄に判断していた自分がいまさらながら口惜しい。賢吾はずっと、南郷を危険な存在として警戒していたのだ。それは和彦も同じだったが、まったく足りなかった。 もっとも、和彦のような存在がいくら警戒したところで、結果は見えていたが。「――眠れんのかね」 前触れもなく声をかけられ、危うく悲鳴を上げそうになる。振り返ると、丹前姿の守光が立っていた。口ごもる和彦にかまわず、守光がソファに歩み寄ってくる。仕方なく毛布を端によけた。「何か酒でも準備させようか」 隣に腰掛けた守光の言葉に、和彦は首を横に振る。「けっこうです……」「少しぐらい酔ったほうが、口も軽くなる。その勢いでわしを罵ってくれてもかまわんのだが」 この瞬間、和彦はカッとした。「あなたはそんなっ――」 腰を浮かせかけたところで、さんざん押し広げられた部分がズキリと痛んだ。狼狽した和彦はすぐに勢いをなくし、ソファに座り直す。そんな和彦を、守光は静かな目で見つめていた。「休む前に、鎮痛剤を持ってこさせよう。そうなると、酒はやめておいたほうがいいな」 守光は話をしたがっているらしく、和彦がどれだけ黙り込んでも立ち上がろうとはしなかった。 一方の和彦も、聞きたいことはいくらでもあるが、まだ頭は混乱しており、動揺もしている。しかし、今を逃せば、何も聞き出せない気がした。 傷ついた〈オンナ〉に、守光が多少なりと憐憫の情を抱いているなら、利用しない手はない。そう打算的に考える自分に、自己嫌悪に陥りそうになりながら、ようやく和彦は口を開いた。「……どうして、ぼくなんですか」 吐息を洩らすようにして守光は笑った。「夕方、あんたは、わかったような気がすると言っていたんじゃないかね」「それは……、あなたが、ぼくに興味を持った理由です。でも南郷さんは……」「同じだよ。賢吾が、あんたに興味

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