Inicio / BL / 血と束縛と / 第21話(10)

Compartir

第21話(10)

Autor: 北川とも
last update Fecha de publicación: 2026-03-21 17:00:27

 さっそく和彦がスプーンを手にすると、さりげなく中嶋が言った。

「いろいろと理屈を並べてますが、単純に、俺は先生を好きなんです。もちろん、秦さんも先生を好きですよ」

 和彦は、ナンを千切っている中嶋をまじまじと見つめてから、ぼそりと応じる。

「ぼくも、君は好きだ」

「光栄ですね、先生にそう言ってもらえて」

 ここで二人は、食えない笑みを交わし合う。ヤクザのオンナとヤクザがカレーを前にして、こうして互いの腹を探り合っているとは、誰も思いはしないだろう。普通に過ごしている限り、和彦も中嶋も、表の世界によく馴染む外見をしているのだ。

 野菜カレーをまず口にして、その味に和彦は満足する。中嶋からエビカレーを少し分けてもらい、代わりに和彦は、チキンカレーを食べてもらう。

 ラム肉のタンドール焼きを味わっていた和彦は、店内に一人で入ってきた男に目を留めた。食事を始めてから数組の客の出入りを見たが、一見して違和感を覚える。なんとなくだが、食事に訪れたようには見えなかったのだ。

 和彦の直感は当たったらしく、スタッフ
Continúa leyendo este libro gratis
Escanea el código para descargar la App
Capítulo bloqueado

Último capítulo

  • 血と束縛と   第21話(12)

     和彦は、鷹津に言われた通りの場所を告げる。なぜか中嶋は、意味ありげな眼差しを寄越してきた。「なんだ……」「先生、知ってます? そこ、夜景がきれいだということで、ちょっとしたデートスポットなんですよ」 和彦の脳裏で、鷹津が皮肉っぽい笑みを浮かべている。「……嫌がらせだな。あの男なら、絶対そういう陰湿なことをやる」「あの男?」「鷹津――、前に、ぼくとお茶を飲んでいた刑事だ。君にも紹介して、確か携帯で隠し撮りをしていただろ」 悪びれた様子もなく、ああ、と声を洩らして中嶋は頷いた。「それで、本当にデートなんですか?」「笑えない冗談だな……。あの男にはいろいろと調べてもらっているんだ。組関係じゃなく、何かと厄介なぼくの実家のことを」 ウソではないが、事実でもない。総和会だけではなく、賢吾とも繋がっている中嶋を相手に、何もかも打ち明けるわけにはいかなかった。面倒を避けるなら、一人で鷹津と会うのが一番なのだろうが、和彦をマンションに送り届けることなく中嶋が一人で帰るはずもなく、だからといって、マンションに帰宅してから鷹津を呼び出すのも時間がかかる。 あまりコソコソしすぎて、余計な疑念を周囲の男たちに持たせる事態は避けたかった。 心の中で何を考えているかはともかく、中嶋は深く詮索することなく、目的地まで車を走らせてくれる。後部座席で物思いに耽っていた和彦は、あることを思い出し、いつも持ち歩いているアタッシェケースを膝の上に置いて開いた。 人に見られても困らないような書類しか基本的に持ち歩かないのだが、バレンタインデーを過ぎてから、ある包みも一緒に入れている。まさに、今夜のような状況に備えてのことだ。 鷹津が指定した場所に向かうまで、和彦はちょっとしたドライブ気分を味わった。車のライトや照明、ネオンで明るい街を抜け、静かな住宅街へと入り、そこからさらに高台に向かっているのだが、景色が変化に富んでいる。「暖かい時期だと、この時間でもけっこう車の行き来があるんですが、さすがに今は少し寒いのか、車がまったく通りませんね」

  • 血と束縛と   第21話(11)

     守光と顔を合わせてから、和彦と総和会の関係は一気に近くなった。それは、知りたくない事情を知る機会が増えたということで、下手をすれば足元を掬われかねない。 それでなくても和彦は、〈長嶺の守り神〉と関係を持っている。目隠しの布一枚分の建前だが、総和会会長のオンナになったわけではないと、強弁できる。ギリギリのところで、複雑な総和会の事情に巻き込まれずに済んでいるのだ。 それとも中嶋は、すでに和彦が、守光と特殊な関係にあると考えているのだろうか――。 和彦は無意識のうちに、探るような眼差しを中嶋に向ける。すると、なんの前触れもなく中嶋が顔を上げた。ドキリとした和彦は、不自然に視線を逸らすこともできずうろたえる。じろじろと見ていたことを気づかれたのだろうかと思ったが、そうではなかった。「――先生、携帯鳴ってませんか?」 中嶋にそう言われて初めて、携帯電話の微かな震動音に気づく。傍らに置いたコートのポケットから取り出して表示を確認すると、鷹津の携帯電話からだった。軽く眉をひそめた和彦は、一瞬逡巡してから電源を切る。食事の最中に、鷹津と話をするためだけに席を立つのは抵抗があった。 和彦の行動に、中嶋は目を丸くする。「いいんですか? 遠慮なく出てもらっても――」「食事が終わってからかけ直す」 中嶋と一緒であることは、護衛の人間を通して長嶺組に把握されている。仮に急ぎの仕事が入ったとしても、中嶋経由で連絡が入るはずだ。 食事を続けながら和彦は、鷹津の電話の用件を想像する。考えられることは、一つしかなかった。和彦が調査を依頼していた件だ。 鷹津などいくらでも待たせればいいと頭の半分では思うが、残りの半分で、調査の結果が気になるし、蛇蝎の片割れである男の機嫌を損ねる厄介さも無視できない。「デザートとチャイを持ってきてもらいますか?」 気を利かせた中嶋に提案され、苦笑しつつ和彦は頷いた。** インド料理屋と同じフロアには、飲食店だけでなくさまざまなショップが入っている。少し見てきてもいいですかと言って、誘われるように中嶋が入っていたのは、インテリア雑貨屋だった。 一体何

  • 血と束縛と   第21話(10)

     さっそく和彦がスプーンを手にすると、さりげなく中嶋が言った。「いろいろと理屈を並べてますが、単純に、俺は先生を好きなんです。もちろん、秦さんも先生を好きですよ」 和彦は、ナンを千切っている中嶋をまじまじと見つめてから、ぼそりと応じる。「ぼくも、君は好きだ」「光栄ですね、先生にそう言ってもらえて」 ここで二人は、食えない笑みを交わし合う。ヤクザのオンナとヤクザがカレーを前にして、こうして互いの腹を探り合っているとは、誰も思いはしないだろう。普通に過ごしている限り、和彦も中嶋も、表の世界によく馴染む外見をしているのだ。 野菜カレーをまず口にして、その味に和彦は満足する。中嶋からエビカレーを少し分けてもらい、代わりに和彦は、チキンカレーを食べてもらう。 ラム肉のタンドール焼きを味わっていた和彦は、店内に一人で入ってきた男に目を留めた。食事を始めてから数組の客の出入りを見たが、一見して違和感を覚える。なんとなくだが、食事に訪れたようには見えなかったのだ。 和彦の直感は当たったらしく、スタッフに何か言った男はさっと店内を見回してから、まっすぐこちらにやってくる。セーターの上からダウンジャケットを羽織った、ラフな格好をした若者だ。年齢は千尋と同じぐらいに見えるが、持っている空気がおそろしく鋭い。「――お食事中、すみません」 若者はテーブルの傍らに立つと、一礼して低く抑えた声を発した。それを受けて、ここまで寛いだ様子を見せていた中嶋が表情を一変させる。口元には笑みを湛えながらも、冴えた目で若者を一瞥した。「上手く進んだのか?」 中嶋の問いかけに若者は頷く。「明日の朝、中嶋さんに立ち合って確認してほしいんですが」「わかった。今日はもういい。他の連中はまだ一緒に?」「車に待たせています」 二人のやり取りを聞きつつも、和彦は素知らぬ顔をして食事を続ける。賢吾とも食事をしていると、よくあることなのだ。立ち入ってはいけない話が多すぎるので、こうして聞こえていないふりをするのが一番無難だし、相手を警戒させないで済む。 中嶋は自分の財布を取り出すと、数枚の万札を若者に渡した。

  • 血と束縛と   第21話(9)

    「連れてきてから聞くのもなんですが、先生、香辛料が効いた料理は大丈夫ですか? ビルの中にいくらでもレストランはあるので、遠慮なく言ってください」「匂いを嗅いだだけでお腹が空いた」 和彦の言葉に、中嶋はちらりと笑みを見せる。「よかった。秦さんに教えてもらって、最近通うようになった店なんです」 テーブルにつくと、さっそく中嶋はカレーのディナーコースを頼む。その間和彦は、コートを脱いで隣のイスに置き、混雑する店内を見回す。複合ビルだけあって、商業施設だけでなく企業のオフィスもたくさん入っているためか、いかにも会社帰りといった様子の人も多い。 表向きは健全なクリニック勤めの和彦はともかく、きちんとスーツを着て、見た目はごく普通のハンサムな青年である中嶋は、こういう場ではよく馴染む。 頬杖をついた和彦がじっと見つめていると、視線に気づいたのか、中嶋が首を傾げた。「どうかしましたか、先生。そういう悩ましい目で見られると、ドキドキするんですが」「言うことが、本当に秦に似てきたな――」 ここで和彦は姿勢を正す。さきほど車内で交わした会話もあり、純粋な好奇心からこんなことを尋ねていた。「君は、バレンタインはどうだったんだ。秦と一緒に過ごしたのか?」 唐突な和彦の質問に、さすがの中嶋も虚をつかれたのか目を丸くする。いくら秦の影響を受けようが、ここで澄ました表情で返せないのが、中嶋らしい。ヤクザに見えない切れ者ヤクザも、プライベートな話題にはガードが甘い。「チョコレートは渡したのか? それとも渡されたほうなのか?」「……すごい話題で攻めてきますね、先生」「ぼく相手に、バレンタインという単語を持ち出したほうが悪い」 車内での会話を思い出したのか、ああ、と声を洩らした中嶋は、予想外の反撃をしてきた。薄い笑みを浮かべつつ、堂々とこう言ったのだ。「バレンタインデーに、チョコの代わりに秦さんと買いに行ったんですよ。――一緒に寝るためのベッドを」 和彦はさりげなく左右のテーブルに視線を向けてから、抑えた声で応じる。「順調そうだな」「もう秦さん

  • 血と束縛と   第21話(8)

    **** 和彦は、ここ最近忙しさもあってサボりがちだったジムに行き、体を動かしていた。忙しいとはいっても、基本的に座り仕事が多いし、移動は車だ。気を抜くとすぐに運動不足になる。数年ぶりに熱を出して寝込んだことで、普段からの体作りの大切さを思い知った。 ランニングマシーンでたっぷり走ってから、軽めのメニューをこなし、ウェイトコーナーに向かう。置いてあるベンチに横になり、腹筋のトレーニングをしてみたが、やはり少し筋力が落ちているようだ。 クリニックを開業してから、ようやく生活のリズムが掴めてきたところなので、ジム通いの回数を元に戻そうかと和彦は考えている。組からの仕事が入らなければ、比較的夜は時間が取れるのだ。ただし、賢吾に勝手に予定を押さえられなければ、という前提で。「――あまり、病み上がりという感じじゃないですね、先生」 ベンチの傍らに立ったジム仲間に声をかけられ、和彦は首の後ろで組んでいた両手を離す。 久しぶりに体を思いきり動かして汗だくになっている和彦とは違い、中嶋は首筋や額にうっすらと汗をかいている程度だ。日常的に体を動かしている人間とは、こういうところで差が出るらしい。「サボっていたツケだな。体が重くて仕方ない」 中嶋に片手を差し出され、その手を掴んで和彦は体を起こす。館内の時計を見上げると、二時間近く、無心に体を動かしていたようだ。「そろそろシャワーを浴びに行きませんか?」 中嶋の言葉に頷き、和彦は立ち上がる。クリニックを閉めてから、この後、中嶋と一緒に夕食をとるのだ。 今晩ジムに行くと、和彦が中嶋の携帯電話にメールを送り、中嶋の都合がつけばこうして合流する。お互い忙しいうえに、いつ仕事で拘束されるかわからない境遇なので、不確実な約束を交わすより合理的で、気楽なのだ。 今日はもう、ジムで中嶋と顔を合わせた時点で、護衛の組員には帰ってもらっている。時間を気にせず、中嶋と食事を楽しむためだ。 慌しくシャワーを浴びて髪を乾かすと、ジムのロビーに下りる。すでに中嶋は待っており、携帯電話で誰かと話している。和彦の姿を見るなり電話を切り、一緒に車に向かう。

  • 血と束縛と   第21話(7)

     賢吾と千尋は、奔放に乱れる和彦をじっと見つめていた。興奮して強い光を放つ目は怖くもあり、優しくもある。向けられる眼差しにすら、和彦は反応してしまう。「……先生、もうイク?」 甘えるような声で千尋に問われ、頭の中が真っ白に染まるのを感じながら夢中で頷く。すると、内奥深くを抉るように突き上げられた。一度目で全身が快感に痺れ、二度目で瞼の裏で閃光が走る。一拍遅れて、下腹部が濡れるのを認識した。二人の男たちが見ている前で精を放ったのだ。 和彦のその姿に刺激されるものがあったのか、ふいに賢吾が内奥から欲望が引き抜く。そして傲慢な表情で、和彦の胸元に向けて精を迸らせた。 賢吾としては、〈オンナ〉を精で汚すことで所有欲を満たしたのかもしれない。被虐的な悦びに浸りながら和彦は、そんなことをぼんやりと考える。「さあ先生、甘ったれの子犬が待ちかねているぞ」 和彦の頬を手荒く撫でてから、賢吾が笑いを含んだ声で囁いてくる。意味を理解したときには、弛緩した和彦の体はうつ伏せにされ、腰を抱え上げられた。挑んできたのは、すっかり興奮した千尋だ。「千尋、待っ――」「優しくするね、先生」 言葉とは裏腹に、蕩けた内奥の入り口に余裕なく熱いものが押し当てられた。「あうっ」 ぐっと内奥に挿入され、声を洩らした和彦は背をしならせる。賢吾の形に馴染んだはずの場所は、すでにもう千尋のものをきつく締め付け、快感を求めると同時に、甘やかし始める。千尋の息遣いが弾み、乱暴に腰を突き上げられた。「うっ、うあっ……」「先生の中、すごく、熱い。熱のせいかな。それとも、オヤジがめちゃくちゃにしたから?」 意地の悪い問いかけに答えられるはずもなく、和彦は唇を引き結ぶ。すると、いつの間にか枕元に移動した賢吾に顔を覗き込まれ、唇を指で割り開かれた。 口腔に入り込んだ指が蠢き、粘膜や舌を擦られる。内奥での律動を繰り返されながらそんなことをされると、唇の端から唾液が滴り落ちる。賢吾は目を細めて言った。「いやらしくて、いい顔だ。加虐心をそそられて、めちゃくちゃにしたくなる」

  • 血と束縛と   第6話(32)

    「まあ、ぼくに何かあるはずもないので、護衛の彼らも暇なんじゃないかと――」 ふいに、ジャケットのポケットの中で携帯電話が鳴った。取り出して見てみると、長嶺組が、和彦の護衛に就く組員に渡している携帯電話からだ。 何事かと思いながら電話に出た和彦は、すぐに緊迫した空気を感じ取った。「何かあったのか?」『先生、今、トラブルが起きているんで、絶対、駐車場には来ないでください』「トラブルって……」『警官の職質です。駐車場に停めた車で待機していたら、突然パトカーがやってきたんです。通報があったと。いえ

    last updateÚltima actualización : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第6話(31)

    **** 別に、やましいことはしていないのだ。 誰に対してなのか、和彦は心の中で言い訳する。やましいことはしていないはずなのに、どうしてこう、悪いことをしているような妙な罪悪感を覚えるのか――。 ガラス張りのショールームをぐるりと見回した和彦は、落ち着かない気分で髪を掻き上げる。自意識過剰のつもりはないが、この店に着いたときから、誰かに見られているような気がして仕方ない。 原因はわかっている。和彦についている、長嶺組の護衛のせいだ。「――佐伯先生、どうかしましたか?」

    last updateÚltima actualización : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第6話(8)

    ** 組事務所に顔を出した和彦を見るなり、賢吾は意味ありげな笑みを唇に刻んだ。その笑みにドキリとした和彦は、意味もなく髪を掻き上げる。「――隣に座れ」 指先で賢吾に呼ばれ、素直に従う。テーブルの上には、何枚かの書類が広げられており、和彦が見ている前で賢吾はそれを片付け始める。それを見て、他の組員たちは静かに応接室を出ていった。この場面だけを見ると、まるでどこかの会社の仕事風景だ。 組長とは、偉そうに座っていて務まる仕事ではないのだと、賢吾を見ているとよくわかる。賢吾の多忙ぶりは、ビジネスマンのそれと変わらない。そのくせ、

    last updateÚltima actualización : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第6話(26)

     すでに敷いてある布団の一つにどかっと胡坐をかいて座り込むと、片手に持っていた缶ビールを開け、豪快に飲み始める。和彦は、さりげなく部屋の隅へと移動しながら、そんな賢吾を見つめる。 昼前に目的地に着いてから、賢吾たちは病院に向かったが、和彦だけは組員一人を運転手としてつけられ、なぜか観光地巡りをさせられた。組員ではない和彦を、組員たちが集まった病室に連れて行かないだけの配慮を、賢吾はしてくれたのだ。 用意された宿は、こじんまりとして古くはあるが部屋も風呂もきれいで、いかにも温泉地にある宿といった風情を持っていた。観光シーズンから外れているためか一般の宿泊客も少なく、

    last updateÚltima actualización : 2026-03-21
Más capítulos
Explora y lee buenas novelas gratis
Acceso gratuito a una gran cantidad de buenas novelas en la app GoodNovel. Descarga los libros que te gusten y léelos donde y cuando quieras.
Lee libros gratis en la app
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status