Se connecter「あんたは、貴重だ。長嶺の男たちと相性がよく、他の物騒な男たちも上手く手懐けて使っている。荒事が苦手な日和見主義のようでいて、肝が据わっている。だからといって、わしたちのような極道というわけではない。だが、すでに堅気でもない。あんたの存在は、この世界にいるからこそ妖しさが際立つ」
守光の手がさらに深く両足の間に差し込まれ、命じられたわけでもないのに和彦は足を開いていた。 まるで検分するように、スラックスの上から敏感なものを押さえつけられ、唇を引き結ぶ。羞恥はあったが、驚きはなかった。賢吾に強引にオンナされたばかりの頃、怒りと戸惑いを覚えている和彦に、賢吾は車中で何度も体に触れてきた。あれは、賢吾なりの和彦に対する教育だったのだ。 どんな状況であれ、どのように扱われても、受け入れなくてはならないと。それが、ヤクザのオンナになる――されたということだ。 和彦の目を覗き込み、守光は柔らかな笑みを浮かべた。見ていると怖くなるような笑みだが、和彦は目は逸らさなかった。逸らせば、多分食われる。「――忘れるな。あんたに特に価値を感じて思わず笑みを交わし合ってから、和彦はゆっくりと腰を進め、中嶋の内奥に欲望を沈めていく。 初めて味わう感触だった。和彦を受け止めてくれる部分はひどく狭いが、だからといって頑なというわけではなく、うねるように蠢き、熱く滑っている。和彦自身が指で解したおかげだ。 深々と中嶋と繋がり、大きく息を吐き出す。蠢く襞や、吸い付いてくるような粘膜の感触をじっくりと堪能できるだけの余裕はあった。いままで体験したことのない感覚は新鮮で、中嶋の上で和彦は背をしならせる。そんな和彦を見上げて、中嶋は目を細めた。「色っぽいですね、先生。俺の中に先生がいるのに、たまらなく先生を抱きたくなる」「なんだか……恥ずかしいな」 中嶋に頭を引き寄せられ、じゃれ合うような軽いキスを交わす。そのうちキスは熱を帯び、深い口づけとなり、差し出した舌を濃厚に絡め合う。和彦は狂おしい衝動に背を押されるように、慎重に腰を動かし始めていた。「あっ、あっ……」 中嶋の唇から声が洩れる。収縮を繰り返す内奥に欲望をきつく締め付けられ、和彦も呻き声を洩らす。 いままで男たちは、自分をどんなふうに愛して、快感を与えてくれたか、頭ではわかっているのに体が思うように動かない。こんな形で同性の体に触れることに、少し戸惑っているのだ。 和彦の気持ちを見抜いたように、中嶋が息を喘がせて言った。「先生は、俺に〈オンナ〉の悦びを教えてくれて、秦さんと関係を持つ後押しをしてくれた。だったら俺が今度は、先生の望みを叶えますよ。――先生は、今何を望んでいます?」 和彦は、下肢に絡みつくようだった守光の愛撫を思い出し、肉の疼きを覚える。「……少しだけ、オンナの立場を忘れたい……」「堅苦しいですよ。もっと楽な気持ちで、俺とセックスしましょう」 思わず顔を綻ばせた和彦だが、次の瞬間には表情を引き締める。中嶋の片足を抱えると、ゆっくりと律動を刻み始めた。 内奥を擦り上げるたびに、身震いしたくなるような感覚が和彦の背筋を這い上がる。中嶋も、身を捩り、仰け反りながら
和彦と中嶋は、まず互いの体に触れ合うことを、次に、快感を引き出すことを楽しみ始める。高ぶった欲望をすぐに爆発させてしまうのはもったいない気がした。やりたいように相手に触れ合い、感じ合い、そうしているうちに、意識が切り替わっていくようだ。〈オンナ〉という意識が。「ヤクザに目をつけられる前まで、ぼくにとってのセックスは、純粋に楽しむものだった。相手が何者かなんて関係なかったし、束縛もし合わない。気ままに、気楽な関係を持って――長続きはさせない。だけどそれが、性に合っていた」「今は、まったく逆でしょう。先生に触れられる相手は限られていて、セックス一つにいろんな事情が絡み合う。だからこそ先生は執着されて、大事にされて、束縛される。この世界で生きる限り、そんな状況はずっと続く」「君とのセックスに惹かれる理由は、そこにあるのかもな。君相手なら、ぼくは自由に振る舞える」 中嶋のものが、先端から透明なしずくを滴らせ始める。反り返った形を指先でなぞった和彦は、さきほどのお返しとばかりに、中嶋の内奥に指を挿入していく。声を堪えるように唇を引き結んだ中嶋だが、和彦が指を動かすと簡単に声を洩らすようになる。「秦に、慣らされているようだな」 奥まで突き入れた指をきつく締め付けられ、和彦は口元に笑みを刻む。発情した襞と粘膜が絡みつき、吸い付いてくるようで、その感触だけで和彦の体は熱くなってくる。 中嶋の片手が伸びてきて、和彦の欲望に触れられる。腰を密着させ、熱く濡れそぼった欲望を再び擦りつけ合っていたが、先に限界を迎えたのは中嶋だった。 和彦の体はベッドに押さえつけられ、しなやかな獣のように中嶋がのしかかってくると、両足をしっかりと折り曲げるようにして抱え上げられた。「ううっ……」 内奥を、中嶋のものによってこじ開けられる。この瞬間、和彦が感じたのは痛みでも苦しさでもなく、身を捩りたくなるような肉の愉悦だった。襞と粘膜を強く擦り上げられ、喉を反らして呻き声を洩らす。緩やかに内奥深くを突かれてようやく、下腹部に重苦しさが広がったが、それすら、すぐに快感と区別がつかなくなる。 自分にとって男を受け入れることとは、苦痛も快感も大差ない
「あのときは、本当に迷惑をおかけしました。それに、お世話になりました。俺自身、どうなることかとビクビクしていたんですが、結果として、何もかもいい方向に転んだ。先生のおかげですよ」「……ヤクザにそこまで感謝されると、かえって怖いんだが……」「大丈夫ですよ。怖いことも、痛いこともしません」 ふいに沈黙が訪れる。和彦は目を見開いて、ハンサムな青年の横顔を凝視していた。今言われた言葉を頭の中で反芻してようやく、中嶋がどういう意図から自分を誘ったのか理解する。 和彦は小さく声を上げると、口元に手をやった。中嶋は短く笑い声を洩らす。「そう、深刻な顔をしないでください。少なくとも俺と先生の関係は、重たい事情も理屈も絡んでいない。俺の問題を先生は解決してくれて、あとに残るのは、気楽な友人関係と、享楽的な体の関係だけです」「そう言われると、なんだかずいぶんな関係だな。君とぼくは」「だけどこの世界じゃ、俺と先生の関係は、唯一無二のものですよ」 信号待ちで車を停めると、素早くシートベルトを外した中嶋が身を乗り出してくる。やや強引に唇を塞がれたが、次の瞬間には和彦は、中嶋と激しく唇を吸い合っていた。** 中嶋との関係は本当に不思議だと、裸の体を擦りつけ合いながら、つい和彦は思っていた。他の男たちのように執着や愛情で繋がっているわけでもないのに、それでも体と心は欲情するのだ。それでいて、普段の関係はあくまで穏やかだ。 中嶋には秦という存在がいる以上、自分とのことはやはり浮気になるのだろうかと、ちらりと頭の片隅で考えて、なんだか和彦はおかしくなった。 複数の男と同時に関係を持つ自分が、他人の関係をとやかく言う権利はないと思ったのだ。何より、中嶋自身が気にしていないだろう。 せっかくビールを買い込んできたというのに、それを味わう間もなく、衝動に突き動かされて二人でベッドに倒れ込んでいた。あとは夢中だ。貪るような口づけを交わし、互いの肌に唇と舌を這わせて、欲望を高めていく。 和彦の両足の間に腰を割り込ませて、中嶋が熱くなったものを押しつけてくる。も
**「――そういえば先生、もう聞いていますか? 総和会の護衛の件」 鶏すきの締めとしてうどんまで堪能したところで、唐突に中嶋が切り出してくる。和彦は首を傾げた。「なんのことだ……?」「俺もちらっと小耳に挟んだ程度で、まだ本決まりというわけではないみたいですが――」 中嶋が口にしたのは、思いがけないことだった。和彦の護衛に、総和会の人間をつけるという話が出ているというのだ。総和会が仲介となる仕事も増えてきたため、長嶺組だけに和彦の護衛という負担を押し付けるのは如何なものか、ということらしい。 長嶺組組長のオンナという立場があるにせよ、表向きは一介の医者でしない和彦を、総和会が気にかけるには相応の理由がある。和彦には、その理由は一つしか思いつかなかった。 もちろん、耳聡い組関係者も薄々とながら事情を察しているだろう。和彦の目の前にいる青年も例外ではない。 澄ました顔でウーロン茶を飲み干した中嶋は、これが本題だと言わんばかりに問いかけてきた。「先生は先日、うちの会長と旅行に出かけたんですよね?」「……成り行きで。総和会会長直々に誘われて、断る余地があるはずないだろう。……もっとも、それだけじゃないんだが」「何かあったんですか」 和彦は自嘲気味に唇を歪める。なんとなくこのとき、アルコールが欲しいなと思った。実は今晩、秦からの食事の誘いに乗ったのは、心に溜まる重苦しい気持ちを一時でも忘れたかったからだ。 総和会会長の〈オンナ〉になったという事実は、和彦の肩にズシリとのしかかり、その重圧に気持ちが押し潰されてしまいそうだ。 逃げられないなら、受け入れるしかない。その覚悟はしたつもりだが、長嶺守光という存在を間近に、そして体の内で感じてしまうと、和彦の覚悟など簡単に揺れる。 昨日、車内で受けた守光の愛撫が、まだ下肢に絡みついているようだ。我ながら忌々しいほど簡単に、和彦の体は反応した。守光に求められて疼いた欲望と高揚感を否定する気はない。和彦は、求められると弱い。特に、長嶺の男に。「
障子を開けると、中嶋が一人、手持ち無沙汰な様子でテーブルについていた。そんな中嶋を見て、和彦は即座に疑問を感じた。「……秦は?」 コートを脱ぎながら問いかけると、中嶋は軽く肩をすくめる。「急な出張です。しかも、海外」「それは本当に急だな。夕飯を一緒にどうかとメールを送ってきたのは、今日の午前中だったのに」 和彦はイスに腰掛け、傍らにコートを置く。すでに料理を注文しておいたのか、すぐに店員たちが、鍋や皿に盛った食材を運んできて、二人が見ている前で手早く調理を始めた。「今日は、鍋を食べないかと言って秦に誘われたんだ」「鶏すきですよ。これからどんどん暖かくなってきて、鍋料理を食べる機会も減ってきますから。――仲がいい者同士、鍋をつつき合うのに憧れていたみたいです、秦さんは」 このとき和彦は、自覚もないまま奇妙な表情をしたらしい。中嶋はヤクザらしくない、軽やかな笑い声を上げた。 和彦としては、中嶋と秦とどんな顔をして会おうかと、多少なりと緊張してここまで足を運んだのだ。なんといっても、大胆で淫靡な行為に及んだ〈仲がいい者同士〉だ。ただ、居心地が悪い――気恥ずかしい思いをするとわかっていながら、誘いに乗ったのには理由がある。「……憧れていた本人が、出張でこの場にいないというのも、ついてないな」「まあ、仕方ありません。重要な人から、重要な仕事を仰せつかったようなので」 意味ありげな中嶋の物言いで、すぐに和彦はピンときた。だからといって、ここで長嶺組組長の名を出すわけにもいかず、曖昧な返事をする。「へえ……。自分の店もあるのに、大変だな」「その店を順調に営めるのも、後ろ盾があってのことだから、と本人は笑ってましたよ。……とはいっても俺は、行き先も仕事の内容も、教えてもらってないんですけどね。なんといっても、所属する組織が違いますから」「拗ねているのか?」 中嶋が目を丸くしたところで、飲み物が運ばれてくる。車の運転がある中嶋に合わせて、二人揃ってウーロン茶だ。 鍋
「あんたは、貴重だ。長嶺の男たちと相性がよく、他の物騒な男たちも上手く手懐けて使っている。荒事が苦手な日和見主義のようでいて、肝が据わっている。だからといって、わしたちのような極道というわけではない。だが、すでに堅気でもない。あんたの存在は、この世界にいるからこそ妖しさが際立つ」 守光の手がさらに深く両足の間に差し込まれ、命じられたわけでもないのに和彦は足を開いていた。 まるで検分するように、スラックスの上から敏感なものを押さえつけられ、唇を引き結ぶ。羞恥はあったが、驚きはなかった。賢吾に強引にオンナされたばかりの頃、怒りと戸惑いを覚えている和彦に、賢吾は車中で何度も体に触れてきた。あれは、賢吾なりの和彦に対する教育だったのだ。 どんな状況であれ、どのように扱われても、受け入れなくてはならないと。それが、ヤクザのオンナになる――されたということだ。 和彦の目を覗き込み、守光は柔らかな笑みを浮かべた。見ていると怖くなるような笑みだが、和彦は目は逸らさなかった。逸らせば、多分食われる。「――忘れるな。あんたに特に価値を感じているのは、長嶺守光という男だ」 守光が囁き終えると同時に、唇が重なってくる。この瞬間、和彦が感じたのは恐怖でも嫌悪感でもなく、純粋な肉の疼きだった。我ながら度し難いと思うが、長嶺の男と相性がいいというのは、戯言では済まないところまできていた。その事実を和彦は、体で実感している。 唇を吸われているうちに、守光の舌が当然のように口腔に侵入してくる。おずおずと舌先を触れ合わせていると、守光の指に敏感なものをまさぐられる。 拒むこともできずうろたえる和彦に、守光が思いがけない問いかけをしてきた。「賢吾に、激しく求められたかね?」 咄嗟に質問の意味が理解できず、和彦は目を見開く。「えっ……」「わしと旅行に行ったことを、感情的に責めるとも思えん。だとしたら賢吾が、あんたに対して取る行動は限られると思ってな」 意味ありげな守光の指の動きでやっと、何を聞かれているのか理解する。数日前の、賢吾との濃厚な交わりが蘇り、和彦の体は熱くなる。そんな和彦を、なぜか守光は満足そうに見つめてい
**** リビングに入ってきた賢吾は、床の上に座り込んでいる和彦を見るなり、驚いたように目を丸くした。しかし、数秒の間に状況を理解したらしく、すぐに喉を鳴らして笑う。「ずいぶんはりきってるな、先生」「今の生活に彩りがないことに気づいたから、生まれて初めて、自分で買った。――クリスマスツリーを」 朝から苦労してライトを飾り、今はオーナメントを取り付けているところだ。和彦が手にしている、凝った細工が施されたボールを目にして、賢吾が傍らにやってくる。「俺に言えば、もっとでかいツリーを
和彦は、箱の中から小さなサンタクロースのぬいぐるみを取り上げる。可愛らしいが、これも秦が選んだのだろうかと思ったら、つい顔が綻ぶ。 こうして笑える自分が不思議だった。ほんの二時間ほど前まで、和彦は自宅のベッドで丸くなり、負の感情に苛まれていたのだ。そこになぜか、秦が迎えにやってきて、優雅に微笑まれながらも有無をいわせず連れ出された。 力ずくで従わされるのであれば抵抗もできるのだが、秦相手だと勝手が違う。まるで優しい風に運ばれるように、ふわふわとついて歩いていた。 途中、スーパーなどで買い物を済ませて、連れてこられたのが、先日、中嶋と三人で飲んだホスト
秦は口元に笑みを湛えながら、スッと目を細めた。和彦はこのとき秦に対して、ある匂いを嗅ぎ取った。筋者らしい血や硝煙といったわかりやすい匂いではない。 もっといかがわしい〈何か〉だ――。 肩を引き寄せられた和彦は秦に唇を啄ばまれながら、まとわりつくように甘く、官能的な匂いに包まれる。麻薬めいたそれは和彦から、抵抗の意思を根こそぎ奪っていた。「先生に話したのは、ささやかな秘密です。わたしの本当の秘密は、もっと物騒で罪深いですよ」 どんな秘密かと問いかける前に、秦に囁かれた。「――さあ、先生、わたしと遊びましょう」 苦い毒
どうかな、と呟いた和彦は、緩く首を左右に振る。優しく穏やかな秦の愛撫は、確かに心地いい。しかし、容易に身を任せられない。 自分が抱えている事情の他に、和彦の脳裏をちらつくのは、中嶋の顔だった。 普通の青年の顔をしていながら実は物騒な筋者で、なのに秦が絡むときだけ――厄介で健気な〈女〉を感じさせる彼を裏切っているようで、胸が痛むというより、切ない気分になる。 秦ほどの男が、中嶋が向ける気持ちに気づいていないとも思えない。どういうつもりなのだろうかと、和彦がじっと見上げると、秦が微笑を浮かべて唇を啄ばんできた。「何か、言いたそうですね、先生」