Accueil / BL / 血と束縛と / 第22話(22)

Share

第22話(22)

Auteur: 北川とも
last update Date de publication: 2026-03-29 17:00:36

「――賢吾が、あんたのための着物をあつらえさせていると聞いた」

 守光の言葉に、シートの上で和彦はわずかに身じろぐ。

 寛ぐよう言われたが、総和会会長と並んで車の後部座席に座っていて、背筋を伸ばす以外の姿勢を取れるはずもない。やはりどうしても、緊張してしまうのだ。

 そんな和彦を見て、守光は口元に淡い笑みを浮かべる。

「旅行にも一緒に行ったのに、まだ、わしに慣れんかね?」

「いえっ……、突然のことで、驚いているだけで……」

 クリニックでの仕事を終え、いつものように護衛の組員が運転する車で帰宅していたのだが、途中、あるビルの地下駐車場に入ったかと思ったら、隣に停まっている車に移るよう言われた。そして、今のこの状況だ。

 守光は、ビル内にある料亭で会食を終えたところで、これから別の店に向かうそうだ。そう、守光が決めたのなら、和彦は付き従うしかない。

 濃いスモークフィルムが貼ら
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • 血と束縛と   第22話(23)

    「あんたは、貴重だ。長嶺の男たちと相性がよく、他の物騒な男たちも上手く手懐けて使っている。荒事が苦手な日和見主義のようでいて、肝が据わっている。だからといって、わしたちのような極道というわけではない。だが、すでに堅気でもない。あんたの存在は、この世界にいるからこそ妖しさが際立つ」 守光の手がさらに深く両足の間に差し込まれ、命じられたわけでもないのに和彦は足を開いていた。 まるで検分するように、スラックスの上から敏感なものを押さえつけられ、唇を引き結ぶ。羞恥はあったが、驚きはなかった。賢吾に強引にオンナされたばかりの頃、怒りと戸惑いを覚えている和彦に、賢吾は車中で何度も体に触れてきた。あれは、賢吾なりの和彦に対する教育だったのだ。 どんな状況であれ、どのように扱われても、受け入れなくてはならないと。それが、ヤクザのオンナになる――されたということだ。 和彦の目を覗き込み、守光は柔らかな笑みを浮かべた。見ていると怖くなるような笑みだが、和彦は目は逸らさなかった。逸らせば、多分食われる。「――忘れるな。あんたに特に価値を感じているのは、長嶺守光という男だ」 守光が囁き終えると同時に、唇が重なってくる。この瞬間、和彦が感じたのは恐怖でも嫌悪感でもなく、純粋な肉の疼きだった。我ながら度し難いと思うが、長嶺の男と相性がいいというのは、戯言では済まないところまできていた。その事実を和彦は、体で実感している。 唇を吸われているうちに、守光の舌が当然のように口腔に侵入してくる。おずおずと舌先を触れ合わせていると、守光の指に敏感なものをまさぐられる。 拒むこともできずうろたえる和彦に、守光が思いがけない問いかけをしてきた。「賢吾に、激しく求められたかね?」 咄嗟に質問の意味が理解できず、和彦は目を見開く。「えっ……」「わしと旅行に行ったことを、感情的に責めるとも思えん。だとしたら賢吾が、あんたに対して取る行動は限られると思ってな」 意味ありげな守光の指の動きでやっと、何を聞かれているのか理解する。数日前の、賢吾との濃厚な交わりが蘇り、和彦の体は熱くなる。そんな和彦を、なぜか守光は満足そうに見つめてい

  • 血と束縛と   第22話(22)

    ****「――賢吾が、あんたのための着物をあつらえさせていると聞いた」 守光の言葉に、シートの上で和彦はわずかに身じろぐ。 寛ぐよう言われたが、総和会会長と並んで車の後部座席に座っていて、背筋を伸ばす以外の姿勢を取れるはずもない。やはりどうしても、緊張してしまうのだ。 そんな和彦を見て、守光は口元に淡い笑みを浮かべる。「旅行にも一緒に行ったのに、まだ、わしに慣れんかね?」「いえっ……、突然のことで、驚いているだけで……」 クリニックでの仕事を終え、いつものように護衛の組員が運転する車で帰宅していたのだが、途中、あるビルの地下駐車場に入ったかと思ったら、隣に停まっている車に移るよう言われた。そして、今のこの状況だ。 守光は、ビル内にある料亭で会食を終えたところで、これから別の店に向かうそうだ。そう、守光が決めたのなら、和彦は付き従うしかない。 濃いスモークフィルムが貼られたウィンドーから、外を流れる夕方の街並みはあまりよく見えない。この車は、総和会会長の身を守るための動く要塞だ。見た目からして威圧感に溢れており、その前後を護衛の車が守っている。 こういう状況に身を置いていると、自分は総和会会長のオンナになったのだと、不思議な感慨をもって実感できる。まだ現実味は乏しいのだが、紛れもない事実だ。 ただ、守光が相手だと、どう振る舞えばいいのかいまだにわからない。賢吾と知り合った当初もわけがわからないまま振り回されていたが、そうしているうちに、あの大蛇の化身のような男に慣れていった。 しかし守光は――。 一瞬見ただけでの、九尾の狐の刺青を思い出し、和彦は小さく身震いする。あれは触れてはならないものだと、本能が訴えていた。 身を固くしている和彦の膝の上に、あくまで自然に守光の手が置かれる。「そう、着物の話だ。せっかくだから、わしもあんたに着物を仕立てて贈ろうと思っている。この先、何枚あっても困らんものだ」 遠慮の言葉が咄嗟に口をついて出そうになったが、守光の強い眼差しを向け、そ

  • 血と束縛と   第22話(21)

    「三田村っ……」 思わず声を上げた和彦に対して、三田村がわずかに目元を和らげる。「届けものをしたら、朝メシを食わせてもらったうえに、先生の運転手を任された」 靴べらを差し出され、和彦は慌てて受け取って靴を履く。こうして三田村と会えたのは嬉しいが、頭の片隅では、賢吾なりの意図があるのだろうかと勘ぐってしまう。それは、和彦が抱える後ろめたさ故の感情ともいえた。 三田村に伴われて車の後部座席に乗り込むと、ほっと息を吐き出す。「久しぶりな気がする。こうしてあんたの運転する車に乗ったの。前は、毎日のように行動を共にしていたのに」 和彦が話しかけると、バックミラー越しに三田村がちらりとこちらを見た。「一月ぐらい前だったかな、こうして先生を車に乗せたのは」「……あんたに怒られたんだ。夜、一人でふらふらするなと言って」 あのときの和彦は、思いがけない里見からのメッセージに気持ちが掻き乱されていた。そんな和彦を支えてくれたのが、三田村だったのだ。 それから今日まで、和彦の置かれた状況はまた大きな変化を迎えていた。 自分と守光との関係をすでに知っているのだろうかと、和彦はじっと三田村の後ろ姿を見つめる。三田村は、和彦の何もかもを受け入れる。そうすることで、一時とはいえ和彦との時間を共有できると知っているからだ。 和彦がますます裏の世界から逃れられない立場になったと知って、この男は喜んでくれるのだろうか――。 そんなことを考えてしまうと、三田村に気軽に話しかけられなくなる。後ろ姿を見つめているだけで胸が詰まるのだ。 せっかくこうして二人きりになれたのだから、何か会話を、と思っていた和彦の視界に、ある光景が飛び込んできた。 本宅とマンションを行き来するときに通る並木道には、桜の木が植えられている。冬の間は気にかけることもないのだが、和彦が慌しい日々を過ごしている間にも、ここにも確実な変化が訪れていた。寒々しかった枝は鮮やかな緑の葉をつけ、花は開いてはいないものの蕾もついている。もう何日かするとぽつぽつと開花していくのだろう。「――&hell

  • 血と束縛と   第22話(20)

     賢吾の話を聞きながら、全身の血の気が引いていくようだった。心臓の鼓動も速くなり、背を通してそれが賢吾に伝わりそうで、和彦はそっと体を離す。「……ああ、美味しかった。ちょうど焼きたてが並んでいたから、なおさらそう感じたんだろうな」 そうか、と答えた賢吾に手首を掴まれ、本能的な怯えを感じた和彦は体を強張らせる。有無を言わせず再び布団の上に押し倒され、片足を抱え上げられる。熱をもって蕩けている内奥の入り口に、賢吾の欲望が擦りつけられた。「うっ……」 小さく呻いた和彦は顔を背ける。賢吾が怖いくせに、やはり熱いものが欲しかった。「先生が気に入ったんなら、明日の朝、同じ店で買ってこさせよう。俺は、朝は和食なんだが、少し味見させてもらおうか。それと、美味そうにパンを食う先生の顔も堪能したいな」 焦らすようにゆっくりと内奥を押し広げられ、和彦は身悶えながら賢吾の肩にすがりつく。あとはもう、悦びの声を上げることしかできなかった。**** 翌朝、告げられていた通り、賢吾と朝食をともにした和彦だが、正直、焼きたてのパンの味などわからなかった。パンを千切りながらも、賢吾の反応が気になって仕方なかったからだ。 一体何を言われるかとずっと身構えていたが、和彦が食べていたパンを一欠片食べてから、賢吾は頷いただけで、感想らしいことは言わなかった。パンそのものは確かに美味しいのだが、果たして、和彦があえて遠回りをしてまで買い求める価値があったと、納得したのかどうか――。 昨夜の行為の余韻も引きずっている中、賢吾の言動一つ一つに神経を尖らせていると、朝からぐったりしてしまう。 腕時計で時間を確認してから、和彦は急いでコーヒーを飲み干す。クリニックに出勤するにはまだ早いが、一度マンションに戻り、着替えを済ませておきたかった。そのため少し急いでいる。「じゃあ、ぼくはもう行くから」 イスから立ち上がった和彦が声をかけると、新聞を開いていた賢吾が顔を上げる。ニヤリと笑いかけてきた。「働き者だな。体はまだつらいだろ。せめて午後か

  • 血と束縛と   第22話(19)

    「気持ちいいか、先生? 尻が締まりっぱなしだ」 和彦は何も考えられず、夢中で頷く。賢吾の指が、繋がってひくつく部分を擦り上げてくる。それだけで、鳥肌が立ちそうなほど感じていた。「いい顔だ。先生みたいな色男を、尻で感じさせているのが自分かと思ったら、限界まで奮い立っても仕方ねーよな。俺だけじゃない。先生を抱いている他の男も同じだろう」 一度内奥から引き抜かれた欲望が、すぐにまた奥深くまで押し入ってくる。和彦は思いきり仰け反って、頭の中で閃光が走るような感覚を味わう。「また、イッたのか。こんなにすぐイクなら、こいつはもう、縛ったままでいいか?」 賢吾が怖い声で囁きながら、和彦の欲望に手をかけてくる。きつく縛められているせいで、少し感覚が鈍くなってきている。それでも、精を放ちたいという衝動だけは強くなっていた。「い、や……。イ、きたい……。賢吾さん、早く――」 内奥に収まっている欲望は凶暴に育っているというのに、和彦の顔を覗き込んでくる賢吾の表情は冴え冴えとしていた。「――お前は、俺のなんだ?」 突然の質問に、和彦は目を見開く。思わず口ごもると、欲望に食い込む皮紐を指でなぞられる。その感触に背を押されるように、和彦は震える声で答えた。「あんたの、オンナだ……」「俺は、誰だ?」「……長嶺組、組長」 よく言えた、ということか、唇に賢吾のキスが落とされる。「お前は、長嶺組組長のオンナだ。これは、何があっても変わらない。変えるつもりもない」 皮紐の縛めが解かれると同時に、内奥深くを抉るように突かれる。和彦は声も出せないまま絶頂に達し、賢吾が見ている前でたっぷりの精を迸らせた。「――……お前は、大蛇の大事で可愛いオンナだ。しっかりと、この淫奔な体に刻み付けておけよ。どれだけの男と寝ようが、忘れられないぐらいしっかりと」 大蛇の執着は怖くて淫らだ。そんなことを頭の片隅で考えながら和彦は、賢吾にしがみついて何度も頷いた。*

  • 血と束縛と   第22話(18)

    「刺青の前に、先生にはこっちを可愛がってもらおう。美味そうにしゃぶって見せてくれ」 そう命じられ、全身を羞恥で熱くしながら和彦は賢吾を睨みつける。しかし、逆らうことはできなかった。身を屈め、あぐらをかいたままの賢吾の両足の間に顔を埋めた。 浴衣を捲り上げ、反り返ったふてぶてしい欲望に丹念に舌を這わせる。舐め上げるたびに、自分はこの男の〈オンナ〉なのだという想いが強くなる。愛しいという純粋な気持ちからではなく、快感のために尽くしてやりたいという、身を焼かれそうな衝動に突き動かされていた。 口腔に含んだ欲望が瞬く間に逞しさを増していき、力強く脈打つ。賢吾に頭を押さえられて、和彦は喉につくほど深く呑み込む。苦しさに耐えながら吸引していると、手荒く髪を撫でてから掴まれた。無言の求めに応じてゆっくりと頭を上下に動かしながら、欲望に舌を絡め、唇で締め付ける。 和彦の口淫をじっくり堪能してから、賢吾は口腔で達した。放たれた精を舌で受け止めて嚥下すると、次の瞬間には和彦は、浴衣を剥ぎ取られて布団の上に突き飛ばされる。賢吾も浴衣を脱ぎ捨てて、のしかかってきた。「あっ……」 両足を抱えるようにして大きく左右に広げられ、賢吾が顔を埋めてくる。和彦のものはいきなり熱い口腔に含まれたかと思うと、容赦ない愛撫に晒される。痛いほど強く吸引され、舌先で先端を攻められたかと思うと、括れを唇で締め付けられる。「うあっ、あっ、もう少し、優しく、してくれ――」 和彦は震えを帯びた声で訴えるが、賢吾は聞き入れる気はないようだった。それどころか、加虐的なものを刺激されたのか、先端に歯列を擦りつけてくる。和彦は、感じすぎるからこそ、この攻められ方が苦手だ。 反射的に腰を揺らして愛撫から逃れようとしたが、執拗に先端を攻められると、もう体が動かない。まるで大蛇が牙を突き立てているようだと思った。牙から毒は出てこないが、反対に、和彦の先端から透明なしずくが滲み出てくる。大蛇は嬉々として舌で舐め取り、もっと出せといわんばかりに攻め立ててくるのだ。 和彦の体から力が抜け、愛撫に身を任せるのを見計らっていたように、賢吾が動く。枕の下から何か取り出したのは見えたが、それがな

  • 血と束縛と   第12話(2)

    「……そのつもりだったが、やっぱり、あんたは嫌いだ」「俺だって、ヤクザのオンナになってぬくぬくと生きている男は嫌いだ。だが――たまらなく抱きたいんだ。お前を」 和彦が目を見開いた次の瞬間、鷹津の大きな手が後頭部にかかり、ぶつけるような勢いで唇を塞がれた。「んんっ」 和彦は必死で顔を背けようとしたが、鷹津に後ろ髪を鷲掴まれ、唇に噛みつかれる。そのまま、もつれるようにして隣の部屋に引きずり込まれ、突き飛ばされた。 簡素な作りのベッドに倒れ込んだ拍子に、鉄製のパイプと床が擦れ、不快な音を立てる。確実に階下に

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第11話(24)

     内奥深くを小刻みに突き上げながら、ふいに賢吾がそんなことを言う。和彦は賢吾の逞しい腰に両足を絡ませながら、頭上の枕を握り締めて嬌声を堪える。大きく呼吸を繰り返してやっと、言葉を紡ぐことができた。「どういう、意味だ……」「心底嫌いな男に感じさせられて、悔しい反面、ひどく興奮しているんじゃないのか。脅されて言うことを聞かされたはずなのに、体はしっかり、その嫌な男から与えられた快感で悦ぶ。淫奔な体と、下手なヤクザより肝が据わって、したたかな性質を持った先生らしい色気だ」 賢吾には当然、レストルームの個室で鷹津に何をされたのかすら

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第11話(12)

     不穏な空気を感じ取り、和彦は無意識に一歩だけ後退ったが、二歩目はなかった。男の手が肩にかかって動けなかったからだ。寸前までにこやかな表情を浮かべていた男は、今は無表情で和彦を見つめていた。「ちょうどいい。今日の披露宴には、君のお父さんに世話になっている人間が、何人か来ているんだ。せっかくだから紹介しよう」「いえ、ぼくはこれで失礼します」「時間は取らせないから。びっくりするだろうな。兄弟そっくりだと言って。君のお兄さんも、省内じゃ、かなりの有名人だから――」 そう言いながら男に腕を掴まれそうになり、鳥肌が立つような危機感を覚えた和彦は、反射

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第11話(21)

    **** 座卓に頬杖をついた和彦は、ぼんやりと考え込む。ただ、考えることが多すぎて、思考は散漫だ。 結婚披露宴で和彦に話しかけてきた父親の同僚のことを考えると、必然的にその父親のことを――自分の家族のことにまで考えが及ぶ。和彦にとって家族とは、この世でもっとも関わりたくない存在なので、正直、戸惑っていた。 戸惑うといえば、もう一人の存在を忘れてはいけない。 意識しないまま顔が熱くなってきて、一人うろたえた和彦は慌ててグラスを取り上げ、残っているワインを飲み干す。その勢いで、肩にかけていた羽

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-27
Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status