LOGINそう言う南郷の表情に、一瞬の嘲りが浮かんだのを見逃さなかった。南郷は、虚勢であるにせよ和彦の強気の理由を知っている。長嶺の男たちによる庇護だ。しかもそれを、医者としての腕ではなく、体によって得ているのだ。
和彦は何も言わず背を向け、部屋に戻ろうとする。その背に向けて南郷が声をかけてきた。「あとで、部屋にコーヒーでも運ばせる。俺はあまり気が利く男じゃないが、オヤジさんが戻ってくるまで、しっかり面倒を見させてもらおう」 仕方なく振り返った和彦は、最低限の礼儀として小さく頭を下げた。*
*
緊張して夕食が喉を通らないのではないかと危惧していた和彦だが、食前酒のワインを飲んでから、生湯葉に箸をつけると、驚くほど食欲が湧いた。
鴨肉のソテーを口に運ぶ頃には気分も和らぎ、つい顔を綻ばせる。すると、正面に座っている守光が口元に笑みを湛えた。「どうやら、口に合ったようだ」 守光の言葉に、そんなに素直に顔に出ていたのだろうかと思いながら和彦は頷く。「美味しいです、すご胸元に息遣いを感じ、ザワッと肌が粟立つ。濡れた感触が執拗に胸の突起をまさぐり、転がすように刺激してくる。次の瞬間には硬いものが触れた。見えなくても、歯を立てられたのだとわかった。和彦が息を詰めると、反応をおもしろがるように、舌先でくすぐられ、きつく吸われる。そしてまた、歯を立てられる。 和彦が短くくぐもった声を上げると、思い出したように内奥を突かれ、熱い塊がぐうっと押し入ってきた。狭い場所を容赦なく押し広げられ、本来であれば激痛に悲鳴を上げても不思議ではないが、体は意外な順応性を見せる。守光との行為のあとだからだろうかと、ふと頭の片隅で考えた和彦だが、すぐにゾッとする感覚を味わう。 今晩、和彦の体を最初に開いたのは、わざわざ守光がこしらえ直させたという、特別な〈おもちゃ〉だ。その形に、和彦の体は慣らされている。 知らないはずなのに、知っている形。受け入れつつある男の欲望を、そう表現せざるを得なかった。「うあっ」 和彦の反応が鈍くなったと感じたのか、腰を揺すられ攻められる。すぐに嗚咽をこぼして、相手の肩を押し退けようとしていた。だが、忌々しいほど大きく頑丈な体は、びくともしない。「嫌、だ……。もう、やめ――……」 咄嗟に洩れた哀願が、相手を刺激したようだった。下肢に手が這わされ、力をなくしている欲望を掴まれる。大きくて硬い手の感触に、和彦は心の底から震え上がる。このまま握り潰されそうな無慈悲さを感じたからだ。見えないからこそ、恐怖は倍増する。 息を詰まらせて体を捩ろうとするが、すでに体の中には太い肉の杭を打ち込まれている。傍らには守光がいる。和彦に逃げ場などないのだが、それでもじっとはしていられない。「――なかなか往生際が悪い」 わずかな苦さを含んだ声で言ったのは守光だった。この瞬間、和彦の中で首をもたげたのは、猛烈な怒りだった。それが伝わったのか、欲望を掴む指にわずかに力が込められる。爪の先で先端を弄られて、弱々しい声が洩れていた。「あんたは受け入れるしかない。この男――南郷を」 はっきりと名を出されても、当然驚きはなかった。ただ、今自分にのしかかっている重みが
いくら両目を覆われているとはいえ、守光でないことはすぐにわかった。 のしかかってくる重みや、がっしりとした腰つき。それに、燃えそうに熱い肌。何もかもが寸前まで繋がっていた守光とは違うのだ。 膝を掴まれ、ごつごつとしたてのひらや、強い指の感触を意識した瞬間、和彦は相手の腕を押し退けようとする。だが無情にも、その手はあっさりと押さえつけられた。「――あんたはただ、身を任せていればいい。ひどい目には遭わせない」 傍らからそう声をかけてきたのは守光だった。 自分の身に何が起きようとしているのか、動揺を上回る恐怖のため、和彦は問い返すこともできなかった。その間にも、のしかかってきた相手の腰が密着してくる。「ううっ」 蕩けたままひくつく内奥の入り口に、熱の塊が擦りつけられた。ぐちゅりと濡れた音を立てて押し広げられ、和彦がまず感じたのは圧迫感だった。そして鈍痛が。 露骨な感想だが、やはり守光とは違うと、繋がりつつある部分で知る。 ようやく喉を突いて出たのは苦痛の声だった。和彦は、押さえつけられていない手を振り上げ、相手の肩を殴りつける。しかし、分厚く逞しい感触は、やすやすと和彦の拳を跳ね返した。それどころか、手首を掴まれた。 ゆっくりと布団の上に押さえつけられ、覆い被さられる。見えない相手を見上げながら和彦は、食われる、と心の中で呟いた。 さらに内奥をこじ開けられながら、この日初めて唇を塞がれる。唇の隙間から苦痛の声を洩らしていたが、かまわず舌先が押し込まれ、歯を食いしばる間もなく口腔に侵入された。 太い舌が蠢きながら、口腔の粘膜を舐め回してくる。唾液を流し込まれた和彦は、苦しさに耐えられず喉を鳴らして受け入れていた。舌を搦め捕られ、引き出されて、きつく吸われる。軽く歯を立てられたときは、このまま噛み千切られるのではないかと、和彦は本気で恐れていた。 一方的に唇と舌を貪られながら、緩慢に腰を揺すられ、長大な欲望を内奥に埋め込まれていく。守光を受け入れ、蕩けるほど犯されたばかりだというのに、それでも痛みが押し寄せてくる。自分の体の中を、肉で埋め尽くされていく苦しさもあった。「何も考えず、力を抜いて受け入れれば
内奥から道具が引き抜かれ、代わって指が挿入される。解れ具合を確かめるように、すっかり発情した襞と粘膜を撫で回されたあと、守光が小声で何事か呟く。和彦に話しかけたようでもあり、独り言のようでもあったが、ふと感じた違和感は、砂糖菓子のように淡く溶けていた。 言われるまま和彦は仰向けとなり、両足を自ら広げて守光を迎え入れる。 内奥に押し入ってくる熱や、全身で感じる重みに、ようやく肉で繋がっているのだと実感する。明け透けではあるが、そうとしか表現できなかった。 一息に内奥深くまで刺し貫かれて、一度、二度と突き上げられる。和彦は体をくねらせながら、抱えられた両足を揺らす。反り返った欲望をてのひらに包み込まれ、穏やかな律動に合わせて扱かれると、悦びの声が溢れ出すのはあっという間だった。「気持ちいいかね、先生?」 耳元で守光に囁かれ、こくりと頷く。そのまま耳朶に唇が這わされ、舌で舐られたあと、じわりと歯が立てられる。甘い痛みに無反応ではいられず、道具によって広げられた内奥が淫らな蠕動を始めていた。 乱れる一方の和彦とは対照的に、守光はいつものように浴衣を脱いではいなかった。見なくとも、端然とした佇まいが容易に瞼の裏に浮かぶ。前を寛げただけの格好で思う様、和彦を犯しているのだ。「あんたは本当にいやらしい」 笑いを含んだ言葉に対して感じたのは羞恥ではなく、疼きだった。守光の欲望をきつく締め付けると、乱暴に内奥を突き上げられる。 守光が上体を起こし、片手が胸元に這わされる。今日に限って意図したように触れられなかった突起を、不意打ちのように抓り上げられた。一瞬走った痛みは、やはり甘さを伴っており、快感との区別がつかなくなる。 まるで何かを確認するように、守光の手が体中に這わされる。その最中、和彦はこの日初めて精を放ち、自らの下腹部を濡らしていた。「また漏らしたかね」 息を喘がせる和彦にそう声をかけた守光は、下腹部に触れたあと、和彦の唇に指先を這わせてくる。口腔に指が押し込まれて、独特の味と風味を舌の上に感じる。それが自分の精だとわかったとき、また体が反応していた。「……思った通りだ。よく締まっている
まるで絶頂に達したあとのように、一気に脱力する。とてつもない痴態を晒したのだが、頭の中が真っ白となり何も考えられない。両目を覆ったスカーフに無意識に手をかけようとして、守光に穏やかな口調で窘められた。「まだそのままで。……あんたは気にしなくていい。今から片付けをさせるから」 えっ、と思ったときには、守光が誰かに呼びかけるように声を上げ、数拍の間を置いて襖が開き、人が部屋に入ってきた気配がした。抑え気味の足音ではあるが、一人ではない。 あられもない自分の姿を見られると、半ば恐慌状態に陥りながら和彦は体を起こそうとして、肩に大きな手がかかる。「落ち着きなさい。あんたの体をきれいにして、布団を入れ替えるだけだ」 守光にそう声をかけられはしたものの、だからといってすぐに身構えを解けるはずもない。和彦は居たたまれなさに泣き出しそうになる。 濡れたタオルを腰に当てられ、体を捻って逃げようとしたが、抵抗はあっさり封じられる。「あの……、自分でやり、ます……」 震えを帯びた和彦の言葉に応じる声はない。 一体何人が部屋に入ってきたのか懸命に気配を探ろうとするが、下肢の汚れを他人に後始末してもらうという状況に意識はすぐに散漫となる。 そもそも、一階に人の気配はなかったはずなのに、いつの間にか部屋の外に待機されていたのだ。自分が鈍いのか、もしくは、息を潜めて身を隠していた男たちが手練れなのか。いまさらながら、守光の手回しのよさが和彦には不気味だ。 あらかた下肢を拭われると、前触れもなく背と両膝の裏に腕が回される。何事かと思ったときには、強い力で抱え上げられていた。 咄嗟にしがみついて感じたのは、相手の分厚く逞しい胸板の感触だ。その瞬間、強烈な雄の匂いを嗅ぎ取った。 ハッとして相手を見上げる。もちろん、両目は覆われたままなので顔を見ることはできない。それでも感じるものがあった。 抱え上げられていた時間はわずかで、すぐに和彦は布団の上に下ろされる。新しいシーツの感触を指先で確かめていると、入ってきたとき同様、抑え気味の足音が部屋を出て行
賢吾によく似た太く艶のある声に囁かれ、和彦は返事ができなかった。それは、肯定したも同然だった。和彦自身に自覚はなかったが、そうなのかもしれないと、認めざるをえなかったのだ。 守光が一度布団を離れる気配がする。すぐに戻ってきたのは何かを取ってきただけらしく、物音が続いたあと、再び和彦に触れてきた。「あんたの〈ここ〉を苛めてみたくて、新しいおもちゃを前から準備しておいたんだ。なかなか使う機会がなかったが、ようやく――」 そんな言葉のあと、掴まれた和彦の欲望にひんやりとした液体が垂らされる。滑る感触から潤滑剤だとわかった。 先端をヌルヌルと撫でられ、異様な感覚にさすがに無反応ではいられない。和彦がわずかに腰を揺らしたとき、冷たい金属の感触が先端に触れた。「ひっ」 細く滑らかなものが、先端の小さな口を押し開くようにして、くっと押し込まれる。一気に腰が重くなったような感覚と鋭い痛みに襲われて、和彦は息を詰める。反射的に腰を動かしたくなったが、今の状況ではそれは危険だと理解できる程度には、まだ意識が保てていられた。 一度は賢吾に開かれた場所だ。どういう痛みがあるかは知っている。それでも、やはりつらかった。「うっ、うぅっ……」 おそらく金属製の細長い棒なのだろう。それがゆっくりと慎重に、欲望の先端から押し込まれてくる。痛みに喉が引き攣り、体が小刻みに震えてくる。「うあっ、あっ、い、や――」 自分でも驚くほど弱々しい声が出ていた。それでも挿入は少しずつだが続き、両目を覆われて不安なせいもあって和彦は片手を下肢に向けて伸ばす。すかさず優しく握り締められた。そこでゾッとするようなことを言われた。「思った通り、今のあんたの姿は大きな子供のようだ。とても嗜虐的なものを刺激される」 挿入された金属の棒を蠢かされ、むず痒いような感覚が生まれる。それはすぐに痛みを上回り、仰け反った和彦は布団の端を掴んでいた。 守光は時間をかけて、たった一度しか暴かれたことのない和彦の秘密の場所を犯していく。棒がどれほど深く挿入されたのか知る術はないが、強烈な感覚――快感にも似たものが腰から背筋へと何度も駆け抜け
守光は、浴衣に着替えてはいるものの、相変わらずの端然とした佇まいで待っていた。部屋に入った和彦を見るなり、頬を緩める。「髪がまだ濡れているな。慌てなくてもかまわないから、脱衣所で乾かしてくればいい」「……いえ」 入浴後すぐに部屋に来いと言われたわけではないのだが、ゆっくりと髪を乾かそうなどと思いつきもしなかった。 ふいに沈黙が訪れ、立ったままの和彦と、コタツに入ったままの守光との視線が交わる。柔らかな微笑を浮かべていた守光の表情が瞬きする間に変化した。 静かにコタツから出た守光が襖を開ける。奥は思ったとおり寝室となっており、すでに床が延べられていた。 振り返った守光に軽く手招きをされ、反射的に半歩だけ後退った和彦だが、自分がこの部屋に来た覚悟を思い出し、すぐに従う。 枕元には、見覚えのある文箱と折り畳まれたスカーフがあった。体を強張らせた和彦の背後で襖が閉まり、手を取られて布団の傍らに立つ。穏やかな声音で守光に言われた。「服を脱いで見せてくれないか。先生」 いまさら裸を見られたところで、という気持ちはある。しかし、脱がされるのと、自ら脱ぐのとでは心構えはまったく違う。和彦はすがるように守光を見たが、意に介した様子もなく守光は畳に正座する。 さあ、とでも言うように見上げられ、ぐっと喉が詰まる。できませんとは、口が裂けても言えなかった。 和彦は機械的にトレーナーを脱ぎ捨ててから、数秒のためらいのあと、パンツと下着を一気に下ろす。このときすでに、それでなくても熱くなっていた全身は、うっすらと汗ばんでいた。 脱いだものを畳もうとして、手首を掴まれる。引っ張られるまま膝をつくと、守光に顔を覗き込まれた。「そのままで」 そう言って守光がスカーフを取り上げる。薄い布をどう使うか、もちろん和彦は知っている。今の守光との関係では、もう必要としていない小道具であることも。 今晩は、いつもと何かが違う――。 本能的な怯えから、ざわりと肌が粟立った。頬にスカーフの滑らかな感触が触れ、和彦は顔を背けようとしたが、かまわず両目を覆われ、きつく後頭部で結ばれた。