LOGINそんなことを言って、賢吾が強引に唇を吸ってくる。軽く抵抗した和彦だが、すぐに諦めて賢吾の肩に手を置く。慣れない着物を身につけているせいか、新鮮な感覚だった。帯で体を拘束されているようでありながら、腰から下は無防備だ。その無防備な感覚を煽るように、賢吾が膝で両足の間を割り開こうとしてくる。
「先生を着物姿で外に出すときは、貞操帯をつけるか。どんな男が股に手を突っ込んで、こうして、ここを弄ってくるかわかったもんじゃねーからな」 まんざら冗談とも思えないことを呟いた賢吾の手が、着物の裾を割り、奥に入り込んでこようとする。和彦は手を押しのけながら抗議の声を上げる。「何してるんだ、あんたはっ……」「股割りだ。これをしておかないと、歩きにくいぞ」「だったら自分でやるっ」「遠慮するな」 両足の間を賢吾の手にまさぐられ、和彦は腰を震わせる。下着の上から思わせぶりに敏感なものを撫でられて、咄嗟に賢吾の肩にすがりついていた。「ほら、もっと足を開け、先生」 下着をわずそんなことを言って、賢吾が強引に唇を吸ってくる。軽く抵抗した和彦だが、すぐに諦めて賢吾の肩に手を置く。慣れない着物を身につけているせいか、新鮮な感覚だった。帯で体を拘束されているようでありながら、腰から下は無防備だ。その無防備な感覚を煽るように、賢吾が膝で両足の間を割り開こうとしてくる。「先生を着物姿で外に出すときは、貞操帯をつけるか。どんな男が股に手を突っ込んで、こうして、ここを弄ってくるかわかったもんじゃねーからな」 まんざら冗談とも思えないことを呟いた賢吾の手が、着物の裾を割り、奥に入り込んでこようとする。和彦は手を押しのけながら抗議の声を上げる。「何してるんだ、あんたはっ……」「股割りだ。これをしておかないと、歩きにくいぞ」「だったら自分でやるっ」「遠慮するな」 両足の間を賢吾の手にまさぐられ、和彦は腰を震わせる。下着の上から思わせぶりに敏感なものを撫でられて、咄嗟に賢吾の肩にすがりついていた。「ほら、もっと足を開け、先生」 下着をわずかに引きおろして、賢吾が揶揄するように囁いてくる。間近から賢吾を睨みつけた和彦だが、まるで蛇が絡みつくように蠢く指の動きには逆らえず、おずおずと足を開いた。「あっ」 賢吾の手にしっかりと、欲望を握り締められる。この瞬間、本能的に怖いと感じた。賢吾が、今のこの状況で自分を痛めつけてくるはずがないとわかってはいるのだ。これは、和彦自身が抱える罪悪感の裏返しだ。賢吾が何事もないように振る舞えば振る舞うほど、和彦は罪悪感に追い詰められる。 握られたものを手荒く扱かれて足元が乱れる。単なる戯れではなく、賢吾は本気で自分を貪ろうとしていると知り、和彦は羞恥を押し殺して訴えた。「――……今日は、無理だ。体がつらいんだ」「なんだ。別の男と楽しんだばかりなのか?」 大蛇の潜む目が、じっとこちらを見据えてくる。和彦が口ごもると、賢吾がスッと視線を動かし、部屋の柱を見た。このとき和彦の脳裏に、ある光景が蘇る。 前に一度この部屋で、千尋の母親の長襦袢を羽織らされ、柱に掴まった姿勢で内奥を犯されたこと
**** 袖を通した長襦袢の前を合わせると、すかさず背後から回された手が衿端を持ち、たるみを調整してくれる。「さすがに、千尋が高校生のときにあつらえたものだから、先生には少し寸足らずか。が、思っていたより不恰好じゃない」 ぴったりと背後に立っている賢吾の言葉に、耳元をくすぐられる。和彦は反射的に首をすくめ、その拍子に、姿見に映る自分と目が合った。 先月足を運んだ呉服屋でも体験したが、着物を身につける自分の姿を鏡で見るというのは、なんとも照れくさくて、気恥ずかしい。 そんな和彦を、賢吾が妙にまじめな顔で見つめていた。こちらはすでに端然とした着物姿で、さきほどから熱心に着付けを指導してくれている。だから和彦も、逃げ出したい気持ちを堪えられた。 クリニックからの帰りに呼びつけられて本宅に寄り、一緒に夕食をとったあと、和室に連れ込まれた。そのときにはすでに、着付けの練習用の着物が一揃い用意されており、ようやく和彦は、自分が本宅に呼ばれた理由を理解したのだ。「今日は長襦袢の下はTシャツだが、外出するときは、きちんと肌襦袢を身につけるんだ。それに、裾よけも。いかにも品のいい先生が、きちんと着物を着こなしていたら、今以上に色男っぷりが上がるぞ」 そんなことを言いながら、賢吾は腰紐を差し出してくる。受け取った和彦は、いつも賢吾がしているように結んでみる。「上手いもんだ、先生」「……紐を結ぶぐらい、初心者のぼくでもできる」「俺は、褒めて伸ばす男なんだ」 和彦が顔をしかめるのとは対照的に、賢吾はニヤニヤと笑いながら、今度は長着を肩にかけてきた。袖に手を通すと、賢吾が肩をてのひらで撫でたあと、袖先を軽く引っ張り、たるみが出ないよう整えてくれる。 長襦袢の衿に重ねるように、長着の衿を合わせる。すかさず賢吾が身幅の余りを丁寧に始末して、不恰好にならないよう上前で隠す方法を説明してくれた。「なんだか、複雑だ。あんたはいつも簡単に着付けているから、そういうものなのかと思っていた」 思わず和彦がぼやくと、前触れもなく賢吾の手が、上前の下
中嶋から聞いた内容を、秦は艶然とした笑みを浮かべながら賢吾に報告しただろう。いや、それ以前に、すでに中嶋から賢吾へと報告済みかもしれない。 和彦が関係を持つ男たちは、和彦の情報を当然のように共有するのだ。情も利害も絡んだ、妖しいネットワークだ。「……ぼくは、彼に感謝しないとな。気分が塞ぎ込みそうになっていたところを、助けてもらった」「セックスして先生に感謝されるなんて、羨ましい立場だ」 秦が楽しげに洩らした言葉に素早く和彦は反応し、慌てて周囲を見回した。「それで……、ぼくに渡したいものってなんだ」 ああ、と声を洩らした秦は、隣のイスに置いた小さな紙袋を差し出してきた。「出張のお土産で、香水です。なんとなく先生に合いそうだと思って。嫌な香りでなかったら、仕事が休みの日にでも使ってください」「ありがとう……」 紙袋を受け取った和彦は、香水の香り以上に、秦がどんな仕事で、どこに出かけていたのかが気になる。ちらりと視線を向けると、秦は秘密をたっぷり含んだ艶やかな笑みを返してくる。その表情を見ただけで、和彦が何を尋ねても、『出張』について答える気がないとわかった。 ランチが運ばれてきたところで、腕時計で時間を確認する。秦とのおしゃべりを楽しみながら、優雅に食事ができるほどの余裕はあまりない。「――お土産を渡すためだけに、わざわざ来てくれたのか?」 食事をしつつ和彦が率直に疑問をぶつけると、秦は首を横に振った。「中嶋と話していて、なんとなく決まったことなんですが、せっかくなので先生も誘おうという話になったんです」「何を……」 つい反射的に警戒してみせると、楽しそうに秦は口元を緩める。「三人で、花見をしませんか。とはいっても、人ごみの中でにぎやかに飲むわけではなくて、ビルから夜桜を見下ろしながら、という形になりますが」「花見、か」 昨夜千尋から聞かされた、総和会の花見会のことが頭に浮かぶ。暖かくなってきて、物騒な男たちが精力的に動き始めたような気がし
**** 和彦の顔を一目見るなり、端麗な容貌の男は表情をわずかに曇らせる。 それが芝居がかって見えるのは、この男の美貌ゆえか、それとも胡散臭い存在のせいか――。 頭の片隅でちらりとそんなことを考えた和彦は、唇をへの字に曲げてテーブルにつく。「……ぼくの顔に何かついているか?」 あえてぶっきらぼうな口調で問いかけると、今日の昼食の相手である秦は肩をすくめた。ごく一般的なレストランなのだが、この男が正面に座っているというだけで、とてつもない贅沢をしているような気がしてくる。 平日ということもあり、周囲のテーブルを占めるのは、ビジネスマンやOLたちだ。ノーネクタイのやや砕けた格好の和彦と、きちんとスーツを着てはいても、見るからに普通の勤め人ではない秦の組み合わせは目立って仕方ない。「少し居心地が悪いかもしれないが、我慢してくれ。午後一番に予約が入っているから、あまりクリニックから離れるわけにもいかないんだ」 ランチを頼んでから和彦がぼそぼそと言うと、秦は穏やかに微笑む。「気にしないでください。わたしの都合で、先生につき合ってもらっているんですから」 午前中、秦から連絡が入り、渡したいものがあるので昼食を一緒に、と言われたのだ。断る理由もないため和彦は誘いに乗ったが、何を渡されるのか、いまだに教えられていない。 おしぼりで手を拭く和彦の顔を、秦がじっと見つめてくる。最初は気づかないふりをしていたが、次第に苦痛になってきて、仕方なく和彦は口を開いた。「……なんだ」「先生もしかして、少しお疲れですか?」 鋭いなと思いつつ頷く。「昨夜はあまり……寝てないんだ」 酔っ払った千尋がやってきて、そのまま深夜まで体を重ねていたのだ。そこに、キッチンの片付けという労働も加わった。 十歳も年下の青年相手の痴態が生々しく蘇り、知らず知らずのうちに頬が熱くなってくる。そこに、さらに羞恥を煽るようなことを秦が言った。「――わたしが出張している間、
「お前は子供かっ」 和彦が抗議する間にも千尋の手は油断なく動く。腰を掴まれて、尻を突き出すような扇情的な姿勢を取らされていた。さんざん擦られて広げられた内奥の入り口は、濡れて蕩けたままだ。千尋は悠々と、高ぶりを押し当ててくる。「――こんなに甘やかしてくれるんだから、俺は先生の前では、子供のままでいたい」 口ではそんなことを言いながら、内奥に押し入ってくる千尋のものは充実した硬さと逞しさを持ち、立派な大人だ。「あうっ……」「甘えられるうちに、たっぷり先生に甘えておかないと。――明日には、どの男の腕の中にいるかわからないからね」 ドキリとするようなことを呟いた千尋が、乱暴に腰を打ち付けてくる。熱いものを内奥深くまでねじ込まれ、和彦は声を上げながら締め付ける。素直な欲望が一際大きくなり、脆くなっている襞と粘膜を強く擦り上げてくる。「うあっ、あっ、千尋っ……、千尋っ」「いいよ、先生。中、ビクン、ビクンって痙攣してる。感じてる、よね?」 律動の激しさに、足元から崩れ込みそうになる。和彦は必死にカウンターにすがりつき、その拍子に水がまだ入っているボトルを倒してしまう。こぼれた水が床へと滴り落ち、足元を濡らす。それに気づいた千尋が、ふっと律動を止めた。「あー、床が濡れちゃった」 そう洩らした千尋が、背後から和彦の耳に唇を押し当ててくる。同時に片手が、開いた両足の間に入り込み、興奮で震える和彦のものを握り締めてきた。 次の瞬間和彦は、賢吾と千尋がいかによく似ているか強く実感した。「先生、あとで俺が床を拭くから――漏らして見せて」 耳元に注ぎ込まれた言葉に、頭の芯が揺れる。強い羞恥と興奮のせいだ。「……嫌、だ……。そんな、はしたないこと……」「言っただろ。先生にいっぱいいやらしいことをして、辱めたいって。これは、頼みじゃない。俺から、オンナへの命令」 千尋が緩く腰を動かし、和彦のものを扱き始める。和彦は呻き声を洩らして腰を揺らした。
残念だ、という言葉を呑み込んだ和彦は無意識のうちに、千尋の左腕に巻かれた包帯に指先を這わせる。それに気づいた千尋が、笑いながら教えてくれた。「次の治療で、タトゥーの残りの部分全部にレーザー当てるらしいんだ。あとは様子を見て、という感じ。カサブタが剥がれたところから、けっこう消えていってるしさ。傷跡も、思っていたより醜くないし、けっこう順調だよ」「苦労して消して、次は、本格的に刺青を入れるのか……」「そう。時間をかけて、一生ものの本気なのを」「――……こんなにきれいな体と肌をしているのに、な」 千尋の剥き出しの肩を撫で、ぽつりと和彦は洩らす。引き止めたい気持ちがある一方で、千尋の父親である賢吾の、艶かしくて生々しい大蛇の刺青が脳裏に蘇り、胸の奥で妖しい衝動が蠢く。どんな図柄を入れるつもりなのか知らないが、千尋のきれいな体に彫られる刺青は、さぞかし映えるだろうとも思ってしまう。 和彦のわずかな変化を感じ取ったのか、千尋が熱い吐息を洩らして唇を吸ってくる。「考えるだけでゾクゾクする。俺の体に入った刺青を、先生が撫で回してくれるのかと思ったら」 千尋の熱に刺激されたのか、身震いしたくなるような欲情が急速に和彦の中で大きくなる。そんな自分自身に戸惑い、慌てて千尋を押しのけてベッドから出ていた。「先生……?」 イスにかけてあるバスローブを取り上げて、和彦は上擦った声で応じる。「喉が渇いたから、水を飲んでくる。お前にも持ってきてやるから、待っていろ」 バスローブを羽織り、半ば逃げるように寝室を出る。キッチンに入った和彦は、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを二本取り出す。一本を開けて、さっそく口をつける。 喉を通る水の冷たさのおかげで、自分の体がどれほど熱くなっているのか実感できた。ほっと安堵の吐息を洩らしたところで、前触れもなく背後から抱き締められる。驚いて振り返ると、裸の千尋がにんまりと笑いかけてきた。気配も感じさせずに、和彦のあとを追いかけてきたのだ。「……待っていろと言っただろ」
** 張りきってはいたものの、クリスマスだからといって特別なことをする予定はなかった。 いつものように二人でのんびりと、穏やかな時間を過ごせればいいと思っていたのは和彦だけだったらしく、クリスマスの朝、三田村が妙に切羽詰った顔でこう切り出してきたのだ。「……先生、どこか行きたいところがあるなら、遠慮せず言ってくれ」 三田村が作ってくれたホットサンドを食べていた和彦は、目を丸くする。昨日の三田村の言葉ではないが、今日は夜まで、ひたすらこの部屋でダラダラと過ごすつもりだったので、この申し出は意外だ
「あっ……、はあぁっ」「もっと感じたいなら、また裸にひん剥いてやろうか? それこそ、全身を舐め回してやるぜ。好きだろ、舐められるの」 そんなことを言いながら、鷹津の片手がワイシャツの下に入り込もうとする。和彦は懸命にその手を押し返した。「時間が、ないんだっ……。もう、ロビーに下りないと――」「組員なんて、待たせておけばいいだろ」「あんたと違って、こっちは予定がある」「……組長のオンナは、忙しいことだな」 和彦が睨みつけると
「嫌な男だなっ」「なんとでも言え。お前は、その嫌な男のものを、もうすぐ尻に突っ込まれるんだ」 鷹津に片足を抱えられ、内奥の入り口をいきなり指でまさぐられる。呻き声を洩らした和彦は上体を捩りながらシーツを握り締めた。 唾液で濡らされた指が内奥に挿入され、蠢く。和彦の内奥は、まだ感じやすいままだった。一昨日、三田村のものを受け入れて丹念に愛されたばかりだ。頑なさを取り戻してはいても、体は、与えられた肉の悦びをしっかりと覚えている。 すぐに指の数が増やされ、内奥を擦り上げられて、解される。粘膜と襞をじっくりと撫で回されて、たまらず和彦は妖しく腰を
和彦が中嶋に抱く感情は、これまでになく複雑だ。いままでも、この青年に対してどう接すればいいのか戸惑っている部分はあったが、友情めいた感情もあった。だが今は、そこに生々しい――艶かしい感情も入り混じる。 兄の英俊と出会ったことで精神的に参ってしまい、ようやく立ち直ったところに、今日の内覧会も含めて、クリニック開業の準備に追われていた。和彦に、〈他人の恋路〉について考え込む余裕はなかった。 そう、中嶋は、秦に想われているのだ。それどころか、動物的で直情的な欲情を抱かれている。なのに中嶋は、何も知らない。 さらに事態を複雑にしているのは、和彦は中嶋と、キス