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第24話(26)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-04-12 08:00:55

 ここまで考えたところで和彦は、これは自惚れだと自戒する。急に恥ずかしくなった。

「――窓から落ちるなよ、先生」

 背後からおもしろがるような声をかけられ、慌てて体勢を戻す。振り返ると、浴衣姿の賢吾が立っていた。和彦より先に風呂に入ったあと、一階のロビー――とも言えない、狭い玄関横の応接セットに組員たちと陣取り、わずかなつまみとビールで酒宴を催していたのだが、もうお開きになったらしい。

 敷かれている二組の布団を見下ろした賢吾は、すぐに片方の布団を移動させ、ぴったりとくっつけてしまう。どういう意図からかは明白で、なんだか見てはいけないものを見た気になった和彦は、さりげなく視線を逸らし、再び外の桜を見下ろす。

「今日は、俺のわがままにつき合わせたな」

 賢吾の言葉に、和彦はちらりと笑みをこぼす。

「もう慣れた。それに、いまさらだ」

「先生はなんだかんだと言いながら、どんなわがままでも受け止めてくれるから、つい甘えちまうんだ。多分――他の男たちもな」

 わずかに体を強張らせると、すぐ背後に賢吾が立った気配
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  • 血と束縛と   第43話(43)

    **** 車中から総和会本部の建物が見えてきても、和彦に驚きはなく、また動揺すらしなかった。別荘を出発して、まっすぐ長嶺の本宅に送り届けてもらえるとは、最初から期待していなかったのだ。 体にかけていた毛布を畳み始めると、助手席に座っている南郷が振り返る。「起きたのか、先生。よく眠っていた。さすがに疲れたんだろう」 こちらを気遣う言葉に、和彦の体はカッと熱くなる。二人きりであったなら、誰のせいだと声を荒らげていたかもしれない。しかしハンドルを握る人間がおり、何より今の和彦には、南郷相手に会話ができるほどの体力も気力もなかった。すべて、その南郷に奪い尽くされた。 和彦の精が搾り取られた一方で、南郷の精を注ぎ込まれたのは、ほんの数時間前だ。いよいよ和彦が湯にのぼせて気を失いかけると、南郷に抱えられて浴場を連れ出されてから、脱衣場で獣のように這わされ、欲望を受け入れさせられた。 南郷は執拗で、念入りだった。 麻痺していた屈辱感が蘇り、いまさらながら涙が滲み出そうになる。和彦は手の甲で目を擦ると、乱暴に息を吐き出す。悄然としている余裕はなかった。ようやく返してもらった携帯電話は不在着信で埋め尽くされており、メールも届いていた。移動中に一件ずつ確認しようと思っていながら、結局、疲労感から眠ってしまったのだ。 本部で与えられている部屋に入ったら、何を置いても賢吾に連絡を取らなければならない。冷静に話せる自信はまったくないが、無事であることは知らせておきたかった。それは、オンナとしての義務だ。 なんと切り出せばいいのだろうかと考えるだけで、指先が冷たくなっていく。さらに南郷が話しかけてきたが、耳に入らなかった。 車が駐車場に入って停まると、すぐに南郷が降りて、後部座席のドアを開ける。片手が差し出され、その手と南郷を交互に見た和彦は、邪険に押し退けようとしたが、あっさり手首を掴まれる。半ば引きずり出されるようにして車を降りた。 時間はすでに夕刻に近く、空が赤く染まり始めている。寒さにブルッと身震いすると、別荘から持ってきたダウンジャケットを肩からかけられた。「さっさと中に入ろう。あんた

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  • 血と束縛と   第43話(38)

    「……何が言いたいんですか?」 ようやくこちらを一瞥した南郷が、唇の端を動かす。「そう怖い顔をするな、先生。きれいな顔立ちの人間がそういう表情をすると、なかなか凄みがある」「もしかして賢吾さんを――」「恩義ある〈親〉の一人息子を食らおうと思うほど、俺は外道じゃないし、思い上がってない。――この機会だ、あんたに提案がある」 南郷がいくぶん声を潜めたところで、再び強い風が吹き付けてくる。ふらりと和彦の体が揺れ、素早くポケットから手を出した南郷が支えてくる。間近で目が合うと、こう言われた。「長嶺の本宅を出て、俺の家で暮らさないか、先生」** 体を洗っていた手をふと止めていた。髪先から垂れた水滴が肩に落ち、その冷たさに和彦は我に返る。 さきほどの出来事にまだ動揺しているのだと、嫌でも認めざるをえなかった。 湖で、南郷から思いがけない提案をされたとき、まず頭に浮かんだのは、この男は何を企んでいるのだろうかということだった。ただ、意外すぎる提案だったことは確かで、慌てて南郷から離れようとした拍子に、和彦は凍った雪に足を取られ、その場で転んでしまった。 泥と雪に塗れ、すぐには動けなかったところを、南郷に腕を掴まれて引っ張り起こされたのだ。おかげで話を続けるどころではなくなり、足を引きずるようにして別荘に引き返し、風呂場に放り込まれたというわけだ。 なぜ南郷が、長嶺の本宅を出て、自分の家で暮らさないかと言い出したのか、和彦には目的が見当もつかなかった。甘い理由などではないことは、はっきりしている。そもそも、和彦が承諾するはずがないと、南郷自身よくわかっているはずだ。 和彦を動揺させるための冗談か、もしくは、和彦の口から賢吾に伝わることを前提にした、露骨な挑発か――。 和彦はブルッと身を震わせる。さっさと体を洗って出るつもりだったが、水辺での立ち話のせいもあって、すっかり冷え切っている。風邪を引いては堪らないと、手早く泡を洗い流してから湯舟に入る。「疲れた……」 じんわりと体が温まってきたところでそう呟いた和彦

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