Beranda / BL / 血と束縛と / 第30話(30)

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第30話(30)

Penulis: 北川とも
last update Tanggal publikasi: 2026-05-18 14:00:51

「組長が立ち聞きか」

「仕事をしている先生の姿を拝みたくてな。そのついでに、会話も聞こえた」

 賢吾が軽くあごをしゃくり、和彦は仕方なく立ち上がる。ダイニングを出て、途中洗面所に立ち寄って手を洗うと、賢吾のあとをついて歩きながら、声音を抑えて詰った。

「笠野さんに、ぼくに来てほしいと連絡させたのは、あんただろ」

「連絡しろと命令はしていない。ただ、先生に手当てしてもらったらどうだと、提案はしてみた」

「……そんなこと言われたら、誰もあんたに逆らえないんじゃないか」

「まあ、そうかもな」

 悪びれもせず答えた賢吾の背を見つめていた和彦だが、ふっと笑みをこぼしていた。こうして会話を交わしていて、一体自分は何を身構えていたのだろうかと思えてきたのだ。

 肩越しに振り返った賢吾も、和彦の顔を見て唇の端に笑みを刻む。慌てて表情を取り繕おうとしたが、遅かった。

「機嫌は直ったようだな」

「別に……、最初から悪かったわけじゃない」
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  • 血と束縛と   第40話(7)

     賢吾に手招きされてテーブルに戻ると、肩を落として再びテーブルにつく。和彦は箸を手に取る前に、呻き声を洩らして頭を抱えていた。 誕生日ということで、もう一人の長嶺の男の存在を思い出したのだ。正確には、誕生日を。「……千尋は、先月だった」 申し訳ないが、すっかり頭から抜け落ちていた。賢吾は低く笑い声を洩らす。「それどころじゃなかったからな、先生は。千尋もそれがわかっていたから黙っていたんだ」「で、あんたはどうして急に、誕生日なんて言い出したんだ?」 気を取り直して和彦は顔を上げる。「本当のところ、理由はなんでもいい。二人きりで過ごせるなら。誕生日なら、理由としては打ってつけだ。……今年、先生の誕生日のために、男たちがあれこれ手を尽くしていただろう。お返しというわけじゃねーが、俺も祝ってもらいたくなった。この歳だと、どうせ誰も気にかけてくれないしな」「だから自分でアピールか。……祝う気持ちはあるが、急すぎる。プレゼントも用意できない」 いらねーよと、素っ気なく賢吾が答える。このとき一瞬だけ浮かべた照れ臭そうな表情を目の当たりにして、和彦の鼓動は大きく跳ねた。「明日まで、俺につき合ってくれりゃいい。――どうだ?」 誕生日だと聞かされて、行かないという選択肢は完全になくなった。 じわじわと顔が熱くなっていくのを感じながら、仕方ないという表情を取り繕って和彦は頷いた。** いつもと勝手が違うと、助手席に座った和彦はぎこちなく隣を見る。とてつもなく違和感があるが、ハンドルを握っているのは賢吾だった。 シートにもたれかかろうとして、どうしても背後が気になって振り返る。さきほどから何度となく、見覚えのある車がついてきていないか確認していた。「そんなに、護衛がついてないのが気になるか」 揶揄するように賢吾に指摘され、慌ててシートに座り直して和彦は頷く。マンションの駐車場で、賢吾が運転席側に回り込んだときも驚いたが、今日は護衛をつけていないとさらりと告げられた驚きは、それ以

  • 血と束縛と   第40話(6)

     とりあえず賢吾にもコーヒーを淹れてやってから、和彦はやっとテーブルにつく。パンにバターを塗りつつ、疑問を口にした。「で、朝から何をしに来たんだ。……オシャレして」「オシャレか?」 賢吾が露骨に目を輝かせる。やはり、機嫌はいいようだ。「いいものをラフに着こなして、いかにも、金を持っている悪い中年男みたいだ。ヤクザの組長には見えない」「それは好都合」 パンをかじる和彦を、ニヤニヤしながら賢吾が見守っている。仕方なくこちらから水を向けた。「……これから出かけるのか? だったら、早く行ったらどうだ。ぼくは元気だ――けど、昨日はジムでがんばりすぎたから、筋肉痛で全身が痛い。だから、部屋でゆっくり、したい……」「早く食えよ、先生。これから一緒に出かけるんだから」「人の話を少しは聞けっ」「聞いたうえで、言ったんだ」 いっそ清々しいほどきっぱり言われ、和彦は口ごもる。それをいいことに賢吾は滔々と続ける。「今日は天気がいいから、外出日和だ。寒いのは仕方がねーな。しっかり着込んでおけよ、先生。今日はあちこち移動するつもりだから。それと、泊まりになるが、着替えはどうしても必要になったら買えばいいから、何も持っていかなくていい。――楽しい休日になるぞ」 どうして今日、この男はこんなにも機嫌がいいのかと、和彦はそろそろ空恐ろしさすら感じ始める。「ついこの間、紅葉を見に行っただろう……。ぼくもたまには、ゆっくりと一人の休日を過ごしたいんだが」「今日は、俺と先生の二人きりだ。二人で、ゆっくりできる」 人の話を聞けという再びの抗議は、口中で空しく消える。 薄い笑みを浮かべたまま、大蛇の潜む賢吾の目は、ひたと和彦を見据えてくる。望み通りの返事を引き出すまで、この視線は逸らさないと言わんばかりに。 こうなると、和彦に逆らう術はない。長嶺の男の強引さは今に始まったわけではなく、いつものことだと言われればそうなのだが、やはり気になるのは賢吾の機嫌のよさなのだ。 目

  • 血と束縛と   第40話(5)

    **** クリニックが休みの土曜日、いつもより一時間ほど遅い時間に起きた和彦は、パジャマの上からカーディガンを羽織った姿でキッチンに立っていた。 コーヒーを淹れ、パンを焼くついでに、目玉焼きぐらい作ろうかと、冷蔵庫を開ける。ハムかベーコンでも残っていればと思ったが、どうやら甘かったようだ。せっかくなので、あとで食料を買いに出ることにした。「今日は一人で、ゆっくり過ごすからな……」 誰かに聞かせるわけでもないが、本日の目標めいたものを口にする。 たまには、自分のペースで過ごせる休日があってもいいだろうと、いつになく強く願うのは、ここ最近の慌ただしさのせいだ。他人に振り回されるのは、今の環境にあっては仕方ないと半ば許容している和彦だが、中には不本意なことがある。 現実逃避だとしても、一日、二日ぐらい、気が滅入るような悩み事を頭から追い払いたくもなるのだ。 温めたフライパンに卵を落とし入れ、皿などを準備していると、玄関のほうから物音がする。耳を澄まし、落ち着いた足音が近づいてくるのを確認して、誰だろうと考えるまでもなかった。「――いい匂いがしているな、先生」 皮肉なのか本気なのか、忌々しいほど魅力的なバリトンによる開口一番の言葉に、和彦は背を向けたまま応じる。「パンを焼いて、目玉焼きを作っているだけで、大げさな」「残念だ。俺は朝メシは食ってきた」「……誰も、あんたの分もあるとは言ってないだろう……」 和彦は呆れながら振り返り、すぐに目を丸くする。スーツ姿だとばかり思っていた賢吾が、濃いグレーのタートルネックを着ており、その上からラフにチェスターコートを羽織っているのだ。革手袋をスマートに外す姿に、悔しいが少しだけ見惚れてしまった。 すっかり、肩書き込みで長嶺賢吾という男を見てしまうことが自然になっていたが、何もなくても、そこに立っているだけで、極上の男なのだと思い知らされる。とんでもない状況で初めて賢吾と出会ったときも、外見と雰囲気に自分が圧倒されたことを和彦は思い出

  • 血と束縛と   第40話(4)

     ウェイトを調節して、今度こそまじめにバーを上げ下ろししながら、ほんの三日前に小野寺が言っていたことがふっと脳裏に蘇る。中嶋は、和彦のために隊に呼ばれたと言っていた。額面通りに受け止めるなら、和彦と親しいからこそ、世話役として相応しいと判断されたのだろう。 組預かりという立場から、第二遊撃隊へと〈出世〉した中嶋の姿を、和彦は間近で見ている。本人が直接報告してくれたぐらいだ。中嶋は、そのあたりの事情を理解したうえで第二遊撃隊に入ったのか、気にならないわけではない。見た目はハンサムな普通の青年である中嶋だが、中身はけっこう計算高く、何より出世欲が強い。 和彦の機嫌取りのために自分が必要とされたことは、むしろ目論見通りだったのかもしれない。どんな事情であれ足がかりにして、さらに上を目指す逞しさと、頭のよさが中嶋にはある。和彦も、自分がある程度利用されるのは気にならない。 ただ、南郷という男を知るにつれ、その南郷の隊に中嶋がいるということが、どうしても気にかかる。自分のせいで、妙な立場に追い込まれなければいいがと願うのだ。 中嶋は、和彦をトラブルに巻き込んだと言ったが、それは和彦も同じで、お互い様といえる。 考え事をしながらもバーを動かす和彦とは対照的に、中嶋は集中力が途切れたのか、バーに手をかけたまま動かない。「なんだ、ぼくより先にバテたのか?」「……総和会の中で、長嶺会長の側近でもある南郷さんは、敵は多いですが、表立って意見できる人はそういないんですよ。ただこの頃は、少し様子が変わってきました。南郷さんが……というより、第二遊撃隊自体が牽制されるようになったんです」「どういうことだ?」「ここ数年、総和会の遊撃隊として実働できたのは、第二遊撃隊のみだったのに、対抗勢力が出てきたということです」 なんとも湾曲な表現をした中嶋だが、それでも和彦には十分伝わった。あっ、と声を洩らし、バーから手を離す。「――第一遊撃隊のことか」「そんなに困っているなら、そこの隊長である御堂さんに相談されたらどうです。先生、御堂さんとも親しいんですよね」「親しいというか、よくしてもら

  • 血と束縛と   第40話(3)

     中嶋が軽く声を洩らして笑うが、和彦は到底そんな気分にはなれない。今回の長嶺組の処置はあくまで、連絡ミスによって起きた第二遊撃隊の不手際に対するものだが、クリニックでの南郷との出来事が知られれば、こんなものでは済まないだろう。 南郷は、それでもあえて危険を冒した。賢吾や長嶺組を刺激したいがために――という可能性に気づくと、和彦はひどく冷静な目で、南郷や第二遊撃隊を観察したくなるのだ。臆病な小動物のように、身を潜め、慎重に。 自分の進言次第で、賢吾はいくらでも厳しい処分を第二遊撃隊に与えかねないが、そのことによって、長嶺組と総和会の不和を招きたくない。現に、中嶋の話ではすでにもう噂が立っているというのだ。 和彦がタオルで口元を押さえてじっと考え込んでいると、中嶋が身を乗り出してきた。「もしかして、気分が悪いんですか?」「あっ、いや……。南郷さんに、ぼくにかまうのはやめるよう、君からもきつく言ってもらえないだろうかと思って」 中嶋が真顔で首を横に振り、案の定な反応に、和彦としては笑うしかない。「――本気で、どうにかしてほしいんだ。最近、ぼくのほうはいろいろあって、あまり余裕がない」「先生はいつだって、『いろいろ』あるでしょう」「だからこそ、限界がある。身を切る思いで、自分で対処しないといけないことがあって、南郷さんからちょっかいをかけられたくない」 なぜか中嶋が、探るような視線を向けてくる。和彦が首を傾げると、今度は露骨に大きなため息をつかれた。「南郷さんのことで、『ちょっかい』と表現できる先生は、本当に大物だと思いますよ」「……言っておくけど、ぼくは今回の件は――今回の件も、本気で怒っているんだ。だけど、感情のままに組長に泣きついたら、どんな事態になるか……」「怒り下手なんですよ、先生は。周囲の様子にあれこれと気を配りすぎて、自分の感情を後回しにするでしょう。最近、怒りを爆発させるとか、せめて声を荒らげるとか、したことあります?」 どうだったかなー、と視線をさまよわせて和彦が呟くと、なぜか中嶋に背をさすられた。

  • 血と束縛と   第40話(2)

     ここでハッと我に返り、うろたえる。一方の英俊も動揺しているのが、はっきり伝わってくる。和彦は、心の奥底から滲み出てきたどす黒い感情を、必死に押し殺した。 いまさら、俊哉から特別な関心を得られたことを、英俊に誇る気など毛頭なかった。そのつもりなのに――。 和彦は慌ててこう続ける。「ぼくの口からは何も言えない。父さんのことだから、きっと考えがあるはずだ。だから……、ごめん」 通話を終えると、そのまま携帯電話の電源を切ってしまう。 かつてのように、英俊と話したからといって激しく感情が揺さぶられることはない。今はそれよりも、自分の中に冷たい体温を持つ生き物が棲みつき、蠢いているようで、ただ和彦は愕然としていた。**** この日は、最後に予約が入っていた患者の施術を、予定よりいくぶん早く終えられたこともあり、終業時間ぴったりにクリニックを閉められた。 おかげで和彦は、久しぶりにスポーツジムに立ち寄ることができた。ここのところ、体力的に問題がなくても、精神的にいまいち気分が乗らないことや、その逆もあったりで、なかなかタイミングが合わなかったのだ。 今日はむしょうに体を動かしたかった。いや、率直な気持ちとしては、体力の限界まで体を追い込みたかった。 和彦はランニングマシーンのスピードを上げて一心に走りながら、昨夜の英俊との電話でのやり取りを何度も思い返す。そのたびに、英俊が傷つくとわかって放った言葉の威力に、一人恐れ戦いていた。ただ不思議と、罪悪感という感情は湧かないのだ。 子供の頃から英俊には肉体的に痛みを与えられてきたが、その対価のように和彦は、英俊の心の弱い部分をいつの間にか熟知するようになっていた。だからといって復讐したいなどと考えたことはなかったが、もしかすると自覚のない部分で、ずっと英俊にも痛みを与えたかったのかもしれない。 首筋を伝う汗をタオルで拭い、時間を確認する。呼吸が乱れ、足の筋肉が悲鳴を上げかけている。体力というより、筋力が落ちているなと、苦々しく反省する。忙しいのを言い訳に、ジム通いをさぼりすぎた。 明日は筋肉痛

  • 血と束縛と   第11話(20)

     外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第11話(22)

     さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自

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  • 血と束縛と   第6話(22)

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  • 血と束縛と   第4話(27)

    「――先生」  呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」  泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」  賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-19
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