LOGIN思わず呼びかけて、逞しい背にぐっと爪を立てる。賢吾は驚いたように軽く目を見開いたあと、惚れ惚れするような鋭い笑みを浮かべた。
「性質の悪いオンナだ。まだ、俺を骨抜きにする気か」 「……な、に……?」 突然、賢吾にきつく抱き締められたかと思うと、上体を起こされた。 胡坐をかいた賢吾の腰の上に、繋がったまま跨る。自らの重みで一層深く欲望を呑み込み、背をしならせて和彦は仰け反ったが、賢吾にしっかりと抱き寄せられる。 「ひっくり返るなよ」 笑いを含んだ声で賢吾が言う。下から突き上げられる圧迫感に和彦は慎重に息を吐き出し、抗議の意味を込めて、もう一度背に爪を立てた。すかさず腰を動かされ、内奥で欲望が蠢く。 「あっ……」 賢吾の両手に尻の肉を鷲掴みにされたが、痛みが心地よくて、和彦は自らゆっくりと腰を揺らしていた。 室内に、粘膜同士が擦れ合う音と、和彦の掠れた喘ぎ声、そして賢吾の荒い息遣いが響く。ときおり、和彦が爪先で布団を蹴る音も。 「――和彦」 ふいに名を呼ばれて伏危うく身を乗り出しそうになった。和彦はアイスティーを一口飲むと、慎重に周囲を見回す。護衛たちは席が取れなかったらしく、少し離れた場所で立ったまま紙コップに口をつけている。「たまたま、か?」「たまたまです。買い物の最中にちょうど連絡があって。あの人も忙しいらしくて、手が足りないときはわたしを頼ってくるんですよ。急ぎだというので、こうして返事をしてるんです」「忙しいって……、無事ということでいいのか?」「今のところ誰もあの人に手を出せません。先生のお父さんが、各方面に釘を刺されたそうですね」「……まだ使い道があるようだ。元悪徳刑事を駒にしようと考えるのは、ぼくの父親ぐらいだろうな」「似ているんじゃないですか。父子で」 皮肉かと思いきや、こちらを見つめる秦の眼差しは優しい。差し出されたフライドポテトを和彦も一個摘まみ上げる。「先生が、鷹津さんと一緒に姿を消したと聞いたとき、わたしが何を最初に考えたかわかりますか?」「鷹津と友人なのを後悔した」 秦はあっさり首を横に振る。「先生と鷹津さんの偽造パスポートを準備しようかと考えたんですよ。写真はどこで入手しようか。送り出す国はどこにしようか。どの業者に偽造を頼もうか――。まあ、あれこれと」 胡散臭いが、品のよさも感じさせる男は、和彦が想像もつかない修羅場を潜り抜けている。前に少しだけ生い立ちを聞いたことがあるが、生まれた国から逃げてきたらしく、他人に国を捨てさせることにも抵抗がないのかもしれない。「鷹津さんから連絡があって、その計画はとめましたけどね」「よかったよ……。ぼくは、何もかも捨てる覚悟なんてつかなかっただろうから」「本当に?」 和彦は曖昧な返事をしておく。「――鷹津さんからの伝言ですが、無茶はせずに待っていろ、とのことです」「待っていろ……」「あの人、各方面にケンカを売っておきながら、戻ってくる気満々ですよ。またわたしは、酒を集られるんでしょうね」 口ではそうぼやく
「まあ、若い頃はずっと、商売をやっている親戚たちを見てきましたからね。なんとなく、自分はそういうのに向いていると思う……思い込んでいるんですよ。現状、面倒なことになっても、後始末をしてくれる当てもありますし。気楽なものです」 サングラス越しに露骨な流し目を寄越され、和彦は乾いた笑い声を洩らす。秦の言う『当て』が誰かわかったからだ。「その気楽さは、図太さの上に成り立ってるものだな」 秦と目的もなくふらふらと店を覗きながら歩いていると、ひときわにぎわう場所に出る。何かと思えば古着がずらりと並んでいる。あまり見かけないデザインのコートがまっさきに目に入り、和彦は反射的に秦を見る。「おや、先生は古着は平気なんですか?」「よほどひどい状態じゃないなら、特に抵抗はないな。……どうしてそう思ったんだ?」「先生はよくても、周りの男性たちが嫌がるんじゃないかと。大事な人には、真新しいものを着てもらいたいと願いそうじゃないですか」 長嶺の男たちにその傾向はあるが、だからといって和彦が選んだものを否定はしないだろう。 秦から離れてハンガーラックにかかっている古着を眺めていて、一着のコートが目に留まる。古い映画の登場人物が着ていそうなトレンチコートで、くたびれた感じではあるが、かなりいいデザインだ。案の定、有名なブランドのものらしく、相応な値段が記されている。衝動買いはやめておこうと、やむなく元に戻した。 代わりに、もっと手ごろな値段のブルゾンを一着買ってから移動する。キッチンカーや売店がなどが並ぶ休憩スペースで、なんとか小さなテーブル席を確保すると、秦はフットワークも軽く食事を買いに行く。 待っている間、手持ち無沙汰となった和彦は、買ったばかりのブルゾンや食器をテーブルの上に広げ、スマートフォンで写真を撮る。少し悩んで、メッセージアプリをタップする。そろそろスマートフォンの扱いには慣れてきたが、気軽なやり取りには難ありと千尋に判断されてしまった。日記代わりにその日の出来事を共有してほしいと言われ、勝手にグループを作られたのだ。 蚤の市で買ったと画像と共に報告すると、さほど待つことなく賢吾と千尋から
**** この男と一緒にいると、目立って仕方ない。 開いたパンフレットから視線を上げた和彦は、隣を歩く秦を見遣る。薄い色のサングラスをかけた秦は、いかにもジムで鍛えていそうな体躯を白いシャツで包み、首元には派手めのスカーフを巻いている。しばらく会わない間に髪色は、金髪に近い薄茶色から落ち着いた濃い茶色へと変化しているが、髪色程度でこの男の持つ華やかさが陰ることはない。 春の陽射しをまるでスポットライトのように浴びながら、秦は端麗な美貌に機嫌よさそうな笑みを浮かべている。さきほどから、すれ違う女性たちから熱っぽい眼差しを向けられているが、一切頓着していない。和彦は、珍妙な生き物を観察するように、秦を見ていた。 外を歩くのでラフな服装のほうがいいですよとアドバイスされ、素直にTシャツの上からパーカーを羽織り、キャップを被ってきたのは和彦だ。駐車場で秦と相対したとき、文句の一つでも言ってやりたかったが、『ラフ』の基準が自分とは違うのだと、納得しておくことにした。 日曜日ということもあって、イベント施設の広い敷地内はどこも人で溢れかえっている。年に二回、春と秋に開催される大規模な蚤の市ということで、出店者も客も気合いが入っているのだろう。陽気のよさも加わり、熱気でのぼせてしまいそうだ。 大きなテントがいくつも設置され、ジャンルごとに区分けされた商品が店ごとに並べられている。パンフレットに描かれた地図を頼りに移動して、まず向かったのは食器を扱う一角だ。案の定、秦は北欧食器が並ぶテントの前で足をとめたが、和彦はさらに先にある、作家本人が出店している食器が気になる。ワインのつまみを並べるのにちょうどよさそうな長方形の皿を、腰を屈めて眺めていたが、せっかくだからと購入する。 気楽な買い物の和彦とは違い、秦は真剣な顔で食器を選んでいる。今回、蚤の市にわざわざ足を運んだのは、仕入れを兼ねているらしい。だったら店の従業員を同行させたほうがよかったのではないかと思わなくもないが、二人きりで会うとどうしても周囲が身構えるため、こういう開放的な形が秦にとっても都合がいいのだろう。 なんといっても――と、和彦はさりげなく少し離れたテントに目を向
そんな男を煽りたかったわけではないが、ささやかな悪戯心を抑えきれなかった。背に軽く爪を立て、滑るように動かす。ビクリと身を震わせた三田村の理性は、簡単に崩れた。「あっ」 大きく両足を広げられ、何も言わないまま三田村がその中心に顔を埋める。興奮のため緩く勃ち上がっていた和彦の欲望は、あっという間に熱い口腔に含まれていた。 きつく吸引された次の瞬間には、濡れた舌が絡みついてくる。和彦は上擦った声を洩らしながら、ビクビクと腰を震わせる。無意識に片手を伸ばして三田村の髪をまさぐると、より深く欲望を呑み込まれる。口腔全体で締め付けられ、包み込まれて、一方的に快感を与えられる。さらに柔らかな膨らみを優しく揉みしだかれると、下肢から力が抜けてしまう。 すでに透明な涙を滲ませている先端を、愛しげに三田村に吸われる。羞恥もあるが、それを上回る期待に逆らえない和彦は、おずおずと自ら足を抱え上げ、すべてを自分の〈オトコ〉に晒す。 柔らかな膨らみに舌を這わせながら、三田村が唾液で濡らした指で内奥の入り口をくすぐる。ささやかな刺激でも和彦は声を洩らし、腰の辺りから痺れるような疼きが広がっていくのを感じる。「はっ、あぁぁ――……」 内奥に指が挿入されてくると、食い千切らんばかりに締め付ける。三田村は和彦の反応を確かめながら、もどかしいほど慎重に指の数を増やし、内奥を広げていく。「三田村っ……」 焦れた和彦が堪らず呼びかけると、顔を上げた三田村がわずかに首を傾げる。「痛むか、先生?」「……痛いことを、まだしてないだろ」 和彦が拗ねた口調で答えると、微苦笑で返される。「それは……よかった」 ぐうっと三本の指が付け根まで押し込まれてきて、息を詰める。和彦の感触を堪能するように、内奥を撫で回された。そのたびに襞と粘膜を刺激され、官能を呼び起こされる。内奥全体が淫らに収縮し、体温が上昇していく。 喘ぐ和彦に誘われるように三田村が顔を寄せてきたので、和彦から頭を引き寄せ、口腔に舌を差し込む。濃厚な口づけの間に、
** 昼食後、さすがに自分の汗臭さが申し訳ないと、三田村は着替えを抱えてシャワーを浴びに行ってしまう。残された和彦は、スマートフォンを取り出し、誰からも連絡が来ていないことを確認してから、電源を切る。 なんとなくソワソワとして落ち着かず、特に観たい番組があるわけでもないがテレビをつける。ワイドショーには興味がなく、適当にチャンネルを切り替えたあと、結局すぐに消してしまった。窓に近づき、カーテンの陰から外の様子をうかがっていると、三田村が戻ってくる。「外が気になるなら、近所を散歩してみるか、先生」「あー、いや、外に出たくて見てたんじゃないんだ。誰かいるかと思って」 和彦が言いたいことを察したのか、三田村はいきなり窓を開けて外を見渡す。「ここに先生がいる間は、組の護衛はつかないことになってる。が、総和会については――」 三田村の隣に並んで和彦も外を眺める。穏やかな昼下がりの光景らしく、この辺りの住人たちがときおり行き交うぐらいで、変わった様子はない。それは当然といえば当然だった。「そもそも今日、ここに行くと総和会には連絡してないんだ。いるはずがないな」「……でも気になると?」「こういう生活に慣れてたはずなんだけど、しばらく自然に囲まれてたせいか、人の気配というか、視線に過敏になってるかもしれない」 急に室内に引っ張り戻され、窓が閉められる。驚いて目を丸くする和彦の目の前で、三田村は怖いほど真剣な顔となっていた。「三田村……?」 頬を温かなてのひらで包み込まれる。愛しげに何度も撫でられ、最初は戸惑っていた和彦も三田村の顔に手を這わせる。あごにうっすらと残る傷跡を指先でなぞると、身震いした三田村が顔を近づけてきた。 ゆっくりと唇が重なり、今度は和彦が身震いをする。優しく唇を吸われながら背を引き寄せられ、足元が乱れる。目が合うと、なんとなく笑いかけていた。久しぶりの三田村との口づけに、照れていた。 ベッドに腰掛けさせられた和彦は、シャツのボタンを外してくれる三田村に対して、無遠慮な質問をぶつける。「さっき、
買ってきた総菜は中華が中心で、なんとなく味の濃いものが食べたかったのだ。あんかけチャーハンを一口食べて目を細める。「普通のチャーハンにしなくてよかった……」「美味い。麻婆豆腐もしっかり辛くていいな」「花見シーズンだからオードブルもいろいろ並んでたけど、やっぱり中華で正解だった」 他愛ないことを話しながら食事をしていると、ふと思い出したように三田村が洩らした。「……加藤と、中華を食いに行ったことがある。馴染みの店だと言って、案内してくれたんだ」「懐かれてるな」「そう、可愛げがあるもんじゃないと思うが……。長嶺組の人間とツテを持っておくことは、若いあいつにとって悪いことじゃない」「でもあの子、そういう打算的なことを考えて、他人に近づけるタイプじゃない気がする」「――先生は、そう思っていればいい。加藤が先生にとって不快な存在じゃないなら、それでいいんだ」 三田村も過保護だと、和彦はひっそりと苦笑を洩らす。 三田村も当然、加藤が総和会からつけられた護衛の一人だと聞かされているだろう。極道らしくない優しさを持つ男としては、目をかけている若者が意外な任務について、気になっているはずだ。「収まるところで収まってほしいな。あまり……強面の男ばかり引き連れて歩きたくないんだ、ぼくは。面倒をかけるのも悪いし」「直接、伊勢崎組に目的を聞ければ話は早いんだが、組長も手を出しあぐねているようだ。長嶺組どころか、総和会ですらほぼ接点がないようなところだから」 和彦は伊勢崎組という組織について尋ねてみるが、あっさり首を横に振られた。三田村は大きな肉団子を箸で半分に割りながら、わずかに眉をひそめる。「俺が知っていることは、たぶん先生と大差ない。伊勢崎龍造のヤクザとしての経歴……のようなものは知ってはいるが、人となりとなるとほとんど伝わってこない。そもそも根を張っている地域が遠すぎる」「じゃあ、北辰連合会は?」「血の気が多い、とはうちの若頭が言っていた」







