Se connecterその瞬間がやってくるのだと、和彦はわずかに肩を震わせる。すると賢吾は、その肩先に軽く唇を押し当ててから体を離し、ベッドを下り部屋を出て行く気配がした。何をしているのかと、振り返って確認する勇気はなかった。
「後ろ姿を見るだけで、緊張しているとわかる」 すぐに戻ってきた賢吾に、そう声をかけられる。少しだけ言い返したくなり、苦労して寝返りを打った和彦だったが、後悔するとともに、目のやり場に困ることになる。賢吾が悠々と見せつけてくる裸体は、圧倒されるような力強さをまだ漲らせていたからだ。 賢吾が浴室から持ってきたバスタオルを、腰の下に敷かれる。どういうことかと視線で問いかけると、ニヤリと笑い返された。「多分、漏らすぞ」 数瞬の間を置いてから和彦は、賢吾の言葉を理解した。 腰を引きずるようにしてベッドから下りようとして賢吾に易々と押さえつけられ、力の入らない両足を大きく広げられる。 綿棒を個包装したビニールを歯で破る賢吾を、半ば畏怖しながら和彦は見上げる。よほど強張った顔をしていたらしく、賢吾が苦笑いを浮この組織の実行力を舐めていたかもしれないと、和彦はやや呆れてため息を洩らす。総和会本部内の寮の土が剥き出しになっていた場所は、短期間で様変わりしていた。 前はなかった飛び石の一つの上に立ち、辺りを見回す。庭ができていた。青々とした苗木が何本も植えられ、陶器製の大きな植木鉢には春らしい花の寄せ植えが。もちろん一つや二つではない。さらには、和彦の身長ほどの高さの木も贅沢に植えられている。庭の中央部分には敷石がきれいに敷き詰められており、テーブルセットを置くことを考慮しているようだ。「あんたの要望は『野鳥の水飲み場がほしい』だったから、ひとまず水を張った洗面器を置いてある」 和彦の側に立っている南郷がそう言って指さした先には、敷石の上に洗面器が置いてある。 とんでもないことになっていると、和彦は一人うろたえていた。自分が口にした要望はしっかり覚えている。野鳥の水飲み場になりそうな器を置いて、止まり木になりそうなものをちょっと植えてもらえばいいと考えていたことも。しかし今、目の前にある光景は、和彦の想定を何倍も上回って立派だ。 賢吾から、植物園みたいなものを造るかもしれないと言われたときは、冗談としか受け止めなかったが――。 黙り込んでいる和彦の反応をどう捉えたのか、南郷は言い訳するようにこう続けた。「本部の造園を手掛けている業者に、見目よく、だが多少は野趣を感じさせる庭にしてくれと伝えて、こうなったんだが……。何か足りないものがあるか、先生? 今、山野草の苗も集めさせているから、もっとにぎやかになるはずだ。鳥も、この辺りをちょろちょろ飛んでるのを見かけるから心配するな」「……ぼく、庭まで欲しいとは言ってないですよ」「どうせ部屋の窓から見るなら、庭があったほうがいいと俺が思ったんだ。植えた木や草がどんどん成長していくのを見守るのもいい。まあ、そんな余裕があるかどうかはわからんが。土が剥き出しの殺風景な場所に、鳥がやってきても様にならんだろうしな」 はあ、と気の抜けた返事をした和彦は、ちらりと南郷に視線を遣る。きっちりとスーツを着込んでいる和彦とは対照的に、今日の南郷は寛いでいる最中だったのか半
「……なんだ?」「先生のような存在は、高校生には強烈だっただろうなと思って。さんざん世間に揉まれてきた俺ですら、先生と初めて会ったときは、見た目はまともになのにとんでもない人だと感じたぐらいですから」「それにしては、初対面でもぼくに対してけっこうふてぶてしかったぞ」 そうでしたかねー、と呟きながら中嶋が、乱暴に腰を突き上げる。内奥深くをぐうっと突き上げられ、たまらず和彦は上擦った声を洩らす。ゆっくりと何度も弱い部分を突かれているうちに、熱くなった和彦の欲望の先端からトロトロと透明なしずくが滴り落ちる。「こういう姿、伊勢崎玲にも見せたんですか? 純朴で、まじめそうな印象の子でしたけど」「そういう言い方をされると、心が痛む……。そんな子に、ぼくは――」「そうですね。先生が狂わせた」 揶揄するような中嶋の物言いに、反射的に反感を覚えたが、次の瞬間には甘い呻き声を洩らすことになる。内奥からズルリと熱いものが引き抜かれていた。中嶋が隣に横たわり、熱っぽい視線を向けてくる。 意趣返しというわけではないが、中嶋をラグの上に這わせ、腰を突き出した姿勢を取らせる。和彦は遠慮なく背後から中嶋を犯した。「あっ……、うぅっ、うっ、うくっ……」 洩らされる苦痛の声に、いつもの和彦なら怯んでいただろうが、今はむしろゾクゾクするような快感があった。「――……本当は、〈こっち〉の気分だったんだろう? 中嶋くん」 きつく収縮する肉を押し開き、自分の高ぶる欲望をねじ込みながら和彦は囁きかける。ひくりと中嶋の背がしなり、和彦のものを締め付けてくる。優しくはしてやらなかった。中嶋の腰を掴み、乱暴に内奥を突き上げる。そのたびに上がる苦しげな声が耳に心地いい。 単調な律動を繰り返しているうちに中嶋の肌が赤く染まっていき、上がる声に艶が加わる。和彦は深く息を吐き出すと、内奥深くをじっくりと突き上げ、掻き回すように腰を動かす。「いっ……い、です。先生、それ、いい…
「奇遇ですね。俺もです」 笑い合いながら和彦も上半身裸となると、次の瞬間には中嶋にのしかかられ、二人一緒にラグの上に倒れ込む。お互い酔っているのは、勢い任せの口づけから伝わってくる。ふざけ半分、本気半分で絡み合いながら転がっているうちに、クスクスと笑い声を洩らしていた。 なんとなく、このまま興ざめとなって終わりになるかと思ったが、中嶋の手が下肢に這わされてうろたえる。するするとスラックスを下ろされたところで、中嶋の本気を察した。遠慮はいらないなと、和彦も中嶋の穿いているジーンズの前を寛げる。「んっ……ふ」 両足の間に腰を割り込ませてのしかかってきた中嶋と、互いのものを擦り合わせる。ふとあることが気になった。「ここ……、勝手に人が入ってくるなんてことは――」「緊急でもない限り夜は誰も来ませんよ。……朝は、加藤が朝メシを持ってきますけど」 このとき物言いたげな顔をしたらしく、中嶋が薄い笑みを浮かべる。「加藤が気になりますか?」「別に……」「先生は、秦さんと仲良しですもんね」 そんなことはないと言いたかったが、中嶋に唇を塞がれていた。 中嶋の体に両てのひらを這わせながら、首筋に顔を寄せる。〈前線基地〉でよくわからない情報収集に励んでいるという話だが、そんな環境下でもコロンの甘い香りがする。ふっと魔が差したように加虐的なものを刺激された和彦は、首筋にゆっくりと歯を立てた。ビクリと体を震わせた中嶋が、小さく喉を鳴らす。 触れ合っている中嶋の欲望が瞬く間に形を変え、熱くなっていく。中嶋のその反応に、和彦は煽られる。「へえ、こういうのが好きなんだ、君は」 首筋の次は耳朶に歯を立てる。今度はやや強く。呼吸を弾ませた中嶋が、刺激を欲しがるように腰を揺らす。意図を察して互いの下肢に手を伸ばし、身を起こしかけたものを握り込む。「んっ……」 どちらともなく吐息をこぼし、ちらりと視線を交わした次の瞬間には舌を絡め合う。そこから先はじゃれ合うように体
「大事にされていますね」「ぼくは信用されてないからな……」 自然と苦い口調になる。ようやく笑い収めた中嶋が、体を起こしながらさらりと言った。「そういえば先生、派手な柄シャツの男の大立ち回りのときに、クセと色気のある男と一緒にいたそうですね。誰ですか? 長嶺組の人間でないのはわかっているんですけど」 これは誰から探りを入れろと頼まれたのだろうかと、ちょっと意地の悪いことを考える。少なくとも長嶺組は情報を流してはいないようだ。「ふふ。さすがに正体まではたどり着けなかったか」「和泉家が先生につけた後見人的なものかなというのはわかります。一緒に和泉家所有のビルの中を見て回ってたんですから」「……可愛くない」「堅気ではない雰囲気だったというので、気になっているんです。個人的に」 九鬼の肌に艶やかに息づいていた牡丹の刺青を思い出す。次の瞬間、和彦は唐突に、『餌を撒きに』という九鬼の言葉の意味を理解していた。 和泉家が所有する不動産に出入りする和彦の存在によって、組織なのか、個人なのか、とにかく何かを釣り上げたかったのだ。現に、こうして中嶋が釣れた。つまり、第二遊撃隊および総和会が釣れたといえる。九鬼が本当に釣り上げたいのは何者なのか――。「本当に怖いなー、君たちは。迂闊に出歩けない」「誤解しないでもらいたいんですが、俺たちが網を張っていたところに、先生が引っかかったんです。決して、先生の動向を探っていたわけでは」 サラミを摘まみ上げて中嶋が口に放り込む。塩気が強かったのか、顔をしかめてビールを飲んだ。和彦はフランスパンに小さく切ったテリーヌをのせて齧っていると、開けた窓から風が吹き込んでくる。日が傾いてくるにつれ、風は少しずつひんやりとしてきたようだ。酔いで火照った頬には心地いい。「――先生、さっき言ったクセと色気のある男と、寝たんですか?」 唐突に投げかけられた質問に、危うくパンを落としそうになる。反論する前にぐいっとワインを飲み干した。「そういう相手じゃないからな。……さすがにぼくも、そこまで無節
** 宅配してもらったオードブルを肴に、和彦はワインを飲みながら、中嶋相手にくだを巻いていた。「君、性格悪くなったんじゃないか。ぼくの反応を見て楽しんでたよな。……はー、初めて会ったときは、何かと気遣ってくれてたのに。あのとき君は、運転手だったんだ。それがあっという間に隊で出世して……」「先生、俺はもともと性格はよくないですよ」「……悲しいことを言うなよ。君は皮肉屋だとは思うが、性格が悪いと謗るほどでもないだろう」「いや、たった今先生が――」 調子に乗ってワインだけでなく、まるでジュースのような酎ハイも飲んだせいか、いつになく高揚感があって気持ちいい。 和彦は、中嶋がいうところの〈前線基地〉にまだ滞在していた。聞くことを聞いてしまえば帰ってもよかったのだが、玲の接近を知った賢吾の反応が怖い。あからさまに機嫌が悪くなることはないだろうが、言葉でじわじわと締め上げてくる恐れはある。大蛇の化身のような男は、和彦の人間関係に寛容な一方で、嫉妬深くもある。 どこかでさらに時間を潰して帰ろうかと悩んでいると、久しぶりに飲みますかと中嶋から提案され、まんまとそれに乗った。 隊員たちの雑魚寝用に準備してあるというラグマットの上に座り込み、すっかり和彦は寛いでいる。中嶋も、和彦を送っていくという話を忘れてしまったのか、ビールを呷っている。普段のこの部屋での過ごし方が推測できるが、冷蔵庫には見事にアルコール類と水しか入っていなかった。「なあ、わざわざここに部屋まで借りる必要があったのか? 具体的に何を調べてるのかわからないが、拠点は他の地域でもいいだろ」「――キリエ和泉ビルで、大立ち回りがあったそうですね。派手な柄シャツを着た男がビルの一室で大暴れして、マッサージ店をめちゃくちゃにしたと」 チーズがたっぷり絡んだペンネにフォークを刺していた和彦は動きをとめる。この出来事があった日は、総和会には予定を知らせていなかったはずだ。「それは、健全なマッサージ店だったはずが、いつの間にか大人のマッサージ店になってたからで&hellip
「先生、中に戻りましょうか」 促されて部屋に入った瞬間、和彦は中嶋に詰め寄る。「君は誰の命令で動いているんだ?」「ここでの仕事は当然、南郷さんからの指示を受けてのものです。伊勢崎組の組長と御堂さんの関係についても聞いています。そのうえで、御堂さんからも少しばかり情報をもらいました」「……どうしてぼくに、教えてくれるんだ?」「俺は先生の味方です」「ぼくを利用したいと言われたほうが、まだ素直に信じられるんだが……」「素直なのが先生の美徳ですよ」 人を食ったような答えに、睨む気力も湧かない。「前に御堂さんと二人で食事をしたときに、俺、言われたんです。自分と南郷、どちらかにつこうかなんて考えなくていい。つくなら、先生にしておけと」「ぼく?」「何か楽しいことがあるのかもしれませんね。先生の側にいると」 どこまで本気かわからないことを言う中嶋を眺め、この世界の男たちは頭のネジがどうかしていると、いまさらなことを実感する。和彦は疲労感を覚えて、イスを引き寄せ腰掛けた。 髪をぐしゃぐしゃと掻き乱してしまうのは、感情が波立っているからだ。自分の知らないところで、まだ相続したわけでもない財産を巡って謀略を巡らせている人間がいるかもしれないのだ。非常に不愉快ではあるのだが、伊勢崎組と聞いてどうしてもちらつく顔がある。〈彼〉が関わっていなければいいのにと願ったところで、腰を屈めた中嶋に顔を覗き込まれた。「先生、今日、クリニック近くのファミレスにいたときに、トラブルがあったんですよね」「……よく、わからない。誰も、何があったのか教えてくれないんだ。なんなら君が教えてくれてもいいんだが」「知りたいですか?」「したり顔の君がちょっとムカつくけど、言いたいなら、聞いてやってもいい」 何を言われるかと身構えながらの虚勢だが、中嶋はくすりと笑ってから、床に片膝をついてさらに目線を下げてきた。 見上げてくる中嶋の両目が、愉悦を覚えているように爛々としている。和彦は咄嗟に立ち上がろ







