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第40話(16)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-07-20 20:00:14

「少し動かすぞ」

「い、やだ……。まだ、痛い――」

 和彦の拒絶は案の定無視され、綿棒をわずかずつだが出し入れされる。和彦は立て続けに切迫した声を上げ、腰をもじつかせる。そんな和彦の様子から感じるものがあったのか、ふいに賢吾が、小さな口から再び綿棒を引き抜いた。その瞬間、和彦自身も異変に気づき、上擦った声を上げる。

 賢吾の見ている前で、わずかに漏らしていた。

 これまでのつき合いで、賢吾の厄介な#癖__へき__#は薄々とながら気づいていた。全身を戦慄かせながら和彦が賢吾の様子をうかがうと、口元に薄い笑みを浮かべて、食い入るように濡れた下腹部を見つめていた。

「――また、いいか?」

 静かな歓喜を滲ませた声で問われ、和彦は顔を背ける。たった一つの返事しか求めていないのは、いつものことだ。

 息を吐き出すと同時に、綿棒を押し込まれて苦痛の声を洩らす。無理な行為に及んでいるという自覚はあるのか、賢吾は時間をかけて小さな口を犯しながら、和彦の体の強張りを解こうとするかのように、ささやかな愛
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  • 血と束縛と   第49話(3)

    「伊勢崎組がこちらへの進出を図っていると、最初はそんな報告だったんだ。総和会のデータベースに伊勢崎組が載っていたのは、たまたまだ。御堂絡みでな」 南郷の口調がわずかに下卑た響きを帯びる。和彦をまだしっかりと見つめているので、わざとだろう。「ちょっとした商売に乗り出したいという程度なら、御堂の顔を立てて見過ごすこともやぶさかじゃなかったんだがな……。さすがに、北の大物ヤクザが動くには、それなりの理由があったようだ」「何か、わかったんですか……?」「伊勢崎龍造という男が何を考えているかはわからん。表向きは、本当にこちらで商売をやりたがっているようだからな。だが、釈然としない。俺だけじゃなく、オヤジさんや長嶺組長も同じはずだ」 そこで、龍造が顧問を務める北辰連合会について調べたのだという。わざわざ北辰連合会の本拠地がある東北にまで人を遣ったということで、総和会の本気ぶりは伝わってくる。「棲み分けができているんだ。総和会と北辰連合会は。境界線を守って、友好的とは言わないが、揉め事は極力避けてきた。そういう関係を保つために肝要なのは、境界線の向こうにいる相手を見て見ないふりをすること。それが一番トラブルを起こさない。――さて、ここで伊勢崎龍造の存在だ」 そこまで言って南郷は一度ソファから立ち上がり、薄いファイルを手に戻ってくる。差し出されて一応受け取りはしたものの、これをどうすればいいのかと、和彦は困惑する。「中に目を通してくれ。北辰連合会についてあんた用にまとめたものだ。あまり深入りさせるのもどうかと思うが、何も知らないままあんたをふらふらさせるほうがリスクがでかい」 情報を得るのは、力を持つ男たちはともかく、個人ではまったく無力の和彦にとっては喜ばしいことではない。男たちに庇護される前提で、裏の世界の深みにますますはまり込むのだ。いまさらではあるが。 顔を強張らせる和彦に対して、南郷は意地悪く唇の端に笑みを刻む。「無理に読めとは言わないが。怖いことは書いてない」 南郷を睨みつけてからファイルを開く。いきなり龍造の顔写真が目に入った。そして経歴と。見慣れない組の名などが書

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  • 血と束縛と   第49話(1)

     この組織の実行力を舐めていたかもしれないと、和彦はやや呆れてため息を洩らす。総和会本部内の寮の土が剥き出しになっていた場所は、短期間で様変わりしていた。 前はなかった飛び石の一つの上に立ち、辺りを見回す。庭ができていた。青々とした苗木が何本も植えられ、陶器製の大きな植木鉢には春らしい花の寄せ植えが。もちろん一つや二つではない。さらには、和彦の身長ほどの高さの木も贅沢に植えられている。庭の中央部分には敷石がきれいに敷き詰められており、テーブルセットを置くことを考慮しているようだ。「あんたの要望は『野鳥の水飲み場がほしい』だったから、ひとまず水を張った洗面器を置いてある」 和彦の側に立っている南郷がそう言って指さした先には、敷石の上に洗面器が置いてある。 とんでもないことになっていると、和彦は一人うろたえていた。自分が口にした要望はしっかり覚えている。野鳥の水飲み場になりそうな器を置いて、止まり木になりそうなものをちょっと植えてもらえばいいと考えていたことも。しかし今、目の前にある光景は、和彦の想定を何倍も上回って立派だ。 賢吾から、植物園みたいなものを造るかもしれないと言われたときは、冗談としか受け止めなかったが――。 黙り込んでいる和彦の反応をどう捉えたのか、南郷は言い訳するようにこう続けた。「本部の造園を手掛けている業者に、見目よく、だが多少は野趣を感じさせる庭にしてくれと伝えて、こうなったんだが……。何か足りないものがあるか、先生? 今、山野草の苗も集めさせているから、もっとにぎやかになるはずだ。鳥も、この辺りをちょろちょろ飛んでるのを見かけるから心配するな」「……ぼく、庭まで欲しいとは言ってないですよ」「どうせ部屋の窓から見るなら、庭があったほうがいいと俺が思ったんだ。植えた木や草がどんどん成長していくのを見守るのもいい。まあ、そんな余裕があるかどうかはわからんが。土が剥き出しの殺風景な場所に、鳥がやってきても様にならんだろうしな」 はあ、と気の抜けた返事をした和彦は、ちらりと南郷に視線を遣る。きっちりとスーツを着込んでいる和彦とは対照的に、今日の南郷は寛いでいる最中だったのか半

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  • 血と束縛と   第48話(55)

    「大事にされていますね」「ぼくは信用されてないからな……」 自然と苦い口調になる。ようやく笑い収めた中嶋が、体を起こしながらさらりと言った。「そういえば先生、派手な柄シャツの男の大立ち回りのときに、クセと色気のある男と一緒にいたそうですね。誰ですか? 長嶺組の人間でないのはわかっているんですけど」 これは誰から探りを入れろと頼まれたのだろうかと、ちょっと意地の悪いことを考える。少なくとも長嶺組は情報を流してはいないようだ。「ふふ。さすがに正体まではたどり着けなかったか」「和泉家が先生につけた後見人的なものかなというのはわかります。一緒に和泉家所有のビルの中を見て回ってたんですから」「……可愛くない」「堅気ではない雰囲気だったというので、気になっているんです。個人的に」 九鬼の肌に艶やかに息づいていた牡丹の刺青を思い出す。次の瞬間、和彦は唐突に、『餌を撒きに』という九鬼の言葉の意味を理解していた。 和泉家が所有する不動産に出入りする和彦の存在によって、組織なのか、個人なのか、とにかく何かを釣り上げたかったのだ。現に、こうして中嶋が釣れた。つまり、第二遊撃隊および総和会が釣れたといえる。九鬼が本当に釣り上げたいのは何者なのか――。「本当に怖いなー、君たちは。迂闊に出歩けない」「誤解しないでもらいたいんですが、俺たちが網を張っていたところに、先生が引っかかったんです。決して、先生の動向を探っていたわけでは」 サラミを摘まみ上げて中嶋が口に放り込む。塩気が強かったのか、顔をしかめてビールを飲んだ。和彦はフランスパンに小さく切ったテリーヌをのせて齧っていると、開けた窓から風が吹き込んでくる。日が傾いてくるにつれ、風は少しずつひんやりとしてきたようだ。酔いで火照った頬には心地いい。「――先生、さっき言ったクセと色気のある男と、寝たんですか?」 唐突に投げかけられた質問に、危うくパンを落としそうになる。反論する前にぐいっとワインを飲み干した。「そういう相手じゃないからな。……さすがにぼくも、そこまで無節

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