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第6話(25)

Author: 北川とも
last update Last Updated: 2025-11-21 17:00:54

 賢吾の言葉で、和彦はあることを思い出す。千尋に絡んできたり、組事務所の近くで見かけた不審な男のことだ。

「――あの男のこと、何かわかったのか?」

 和彦の問いかけに、再び賢吾がこちらを向く。寸前まで機嫌がよさそうだったのに、このとき賢吾の両目には、ひんやりとした質感が宿っていた。組長としての目だ。

「先生のような人間が知る価値もない、下衆な男だ」

「ヤクザに下衆呼ばわりされるなんて、大したものだ」

「#蛇蝎__だかつ__#のごとく嫌うって言葉があるだろ。蛇は、俺の背中にいる。だとしたら、あの男はサソリかもな」

 指で和彦の頬をくすぐりながら、賢吾が低い笑い声を洩らす。そんな賢吾を、畏怖を込めた眼差しで見つめていた和彦だが、手慰みのように頬や髪を撫でられ続けているうちに、肩から力を抜く。

 すると賢吾が、もう片方の手を差し出してきた。その手と賢吾の顔を交互に見てから、和彦は大きな手の上に、自分の手を重ねる。痛いほど握り締められた。

「……忙しく日帰りするつもりだったが、気が
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    「これが、総和会会長と長嶺組組長が会うということだ。話した内容なんて関係ない。会ったという事実が、重いんだ。……俺が、ここに近づきたがらないのも納得できるだろ?」 車が走り出してすぐに、和彦の手を握った賢吾が、皮肉っぽい口調で言った。完全に気が抜けた和彦は、シートに深く身を預ける。「だったら、会長が長嶺の本宅を訪ねてくることは?」「帰ってくる、という表現のほうが正しいんだろうな。あの家を建てたのはオヤジだ。俺は、長嶺組を継いだと同時に、あの家も継いだ。……まあ、総和会会長の肩書きがある間は、オヤジは本宅の敷居は跨がないだろう。決め事というわけじゃないが、ケジメというやつだ」「……ぼくはヤクザじゃないが、なんとなく、わかる気がする。背負っているものに対して、責任があるということだろ」「そうだ。総和会と長嶺組の位置は近いが、まったく違う組織だ。何か事が起これば、この二つの組織が反目し合うこともありうる――」 賢吾の言葉に例えようもなく不吉なものを感じ、思わず和彦は身震いする。そんな和彦を、賢吾はやけに楽しげな表情で見つめていた。「怖いか、先生?」 肩を抱き寄せられ、素直に賢吾に身を預ける。「怖い……。あまり、物騒なことは言わないでくれ」「心配するな。俺は、臆病で慎重な蛇だ。総和会とは上手くつき合っていくつもりだし、オヤジが会長であるという旨みを最大限利用するつもりだ。俺が蛇でいる限り、組は安泰だ」 よかった、と意識しないまま洩らした自分に、和彦は驚く。口元に手をやり、一人でうろたえていると、わざわざ賢吾が顔を覗き込んできた。「どうやら、俺が思っている以上に、先生は長嶺組の将来を考えてくれているようだな」「……別に、そんなつもりは……。ただ、身内同士の揉め事は見たくないだけだ」「先生が言うと、ヤクザ同士の腹の探り合いも、微笑ましく感じられる」 バカにされているのだろうかと思い、そっと眉をひそめると、ふいに賢吾が表情を消した。

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    「……そんな、ことは……」 守光は、和彦が現在、どれだけの男たちと関係を持っているか把握しているだろう。そのことをどう感じているか、冗談めいた口調から知ることは不可能だった。「わしみたいな偏屈ジジイは、あんたみたいな若い者から特別扱いされると、それだけで機嫌がよくなる。覚えておくといい」 和彦がぎこちなく頷くと、守光は前触れもなく片手を伸ばし、頬やあごの下を撫でてきた。「――昨夜は、触れられなかったからな」 ぽつりと洩らされた守光の言葉に、和彦の背筋に寒気とも疼きともつかない感覚が駆け抜けた。 自分の足で歩いているという感覚も怪しいまま、玄関に向かう。すでに靴を履いた賢吾と、寝癖を気にして髪を撫でている千尋が待っていた。 和彦の顔を見るなり、千尋に言われた。「先生、どうかした? 顔赤いよ」 自分の頬を撫でた和彦は、小さく首を横に振る。「なんでもない……」 靴を履いて振り返ると、守光が千尋の横に立っていた。なんとなく顔を直視できず、伏し目がちに頭を下げて挨拶する。 長嶺の男たちが発する独特の空気に呑まれた挙げ句、和彦は酔いそうになる。自覚もないまま変なことを口走るのではないかと不安になったとき、賢吾にぐっと肩を抱かれて玄関から外へと押し出された。「二人とも気をつけて帰れ」 守光からそう声をかけられたあと、背後でドアが閉まる音がする。この瞬間、息苦しいほどの重圧と緊張感から解放され、和彦は密かに息を吐き出す。しかし、賢吾にはバレた。「やれやれ、といった感じだな、先生」 ハッとして顔を上げると、賢吾の唇には微かな笑みが浮かんでいた。「……あの状況でリラックスできるほど、ぼくは図太い神経をしていないんだ」「そうか? すっかり馴染んでいたぞ。先生の順応性の高さには、慣れたつもりの俺でも驚かされる」 和彦はエレベーターのボタンを乱暴に押す。口を開いたのは、エレベーターに乗り込んでからだった。「――…&hellip

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    「内緒」 先日、千尋が入れるつもりの刺青の絵柄について尋ねたとき、千尋が答えた言葉をそっくりそのまま返してやる。本人もそれがわかったのか、短く声を洩らして笑った。「意外に根に持たれてる?」「ぼくは執念深いんだ」 ようやく髪が乾き、ドライヤーを置いた千尋が手櫛で整えてくれる。至れり尽せりだと、口元を緩めた和彦が立ち上がろうとすると、すかさず背後から抱きつかれた。「おい、千尋――」「なんか先生、今朝は妙に色っぽいよね。さっき俺たちの前に姿見せたとき、ちょっとドキッとしたもん」「何言ってるんだ……」 千尋の嗅覚の鋭さを、和彦はよく知っている。動揺を押し隠して腕の中から抜け出そうとするが、かまわず千尋は間近から顔を覗き込んでくる。「――長嶺の男って、結局、好みと行動が似てるのかな。気に入った人を逃がさないよう、長嶺の家に取り込んで、縛り付けようとする」 独りごちるように言いながら、千尋が和彦の首筋に顔を寄せて、ペロリと舐め上げてきた。熱く濡れた感触に和彦は、鳥肌が立ちそうなほど強烈な疼きを感じる。「千尋、こんなところでふざけるなっ」「俺は、歓迎だよ。先生が、長嶺の男と深く結びついていくの。そうすることで先生は、俺たちから離れられなくなる。目に見えない形で、長嶺の血が先生の中に流れ込んでいくんだ。……じいちゃんが今、総和会に対してやっているみたいに」 千尋の物言いは、確信しているようだった。和彦が夜、〈誰〉と深く結びついたのかということを。 しかし和彦自身は確信を得ることを避け、瞼の裏に焼きついている、掛け軸に描かれた若武者の姿にすがっている。「……さっきも言ったが、夜はゆっくりと休めた。お前が何を勘繰っているのか知らないが、何もなかった。ただ……、ちょっと艶かしい夢を見ただけだ」 和彦を抱き締める千尋の腕に、わずかに力が加わる。「その艶かしい夢って、相手がいた?」「ああ……」「誰?」「客間に行っ

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    ** 重い瞼をなんとか持ち上げると、床の間の掛け軸が目に入った。 布団の中で大きく体を震わせた和彦は、朝の陽射しが差し込んでくる中で、じっと掛け軸の若武者を見つめる。意識が朦朧としながらも、若武者の美しい顔をずっと見ていた気がして、夢と現実の区別がまだ曖昧だ。 それでも、夜中、自分の身に何が起こったのかは記憶にある。はしたない夢を見てしまったと、ほんのわずかな間、羞恥に苛まれたりもしたのだが、内奥に残る疼痛や全身のけだるさは、否が応でも現実を和彦に突きつけてくる。 急に居たたまれない気分になって体を起こすと、下肢に明らかな違和感が残っている。行為の後どうやって後始末をされ、浴衣を直されたのかを思い出し、あっという間に全身が熱くなってくる。 何げなく枕元に視線を向けると、見覚えのない男性物らしきスカーフがあった。 深みのある紫色のスカーフに触れた和彦は、滑らかな手触りにゾクリと身を震わせる。寒いわけではなく、体の奥から疼きが湧き起こったからだ。間違いなく、行為の間ずっと顔にかけられていたものだった。 和彦は口元を手で覆いながら、夜の間の出来事をゆっくりと思い返す。自然に視線は、再び掛け軸へと向いていた。 どうすればいいのだろうか――。 そう自問しながらも、反面、考えたくないという思いもあった。貪欲なほど何もかもを自分の中で呑み込み、感情と理屈の折り合いをつけてきた和彦だが、さすがに〈これ〉は、処理が追いつかない。誰かに手助けしてもらわないと。 ひとまず、体に残る生々しい感触をどうにかしたかった。和彦はふらつきながら立ち上がると、自分の服を抱えて客間を出る。廊下に人気がないことを確かめて、足音を殺しながらバスルームに向かった。 シャワーを浴びながら、下肢に残る潤滑剤と、内奥に残された精をできる限り指で掻き出す。惨めさよりも、とにかく羞恥を刺激される作業だ。 体中にてのひらと指先が這わされ、内奥深くすら丹念に探られたが、和彦に覆い被さってきた相手は、唇と舌で触れてくることはなかった。そのため肌には、愛撫の痕跡が一切残っていない。唯一、淫らな行為があったことを示すのは、内奥に残る疼痛だけだ。これさえ、今日中

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     たっぷり与えられた潤滑剤と刺激で、はしたないほど綻んだ内奥の入り口に熱い感触が押し当てられる。嫌悪とも恐怖ともつかない感情に突き動かされ、逃げ出したくなった。 その瞬間、この家の主に言われたことが脳裏を過る。掛け軸の若武者が添い寝をしてくれるかもしれない、という言葉だ。今にして、あれが冗談ではなかったのだと知る。 和彦が布越しに見ているのは、胸をざわつかせるほど美しい若武者の姿だ。 そう思い込むことを、和彦は求められているのだ。 言葉の深意が、この異常な事態を受け入れさせる気遣いのためなのか、従順さを試すためなのか、それは知りようがないが、なんにしても和彦の体はあさましいほど反応してしまう。 火がついたように激しい欲情が燃え上がり、煩悶する。そんな和彦の体を敷布団の上に縫い止めるように、潤滑剤で潤んだ内奥を押し開かれた。「うっ、ううっ――……」 感じやすくなっている襞と粘膜を強く擦り上げられ、あまりの刺激に一瞬和彦の意識が遠のく。我に返ったとき、下腹部が濡れている感触に気づいた。絶頂に達し、精を噴き上げたのだ。 荒い呼吸を繰り返しながら和彦は、完全に相手に支配される。内奥深くに欲望を呑み込まされてしっかりと繋がっていた。 不思議なほど、組み敷かれて犯されているという意識は湧かなかった。恐怖や羞恥といった感情も薄れ、夢の中で交わっているような現実感のなさだ。そのくせ、体ははっきりと相手の欲望を感じている。 同時に耳は、乱れることのない、深く落ち着いた息遣いを聞いていた。ただ、相手は一切言葉を発しなかった。和彦に、必要以上の情報を与える気はないらしい。「あっ……ん」 内奥にしっかりと埋め込まれ、興奮による淫らな蠢動を堪能するように動かなかった欲望が、ふいに揺れる。完全に虚をつかれた和彦は、上擦った声を上げて身悶える。 誤魔化しようがなかった。正体の知れない相手に貫かれて、和彦の体は快感を貪り始めていた。 ゆっくりと内奥を突き上げられながら、和彦は布越しに相手を見つめる。目を凝らせば、相手の顔を捉えられるぐらい距離が近い。和彦はそこに若武者の美

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