Home / BL / 血と束縛と / 第6話(24)

Share

第6話(24)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-11-21 14:00:44

 そんな会話を交わしながら、賢吾に片手を握られる。ドキリとして和彦が隣を見ると、賢吾が口元に薄い笑みを湛えながら、握った手を引き寄せ、唇を押し当てた。この瞬間、艶かしい感覚が胸に広がり、和彦は息を詰める。

 運転席と助手席にいる組員の存在が気になるが、当然のように、賢吾は意に介していない。

 何度も指先や手の甲に唇を押し当てられ、手を引き抜くわけにもいかず、だからといって素直に反応してみせるわけにもいかない。困惑していた和彦は、とうとうこの空気に耐え切れなくなり、口を開いた。

「どこに――」

「んっ?」

 ようやく賢吾の動きが止まる。ここぞとばかりに和彦は言葉を続けた。

「ドライブがてらの遠出って、どこに行くんだ」

 和彦がうろたえていることに気づいているのか、てのひらに唇を押し当てた賢吾の目が楽しげに細められた。

「見舞いだ。昔、俺のオヤジと兄弟盃を交わした人で、長嶺組の傘下の組を任されていた。だが、引退してからすっかり弱ってな。いよいよ入院したという連絡が入ったんで、俺がオヤジの名代として行くこと
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 血と束縛と   第34話(12)

    「なんだか先生、すっかり心配性になりましたね。俺のことは心配しなくても大丈夫ですよ。少なくとも先生のせいで、俺の立場が悪くなることはありませんから」「……感覚がよく掴めないんだ。ぼくの言動が、周囲にどういう影響を与えるか。長嶺組とだけ関わっているときは、まだ平気だったんだ。だけど……」「総和会――というより、長嶺会長と関わると、自分の存在の大きさがわからなくなりますか」「実体や実力以上の影響力を得たようで、怖くなる。ぼくにその気がなくても、誰かを傷つけるかもしれない」 エレベーターが最上階に到着し、先に降りた中嶋が慎重に辺りをうかがってから、こちらに向かって頷く。 秦の部屋は、前回訪れたときからあまり様子は変わっていないように見えた。秦自身が、仕事で出張の多い生活を送っているせいもあるだろうが、中嶋が主に代わってきちんと管理しているのかもしれない。「きれいなままだな」「隣の部屋は覗かないでくださいね。秦さんが、雑貨の商品サンプルを溜め込んでいるんで」 和彦は思わず噴き出してしまう。「すっかり雑貨屋の経営者だな」「こまごまとした商品を扱うと手間がかかると、よくぼやいていますよ。でも、利益はけっこう出しているようです。――どんな雑貨を扱っているんだか」 中嶋から意味ありげな流し目を向けられ、和彦は苦笑で返す。「ぼくは何も知らないからな。秘密主義の男たちが顔寄せ合って相談したんだろうから、探ろうという気にもならない」「先生、隠し事に向かないタイプですから、それでいいかもしれませんね」 いろいろと身に覚えがある和彦は、あえて返事は避けておく。 中嶋を手伝い、買ってきたものをさっそく温め直したり、皿に盛り付けたりして、ラグの上に並べていく。 ハンバーガーにかぶりつく和彦を、中嶋はいくぶん呆れた様子で眺めながら、フライドポテトを口に放り込む。「こういうもので喜んでくれるなら、俺に言ってくれれば、いつでも買ってきて、配達しますよ」「……会長の部屋で、ハンバーガーの匂いをプンプンさ

  • 血と束縛と   第34話(11)

     恨みがましいことを洩らすと、宿での出来事を思い出したのか、中嶋は軽く眉をひそめた。「俺たちは、遊撃隊と名がついているだけあって、本来は自由に動いて、状況に応じて必要な任務にあたるのが役目です。会長には専従の護衛もいますから、そもそも南郷さんが常に会長についている必要もなかったはず。だから本当の目的は別にあったんじゃないかと言われています」「別?」「総和会の中での、南郷さんの存在をアピールするため、と。今の隊に入って、よくわかりますよ。会長は、南郷さんを特別扱いしています。お気に入りという表現では足りないぐらい。先生には申し訳ないですが、宿での、お二人のやり取りを見て、俺は実感しましたよ。会長にとって南郷さんは、本当に特別なんだと。あの南郷さんが、なんの考えもなく、先生にあんなことをするはずがありません」 中嶋の言う通りだった。南郷は、守光から何かしらの許可を得たうえで、和彦に意図を持って触れているのだ。先日の二人がかりでの仕置きは、ある意味答えになっていると言えた。 守光は、南郷と和彦を共有することさえ厭わないのではないか――。 直視を避けていた可能性が、ふとした瞬間に眼前に突きつけられ、ゾッとする。当然こんな恐ろしいことを守光に確認はできなかった。「先生、大丈夫ですか?」 よほど顔が強張っていたのか、信号待ちで車が停まると、中嶋に顔を覗き込まれる。和彦は緩慢な動作で中嶋を見やり、いまさらなことを尋ねた。「宿の件でのことで、南郷さんから何か言われなかったか? 君は事故に出くわしたようなものなのに、もし立場が悪くなったりしたら申し訳ない……」「先生が心配するようなことはありませんよ。少なくとも俺は、こうして先生の遊び相手として呼ばれているわけですから。まあ、先生のご機嫌のために俺は必要と思われているんでしょう」「……だとしたら、ぼくがわがままだと思われるのは、少しは利点があるということか」 苦々しく呟いた和彦は、もう一度背後を振り返る。やはり、それらしい車を見つけることはできなかった。「護衛がついてきているんだとしたら、店の中までついてくるんだろうな&

  • 血と束縛と   第34話(10)

    **** ひたすら慌しかった盆休みが終わり、和彦にとっての日常が訪れた。 クリニックに出勤しているほうが人心地つけるというのも妙な話だが、盆休みの間、長嶺組や総和会の事情に振り回され、極道の空気というものを堪能した身としては、スタッフや患者たちに囲まれていると、身に溜まった〈毒〉が薄まっていく気がするのだ。「毒、か――……」 遠慮ない表現が自分でおかしくて、車の後部座席で笑いを噛み殺す。だがすぐに、あることを思い出し、今度は苦虫を噛み潰したような顔となってしまう。 自分の中に何度となく注ぎ込まれている毒が、ドロリと蠢いたようだった。守光は〈血〉だと言ったが、きっと毒気を帯びている。 こんなことを考えて暗澹たる気分になるのは、きっと気分転換をしていないせいだ。宿に泊まり、海で泳いだではないかと言われるかもしれないが、それでも気は抜けなかったのだ。身近に守光や賢吾がいるということは、心強い反面、息苦しさもある。 これはわがままなのだろうかと思ったが、すぐに、これぐらいのわがままは許されてもいいではないかと、心の中で強弁する。 とにかく、息抜きがしたかった。 そう結論を出した和彦は、ふっと息を吐き出す。機微に聡い守光と向き合って夕食をとるのは、こういう心理状態のときには負担になる。心の奥底までさらわれているような気になるのだ。 本部に帰宅した和彦は、出迎えてくれた吾川から思いがけないことを聞かされた。「会長は今晩は、戻られないんですか……?」「予定より会合が長引いたということで、現地で一泊されることにしたそうです。相手方は、長嶺会長とも旧知の仲で信頼のおける方ですし、何より、日が落ちてからの移動は、やむをえない事情以外では避けたいものです」「……そうですか」 車中で考えたこともあり、和彦の表情はつい複雑なものになる。「本日は、佐伯先生に合わせて夕食もご用意させていただきますので、何か要望がございましたら――」「だったら今晩は、外で食事を済ませた

  • 血と束縛と   第34話(9)

    ** 南郷から、和彦が夏バテ気味だと進言があったのか、その日の夕食には、和彦の分だけ料理の品数が多かった。しかも、精がつくと言われる食材を使ったものばかり。 あの男なりに、和彦のことに気をつかっているというのは本当なのだろう。だが、あまりに無遠慮で、無神経すぎる。わざと和彦の反感を煽り、その反応を楽しんでいるのだ。 意識しないまま箸を持つ手を止めていたらしく、正面の席につく守光に声をかけられた。「何か嫌いなものでも出ているかね」 ハッとした和彦は慌てて首を横に振る。「いえ、大丈夫です。……食事にずいぶん気をつかってもらっているなと思ったものですから」「あんたには何より体を大事にしてもらわんといけないからな。食べたいものがあれば、遠慮なく吾川に言うといい」「体は平気です。今日はたまたま車に酔っただけなので」 ここで新しいクリニックについて守光から触れるかと内心身構えたが、意外なほどあっさりと受け流された。 守光が目を細めるようにして、じっと和彦を見つめる。「わしらが連れ回したせいで、この何日かで、すっかり日に焼けたな、先生」 和彦は思わず自分の腕を眺める。言われてみればという程度だが、例年に比べれば、確かに少し日焼けした。「いつになく夏を堪能した気がします。海でも泳げましたし」「千尋も、泳げはしなかったが、ずいぶん楽しかったようだ。あんたと一緒だったというのが、何よりだったんだろう」「かなりはしゃいでいて、海で水遊びをしているときは、ヒヤヒヤしました」 楽しげに声を上げて守光が笑う。 こうして向き合って食事をしていると、不思議な感覚に襲われる。ほんの数日前、和彦は長嶺の男たちと交わり、最後に精を注ぎ込んできたのが守光だった。淫靡で背徳的な行為だったはずなのに、一方で厳粛な雰囲気が漂っていたのは、守光の存在があったからだ。 総和会の頂点に立つ男が加わったことで、あの行為は儀式として成り立った。和彦と長嶺の男たちの関係をより深く、濃密に結びつけた。 目の前の人物との関係が、また変わってしまったの

  • 血と束縛と   第34話(8)

     南郷に言われると妙な言葉だと思ったが、顔には出さないでおく。 和彦はさりげなく距離を取ろうとしたが、当然のように南郷はついてきて、駐車場の隅に置かれたベンチに並んで腰掛けることになる。二人きりなら、いくらでも素っ気ない態度が取れるが、今日はそうではない。南郷の部下たちの前で、南郷本人の面子を潰すマネはしたくなかった。「夏バテじゃないのか。今ですら、忙しいと思っているかもしれないが、これからますます忙しくなるぞ、あんた。しっかり食って、体力をつけておかないと」「……新しいクリニックのことを言っているのなら、ぼくはまだ引き受けると決めたわけじゃないので……」 断れると思っているのかと言いたげに、南郷は薄笑いを浮かべた。一瞬ムキになりかけた和彦だが、ギリギリのところで堪える。「総和会から大事にされる代わりに、思い通りにいかなくなることが、いくつか出てくるだろう。こうやって、休みの日に外に引っ張り出されるとか」「それは、長嶺組でも似たような状況なので……」「――大事な男と引き離されるなんてことも、あるかもな」 和彦は、弾かれたように立ち上がり、南郷を睨みつける。誰のことを指しているのか、即座にわかったのだ。南郷は憎たらしいほど落ち着いていた。「あんたと三田村さんがどれだけ熱い仲かってのは、俺もよく知ってる。オヤジさんも一応容認はしているようだが、それは、これまでの話だ。あんたは、長嶺の男たちだけじゃなく、総和会にとって大事な人になりつつある。あんたのために、総和会の人間が命を張るようになるんだ」 背もたれに腕をかけ、南郷がじっと見上げてくる。立っている和彦のほうが目線の位置は高いのに、向けられる眼差しの迫力に、見えない手で頭を押さえつけられそうだった。「そんなあんたと、長嶺組傘下の城東会若頭補佐という肩書きを持っているとはいえ一介の組員とじゃ、釣り合いが取れない――と考える奴も出てくるだろう。総和会ってのは、とにかくプライドの高い連中が揃っているんだ。総和会が一番、その中で、うちの組が一番、とな。オヤジさんは、あくまで総和会の人だ。そんな人がオンナにして

  • 血と束縛と   第34話(7)

     急に南郷が振り返り、藤倉に向かって首を横に振る。藤倉は、あっ、と声を上げたあと、苦笑いを浮かべた。「ああ、まだお伝えしていないんですか」「会長なりにタイミングを見計らっているんでしょう」「なるほど。わたしなどが余計なことを言うべきじゃありませんでしたね」 意味ありげな二人のやり取りを聞いて、和彦はまたシートから体を起こすことになる。明らかに和彦に関わりのあることなのに、どうやら教えてはくれないらしい。 南郷がこちらを見て、唇の端に笑みらしきものを刻んだ。「隠し事ばかりするな、と言いたげな顔だ、先生」「……いえ」「心配しなくても、これから先、あんたが知りたがることはたいていのことは教えてやれる。さしあたりまずは、このドライブの目的だな」 車は一時間近く走り続けたあと、あるショッピングセンターの駐車場へと入る。まさか、この面子でのんびりショッピングということは考えられないので、ここでドライブの目的が判明するのだろう。和彦は、藤倉と並んで歩き、南郷と隊員たちは、少し距離を空けてついてくる。 駐車場を出て数分ほど歩いたところで、藤倉はあるビルの前で足を止めた。正面玄関の閉じた自動ドアの前に不動産屋の札がかかっており、中はガランとしている。「――ここがまず、見学する物件の一つ目になります。ショッピングセンターの近くということで、人や車の通りが多いですね。前は、代々続く整形外科医院だったそうで、確かに建物は少し古い。ただ、場所はいいので、デベロッパーも早めの契約を望んでいます」 淀みなく説明を始めた藤倉に面食らう。一体何事かと思ったが、少し考えれば、嫌でも答えは見えてきた。和彦はおそるおそる空き地を眺めてから、藤倉に確認をする。「もしかしてここに、総和会のクリニックを……?」「あくまで候補の一つですが。それと、総和会のクリニックというより、佐伯先生のためのクリニックと考えてください。もっとも、長嶺組のクリニック同様、名義上の経営者は別人となりますし、院長も同様です。何があっても、佐伯先生の名が表に出ることはありません」 陽射しの強さもあっ

  • 血と束縛と   第3話(33)

    「――……なんかいろいろと、大変そうだ。しがらみとか、つき合いとか」 「先生は、そういうの考えないで、医者としての仕事をしてればいいよ。……一番大事なのは、俺とオヤジの、オンナとしての仕事だけど」  一見好青年のような外見で、さらりとこんなことを言えるのが、千尋だ。  和彦が見つめる先で千尋は、今自分が物騒なことを言ったという自覚もない様子で、パンの袋を開けて顔を突っ込んでいる。和彦はちらりと笑って千尋の頭を撫でてやった。 「まだ食べるなよ。肝心の晩メシが入らなくなるぞ」 「……先生、俺のお袋みたい」  千尋の言葉に、和彦は容赦

    last updateLast Updated : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第3話(36)

    「いいよ、なんだって。先生が、こうして俺の側にいてくれるなら」 「〈俺〉じゃない、〈俺たち〉だ」  賢吾にあごを掴み寄せられ、また唇を吸われる。和彦は賢吾の頬をてのひらで撫でると、そっと唇を吸い返していた。満足そうに賢吾が目を細めて言った。 「――ヤクザの扱いに慣れてきたな、先生」  内心で和彦はドキリとする。したたかになると決めた和彦は、自分の立ち位置を探り始めていた。決してこの父子に媚びないが、決定的な反抗はしない。今の和彦の話は、ウソではないが、すべて本当とはいえなかった。  ヤクザにさまざまなものを与えられながら、従うことを求めら

    last updateLast Updated : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第4話(27)

    「――先生」  呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」  泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」  賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する

    last updateLast Updated : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第4話(2)

     また指で呼ばれ、和彦は賢吾のあとについていく。工事後は待合室となるホールでは、施工業者の人間が集まって持ち込む機材について話し合っている。その様子を一瞥した賢吾は、奥の部屋へと向かう。 「……護衛の人間は?」  ホールを見て、賢吾が一人でこのフロアにやってきたのは確認した。 「物騒なツラした人間を、一般の業者がいる場所に連れてくるわけにはいかないだろ。設計士は前からの馴染みだが、業者のほうはそうじゃないんだ。クリニックを始める前に、妙な噂は立てたくない」 「自分は物騒なツラじゃない、と言いたいんだな」  皮肉でもなんでもなく、思ったまま

    last updateLast Updated : 2026-03-19
More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status