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第6話(31)

Autor: 北川とも
last update Fecha de publicación: 2025-11-22 20:00:52

 別に、やましいことはしていないのだ。

 誰に対してなのか、和彦は心の中で言い訳する。やましいことはしていないはずなのに、どうしてこう、悪いことをしているような妙な罪悪感を覚えるのか――。

 ガラス張りのショールームをぐるりと見回した和彦は、落ち着かない気分で髪を掻き上げる。自意識過剰のつもりはないが、この店に着いたときから、誰かに見られているような気がして仕方ない。

 原因はわかっている。和彦についている、長嶺組の護衛のせいだ。

「――佐伯先生、どうかしましたか?」

 秦に声をかけられ、和彦はハッとする。今日は、護衛だけでなく、秦も一緒なのだ。むしろ同行者としては、秦がメインだ。

「いえ……。クリニックのインテリアを見にきたのに、つい、自分の部屋に置けるものを探してしまって……」

 苦し紛れではなく、本音も入っている和彦の言葉に、秦は柔らかな微笑を浮かべる。

「だったら、こ
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  • 血と束縛と   第34話(21)

    「何言ってるんだ。ぼくが襲撃を受けたかもしれないんだろ。そんなぼくと、長嶺組の大事な跡目を同じ部屋に泊まらせるなんて、できるはずがない。お前がどうしてもと言い張るなら、ぼくから組長に連絡するぞ」「残念。オヤジは行事に顔を出していて、電話は通じないよ。先生のことも、まだ耳に入ってないかもしれない。オヤジがいない以上、先生のことで指示を出せるのは俺。その俺が、先生の側にいたいんだから――」「ますます、ここに泊めるわけにはいかないっ。何があるかわからないんだから、早く本宅に戻れっ。いざとなれば、会長に連絡するぞ」 千尋が拗ねたように唇を尖らせたので、和彦は奥の手を使うしかなかった。 大きくため息をつき、視線を伏せる。力ない声でこう訴えた。「――……一人になって、落ち着きたいんだ。今のぼくは、お前にまで気をつかえる余裕はない。ぼくを心配するなら、お前はお前の身の安全を考えてくれ。それと、お前を支えている人たちのことも。お前一人の身じゃないんだぞ」「それは先生だって同じだろ……。でも、一人になりたいという気持ちはわかる。先生の心配が減るというんなら、今晩は帰る」 素直な千尋を騙したような罪悪感の痛みを押し隠して、和彦は小さく頷いた。** 精神的にも肉体的にも疲弊しているのだが、この夜はまったく眠れる気がしなかった。 テレビのニュース番組を漫然と眺めてから、電源を切る。千尋の話を聞いたせいだろうが、ホテルの一室に身を置いていると、外では凄まじい嵐が吹き荒れていながら、自分だけが何も知らずぼんやりしているのではないかと、焦燥感のようなものが生まれる。 ベッドに横になろうとして気が変わり、部屋に備えつけの冷蔵庫から缶ビールを取り出そうとしたが、結局、冷たいお茶を選んでいた。 グラスにお茶を注いでいると、ナイトテーブルの上に置いた携帯電話が鳴る。今は誰かと話すのはひどく億劫だと思ったが、表示された相手の名を確認すると、無視するわけにはいかない。『――起きていたか』 夜更けであろうが、普段の落ち着きも艶もまったく失っていない賢吾の声は、

  • 血と束縛と   第34話(20)

    「脅しだったんじゃないかと思う。先生じゃなくて、じいちゃんに対する。いままで、弱みらしいものがなかったじいちゃんが、先生を側に置いたうえに、総和会の力と金を使って、先生に事業を始めさせそうとしているんだ。誰だって、先生が特別な存在なんだってわかる。……法要のときの、〈あれ〉もあるしさ。実際、どういうことをしたのかはともかく、盃を交わしたという話で、総和会の中は持ちきりだったらしいし」「……お前のその口ぶりだと、まるで、総和会の中に――」「外部の組織の可能性がまったくないわけじゃないけど、総和会の誰かの仕業という可能性のほうが、圧倒的に高い。総和会は、そういう組織なんだ。じいちゃんだって、手を汚さずに会長の座についたわけじゃない。それをよく思わない人間は、総和会の中にいくらでもいる。表立って揉めないのは、やっぱりそれだけ、じいちゃんの力が絶大だからだ」 そんな存在の弱みになりうるかもしれないと、自分は目されているのだ。和彦は、これまで総和会という組織の中で、自分に向けられた男たちの視線を思い返していた。守光を信奉する男たちの目が行き届いているのか、オンナであることで不愉快な思いをしたことはないが、その中に敵意や害意が含まれていたかもしれないのだ。 本部周辺では現在、この雨にもかかわらず、厳戒態勢が敷かれているという。和彦を本部から遠ざけたのも、不測の事態に備えてのことらしい。「本部かクリニックにいる先生にはピンとこないだろうけど、夏頃から、総本部とかの空気がちょっとおかしいんだよね。ざわついているというか、浮き足立っているというか」「どうしてだ?」「第一遊撃隊の隊長が職務に復帰して、隊自体も活動を再開したから」 思いがけない形で第一遊撃隊の話題が出て、和彦は目を見開く。「御堂さんのことか……」「そういえば先生、御堂さんと会ったことあるんだってね。――先生がどこまで知ってるかはわからないけど、あの人がどうこうというより、あの人を、じいちゃんの抵抗勢力の神輿にしたがってる人間がいるんだよ。筆頭は、清道会かな。とにかく、そういう目論見を抱く側と、警戒する側が、総本部の

  • 血と束縛と   第34話(19)

     尋常でない出来事があったにも関わらず、総和会の男たちの動きは迅速だった。速やかに代わりの車が呼ばれ、和彦だけがその車に乗って現場を立ち去ったのだが、そのあと、警察を呼んで処理したとは到底思えなかった。 どしゃ降りの雨の中、車の外にいた男たちは、ずぶ濡れになりながら明らかに殺気立っており、あんなぎらついた目をして警官と相対すれば、さらに面倒な事態になるのは目に見えている。 先生は何も心配しなくていいと言われたが、自分が乗っている車があんな目に遭い、安穏とした気持ちでいられるはずがない。頭の中は疑問符が飛び交っていた。 車をぶつけてきたのはどこの誰なのかということはもちろん、今夜はこのホテルで休むよう言われた理由も、時間の経過とともに気になってくる。 本部までは、もう少しだったのだ。歩いてさえ行けた距離だ。なのに、わざわざ離れたホテルへと連れて来られた。おそらく隣か前の客室も、総和会によって押さえられているはずだ。護衛の手間を考えても、ホテルの部屋を取った利点が見えてこない。 もう一度ため息をつこうとしたとき、部屋の外で慌しい気配がする。また何か起こったのかと、反射的に飛び起きたと同時に、ドアがノックされた。和彦はベッドの上で動けず、じっと息を潜める。すると、ナイトテーブルの上に置いた携帯電話が鳴った。相手は千尋だ。『――先生、ドア開けて』 電話に出ると、開口一番にそう言われて面食らう。再びドアがノックされ、ようやく和彦はベッドから下りた。 念のためドアスコープを覗いて、ドアの前に千尋が立っているのを確認する。ドアを開けると同時に千尋が押し入り、和彦をきつく抱き締めてきた。「よかったっ……。本当に無事だった」 呻くように千尋が洩らした言葉に、和彦は目を丸くしたあと、小さく笑みをこぼす。千尋の背後に目を向けると、護衛としてついてきたのだろう。廊下に長嶺組の組員たちが立っている。和彦が頷くと、ドアが閉められた。「……大丈夫だと言っただろ。どうして来たんだ」 茶色の髪をくしゃくしゃと撫で回しながら和彦が言うと、不安そうに千尋が見つめてくる。「迷惑だった?」

  • 血と束縛と   第34話(18)

    **** 八月最後の日だった。 和彦はウィンドーを覗き込むようにして、外の様子をうかがう。クリニックからの帰宅途中なのだが、日が暮れてから急に天候が崩れ、とうとうどしゃ降りの雨となっている。『――雨すごいね』 電話の相手である千尋の言葉に、見えるはずもないのに和彦は頷く。「ああ。クリニックを閉める頃に降り出したから、よかったといえばよかったが……。お前は、本宅にいるのか?」『珍しく、午後からずっとね。先生が仕事休みだったら、どこかに一緒に出かけたかったのにさ』「この暑い中、どこに出かけるつもりだったんだ」『いろいろあるよ。まずは、映画なんてどう? あと、秋物も並んでるから、服を買いに行くとかさ』 ここのところ、千尋と気楽な気分で出かける機会もなかったので、素直にいいなと思ってしまう。「お前の予定が合うなら、クリニックが休みの日に出かけるか。ぼくも、買いたいものがあるし」『予定なんて、合わせるよっ。じゃあ、来週の日曜は?』「ぼくのほうは、今は予定が入ってないから大丈夫」『だったら俺、じいちゃんに、その日は絶対に先生に予定を入れないように言っておくから』 総和会会長の孫だからこその発言だなと、和彦は密かに苦笑を洩らす。今の守光に、こんなことを面を向かって言えるのは、おそらく千尋ぐらいだろう。賢吾ですら、長嶺組組長という立場から気安く口にはできないはずだ。「あまり強引な頼み方はするなよ」 柔らかな口調で窘めた和彦は、ここで異変に気づく。大雨のため、普段以上に慎重な運転を続けていた車が、前触れもなく加速したのだ。それに伴い、前に座っている護衛の男たちが目に見えて緊張する。「どうかしたんですか?」 和彦が問いかけると、助手席に座っている男が硬い声で答える。「車の通りが少ない道に入ってから、急に後続車が車間を詰めてきたんです。どうも、動きが不自然で」 和彦がおそるおそる振り返ると、確かにすぐ背後を走る車があった。それでなくてもどしゃ降りの雨の中、この車間の近

  • 血と束縛と   第34話(17)

     和彦は声を洩らして笑っていたが、中嶋が律動を再開し、すぐに尾を引く嬌声を上げる。中嶋に抱き締められ、両腕の中で滑る体を奔放に捩って乱れていると、ふいに、内奥から欲望が引き抜かれ、下腹部から胸元にかけて、中嶋の精が飛び散った。「……さすがに、本部に帰る先生の中に、俺の精液を残すわけにはいきませんからね」 息を乱しながらの中嶋の言葉に、納得せざるをえない。「そんなことまで、頭が回ってなかった……」 和彦が率直に告げると、中嶋がゾクゾクするほど挑発的な表情で応じた。「そんなに、気持ちよかったですか?」「気持ちよかった。自分が浅ましい人間なんだと実感させられた。……周りの男たちが大層な扱いをしてくれるから思い違いをしていた。ぼくは、オンナであろうがなかろうが、本来、こういう人間なんだ。プライドが傷ついたなんて発言は、おこがましかったな」「先生は、自分を正しく客観視しようとしすぎですよ。誰も採点なんてしないんだから、気楽に」 中嶋の発言に、正直驚いた。和彦は目を丸くしたあと、苦々しい顔となる。「子供の頃からの癖だな。採点はされていた。――父親から」 まるで慰めようとするかのように中嶋に頬を撫でられたが、ローションがついてしまい、思わず破顔する。 唇を重ね、抱き合いながら、精がこびりついた下肢を密着させているうちに、中嶋を組み敷く格好となる。和彦は、高ぶった欲望をためらいもなく、潤んだ内奥に再び埋め込んだ。** 気だるさと、清々しさをまとった和彦が本部に戻ったとき、すでに日付は変わっていた。堂々の夜遊びだ。 エレベーターを降り、ラウンジの前を通り過ぎようとして、ぎょっとする。誰もいないと思っていたが、ソファの背もたれの向こうで大きな影が動いたからだ。姿を見せたのは南郷だった。どうやら、ソファに深くもたれかかっていたらしい。 和彦が全身の毛を逆立てる勢いで警戒すると、南郷は露骨に頭の先からつま先まで眺めてきた。そして、芝居がかった下卑た笑みを見せた。「わかってはいるつもりだった

  • 血と束縛と   第34話(16)

    「まだ、役目があるんだから、イッたらダメだ。その代わり、こっちを――」 和彦は、中嶋の欲望をくすぐるように撫でてから、柔らかな膨らみをてのひらに包み込む。ビクリと中嶋の体が震え、間欠的に声を上げる。内奥を緩やかに突きながら、柔らかな膨らみを優しく揉みしだき、探り当てた弱みを指先で弄る。 内奥が激しく蠢き、和彦の欲望を舐め上げるように刺激してくる。普段、自分もこんなふうに反応しているのだとしたら、男たちが執拗にこの部分を攻めてくるのもわかる気がした。 中嶋の興奮を鎮めるため、柔らかな膨らみから手を離し、ビクビクと震えている内腿に指先を這わせてくすぐる。激しい律動は必要なかった。和彦は二度、三度と内奥から欲望を出し入れしたあと、ぐうっと奥深くへと押し入り、絶頂を迎える。 精が注ぎ込まれていると感じたのか、中嶋の内奥が激しい収縮を繰り返し、まるで絞り上げるように和彦の欲望を咥え込む。 腰から溶けてしまいそうな快感は数瞬のうちに去り、次に押し寄せてきたのは脱力感だった。和彦は大きく息を吐き出してから体を離すと、中嶋の隣に転がる。 手足の指先にまで充足感が満ちていき、全身から汗が噴き出す。自分が主導して動くとやはり体の反応がいつもとは違う。これまでも中嶋とは体を重ねていたが、今夜は特別な気がした。 中嶋がしどけなく髪を掻き上げて顔を上げ、熱っぽい眼差しを向けてくる。「やみつきになりそうですよ。先生とのセックス。秦さんも三田村さんもいないから、本気を出しました?」「君のほうこそ、いままでと反応が違った。本気でぼくに応えてくれたか?」 ここで中嶋の目の色が変わり、しなやかな獣のような動きで身を起こし、和彦にのしかかってくる。「――次は、俺の番ですね」 力の抜けた両足を抱え上げ、中嶋が腰を密着させてくる。物欲しげにひくついている内奥の入り口に、欲望の先端が擦りつけられ、思わず和彦は喉を鳴らす。中嶋は一息に、内奥の深い場所までやってきた。「んうっ……」 和彦が仰け反ると、露わになった喉元を舐め上げられる。深く繋がったところで、貪るように唇と舌を吸い合い、汗とローションで濡れた肌をぴった

  • 血と束縛と   第4話(13)

    「普段生活している場所だと、どんな雑菌がいるかわからないんです。その雑菌が傷に入ったら、大変なことになりますよ。それに処置するにしても、もっと明るい照明が必要です。瞼を少し切って、糸をすべて取り除くことになりますから」 「それで、お前が上手くできるという保証はあるのか? もしかすると、もっとひどいことになることもあるんだろう。場所を変える云々も、自分の腕に自信がないからだろう。だいたい、こんな若い医者の言うことが信用できるか」  さてどうしたものかと、和彦は中嶋と顔を見合わせる。聞き分けの悪い患者の相手は慣れているが、クリニックの仕事とはわけが違う。組の事情などという

    last updateÚltima actualización : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第3話(5)

     和彦は最初、性質の悪い男なりの笑えない冗談かと思ったが、そうではないようだ。  指先に唇を割り開かれ、押し込まれる。舌を刺激され、口腔から出し入れされるようになると、和彦も言われたわけではないが賢吾の指を吸い、舌を絡める。賢吾のものをそうして愛撫したように。賢吾の腰の動きが次第に同調し、内奥から逞しいものを出し入れされる。  指ではなく、口づけが欲しいと率直に思った。和彦がおずおずと片手を伸ばすと、口腔から指が引き抜かれ、甘く残酷に囁かれる。 「さあ、どうするんだ? 俺は名前を呼ばれないと、お前の欲しいものはやらないぞ。もうこっちには、お前の欲しいも

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  • 血と束縛と   第1話(11)

     和彦の内奥を的確に指と道具で犯す男の背後に立ったのは、高そうなダブルのスーツをこれ以上なく見事に着こなした中年の男だった。四十代半ばぐらいだろうが、一目見て圧倒される存在感を持っていた。  全身から漂う空気は剣呑としており、それでいて威嚇するような攻撃的なものではなく、ただ静かな凄みを放っている。衰えを知らないような厚みのある体つきに相応しいといえた。何より、彫像のように表情が動かない顔は、冷徹そのものではあるが、端整だ。  だが、容貌はさほど重要ではない。男が持つ独特の鋭さや冷ややかさ、年齢を重ねているだけでは醸せない落ち着きが、男の存在自体を圧倒的なものにしてい

    last updateÚltima actualización : 2026-03-17
  • 血と束縛と   第1話(28)

    「おもちゃで遊ばれている姿を見ながら感じていたが、お前がつき合ってきた男は、きちんとここを開発してくれていたようだな」  喉を反らして感じる和彦に対して、賢吾は容赦なく内奥の浅い部分を攻め立てながら、汗ばんだ胸元を舐め上げてくる。生理的な反応から涙を滲ませながら、和彦は緩く首を左右に振る。このときまた、三田村と目が合っていた。  同性と体を重ねる以外で、特殊な性癖は持ち合わせていないつもりの和彦だが、このときから自信がなくなる。見られることが、もう一つの愛撫になっているようだった。 「こっちを見ろ」  賢吾に言われ、反射的に従ってしまう。す

    last updateÚltima actualización : 2026-03-17
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