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第3話(5)

Auteur: 北川とも
last update Date de publication: 2025-10-26 18:00:32

 和彦は最初、性質の悪い男なりの笑えない冗談かと思ったが、そうではないようだ。

 指先に唇を割り開かれ、押し込まれる。舌を刺激され、口腔から出し入れされるようになると、和彦も言われたわけではないが賢吾の指を吸い、舌を絡める。賢吾のものをそうして愛撫したように。賢吾の腰の動きが次第に同調し、内奥から逞しいものを出し入れされる。

 指ではなく、口づけが欲しいと率直に思った。和彦がおずおずと片手を伸ばすと、口腔から指が引き抜かれ、甘く残酷に囁かれる。

「さあ、どうするんだ? 俺は名前を呼ばれないと、お前の欲しいものはやらないぞ。もうこっちには、お前の欲しいものを咥えさせてやってるんだからな」

 そう言って賢吾が腰を揺らし、身を焼くような羞恥に体を熱くしながら和彦は、目の前のヤクザを睨みつける。だが、逆らえなかった。

「――……賢吾、さん……」

「もっと自然に」

 張り詰めた欲望でぐっと内奥を抉られ、顔を背けて喘ぎ声をこぼした和彦は、それでもなんとか、賢吾をもう一度睨みつけながら、名を呼んだ。

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  • 血と束縛と   第25話(21)

     もう二度と、あんな怖い目には遭いたくなかった。本来であれば、たった一度であろうが和彦が遭遇するはずのない事態だったのだ。 なんといっても和彦は、長嶺の男たちの〈オンナ〉だ。 その、長嶺の男たちに何も告げていないのには、理由がある。特に、賢吾には打ち明けたくなかった。 賢吾に隠し事はしないと心に決めたが、今回はいままでとは状況が違う。これまでの隠し事は、いわば保身ゆえの行動だったのに対し、和彦と南郷の間で起きた出来事は、一度公になれば、個人ではなく、長嶺組と総和会という組織の問題となる危険を孕んでいる。 男たちは事を荒立てない方法をいくらでも知っているだろうが、和彦の脳裏に浮かぶのは、花見会での賢吾と南郷が顔を合わせたときの光景だった。 あの場にいた者ならば――和彦以外の人間でも、どんな小さな諍いの火種も、この二人の間に作ってはいけないと感じるはずだ。 当人たちが何よりそれを知っているはずなのに、南郷は行動を起こしたのだ。よりにもよって、守光と同じ手段を使って。 南郷は、裏の世界での和彦という存在をよく把握している。抗えない力に対して逆らわず、巧く身を委ねるという気質も含めて。だからあえて、和彦を拘束することも、暴力を振るうこともなく、易々と動きを封じ込めたのだ。 和彦は激怒しているが、その感情は南郷だけではなく、自分自身にも向いていた。同時に、羞恥し、困惑もしている。 南郷の行為に、〈オンナ〉とはこうやって扱っていいものだと、現実を見せつけられた気がした。「――佐伯先生」 組員に呼ばれて顔を上げる。車が雑居ビルの前にちょうど停まるところだった。 和彦は促された外に出ると、やや緊張しながら、組員がドアを開けてくれた後部座席を覗き込む。そこには、誰も乗っていなかった。 こんなことでビクビクしている自分に忌々しさを覚えながら、何事もなかった顔をして和彦は車に乗り込む。すぐにドアは閉められ、速やかに車は走り出した。**** 目を通していたファイルを閉じて、何げなく時間を確認する。驚いたことに、もう夕方と呼べる時間だった。 

  • 血と束縛と   第25話(20)

    **** 男の腹部を慎重に押さえ、不自然な張りがないことを確認した和彦は、次に、手術の傷を覆っている大きなガーゼを剥がす。腸閉塞という事態には見舞われたものの、傷口は化膿しなかったようだ。 この調子なら、もう何日かすれば抜糸ができるだろうと思いながら、消毒をして、新しいガーゼを貼る。「手術の経過は問題なし。それと腸閉塞のほうも、便が出たと報告を受けたので、ひとまず安心はしていいだろう」 大人用のオムツをつけた患者の男は、やれやれ、という表情となる。内心では、和彦も同じ気持ちだ。 このとき、治療した側・された側と、まったく違う立場でありながら、同じ気持ちを共有したであろう二人の目が合う。 総和会に匿われる身で、暴漢に襲われて重傷を負うという凄まじい経験をした男は、いかつい顔に似合わない、妙に愛嬌のある笑みを浮かべ、軽く頭を上下に動かす。喉が渇ききって声が出せないなりに、和彦に対して感謝の気持ちを示したらしい。「……まだ油断はできない。手術のためにけっこう腹の中を弄ったから、またどんな影響が出るかわからないんだ。もう何事も起こらないかもしれないし、再発するかもしれない。なんにしても、腹の傷が完全に塞がるまでは様子見だ」 男に対してだけ説明しているわけではなく、ベッドの傍らに立つ監視役の組員にも聞かせているのだ。 和彦は輸液の確認をしてから、必要事項をメモ用紙に書き込む。「明日から、水分を口からとることにしよう。ただし一日で採れるのは、カップ一杯――の半分だけ。あくまで口を湿らせる程度に。引き続き、尿と便の様子を観察してほしい。何かあれば、連絡を」 淡々と告げてメモ用紙を一枚破ると、素っ気なく組員に押し付ける。和彦の態度に驚いたように目を丸くしたが、頭を下げて受け取った。「お疲れ様でした。車を呼びますから、コーヒーでも飲んでお待ちください」「――もし、呼んだ車の後部座席に誰か乗っていたら、タクシーで帰るからな」 和彦は、冷然とした眼差しを組員に向ける。普段であれば、こんな眼差しを他人に向けることはないのだが、この場所にいて

  • 血と束縛と   第25話(19)

     内奥で円を描くように、大胆に指が動く。頑なだった肉は緩み、擦り込まれる唾液によって潤む。おそらく、いやらしく真っ赤に熟れてもいるだろう。そして侵入者は、そういった反応をすべて観察しているはずだ。「んっ……くぅっ」 肉を掻き分けるようにして、指が内奥に付け根まで収まる。その状態で欲望を擦り上げられると、和彦は呆気なく絶頂を迎え、自らが放った精で下腹部を濡らす。 激しく息を喘がせている間も、侵入者は容赦なく内奥を指で攻め、微かに湿った音がするほど蕩けさせてしまう。しかしふいに、指が引き抜かれた。 和彦の耳は、自分の乱れた呼吸音だけではなく、ファスナーを下ろす音も捉えていた。ビクリと体を震わせて起き上がろうとしたが、布越しに、侵入者の顔が近づいてきたのが見えると、それだけで動けなくなる。この状況で相手の顔を見た途端、暴力を振るわれて犯されると、確信めいたものがあった。 奇妙なことだが、顔が見えないからこそ和彦と侵入者の間には、歯止めのようなものが生まれているのだ。 布越しに何度目かの口づけを与えられる。片足を抱え上げられて、蕩けてひくつく内奥の入り口に、圧倒的重量を感じさせる熱い塊を押し付けられ、擦りつけられる。和彦は小刻みに体を震わせて、小さく呟いた。「――……嫌、だ……」 和彦の唇に、荒い息遣いが触れる。もしかすると、侵入者は笑ったのかもしれない。 侵入者は、和彦を犯しはしなかった。その代わりに屈辱と羞恥を与えることにしたのか、和彦の片手を取り、逞しい欲望を握らせた。 知らない男の欲望だった。手を取られ、扱くことを強要されながら、和彦は喘ぐ。被虐的な気持ちに陥りながら、倒錯した性的興奮を覚えていたのかもしれないし、熱を帯びる布越しの口づけに感じていたのかもしれない。 てのひらで感じる侵入者の欲望は、ふてぶてしく育ち、力強く脈打っている。 こんなものが自分の中に打ち込まれたら――。そう想像したとき、体の内を駆け抜けたのは、恐怖なのかおぞましさのか、和彦自身にも判断しかねた。あるいは、別の〈何か〉なのかも。 和彦が小さく身震いを

  • 血と束縛と   第25話(18)

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  • 血と束縛と   第25話(17)

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  • 血と束縛と   第25話(16)

    「腸閉塞だな。わかりやすく言うなら、腸が詰まっているんだ。だから、飲食したものがすべて逆流して、嘔吐が続くし、腹痛も起こる。先日の手術で内臓の組織が癒着して、腸が圧迫されたんだろうな。それに、寝たきりのストレスも、腸によくない影響を与える」 部屋にいる男たちに淡々と説明をしながら、輸液の準備をする。一方で頭の片隅では、この場にいるのは、南郷率いる第二遊撃隊の人間ばかりなのだろうかと考えてもいた。 手術を行ったときは、男が怪我を負った簡単な経緯だけは聞いたが、それ以外のことは何も知らされなかった。唯一はっきりしていたのは、総和会から回ってきた仕事、ということだけだ。だが、帰宅する車で南郷と乗り合わせ、さほど知りたくなかった事情を、大まかながら教えられた。 総和会の中で詰め腹を切らせるために、男は生きていなくてはならないのだ。 こういう事実を知ってプレッシャーを感じるぐらいなら、何も知らなかったほうがありがたい。 医者として患者を救いたいのは当然だが、この世界で求められるのは、そういう道徳や倫理といったものではない。優先されるべきは、組織の都合であり、事情なのだ。結果として患者を救えるのだから文句はないだろうと、南郷なら平然と言いそうだった。 必要以上に南郷を悪辣な男として捉えてしまうのは、やはり苦手だからだ。 車中での出来事が蘇り、和彦は眉をひそめる。背筋を駆け抜けたのは、不快さだった。気を取り直し、男の腕に点滴の針を刺す。「当分、食事はおろか、水を飲むことも厳禁だ。点滴で栄養をとりながら、胃腸を休ませる」「……また、手術をすることになるんですか?」 和彦の指示に従い、新しい洗面器を持ってきた男が問いかけてくる。なんとなく見覚えがある顔だと思ったら、先日、南郷と同乗した車を運転していた男だ。 咄嗟に和彦は、質問に対して、まったく関係ない質問で返していた。「――南郷さんもここに来ているのか?」 男はわずかに目を見開いたあと、すぐに無表情となって首を横に振った。「いえ、今日は会長と行動をともにしているので」「そうか……」 

  • 血と束縛と   第3話(8)

    「……長嶺組との関わりですら荷が重いのに、この間、総和会の仕事をさせられたぞ。お前の部屋にいたところを、お前の父親に踏み込まれたときのことだ。覚えているだろ?」 「うん。――先生、あまり総和会に気に入られないようにしてよ」 「どういう意味だ」 「長嶺組から総和会に、先生が召し上げられる可能性があるってこと」  召し上げられるという表現が気に食わないが、今は置いておく。最近の和彦は、組関係で気になることがあれば、詳しく説明を聞く方針にしたのだ。 「今の先生の存在は、言葉は悪いけど、所有権は長嶺組にあるんだ。だから先生を自由に使える」

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-18
  • 血と束縛と   第3話(24)

     エレベーターを六階で下りると、さほど広くないエレベーターホールは電気がついていないせいもあり少し薄暗かったが、廊下に出ると、外からの陽射しをたっぷり取り入れているため明るかった。ビルの前を歩道と車道が通っているが、遮音は万全のようだ。  廊下の先にホールがあり、そのホールに面して六つのドアがあった。かつて入っていたテナントの名残りか、ドアにはプレートが貼ってあった形跡がある。 「前まではこのフロアに、小さな会社が二つ、三つ入っていたらしい。会社として考えると、部屋の一つ一つは手狭だが、このフロア全体をクリニックにすると、広さはちょうどいい。診察室に手術室、安静室に事

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  • 血と束縛と   第2話(24)

    「……着替えないと… …」  和彦が呟いてベッドを出ようとすると、すかさず目の前に紙袋が突き出された。三田村を見上げたあと、賢吾に視線を移す。 「パジャマ姿で行きたいなら止めないが、一応着替えを用意してきた。汚れたスーツを着る気にはなれないだろ」  確かに、玄関での千尋との行為のせいで、和彦が着ていたスーツは汚れてしまった。篭城していたためクリーニングに出すこともできず、丸めたまま放っている。  三田村の手から袋を受け取ると、傍らでは賢吾が千尋に対し、父親の強権を発動していた。 「お前は、このまま家に帰るぞ。文句を言うなら、ぶん殴っておと

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  • 血と束縛と   第3話(2)

    「……開業の準備に関しては、毎日組に報告しているはずだ。わざわざこの部屋に来ることはないだろう」  うんざりしながら和彦が言うと、わざと聞こえないふりをしているのか、賢吾はリビングを見回した。この部屋を訪れたのは今日が初めてのため、賢吾は玄関に入ったときから、他の部屋はおろか、トイレやバスルームまでこうやってチェックしていた。 「まだ、殺風景だな。引っ越しの荷物は解いたんだろう?」 「あまりごちゃごちゃと飾るのは好きじゃない。それに、こんな広い部屋にたっぷり置けるほどの家具なんて、もともと持ってなかった」  一人暮らしなのに広い4LDKの部屋を与え

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