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第8話(17)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-12-06 14:00:44

「先生は、別にヤクザは怖がっていないだろ。ただ、俺のことはずっと怖がっている。……俺が聞きたいのは、ヤバイ薬なんてものがひょいっと目の前に現れて、怖くないかってことだ」

「……いまさら怖いものが一つ加わったところで、どう反応していいかわからない」

「先生のそういうところが、肝が据わっているというんだ」

 当然のように賢吾に手を握られ、和彦も握り返す。これまでのつき合いでなんとなく把握したが、賢吾は車中で体を寄せ合うのが好きらしい。それは、千尋のようにストレートな好意をぶつけてくる類ではなく、和彦の従順さを確かめるためのものだ。

 常にこういうことをしてくる男を、怖がるなというのは無理な話だ。

「ぼくが診た患者、千尋と同じ歳ぐらいだ。いや、もう少し若いのか」

「まだ二十歳になってない。うちの若衆の下で小遣い稼ぎをしているようなガキで、組員ではない。が、長嶺の名に少しでも関わっている人間だ。見捨てるわけにはいかねーだろ」

 和彦がじっと見つめると、賢吾はニヤリ
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  • 血と束縛と   第27話(30)

     ここで和彦は、この寝室にはまだ盗聴器は仕掛けられているのだろうかと思い至り、布団に頭まで潜り込む。いつでも意識するのは、賢吾の存在だ。「少し引っかかっている。穏便に済ませたいという気持ちは、確かにあるんだ。だけど、当事者のぼくに相談する前に、穏便に済ませるためのお膳立てが、会長と組長の間ですでにできていているようだった。ぼくは、上手く誘導されて頷いただけのようで――違うな。そうじゃない。こういうやり方で回っている世界だと知っているし、理解もしているんだ」 そもそも、自分のことで揉めないでほしいと望んでいたのは、和彦だ。長嶺の男たちの行動は、組織同士の無用な対立を避けるためであるだろうが、和彦の望みも叶えてくれている。それでも釈然としないのは、きっと自分のわがままなのだろう。「組長が何を考えているか、まったくわからない。南郷さんのことで、ぼくのことを迂闊だとか、隙がありすぎるとか、そんなふうに責められてもないんだ。……仕事の一つとして、南郷さんとのことを淡々と処理されたように感じる」 ここまで話したところで三田村は、和彦自身ですら輪郭を掴みかねている気持ちを、しっかりと言葉で掬い上げてくれた。『――先生は、組長の感情的な姿を見たかったんだな』「えっ」『俺の〈オンナ〉に何をしやがる、と言ってほしかったと、今の先生の言葉を聞いていたら、そんな心の声も聞こえてきた。……もしかして俺は、自分が思っているより酔っているのかもしれないから、そんなことと、笑ってくれてもいい』 真っ暗な布団の中で、和彦はゆっくりと目を瞬く。三田村の指摘に、自分でも驚くほど納得していた。「……そう、なんだろうな。ぼくは、自分でも呆れるほど、図太い神経をしているかもしれない。人を脅迫して、職場どころか、普通の生活まで奪った男に、そういうことを望むなんて」『組長は本当は、激情家なんじゃないかと、感じるときがある。背負うものがあって、危険な立場に身を置いているから、常に感情を律しているが。先生に直接意見を求めなかったのは、組長なりに危惧したからじゃないか』「危惧?」『先生が怯

  • 血と束縛と   第27話(29)

     南郷のことがあり、じっくりと考える余裕がなかったが、それは言い訳にしか過ぎない。本当は、あえて避けていたのだ。 英俊からの連絡に対して、どう対応すべきかという答えを出すことを。 いくら疎遠になろうが、夢に出てくる佐伯家の光景はいつでも鮮明だ。物心ついたときから感じていた疎外感すら、生々しく心に蘇っている。 もういい大人なのだから、実家と縁を切って生きていくことはできる。実際いままでも、似たようなものだったのだ。それが、こうして不安感に晒されるのは、現在、自分を大事にしてくれている男たちに何かしらの迷惑をかけるのではないかと危惧するからだ。世間からすれば、迷惑を被るのは佐伯家のほうだと、口を揃えて言うだろうが。 やっぱり、あの家のことは考えたくない――。 体を丸くした和彦は小さく呻き声を洩らしてから、再びサイドテーブルに手を伸ばす。携帯電話を取り上げると、救いを求めるように、誰よりも自分に優しい男に電話をかけていた。『――こんな時間にどうかしたのか、先生』 電話越しに聞こえてきたハスキーな声が、鼓膜に溶けていく。その心地よい感触にそっと吐息を洩らして、和彦は応じた。「今、大丈夫か?」『ああ、ちょうど部屋で一人で飲んでいたところだから、気にしないでくれ』「よかった、と言っていいのかな。ぼくのつまらない話につき合わせる気満々なんだが」『俺は、嬉しい。思いがけず、こうして先生の声を聞きながら、酒が飲めるんだから』 自分も、長嶺の男たちのことは言えないと、和彦は笑みをこぼす。三田村から、欲しい返事をもぎ取ったのだ。「……今日は、会長に呼ばれてちょっと遠出したから疲れたんだ。早めに寝たけど、夢見が悪くて、こんな変な時間に起きてしまった」『先生が、総和会の用事で出かけたことは、組にも報告は入っていたが、そうか、会長と……』 三田村の口調はあくまで優しいが、意識して感情を排しているようにも感じられる。「ああ……。何かしら、聞いてはいるだろう。南郷さんのこと」『組を騙す形で連れ出された先生の居

  • 血と束縛と   第27話(28)

     内奥深くにまで道具を突き込まれ、腰から下が甘く痺れる。自分でもわかるほど必死に、道具を締め付けていた。和彦は呻き声を洩らしながら、道具の蠢きに合わせて、妖しく腰をくねらせる。本当は何かにしがみつきたいが、両手首をしっかりと縛められているためそれができない。もどかしいが、そのもどかしさにすら、感じてしまう。「あっ、あっ、んうっ……、うあっ」「もう少し、武骨な形のオモチャも作らせよう。もう少し太く、もう少し長く――。それを味わうあんたを見てみたい」 ここで一度、内奥から道具が引き抜かれる。和彦は再び仰向けにされるが、両手首の縛めを解かれることはない。体の下に敷き込んだことでより拘束感が増し、和彦は半ば恐れながら守光を見上げる。当の守光は、端整な顔に笑みを浮かべ、上気して汗で濡れた和彦の体を眺めていた。しどけない和彦の姿とは対照的に、守光は浴衣の乱れすらすでに正している。和彦に、快感という責め苦を与える準備ができているということだ。 両足を広げられ、反り返って濡れそぼった欲望の形を確かめられる。先端を指の腹でそっと撫でられただけで、和彦は短く悲鳴を上げて感じていた。「この蜜は、あとでまた味わうとしよう。今は、オモチャ遊びだ」 和彦の欲望を緩く二度、三度と扱いた守光は、箱から鮮やかな朱色の組み紐を取り出した。一目見ただけで、その組み紐を何に使うか、和彦にはわかった。『オモチャ遊び』と守光は言ったが、漆塗りの箱は、さながらオモチャ箱だ。和彦を淫らに攻めるための道具が揃っている。「ふっ……」 興奮して震える欲望に組み紐が幾重にも巻きつき、根元をしっかりと締め上げられる。苦痛のため足掻こうとするが、肝心の両手は拘束されており、体を起こすのもままならない。そんな和彦の体を、守光は愛しげに撫で回し、唇を這わせてくる。「うっ、くうっ――ん」 柔らかな膨らみを片手で揉みしだかれながら、胸の突起を優しく吸い上げられる。和彦は甘い嗚咽を洩らして身悶えていた。これ以上ない痴態を守光に晒していると自覚はあるが、すでにもう自制がきかない。そもそも、和彦がそういう状態になることが、守光の望みだったはずだ。 

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  • 血と束縛と   第27話(26)

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     南郷に対して怒りはあるが、自ら罰を与えようと考えたことはなかった。守光が最善の手段へと導いてくれると、心のどこかで期待をしていた。しかし、これは――。 和彦の返事次第では、二つの組織だけではなく、父子関係の不和すら生みかねないと、言外に仄めかされているようだった。守光は、和彦から欲しい返事をもぎ取ろうとしているのだ。この場にはいない賢吾も。 ぐっと奥歯を噛み締めた和彦は、いまさらながら、自分がどれほど怖い男たちの〈オンナ〉であるのか、痛感していた。大事にしてくれてはいるが、一方で、自分たちが背負う組織のために、どこまでも傲慢で容赦なく振舞う。 それでも和彦は身を委ねるしかないのだ。「――……助言を、いただけないでしょうか。どうすれば、影響を最小限に抑えて、なおかつ、誰にも口出しをさせないほど、きちんとケリをつけられるのか。そんな方法があるのでしょうか?」「簡単だ。南郷を跪かせるといい」 事も無げに告げられ、静かな衝撃が胸に広がる。「ひざま、ずかせる……?」「あの男の土下座は、価値がある。――南郷が小さな組の組長代行を務めていた頃、その土下座で揉めに揉めてな。南郷は、親ともいえる組長の面子を潰した挙げ句、結局総和会が介入する話にまでなった。結果が、今の立場だ」 その今の立場を守るために、南郷は和彦の要求を呑むか否か、試せというのだ。しかし守光には確信があるのだろう。南郷は、和彦に詫びるために跪くと。それで、すべてケリがつくと。 頭が、考えることを放棄したがっていた。南郷にそこまでさせてしまうことで、どういう結果が生まれるのか、想像するのが怖かったのだ。不穏なものを感じながらも、しかし他に手段も思いつかない。 和彦は、守光に頭を下げた。「すべて、お任せします。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」「あんたが頭を下げる必要はない。今回の件は、こちらの不始末だ。それを円満に解決するために、あんたの手を借りる。面倒だと思うかもしれんが、この世界で円滑に物事を進めるには、取り繕うべき形が必要なんだ」「……そのことを

  • 血と束縛と   第11話(22)

     さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自

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  • 血と束縛と   第10話(33)

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  • 血と束縛と   第10話(36)

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  • 血と束縛と   第10話(12)

    「いえ、まだです。ただ、年明けには間に合わせるつもりです。クリニックそのものは、開業準備は順調に進んでいますから、あとは役所や関係機関への申請さえ無事に済めば……」「なるほど。普通の医者が開業をするのとは、わけが違いますからね。その辺りは、細心の注意を払う必要があるというわけですか」「ヤクザの道楽というには、金も手間も、何より、ぼくの人生がかかってますから」 和彦の言葉に、中嶋がちらりとこちらを見た。何を考えているかわからない眼差しに、居心地の悪さに拍車がかかる。 ここのところ明らかに、中嶋の和彦に対する態度は変

    last updateLast Updated : 2026-03-26
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