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第9話(14)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-12-15 11:00:38

 クールに応じながら鷹津を一瞥すると、奇妙な生き物でも見るような眼差しが向けられていた。そこには、好奇心と嫌悪、他人に不愉快さをもたらす熱っぽさが含まれている。

 ほう、と声を洩らした鷹津は、皮肉っぽく唇を歪めた。

「大した度胸だな。組長のオンナが、その忠犬と浮気しているのか」

「脅すネタができたと思ったのだとしたら、残念だな。組長は知っている。というより、組長公認だ。――三田村は、ぼくのオトコだ」

 鷹津の表情は純粋な嫌悪に占められたが、和彦はなんとも思わなかった。お互い様だ。

「……ヤクザに目をつけられた可哀想な一般人じゃないわけだな。ヤクザの組長のオンナになって、その犬をオトコにして……。はっ、大したもんだ。お前みたいに図太い奴は、滅多にいないぞ」

 罵倒されて和彦が感じるのは、自分はもう、前の自分とは違うのだという静かな達観だった。ヤクザに囲まれて生活していると麻痺してしまうが、こうして刑事の鷹津に言われると、今いる世界は自分の一部になったのだと痛感する。<
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     賢吾の指は休みなく動き、和彦の内奥の入り口を解すように擦り始める。唾液を施されながら刺激されているうちに、柔らかくなりかけた肉をこじ開けるようにして、指が内奥に侵入してきた。「あぁっ――」 自分でもわかるほど必死に、賢吾の指を締め付ける。物欲しげな内奥の蠢動を楽しんでいるのか、賢吾の指が緩やかに出し入れされ、襞と粘膜を軽く擦り上げられる。和彦は息を喘がせながら敷布団の上で身を捩り、そのたびに浴衣がはだけていく。「こっちの肉も美味そうだ」 低い声でそう言って、賢吾が胸元に顔を伏せる。触れられないまま硬く凝った胸の突起をいきなり口腔に含まれ、きつく吸い上げられた。「んうっ」 はしたなく濡れた音を立てて突起を愛撫しながら、賢吾は執拗に内奥を指でまさぐる。その指の動きに合わせて、和彦も声を抑えられなくなっていた。 爪先を突っ張らせ、腰をもじつかせながら、背を反らし上げ、賢吾から与えられる快感を味わう。そんな和彦の様子を、賢吾は射抜くほど強い眼差しで見つめてくる。「……気持ちいいか、先生?」 鼓膜に刻みつけるように囁かれ、和彦は頷く。寄せられた唇を甘えるように吸い、すぐに濃厚に舌を絡ませ合う。 内奥から指が引き抜かれ、熱く逞しい欲望が待ちかねていたように押し当てられた。性急に内奥を押し広げられる苦痛すら、大蛇と繋がっていく精神的愉悦の前では些細なことだった。「あっ、あっ、頼、む――、ゆっくり、してくれ……」 押し入ってくる欲望の感触をじっくりと味わいたくて、和彦はつい恥知らずな頼みを口にする。興奮したのか、内奥で賢吾のものが力強く脈打ち、一際大きくなったようだった。和彦は上擦った声を上げ、腰を揺すって反応してしまう。 病み上がりであることなど関係ない。求められて、和彦の体は悦んでいた。 和彦の頼みを聞き入れる気はないらしく、両足をしっかりと抱え上げた賢吾は大胆に腰を使い、内奥深くを犯し始める。突き上げられるたびに和彦は身を震わせ、声を上げ、反り返った欲望の先端から透明なしずくを垂らす。「本当に、いやらしくて、いいオンナだ…

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     複数の男たちとの奔放とも言える関係を、三田村は受け止めてくれている。だが、総和会会長という肩書きを持つ守光との特殊な関係だけは、奇妙な言い方だが、三田村に受け止めてもらいたくなかった。従順な〈犬〉らしく無表情で沈黙され、和彦は何も説明できなかったのだ。 和彦自身、自分のこの複雑な心理をどう表現していいのかわからない。とにかく、目の前にいない守光と話しながら、三田村と同じ部屋にいることが、居たたまれなかった。「――どの男のことを考えている」 唐突に賢吾に話しかけられ、和彦は激しく動揺する。そんな和彦の反応を、大蛇が潜んでいる目が冷静に見つめていた。「誰、も……」「そこで、俺のことだと言わないあたりが、先生らしいな」「……ぼくに、そんな可愛げのあるウソが言えるはずないだろ」「先生の場合、憎まれ口すら可愛げがあるから、大丈夫じゃないか」 ようやく平静を取り戻した和彦は、苦々しく唇を歪める。「そんなこと言うのは、あんたぐらいだ」「俺ほど、先生に憎まれ口を叩かれている人間はいないだろうからな。俺にそんな口を聞けるのは、今じゃもう、千尋か先生ぐらいしかいないから、貴重だ」 賢吾の口調には、微妙なほろ苦さと優しさが入り混じっているように聞こえた。 なんと言えばいいかわからず和彦が戸惑うと、寸前の会話など忘れたように賢吾が片手を伸ばし、頬や首筋に触れてきた。「少し熱い。熱がぶり返してないか?」 自覚がなかった和彦は、慌てて自分の額に触れる。「いや、そんなはずは……」「自分が高熱を出しているかどうか、へたり込むまで気づかなかった先生が言っても、説得力がない」 言外に頼りないと言われているようで、ムッとした和彦はすかさず反撃した。「ぼくは、内科は専門外だ」「医者じゃない人間でも、自分が体調が悪いかどうかぐらい、わかるだろ。先生は、自分のことに無頓着なだけだ。いや……、不精というべきか?」「……好きに言って

  • 血と束縛と   第21話(3)

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  • 血と束縛と   第21話(2)

    「――あそこだ、先生」 あそこ、と言われても和彦にはわからない。車がすれ違うのもやっとの通りの左右には、住宅や商店が並んでいるのだ。 車は狭い駐車場に入り、降りた和彦は辺りを見回す。古い建物が多いなと思っていると、賢吾に呼ばれてあとをついていく。どうやら護衛の組員は車に待機させておくようだ。 和彦が物言いたげな眼差しを向けると、賢吾は軽くあごをしゃくった。「店は目の前だ。それに、これから優雅な気分を味わおうってのに、護衛をつけてたら不粋だろ」「……優雅?」「いい品を揃えてある店だからな。目が肥えるぞ」 そう言って賢吾が、駐車場前の店の扉を開ける。〈準備中〉の札が表になっているのもお構いなしだ。 電気がついている店の中を覗き込んだ和彦は目を見開くと同時に、かつて賢吾に言われた言葉を思い出した。「春には、着物の着付けができるようになってもらうって言ってたが、もしかして――……」「着付けをするためには、まずは肝心の着物がないとな」 賢吾に肩を押され、店に足を踏み入れる。さほど広くない店内には、数え切れないほどの反物が並んでいた。艶やかなものから、渋い色合いのものまで、さまざまだ。「ここは、長嶺の人間がずっと贔屓にしている呉服屋だ。今日は昼まで、貸切にさせてもらった。人目を気にせず、じっくりと選びたかったからな」 促されるまま靴を脱ぎ、畳敷きのスペースに上がる。物珍しさはあるが、高価そうな反物に迂闊に近づけず離れて眺めていると、着物姿の初老の男性が奥から出てきて、親しげに賢吾と言葉を交わす。風情や会話の内容からして、この呉服屋の主人のようだ。 会釈した和彦を、その主人が頭の先から爪先までじっくりと見つめたかと思うと、反物を選び始める。「すごい色男さんだとうかがって、こちらも気合いを入れて、反物を仕入れておきましたよ。賢吾さんがお好きそうな色目のものから、若い方向きのちょっと粋なデザインまで」「おう。これからちょくちょく世話になると思うから、よさそうなものがあったら取っておいてくれ。こうして、その色男も連れてきたしな」

  • 血と束縛と   第21話(1)

     ダイニングでお茶を飲む和彦を見るなり、賢吾は口元に薄い笑みを浮かべた。何か企んでいると思わせるには十分な表情で、和彦は露骨に警戒して見せた。「すっかり顔色がよくなったな」 和彦の隣のイスに腰掛けた賢吾が、テーブルの上の食器にちらりと視線を向けたあと、身を乗り出すようにして顔を覗き込んでくる。湯のみを置いた和彦は小さく頷いた。「熱さえ下がったら、あとは楽になった。咳も出ないし、食欲も戻ったし。……熱のおかげで、ゆっくり休めた」 ちょうど今は、遅めの朝食をとり終えたところだ。土曜日は一日中布団の中で過ごして、お粥とヨーグルトばかり胃に流し込んでいた。日曜日になってようやく動き回れるようになり、食事も通常のものに戻してもらったが、胃腸も問題ないようだ。「そりゃよかった。ただ、寝込んだときぐらい、もう少しわがままを言ってもらいたかったがな」「あんたは何もしてないだろ。面倒をみてくれたのは、ここの組員たちだ」「なんだ。俺に看病してほしかったのか?」 ヌケヌケと言う賢吾を、和彦は横目で睨みつける。そんな二人のやり取りがおかしいのか、空いた食器を片付ける組員は笑っている。「……とにかく、体調はもう大丈夫だ」「本当か? 遠慮はするなよ」 やけに強く念を押され、気圧されながらも和彦はしっかりと頷く。「遠慮はしてない。本当に元気になった」 昼前にはマンションに戻りたい、と言葉を続けたかったが、突然賢吾が片手を伸ばしてきたため、そちらに気を取られる。何事かと身構えると、大きな手が頬に押し当てられた。「確かに……熱は下がったみたいだ」「そう言ってる――」「だったらこれから、出かけられるな」 目を丸くする和彦に対して、畳み掛けるように賢吾は続ける。「出かけると言っても、ただ車で移動して、行った先で突っ立ってりゃいい。病み上がりの体でも、そう負担にならないはずだ」「……行くって、どこに…&helli

  • 血と束縛と   第3話(8)

    「……長嶺組との関わりですら荷が重いのに、この間、総和会の仕事をさせられたぞ。お前の部屋にいたところを、お前の父親に踏み込まれたときのことだ。覚えているだろ?」 「うん。――先生、あまり総和会に気に入られないようにしてよ」 「どういう意味だ」 「長嶺組から総和会に、先生が召し上げられる可能性があるってこと」  召し上げられるという表現が気に食わないが、今は置いておく。最近の和彦は、組関係で気になることがあれば、詳しく説明を聞く方針にしたのだ。 「今の先生の存在は、言葉は悪いけど、所有権は長嶺組にあるんだ。だから先生を自由に使える」

    last updateLast Updated : 2026-03-18
  • 血と束縛と   第3話(2)

    「……開業の準備に関しては、毎日組に報告しているはずだ。わざわざこの部屋に来ることはないだろう」  うんざりしながら和彦が言うと、わざと聞こえないふりをしているのか、賢吾はリビングを見回した。この部屋を訪れたのは今日が初めてのため、賢吾は玄関に入ったときから、他の部屋はおろか、トイレやバスルームまでこうやってチェックしていた。 「まだ、殺風景だな。引っ越しの荷物は解いたんだろう?」 「あまりごちゃごちゃと飾るのは好きじゃない。それに、こんな広い部屋にたっぷり置けるほどの家具なんて、もともと持ってなかった」  一人暮らしなのに広い4LDKの部屋を与え

    last updateLast Updated : 2026-03-18
  • 血と束縛と   第3話(24)

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    last updateLast Updated : 2026-03-18
  • 血と束縛と   第2話(24)

    「……着替えないと… …」  和彦が呟いてベッドを出ようとすると、すかさず目の前に紙袋が突き出された。三田村を見上げたあと、賢吾に視線を移す。 「パジャマ姿で行きたいなら止めないが、一応着替えを用意してきた。汚れたスーツを着る気にはなれないだろ」  確かに、玄関での千尋との行為のせいで、和彦が着ていたスーツは汚れてしまった。篭城していたためクリーニングに出すこともできず、丸めたまま放っている。  三田村の手から袋を受け取ると、傍らでは賢吾が千尋に対し、父親の強権を発動していた。 「お前は、このまま家に帰るぞ。文句を言うなら、ぶん殴っておと

    last updateLast Updated : 2026-03-18
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