ログイン「長嶺の男は、土曜日でも忙しいな。悪かったな。今日は連れ回して」
「ううん。ついて回ったのは、俺だし。それに楽しかった」 帰宅したのなら、千尋もこれから入浴か夕食をとるのだろうかと思ったが、まだ仕事は終わりではないようだ。賢吾の部屋がある方向を指さして、肩を竦めた。「ボスに、報告がある」 この呼び方は新鮮だ。和彦がくすっと笑い声を洩らすと、千尋が何かに驚いたように、顔を近づけてきた。「千尋?」「なんか、昼間別れたときと、和彦の雰囲気が違う。いや、顔つき、かな。キリッとしてるというか、ちょっとキツイ感じというか……」 何かあったのかと、眼差しで問われる。和彦は視線を泳がせながら、つい自分の顔に触れる。〈雄〉になった影響だと、すぐにわかった。千尋に勘づかれるということは、賢吾に至っては確信すら持っているだろう。「まあ、ちょっと……。何か嫌なことがあったとかじゃないから、気にしないでくれ」 納得したのか、そうでないのか、ふうん「長嶺の男は、土曜日でも忙しいな。悪かったな。今日は連れ回して」「ううん。ついて回ったのは、俺だし。それに楽しかった」 帰宅したのなら、千尋もこれから入浴か夕食をとるのだろうかと思ったが、まだ仕事は終わりではないようだ。賢吾の部屋がある方向を指さして、肩を竦めた。「ボスに、報告がある」 この呼び方は新鮮だ。和彦がくすっと笑い声を洩らすと、千尋が何かに驚いたように、顔を近づけてきた。「千尋?」「なんか、昼間別れたときと、和彦の雰囲気が違う。いや、顔つき、かな。キリッとしてるというか、ちょっとキツイ感じというか……」 何かあったのかと、眼差しで問われる。和彦は視線を泳がせながら、つい自分の顔に触れる。〈雄〉になった影響だと、すぐにわかった。千尋に勘づかれるということは、賢吾に至っては確信すら持っているだろう。「まあ、ちょっと……。何か嫌なことがあったとかじゃないから、気にしないでくれ」 納得したのか、そうでないのか、ふうんと声を洩らした千尋は深く追及してはこなかった。あとで晩メシを一緒に食べようと言い置いて行こうとしたので、咄嗟に和彦は呼び止める。 自分でもどうしてそうしたのかわからなかったが、首を傾けて待つ千尋に、この際だからと切り出してみた。「お前、昨日は総和会の本部に顔を出したんだよな?」「うん。年末に総本部である締会の打ち合わせ。今年は俺も顔を出せと言われてるから、ちょっと勉強をしてたんだ。実は今日も」 それがどうかしたのかと返される。和彦は口ごもりかけたが、誤魔化したところで、千尋が余計に勘繰るだけだ。「――……最近、総和会の様子はどうだ」「どうって、ずいぶん抽象的な質問だね。何か気になることあるの?」「えっと……、ちょこちょこと小耳に挟んだことがあるから、どうかなって」 千尋は頭を掻いて考える素振りを見せたが、すぐに大きなため息をつくと、さりげなく窓の側へと寄る。和彦も倣い、庭園灯がぼんやりと灯る中庭に、二人揃って目を向けた。「少
顔を強張らせた和彦は、咄嗟に言葉が出なかった。 総和会本部の守光のもとに、ただ顔を見せに行って終わりとは、絶対にならない。そう確信できるだけの経験を、和彦は積み重ねてきた。 浮き立った気分は一瞬にして萎え、視線を伏せる。「――和彦」 こんなときでも魅力的なバリトンで呼ばれ、ハッとする。気遣うような賢吾の眼差しを、正面から受け止めた。「不安そうな顔をするな。まるで俺が、お前を苛めているみたいだ」「そんなことは……」「知らせたくはなかったが、一応、な。年末のことを考えて神経をすり減らしているお前が、今日はいじらしくストレス解消をしていたと聞かされていたんだ。何事もなかった顔をしてやってもよかったが、結局は、お前に伝えなきゃいけねーことだ」「……今日は病院に行ったあと、千尋と買い物をしてきたんだ。それに、秦と会って、早めのクリスマスプレゼントをもらった。ぼくもそろそろ、あんたたちへのプレゼントをしないとと思って、本人に何が欲しいか聞くのがいいか、それともぼくが選んだものでいいか迷ってるんだ」 堰を切ったように取り留めなく話し始めた和彦だが、自分でも何を言っているのかわからなくなる。今あえて、賢吾に伝えるべきことではないのは確かだ。「けっこう、いい日だったんだ……」「すまねーな。水を差しちまって」「別に、あんたが謝ることじゃない。――それで会長は、いつぼくに来いと?」「いつ、とは言わなかった。そういうところが、オヤジはいやらしいんだ。こちら……というか、お前を試してるんだ。飛んでやってくるか、ギリギリまで粘るか。命令するのは容易いが、それじゃあおもしろくないんだろ」 いつになく険を含んだ賢吾の物言いに、聞いている和彦のほうが不安になってくる。 父子の間に何かあったのではないかと、尋ねていいものか逡巡していると、和彦の素振りから察したのか、賢吾が唇の端に微苦笑を刻む。「オヤジは、年末からのことを考えているはずだ。お前を、長嶺組からじゃなく、総和会から送り出したいんだろう
行為の余韻と脱力感にしばらく浸っていたいところだが、そんな時間はない。 引きずるようにして体を起こすと、今度こそティッシュペーパーを取って後始末をする。背後にぴたりと中嶋が身を寄せてきて手を伸ばしたので、ティッシュペーパーの箱ごと渡してやった。 ほんの数分前まで、獣じみた欲情に駆り立てられていたなどと信じられないほど、淡々としていた。その代わり、気恥ずかしさもない。それは中嶋も同じなのか、ちらりと背後をうかがうと、気だるげではあるが落ち着いた横顔を見せている。ふと目が合ったとき、するりと言葉が出ていた。「今日、クリスマスプレゼントを買いに、あちこち駆け回ってたんだ」 中嶋は目を丸くしてから、へえ、と洩らす。「先生は渡す相手が多くて大変でしょう」「……秦と同じことを言うんだな」「先生を知っている人間なら、十人が十人、同じことを言うでしょうね」 和彦は軽く咳払いをすると、シャツを取り上げる。「君へのプレゼントも手配したんだ。秦のあの部屋に届くようにしてある。クリスマスにでも取りに行ってくれ」 一瞬の沈黙のあと、抑えた笑い声が聞こえてくる。「今のこの状況で、それを言いますか、先生」「顔を合わせるにも、きっかけが必要だろ。あっ、できればプレゼントは、二人が揃って開けてくれ」「――……そんなふうに言われたら、気になるじゃないですか。プレゼント、なんですか?」 和彦は聞こえなかったふりをして、手早く身支度を整え、ジャケットとコートを抱えて立ち上がる。ベッドを離れる前に、中嶋の腫れた頬に触れて諭した。「切れ者のようで、たまに秦はポンコツなところがあるから、君が気を回してやれ。君は、総和会の中での数少ない、ぼくが信頼できる人間だ。その君に不安定になられると、ぼくが困る。加藤くんとの関係も含めて」「先生は甘くて優しい人かと思えば、妙に食えない面がありますよね。そこがまあ、気に入っているんですが」 部屋を出ようとした和彦に、最後に中嶋が気になることを教えてくれた。それは、他愛ないともいえる報告ではあったのだが、なぜだかやけ
ふっと笑みをこぼした和彦は、中嶋に肩を引き寄せられて、再び唇を重ねる。差し出し合った舌を絡め、唾液を交わしながら胸元をまさぐられる。興奮しきって尖った胸の突起を、指で挟むようにして愛撫される。鼻から吐息を洩らすと、中嶋が小さく笑った。「ダメですよ。そんなふうにされると、俺が先生の中に入りたくなる」「よく言う。今は、そんな気分じゃないんだろ」 あえて挑発的な物言いをしてみると、中嶋の目の色が変わった。 焦れたように中嶋が身じろいだため、内奥から指を引き抜く。「先生、後ろから……」 そう言って中嶋がうつ伏せとなり、腰を上げる。和彦はためらうことなく、滑りを帯びてひくつく内奥の入り口に、自らの欲望の先端を押し当てようとする。そこで、大事なことを思い出す。「あっ、ゴム……」「俺は、構いませんよ?」 頭を上げた中嶋に婀娜っぽく笑いかけられて、和彦はそれ以上は何も言わず、濡れた肉を自らの肉で押し広げた。「あううっ」 声を洩らしたのは二人同時だ。自分が男になる瞬間の感覚はやはり強烈で、〈オンナ〉として得る快感に慣れ切った身には、怖さすら覚える。だが、抗い難い魅力がある。 中嶋の引き締まった腰を掴み、緩やかに突き上げる。内奥が複雑に蠢きながら、和彦の欲望をきつく締め付けてくる。律動に合わせてしなる背は、確かに男のものなのにひどく艶めかしく、和彦は目を奪われる。男たちの目に映る自分の姿も想像してしまうのだ。 繋がりを深くしてから、中嶋の尻から腰、背にてのひらを這わせる。小さく呻き声が上がり、卑猥に中嶋の腰が揺れた。和彦はゆっくり目を細めると、中嶋の両足の間に片手を差し込み、反り返って震えている欲望を掴む。内奥を丹念に突きながら、じっくりとてのひらで擦り上げてやる。 先端から、悦びの証であるしずくがトロトロと垂れ落ちていく。和彦は爪の先で優しく先端を苛めてやり、間欠的に上がる嬌声を心地よい響きとして聞く。引き絞るように内奥が収縮し始めたので、やや乱暴に欲望を抜き差しし、はしたない湿った音と、肉を打つ音を立てる。そこに、二人の弾んだ息遣いが重なる。
中嶋の顔を見ないまま告げて、なんとか腕を抜き取ろうとしたが、どんどん体重をかけられる。立ち上がるどころか、和彦の体は半ばソファに沈み込もうとしていた。冗談めかしているが、中嶋は本気だ。 相手が相手ということもあり、ムキになって抵抗もできない。逡巡した挙げ句、和彦は深々とため息をつくと、中嶋の腫れていないほうの頬にそっと触れた。「人恋しいのか?」 中嶋は目を丸くしたあと、ニヤリと笑った。「いいえ。欲求不満です」 呆れた、と洩らした和彦の唇に、中嶋が吸い付いてくる。少し体温が高いことに気づき、こうして中嶋と触れ合うのはいつ以来だろうかと考える。確か、まだ暑い盛りだった頃で――。 口腔に舌が入り込んできて、余裕ない動きに誘われるようについ応えてしまう。秦に恨まれるかもしれないと、そんなことがちらりと頭の隅を掠める。知らず知らず目元を和らげた和彦に、中嶋が拗ねた口調で言う。「子供の駄々につき合っている、みたいな顔をしないでください。元ホストとしては、けっこうプライドが傷つくんですが」「現役ヤクザとしては平気なのか?」「ヤクザを手玉に取るのは慣れてるでしょう、先生」「……人をなんだと思ってるんだ」 答えはなく、再び唇を塞がれる。熱い舌に感じやすい粘膜を舐め回され、合間に激しく唇を吸われる。その頃には和彦の体は、完全に中嶋に押さえ込まれていた。ただ、切迫したものは感じない。 自分は今、中嶋に甘えられているのだと察したとき、平気なつもりだった和彦の体に仄かな熱が生まれる。我ながら度し難いと言うべきか、見境がないと言うべきか。 中嶋にシャツのボタンを外され始めたところで、和彦はコートのポケットをまさぐり、なんとか携帯電話を取り出す。車で待っている組員に電話をかけ、申し訳ないがまだ時間がかかりそうだと言っておく。中嶋はこの状況をおもしろがっているのか、いきなり下肢に触れてきたため、危うく和彦は素っ頓狂な声を上げそうになる。「な、に、してるんだっ……」「時間、かかるんですよね?」 挑発的な眼差しで見つめられ、返す言葉が見つからない。
精悍な体つきと不遜な眼差しが印象的な加藤と、見た目はまるで苦労知らずの大学生のようだった小野寺の顔が、同時に蘇る。中嶋は、加藤と体の関係を持っており――。 和彦が向けた胡乱な視線に気づいたらしく、中嶋はわずかに目を逸らした。「若い奴らは、本当に血の気だけは多くて、嫌になりますよ。殴り合いの原因も、どうやら小野寺が、俺のことで加藤にちょっかいをかけたらしくて。でも二人とも、はっきりとは原因を言わないんですよ。周囲にいたのが、俺より下の連中ばかりだったから、大ごとにならなくて済みましたけど。上にバレたら、二人とも隊からつまみ出されても不思議じゃなかった」「どっちが、君を殴ったんだ」「加藤です。正確には、加藤が小野寺を本気でぶちのめそうとして、俺が割って入ったんです。あいつ、格闘技やってるから、下手すりゃ、小野寺を殺しかねない。それで俺がこの様です」「よく、それで済んだな……」「寸前のところで、加藤が手を止めようとした結果です」 二人は同じタイミングでソファの背もたれに体を預け、息を吐き出す。 中嶋が、今日の秦からの誘いを断った理由は、これで納得できた。殴られた顔を見られたくなかったというのもあるだろうが、事故にせよ加藤から殴られたという事実を、秦の眼前に突き出すわけにはいかなかったのだろう。「――……こういうお節介は性に合わないんだが、秦と別れるつもりなのか?」「あの人から言い出すならともかく、俺からは、そのつもりはまったくありませんよ」「だったらどうして……」「秦さんらしくない行動を目の当りにしてから、今さらながら、合わせる顔がなくて。……自慢じゃないですけど、俺、前は二股、三股なんて当たり前だったんですよ。仕事みたいなものでしたから。だから、自信があった。上手くやれる。割り切れる。本気ではあるけど、溺れるような関係にはならない、って」「どちらとも?」 中嶋は自分の頬を撫で、頷いた。「どちらとも」「それで結局、どちらとの関係に溺れたんだ」「&hell
外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう
さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自
「不愉快どころか、やけに楽しそうでしたよ、秦さん。いい店を先生に紹介しないと、と張り切ってもいましたし」「ならいいんだ。あの人、職業柄なのか知らないけど、よく気をつかってくれるから。ぼくみたいな人間につき合って、迷惑をかけても悪いしな」 和彦が、長嶺父子のオンナであることは、すでに知られている事実だ。いまさら千尋と甘い会話とキスを交わしていたからといって、他人に喜んで報告するような悪趣味なまねを、秦がする必要もない。 和彦が心配していたのは、そんなことではなく、純粋に今言った通りのことだった。 大きく息を吐き出しながら、中島がマシンをゆっく
「――先生」 呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」 泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」 賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する