LOGIN強引に事に及ばれたら、和彦は抵抗のしようがない。だが、鷹津はそうしようとはしなかった。和彦の唇と舌を貪りながら、柔らかな膨らみを手荒く揉みしだき始め、たまらず熱い吐息をこぼす。
反り返り、濡れそぼった和彦のものはすでに限界を迎えかけており、だからこそ、例え鷹津の手であろうが、きつく扱かれると歓喜に震えた。「うっ、あっ、あっ、触る、なっ……」「なら、俺のものを尻に突っ込んでやろうか? 好きなほうを選べ」 鷹津を睨みつけた和彦は、すぐに顔を背ける。そのまま、鷹津の手に高ぶりを扱かれ、和彦は快感に煩悶する。感じている和彦に触れることを、明らかに鷹津はおもしろがっていた。 胸の突起を執拗に嬲られ、嫌がっているうちに官能が高まっていく。そんな自分の姿に気づいた和彦が身を捩ろうとすると、待ちかねていたように両足を抱え直され、内奥の入り口に鷹津の欲望が押し当てられる。 無言で、抵抗するなと恫喝され、求められるまま和彦は、鷹津と濃厚な口づけを交わす。舌を絡め合いながら、和彦のものを扱く鷹津の手の鷹津の声が低く凄みを帯びる。その迫力に、和彦が目を見開くと、鷹津はニヤリと笑った。「性質のよくない男たちは、お前がそうやって苦しむ姿を見て、喜ぶかもな。苦しむたびに、お前は裏の世界にとってますます都合のいい医者になっていく。オンナとしてはすでに申し分ないが、医者としても――」 不意に鷹津が言葉を切り、再びグラスのワインを飲み干して立ち上がった。驚く和彦に対して、お前も立てと言わんばかりに、あごをしゃくられた。「お前の辛気臭い顔を見ながら飲み食いしても、少しも美味くない。さっさと部屋に行くぞ」「……そんなに辛気臭いなら、さっさと帰ってしまえと言ったらどうだ」「俺相手に、とことん嫌な奴だと罵倒し続けていたほうが、気が紛れると思わないか?」 意外な発言に和彦が目を丸くすると、鷹津がもう一度あごをしゃくる。見えない糸に操られるように、ぎこちない動きで和彦も立ち上がると、先を歩く鷹津について行く。 長嶺組によって予約された部屋は、やはり立派なダブルルームだった。当然、ワインも準備されている。 部屋をぐるりと見回した和彦は、今のような心理状態のときは、こんな部屋に一人で閉じこもり、広すぎるベッドの上で何度も寝返りをうって、自己満足の自己嫌悪に思うさま浸りたかった。 傍らに鷹津の気配を感じてハッとする。和彦は反射的に距離を取ろうとしたが、それより早く鷹津に腕を掴まれて、乱暴に引っ張られた。「おいっ――」 鷹津の両腕の中に閉じ込められた和彦は、本気で嫌がって身を捩り、逃れようとしたが、力任せの抱擁を振り解くことはできない。「離せっ。そういう気分じゃない。帰りたいんだっ……」 和彦は声を上げ、全身を使って拒絶の意思を示す。しかしそれでも鷹津は動じないどころか、腕の力がますます強くなる。 抵抗は無駄だと、不意に悟った。暴れるのをやめ、抑えた声で鷹津を罵る。するとなぜか、鷹津の腕からも力が抜けた。暴力的だった抱擁が、ようやく普通の抱擁になったようだった。 この男は、自分を抱き締めてくれているのだと、唐突に和彦は理解できた。 数分ほど、二
** グラスに入ったワインを飲み干した鷹津が、正面の席につく和彦を無遠慮な眼差しで見つめてくる。これは今に始まったことではなく、待ち合わせ場所となっていたシティホテルのロビーで顔を合わせてから、ずっとだ。 まずは食事をと、ホテル内のレストランに入ったが、メニューを見るよりも、和彦の顔を見つめる時間のほうが長かったぐらいだ。 嫌になるほど勘の鋭い男は、和彦の異変を一目で見抜いたのだろう。和彦も、あえて鷹津の前で自分を取り繕うマネはしなかった。とにかく今日は、疲れていた。 英俊との間で交わされた会話を端的に伝えてしまうと、もう口を開くのも嫌になっていた。「本当は来たくなかった、という顔だな。朝電話をしたときは、乗り気という感じだったのに」 いつもであれば、鷹津の性質の悪い冗談に即言い返すところだが、和彦は表情を変えないまま顔を背ける。「……今夜はもう帰りたい」「ふざけたことを言うなよ、佐伯。目の前で餌を見せ付けておいて、お預けなんて、許すわけがないだろ」 食事を続ける気にもならなくて、和彦は静かにナイフとフォークを置く。すかさず鷹津に問われた。「何があった? 今のお前にそんな顔をさせるとしたら、実家のことぐらいだろ」「実家はまったく関係ない」 ここで和彦は一旦口を閉じるが、鷹津はさらなる言葉を待っている。黙り込んでいるわけにもいかず、和彦は周囲のテーブルにつく客たちの耳を気にしつつ、短く告げた。「――患者を死なせた」 鷹津は特に表情も変えず、自分でグラスにワインを注ぎながら、事も無げに答える。「なんだ。いままで死なせたことがなかったのか」 さすがの和彦も絶句して、すぐには声が出てこなかった。別に鷹津から、慰めや励ましの言葉を期待していたわけではない。だが、さすがにこの反応は予想外だった。「あんた……、本当に嫌な男だな」「お前の期待に応えてやったんだ。それとも、俺が優しい男だとでも思っていたのか?」 和彦は、まじまじと鷹津の顔を見つめる。癖のある髪をオールバックに撫で
あえて病院に行かないということは、状況は限られている。説明を受けながら和彦は、自分の表情がどんどん厳しくなっていくのがわかった。 車で一時間近く走って到着したのは、古びたマンションだった。もともとの住人が少ないのか、それとも平日の昼間ということで仕事に出ているのか、不気味なほど静まり返っている。付近は空き地が多く、往来を歩く人の姿もないため、緊迫した顔の男たちが慌しくうろついたところで、見咎められることはなさそうだ。 組員に伴われてエレベーターで三階へと上がる。一室だけドアが開いたままとなっており、男が一人立っていた。こちらを見るなり、暗い表情のまま頭を下げた。その光景を見た途端、和彦は嫌な気分に陥った。嫌な予感はさきほどから感じていた。それが裏づけられたという意味で、嫌な気分になったのだ。 部屋に上がった和彦はすぐに手を消毒して、手術の準備を整えてから奥の部屋へと足を踏み入れる。むせるほどの血の匂いが漂っており、ビニールが敷き詰められた床の上には、真っ赤に染まったガーゼがいくつも落ちていた。 手術台の上に男が横たわっているが、血の鮮烈な赤さとは対照的に、顔色は蒼白を通り越し、紙のように白かった。驚いたことに、バイタルモニターに繋がれてもおらず、まさに放置されているような状態だ。 その理由を、和彦はすぐに察した。男に声をかけながら脈を取ってみる。意識はなく、脈拍も弱々しい。腰に当てられたガーゼを取り除いてから、小さく声を洩らす。刺傷だと聞かされてはいたが、治療した痕跡は見られなかった。「……ぼくの前にも、医者が来ていたんじゃないのか……?」 和彦が鋭い視線を向けると、部屋の外に立った男が淡々とした表情で応じる。「自分では治療は無理だと言っていました。傷口に触って、これ以上出血をさせるほうが危険だと」「だからといって、輸血もしなかったのかっ? 明らかに、ショック状態の症状が出ているじゃないかっ」 患者はすでに、体から大量の血液を失っており、瀕死となっている。和彦の前に来た医者が『無理』という言葉を使ったのは、手の施しようがないという意味も含んでいるのだろう。「――&helli
ここで和彦の脳裏に、今朝の鷹津との電話の内容が蘇る。同時に、電話の最中の自分の反応も。 一人でうろたえた和彦は、慌てて思考を切り替える。あの男のことは、今は関係ないはずだ。 気分を変えるため、紅茶でも淹れてこようかと立ち上がろうとしたとき、デスクの引き出しに入れてある携帯電話が鳴った。一瞬、鷹津からかと思ったが、それはありえないことだと、次の瞬間には思い直す。 実際、電話は長嶺組からだった。和彦がクリニックに詰めている時間帯に電話がかかってくるとなると、用件は限られている。 和彦の中に緊張が走る。診察室を出た和彦は廊下を見渡し、スタッフたちがミーティング室にまだ集まっていることを確認してから、素早く仮眠室に移動する。 ドアを閉めると同時に電話に出ると、緊迫した空気が即座に伝わってきた。「何かあったのか?」 和彦の問いかけに、組員がわずかに口ごもった気配がした。『……お仕事中にすみません。先生に連絡していいものか、迷ったのですが――』「今日は夕方まで予約が入っていないから、大丈夫だ。それで?」『実はある組から、緊急で診てもらいたい患者がいると連絡が入りました。最初は、別の医者に診せたそうなのですが、ひどい状態らしくて……』「どうひどいのか、実際に診てみないとわからないが、もしかして、ぼくの手に余る状態かもしれないな」 これまでも、具体的な症状がわからないまま現場に連れて行かれ、想像以上に凄惨な患者の姿を目の当たりにしたことはあった。そのたびに、動揺したあと、逃げ場のない状況で覚悟を決めてきた。これが、自分がこの世界で与えられた義務なのだからと。それと、おこがましいが、医者としての使命感から。「とにかく行ってみよう。もし、患者の治療に手間取るようなら、こちらの予約を断るしかない。状況を見て判断するから、いつものように準備をしておいてくれ。今から――五分後に下りる」 和彦は仮眠室を出ると、その足でミーティング室を覗く。廊下の短い距離を歩く間に、適当な言い訳は考えた。 家族が体調を崩して病院に運ばれたため、付き添ってくる、というものだ
**** 水が撒かれ、葉についた水滴がきらめいている中庭を、和彦はうっとりと眺める。 朝、眠気を完全に払拭できた状態で、出勤するまでのわずかな時間をこうやって過ごせるということは、肉体的にも精神的にも安定している証拠だと思っている。 もう、自分は大丈夫だ――。 確認するように、胸の内で呟く。英俊と会うと決めてから、会ってから、日常に影が差したようで、不安で落ち着かない日々を過ごしていたが、その感覚もずいぶん薄らいだ。和彦にとっての日常が戻ってきたのだ。 長嶺の本宅に滞在し、誰彼となく気遣ってくれる生活は、ある種の癒しだ。ささくれ立った気持ちが和らぐ。だが、癒しも過ぎれば、甘えが出てきそうで、それが和彦は少し怖い。いくらでも甘えればいいだろうと、ここで暮らしている長嶺の男たちは言うだろうが。 不意に、ジャケットのポケットの中で携帯電話が鳴った。こんな時間に誰だろうかと思いながら携帯電話を取り出した和彦は、表示された名を見て、微妙な表情を浮かべる。『――いつまで俺を放っておく気だ』 電話に出た途端、皮肉っぽい口調で言われた。和彦はさりげなく周囲を見回してから応じる。「朝からどうして、あんたの声を聞かないといけないんだ……」『それは、俺が真っ当な勤め人だからだ。一応、お前もな。連絡を取り合うには、一番いい時間帯だと思うぜ』 和彦は露骨にため息をついたが、鷹津は意に介した様子もなく、朝は忙しいとばかりにすぐに本題を切り出した。『で、俺に餌を食わせてくれる気はあるのか?』 とぼける要領のよさがあるはずもなく、和彦は動揺しながら応じる。「朝から話すようなことかっ」『ほお、感心だな。覚えていたか。俺がお前のために働いたことを。役に立っただろ』「……あいにく、あんたが教えてくれた情報を、兄さんに直接ぶつけることはできなかった。ぼくの背後に誰がいるのか、探られるのも嫌だったし。だけど、事情を少しでも知っておいたおかげで、兄さんの話に対して警戒できた」 話しながら、英俊と会
賢吾の腕が肩に回され、ぐいっと引き寄せられる。浴衣越しに、賢吾のてのひらの感触を感じ、千尋との行為の余韻のせいか、体の疼きと後ろめたさが同時に湧き起こる。「……まだ、体が熱いな」 汗で湿った和彦の髪に顔を寄せ、賢吾が官能的なバリトンで囁く。和彦は小さく身震いをしていた。「千尋は、先生を丹念に愛してやったようだ」 和彦はおずおずと賢吾に体を預けると、千尋との行為の最中、ずっと頭の片隅にあったことを口にした。「――……ぼくを慕ってくれる千尋を愛しいとは思うが、ときどき怖くなるときがある。十歳も年上の男と、あいつはずっと一緒にいるつもりでいる。少し前までなら、今だけの情熱で言っているんだと、落ち着いていられたが、刺青を入れ始めたと聞いて、なんだか……怖くなった」「何が怖いんだ」「千尋はもうガキじゃなく、自分で決断できる大人の男になったんだと、痛感させられた。そんな男が、将来、自分だけのものになってくれと言うんだ。もしかして、本気なんじゃないかと――」「本気だと、都合が悪いか?」 パッと顔を上げた和彦は、賢吾を睨みつける。「あんたの息子だろ。将来を憂えるぐらい、したらどうだ」「組を継ぐのが決まっている千尋の将来をか」「だからこそだ。……若いんだから、この先いくらだって出会いはある。将来どころか、ほんの先のことだって、何があるかわからないんだ。ぼくの存在のせいで、千尋の選択の幅を狭めたくない」「あいつはそれほど、バカじゃない。必要とあれば、必要なものを選択する。もちろん、先生をしっかり抱き締めたままな。長嶺の男の執着心と独占欲を舐めるなよ、先生」 賢吾の息遣いが唇に触れる。あっと思ったときには、唇を吸われていた。話の途中だと抗議の声を上げようとした和彦だが、きつく唇を吸われ、熱い舌を口腔に押し込まれると、ほとんど条件反射のように賢吾の口づけに応えてしまう。 賢吾の腕が腰に回され浴衣をたくし上げられた。下着を身につけていないため露わになった尻を揉まれ、さすがに和彦はその手を押し退けよ
「頼むから、部屋の外でそんなことを冗談でも言わないでくれ。ここの組員たちに睨まれたくない」 ヤクザの組長からこんなことを言われると、冗談とわかっていながらも心臓に悪い。ただ、憂鬱さに捕らわれそうになった気持ちは、賢吾のその冗談でふっと軽くなっていた。 コーヒーを啜った和彦が何げなく視線を上げると、賢吾がこちらを見つめていた。そして、自分が腰掛けているソファを指さした。こちらに座り直せと言いたいのだ。わずかにうろたえた和彦だが、結局、賢吾の指示に従う。 案の定、賢吾の隣に座った途端、肩を抱かれて引き寄せられた。 賢吾の大きな手が、ワイシャツの
「おもちゃで遊ばれている姿を見ながら感じていたが、お前がつき合ってきた男は、きちんとここを開発してくれていたようだな」 喉を反らして感じる和彦に対して、賢吾は容赦なく内奥の浅い部分を攻め立てながら、汗ばんだ胸元を舐め上げてくる。生理的な反応から涙を滲ませながら、和彦は緩く首を左右に振る。このときまた、三田村と目が合っていた。 同性と体を重ねる以外で、特殊な性癖は持ち合わせていないつもりの和彦だが、このときから自信がなくなる。見られることが、もう一つの愛撫になっているようだった。 「こっちを見ろ」 賢吾に言われ、反射的に従ってしまう。す
「手術するにしても、道具はどうする気だ」 「ふん。それで逃げ道を作ったつもりかもしれないが、心配するな。立派な設備は無理だが、人間の体を切って縫うぐらいの道具は用意してある。あと、点滴セットも。必要な輸液があれば持ってこさせる。血液は、ここに活きのいいのが何人も揃っているしな」 完全に逃げ場を断たれた。和彦は大きく息を吐き出して目を閉じると、動揺のため速くなっている自分の鼓動の音を聞く。頭に血が上り、頭痛すらしている。 近くにいる男たちの視線を痛いほど感じながら和彦は、懸命に思考を働かせる。少しでも、自分の立場を安全なものにするために。 「――
** 自分の車に千尋を乗せて和彦が向かったのは、繁華街の中にある、飲食店ばかりが入った雑居ビルだった。とにかく人目を避け、なおかつ人に紛れ込みたかったのだ。これだけ飲食店があれば、仮に尾行がついていたとしても、二人の姿を容易に見つけ出せないはずだ。 もっとも、千尋と二人きりになった時点でアウトな気もするが、肝心の千尋が和彦から離れないのだから仕方ない。 混み合うエレベーターを途中で降り、階段を使って上がる。入ったのは、個室が使える居酒屋だった。すでに盛り上がっているグループやカップルを横目に、二人は黙り込んだまま個室に案内してもらう