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第2話

Auteur: 海の上の鉄筋工職人
祖父は派手なことを好まなかった。

そのため、葬儀も彼の遺言通り、つつましく行われた。

弔問に訪れた客を一人で見送ったあと、私は静かに墓碑の文字を撫で、胸に込み上げる悲しみに耐えきれず、目を閉じた。

幼い頃、両親が事故で亡くなり、祖父がたった一人で私を育ててくれた。

誰もが羨むような環境と、惜しみない愛情を与えてくれた。

私だけではなかった。

かつての戦友の孫、千智までも引き取り、私と同様に育てた。

私たちは幼いころから一緒に育ち、やがて自然な形で恋人同士となった。

祖父にとって、私は唯一の孫娘だった。

彼の唯一の願いは、私が幸せになること。

私も、心からそう思っていた。

だからこそ、祖父を安心させたくて、たとえ千智が堂々と不倫をして、愛人を家に連れ込んだとしても、私は黙って耐えた。

表向きには円満な結婚生活の裏にひびが入っていると、祖父に悟られたくなかった。

重病になった祖父に、自分が全力で支えた相手が間違いだったなんて、決して思わせたくなかった。

だが今――

心が揺らぎ、胸の奥に広がる痛みに耐えていたとき、ふと林の中からすすり泣くような声が聞こえた。

ここは祖父が所有していた山だ。

人の出入りを嫌った祖父の意向で、立ち入ることが許されているのは家族だけだった。

なのに、なぜ知らない女性の泣き声が……?

不審に思い立ち上がり、数歩進んだところで、こんな光景を目にした。

乱れた服を身にまとった美桜と千智。

二人は身体を絡めるように抱き合っていたが、私に気づくと、はっとして動きを止めた。

美桜は顔を真っ青にして、すぐに彼から飛びのいた。

「なに見てんのよ、気持ち悪い!」

千智は慌てて自分の上着を取ると、美桜の脚にかけ、不快そうな顔で言った。

「尾行までしたのか?まじで恥も外聞もないんだな」

私は黙って二人を見つめたまま、体から力が抜けるのを感じた。

「ここは、じいさんの山よ。

勝手に私有地に入り込んでまで刺激を求めるのは、そっちでしょう?千智、私は尾行なんてしてない」

その言葉を聞いた途端、彼は鼻で軽く笑い、唇の端に皮肉な笑みを浮かべた。

「尾行じゃないって言い訳か?必死で俺と結婚しようとしてたくせに、今さら何様ぶってんだよ」

私は自分でも驚くほど平然と微笑んだ。

「たしかに、あなたのことが好きだった。でも、その気持ちを恥じる理由なんてない。

それに……結婚届は、あなたを無理やり役所に連れて行ったわけじゃないでしょう?」

そう言うと、もう何も言いたくなくなった。

ふらつきながら祖父の墓へ戻り、静かに、しかし深く数度頭を下げた。

「じいさん……私が不孝でした。

もう、じいさんが望んだように千智と一緒にはいられません」

その瞬間、山の風が強く吹きつけ、墓前に積もった枯葉を巻き上げ、小道の方向へと舞い上がった。

私はその風に導かれるように、歩き出した。

くねくねと続く山道の途中で、見覚えのある車を見つけた。

千智のスーパーカーが、私の車のすぐ横に停まっていた。

つまり彼は、私が先に山に来ていたことを知っていた。

それでも、美桜を連れてわざと山へやってきた。

すべては、あの日で恥をかいた美桜の「仕返し」のため。

車に乗り込もうとしたが、どうしてもエンジンがかからなかった。

外に出て調べていると、千智が美桜を背負って近づいてくるのが見えた。

美桜は頬を赤らめ、甘えるように体を揺らしていた。

私は目をそらしたが、彼は無表情で近づいて来た。

「車、動かないのか?

……仕方ない、俺が送ってやるよ。前に一緒に登ったとき、お前、ずっと足が痛いって文句言ってたよな……」

その言葉の途中で、美桜が背中で身をよじった。

「千智くん、どうしてこの女を?私に何をしたか、忘れたの?」

千智は無言で彼女を無視し、後部座席のドアを開けて私に乗れと促した。

私は一歩下がり、首を横に振った。

美桜が唇を吊り上げて笑みを浮かべ、千智は再び表情を冷ややかにした。

「花音、いい加減にしろ。乗らないなら勝手に歩け。お前に頼んでない」

私はただうなずき、何度も彼と一緒に歩いたことのある、この山道を一人で歩き出した。

その後ろから、彼の車がゆっくりとついてきた。

クラクションを何度も鳴らしながら、まるで私を嘲笑うようだった。

無視し続けたが、突然、彼の車がスピードを上げて私の前に回り込み、道を塞いだ。

そして、真っ青な顔で車から飛び出してきた――
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  • 裏切られた妻、夫に愛人から平手打ちを受けさせられた痛み   第4話

    最近の出来事で心も体もすっかり疲れ切って、気づけばそのまま眠ってしまっていた。夢の中で、私はまだ十代で、千智もあの頃のままだった。彼の顎にはようやく産毛のような髭が見え始めた年齢だが、私を誰よりも守ろうとしていた。クラスの皆は彼をからかい、祖父の地位を狙って、私のそばにいる腰巾着だと笑っていた。私は必死に言い返した。「千智のおじいさんはかつてうちのじいさんの命を救った人なの。千智は私の一番の友だち。腰巾着なんかじゃない」彼は黙ったままうつむいて、唇をきつく噛みすぎて血が滲んでいた。私は心配になってその血を拭こうとした――その瞬間、不意に彼が私にキスをした。初めてのキスは照れくさくて、少しだけ血の味がした。「小さいころから、ずっと花音が好きだった。誰が何を言っても、ずっと君の味方だ」時間が経つにつれ、私たちは自然に恋人になった。祖父はうれしそうに目を細めて、こう言った。「お前たちが互いに支え合っていけるなら、わしも安心してなくなった戦友のとこへ行ける……義雄(よしお)の恩は、うちの孫娘がしっかり返してくれたよ……だがな……あの子が花音にひどいことしたら、わしは死んでも許さねぇからな」フライトが大きく揺れた瞬間、私ははっと目を覚ました。気づいたら、夢の中で流した涙が胸元を濡らしていた。窓の外には、まもなく到着する北の地が広がっていた。私はふと、自分を縛っていたのは他でもなく、自分自身だったことに気づいた。ほどなくして、フライトは気流を抜け、静かに着陸した。広々として果てしのない土地に足を踏み下ろした瞬間、私の心は今までになく静かだった。これからは、伊藤花音(いとう かのん)ではなく、もう一度小林花音(こばやし かのん)に戻り、誰のためでもなく、自分のために生きていく。ホテルを予約し、スマホの電源を入れると、画面いっぱいに通知が溢れた。すべて、千智からのメッセージだった。【お前よくも暴露なんかしやがって。俺が出ていったらどうするつもりだったんだ?】【ふざけんな、電源まで切って……ほんといい度胸してるよな】【もう家に帰ったが、お前はどこだ?早く説明しろよ。あれは全部お前の妄想だったって、美桜を陥れるために画像を加工したって言え。美桜がどれだけ泣いたと思ってるんだ?】【

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