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第5話

Auteur: ロア
まもなく医師が回診に訪れ、佳奈の傷の状態を診察すると、深く眉をひそめた。

「藤堂さん、やけどは定期的に処置をして感染に気をつければ、治った後も大きな問題はないでしょうが、厄介なのは腕のほうです。衝撃と治療の遅れの影響で、靭帯と神経に損傷が見受けられます。今後は……重い物を持つのは難しくなるでしょう」

佳奈の心が沈んだ。「重い物が持てない?では……精密な実験作業は?例えば、機器を操作したり、データを記録したりすることはできますか?」

医師は首を振り、残念そうに言った。「かなり難しいでしょう。この種の神経損傷は、指先の安定した細かな動きに影響しますが、もし……」

「もし、何ですか?」佳奈はすぐに問い返した。

「最先端の神経修復手術を受ければ、治る可能性はあります。ただし、この手術は修復効果を最大限に高めるため、麻酔が神経に与える影響を避ける必要があり、全身麻酔も局所麻酔も使えません」

医師は重い口調で続けた。「この手術は、生きたまま肉を裂き骨を削るようなもので、想像を絶する激痛を伴います。しかも手術の成功率も100%ではありません。藤堂さん、今後は重い物が持てなくなるだけで、日常生活に支障はありませんので、無理に受ける必要はありませんよ」

佳奈は一切迷わず言った。「先生、その手術を受けます」

「しかし……」

「必ず受けます」佳奈の目は揺るがなかった。

自分の手は、これからの研究で必要になるのだ。

医師は長く説得を試みたが、佳奈の決意が固いと分かると、最後はため息をついて承諾し、手術の手配を進めた。

手術室での数時間は、佳奈の人生の中で最も長く、最も過酷な時間となった。

鋭いメスが皮膚と肉を切り裂き、骨に触れ、神経を削る――その一瞬一瞬が、気を失いそうになるほどの激痛に満ちていた。

冷や汗が術衣をびっしょり濡らし、歯を食いしばるあまり唇を噛み切り、口の中に血の味が広がった。

佳奈は頭上の眩しい無影灯を見据え続けた。彼女の脳裏に浮かぶのは、前世にテレビで理央が華々しく賞を受け取る光景、慎吾の冷酷な横顔、息子の樹の蔑むような視線、そして……暖炉の中で燃え尽きていく研究資料だった。

どれほどの時間が経ったのか、やがて手術は終わった。

病室に戻された佳奈は、指一本動かせないほど衰弱しきっていたが、その瞳の奥には、微かではあるが、決して消えることのない炎が宿っていた。

その後の日々、佳奈は一人で病院に残り、療養を続けた。

慎吾は佳奈に最高のヘルパーさんをつけ、時折、樹を連れて見舞いに来て、栄養ドリンクなどの差し入れを置いていったが、二人はいつも長居せず、理央に呼び出されてすぐに立ち去っていった。

佳奈は引き止めることも、理由を尋ねることもなかった。

そして退院の日。

佳奈は一人で手続きを済ませ、簡単に荷物をまとめて病院の入口を出た。すると、路肩に慎吾のオフロード車が停まっているのが見え、慎吾と樹が車から降りてきた。

慎吾は足早に近づき、佳奈の荷物を受け取ろうとした。「手続きは終わったのか?どうして俺を呼ばなかった?さあ、帰ろう」

佳奈はその手をさっと避けた。

慎吾の動きが止まり、眉をひそめた。

樹も駆け寄ってきて、見上げながら言った。「お母さん、僕が支えてあげる!」

佳奈の視線は二人を通り越し、車内へ向けられていた――

後部座席には、大きなコートを羽織った理央が座っていた。

慎吾は佳奈の視線に気づき、わずかに気まずそうな表情を浮かべた。「理央も今日退院だったんだ。ちょうど帰り道が同じだから、一緒に食事に行こうと思って。お前の退院祝いと……理央の快気祝いを兼ねて」

佳奈は何も言わず、黙って車に乗り込んだ。

車はやがて料亭の前で停まった。

中に入ると、慎吾と樹は慣れた様子で注文を始めた。選んだのはすべて理央の好物だった――鶏の照り焼き、白身魚の塩焼き、それに野菜たっぷりのポテトサラダ……

佳奈は静かに座っていたが、心にはさざ波一つ立たなかった。

料理が運ばれてくると、店員がにこやかに声をかけてきた。「お客様、少しよろしいでしょうか。当店ではオープン記念として『幸せな家族』イベントを開催しております。

ご家族3人で絆チェッククイズにご参加いただき、全問正解すれば素敵な景品をプレゼントします!皆様とてもお似合いですし、お子様も可愛らしいので、ぜひ参加してみませんか?景品は飛行機のプラモデルですよ!」

樹は飛行機のプラモデルと聞いてすぐに目を輝かせ、慎吾の手を引っ張った。「お父さん!僕やりたい!あの飛行機のプラモデルが欲しい!」

さらに、樹は佳奈の手を引こうとした。「お母さんも一緒にやろう!」

だが佳奈は、その樹の手を静かに振り払った。

「少し具合が悪いので」佳奈の声は淡々としていた。「あなたたち3人でやってください。あなたたちの方が、よっぽど『幸せな家族』に見えますから」

その言葉に、慎吾と樹は言葉を失った。

慎吾の顔が険しくなった。「佳奈、自分が何を言っているか分かっているのか?」

「ええ」佳奈はグラスに口をつけた。「理央さんに、私の代わりをしていただけばいいと言っているのです」

理央は慌てて取り繕うように微笑んだ。「慎吾さん、樹くんもあんなに欲しがっているし、佳奈さんも体調が優れないみたいですから……よければ私が代わりにお母さん役で参加してもいいかしら?私もずっと樹くんのことを自分の子どものように思ってきましたし、問題ありませんよ」

慎吾は樹の興奮した眼差しと、佳奈の冷淡な横顔を見比べ、胸の内に得体の知れない苛立ちを覚え、やがて低く言った。「行くぞ」

ステージの上にはすでに何組もの家族が並び、司会者は母親の好みに関する質問を投げかけていた――お母さんの好きな果物は?お母さんの嫌いな色は?お母さんの誕生日は?お母さんの得意料理は?

「お母さんはライチが好き!お母さんは黄色が嫌い!お母さんの誕生日は8月15日!お母さんの得意料理は……豚の角煮!」

結果は明白だった。慎吾と樹が書いた答えは、ほとんどすべて理央の好みに一致していた。

会場からは大きな拍手が巻き起こった。

司会者が笑顔で言った。「お父様も息子さんも、本当にお母様のことをよく分かっていらっしゃいますね!素晴らしいです、全問正解です!」

樹は飛び上がって喜んだ。

司会者はさらに続けた。「ただし、豪華景品を手に入れるには、最後に『愛の儀式』をクリアしていただかなくてはなりません!

お父様がお母様の頬にキスをするか、お母様がお父様の頬にキスをして、ご家族の温かい愛を表現してください!皆さん、拍手で応援を!」
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