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Penulis: 酔夫人
last update Tanggal publikasi: 2026-01-07 12:19:35

【彼女】とは別れたあと一度も会わなかったし、【彼女】から連絡をもらったこともなかったのに、俺の子だとすぐに分かった。

なぜ、そう思えたのか。

なぜ、疑問の一つも持たなかったのか。

この『なぜ』が、パズルの始まり。

あの日から俺はずっと、【彼女】の跡を辿ってパズルのピースを探している。

警察が調べて分かったことは、俺には全然足りない。

あの日からずっと、俺は未完成のパズルを眺めている。

真実のピースは、びたりとはまるだろう。

しかし、ほとんどのピースは俺の推測や希望で歪んでいる。

根拠のない想像は寝る間を惜しんで形を整えてもゆがみは直らず、無理やりはめても隙間だらけでパズルはいびつになる。

彼女しか知らない理由ことは、ぽかりと穴があいたまま。

 *

警察は、崖下で火が燃えているという地元住民からの通報で現場に駆けつけたという。

現場では燃えていた車の中に、運転席に【彼女】はいた。

救出が困難で長く燃え続けた【彼女】。

【彼女】だと身元の分かるものはすべて焼けてしまっていたため、【彼女】は検死解剖にまわされた。

注射でさえも痛くて嫌いだと泣いていた【彼女】。

そんな【彼女】が、死後とはいえ切り刻まれたと思うと、今でもいろいろな感情が渦巻いてしまう。

でも、それで【あの子】が見つかった。

顔も分からないほど焼け焦げた【彼女】とは対照的に、【あの子】に焼損はほとんどなかった。

【彼女】の気道には煤があまりなく、【彼女】はおそらく即死だったという検死の結果には少しだけ救われた気がする。

 ·

周辺の防犯カメラから、焼けた車両がレンタカーだったと割り出した。

レンタカーを借りたのは【彼女】だった。

でも、【彼女】が借りたレンタカーで夜中にあんな山道を走っていた理由、山道を下っていたことからどこからかの帰り道だと予測はされているがどこに行っていたのかも、まだ分かっていない。

【彼女】は事故があった山の麓の小さな街に、アパートを借りて住んでいた。

アパートにあったゴミ箱から【彼女】の髪の毛が採取されたが、警察の聞き込みで近隣住民から【彼女】が健診を受けていた産婦人科を見つけた。

警察が俺に連絡をくれたのは、【彼女】が病院に提出した書類の緊急連絡先に俺が書かれていたからだった。

【彼女】が緊急連絡先になぜ俺のことを書いたのか。

真実は分からない。

でも、俺への信頼ではないと思う。

施設で育った【彼女】に家族はいない。

だから緊急時、自分に万が一のことがあったときに子どもを育てる責任がある者として、【彼女】は子どもの父親である俺のことを書いたのだと思う。

なんにせよ、【彼女】の判断には感謝してもしきれない。

【彼女】が俺のことを遺してくれたおかげで、警察は俺を【彼女】と【あの子】のところにつれてきてくれた。

【あの子】の姿を知っているのは俺だけ。

【彼女】にどんな子だったか話したい。

幽霊でもいいから、【彼女】に会いたい。

会って、話がしたい。

 ·

【彼女】が俺に望んだ法的責任とは違ったものになっただろうが、俺は【彼女】と【あの子】の遺体を引き取ることに決めた。

その手続きには時間がかかると知り、俺は引退して伊豆の別荘に移り住んでいた祖父さんに連絡をした。

事情を話すと、祖父さんは【彼女】と【あの子】の死を悼んだあと、東京のほうは任せろと一時的に現役復帰してくれた。

祖父さんを頼ったのは、祖父さんが【彼女】を気にいっていたからだ。

俺と【彼女】は結婚の約束をしていた。

【彼女】は、俺のことを好きだと言うのに、いわゆる名家の御曹司と言われる俺との結婚に尻込みしていた。

俺の一族が認めてくれるわけがないと言う【彼女】に、俺は半ば強引な形で【彼女】を伊豆で療養することになった祖父さんの送別会に連れていった。

もともと祖父さんは【彼女】を気に入っていたから、送別会会場で俺は酒を片手に祖父さんが【彼女】を丸め込むのを見ていた。

祖父は既知の彼女を歓迎したが、他の奴らは施設育ちの彼女を俺の財産目当ての卑しい女だと決めつけた。

·

【彼女】と結婚していたら、どうなっていただろう。

【彼女】の遺した跡を追うのに疲れると、そんな妄想をしている。

プライドの高い一族だから施設育ちの【彼女】を認めない態度を見せるだろうが、一族のほとんどはうちの恩恵を受けているから、祖父さんと母さんが認めれば問題はなかっただろう。

いや、【彼女】は特別愛想がいいわけでもないのに態度がなんか可愛くて人に好かれたから、一族にも好かれたかもしれない。

祖父さんは大歓迎していて、母さんは……母さんは、どうだろう。

会社を長期休むことになるから、祖父さんに母さんに理由を話すように言われて俺は【彼女】の報告を渋々した。

渋々だったのは、母さんは【彼女】を嫌っていたから。

俺が【彼女】と別れて綾子と婚約したとき、母さんは俺に『正しい選択』だと言った。

母さんにとって大切なものは、この草薙家。

母さんはそのために常に『正しい選択』をし、俺にも『正しい選択』をするように求めていた。

父さんが体が弱かったため、母さんはそんな父さんのため、草薙家にとって有意義な女性を基準に祖母さんが選んだ人だった。

祖母さんの見る目は確かだ。

母さんは草薙家の発展に尽力しきたし、それはこれからも変わらないだろう。

社会に出て経営者として母さんをみるようになり、俺は母さんを尊敬するようになった。

俺にとって母さんが、母親というより上司であるのは、世にいう“母親らしさ”を感じたことがなかったからかもしれない。

一緒に過ごした時間が少ないことに加え、俺も母さんも口数が少ない。

そんな母さんが、【彼女】の死後はどこか変わった。

最近の母さんは、俺と顔を合わせるたびに『大丈夫か?』と探るような顔をする。

母さんと会うとぎこちないのは昔からだが、最近の母さんがこうなせいで、戸惑いが追加されてぎこちなさが増加している。

多分、俺と母さんは似た者同士。

だから、互いにやや同類嫌悪。

感情を隠す癖があって、相手の感情を読むのが苦手で、自分の嫌なところを見ている気がする。

鈍くて、母さんの分かりにくい母親らしさに気づかなかった。

母さんは学校のイベントにきたことはない。

三者面談など、保護者必須なことは全て母さんの秘書が代わりにきていた。

今では、分かる。

学校のイベントにくる余裕もないほど、母さんは忙しいかったこと。

秘書に託した「本人に任せている」という言葉には、母さんの俺への信用だったこと。

それも分からず俺は母さんに反発していたのだと、気づかせてくれたのも【彼女】だった。

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