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7 20年前にそこにいた人物

Auteur: 缶小豆
last update Date de publication: 2026-08-29 12:13:13

瞳は、そっと袋ごしに鉛筆をつまむと静かに目を閉じた。

ここからは、お金に見合っただけの苦しみを味わわなくてはいけない。この事件の真相に触れて、ちゃんと結果を伝える。

そう自分に言い聞かせて大きく息を吐くと、全身にとんでもない重力が押し寄せて来た。

苦しい……重い……

それは、この鉛筆を持っていた者の苦しみか?

それとも、過去に遡る自分への負荷なのか?

その境界線が分からなくなっていく。

最初に景色が広がって見えたものは、真っ赤な血の海だ。

覚悟はしていたが、その光景は目を背けたくなる惨状だった。

瞳は、自分に見えたものを、流星に事細かに伝えるように努力する。

「この鉛筆は……男の子が持っている。でも、この子はすでに死んでるわ」

男の子が力なくだらりとしている。

すでに胸が動いていない。衣服が血まみれだ。

(もう少し遡ろう。鉛筆はこの過去を知っている)

鉛筆に血はついていないが、間違いなくこの現場の景色を見ていた。そのため、その少し前の時間に遡るように意識する。

だが、瞳は少し息苦しい感覚に襲われ始めた。

「男の子の手にこの鉛筆は固く握られているわ。そして……男の子は刺されたのね。包丁もこの鉛筆の周りも血まみれ……鉛筆は……男の子が握っていて、血溜まりと手は距離があるから血はついていない」

「見えるのか?でも、これは被害者は握ってないぞ。現場には落ちていたが……」

流星の声は、瞳にはぼんやりとしか届いていない。

遠くの世界でその声が聞こえる感じだ。

返答をしすぎると、今の時間に戻ってしまうが、この声があるから戻りやすいとも言える。

瞳は、そのぼんやりとした声に答えていった。

「うん、そうね。死んで手の力が抜けて……今、コロコロ転がった。そばでは、男の人と女の人がすでに刺されているわ。最後に殺されたのが子供だったのね……母親が殺された後、どうして?おじさん!そう叫んでいた」

瞳の見ている前で刺された男の子は、恐怖と刺された痛みで目を見開き、短時間で生気を失い血溜まりの中に沈み込む。

その男の子が死に至る経過が示され、瞳はうっと吐きそうになる。すでに目の前には子供も含めて三人が死んでいる。

(鉛筆は、犯人の顔を見ているかしら?)

「目の前では、男の子を守ろうとしたのかしら?子供より先に女の人が死んでる……もう少し前にもどるわ」

(顔を見ることが出来たら、容疑者の候補の写真から絞り込めるわ)

瞳は、吐き気に襲われながら、さらに、もう少し遡るように念じて鉛筆を握る。

「女性は男の子の母親ね。子供を庇って刺された……やめて……あなたを愛していたのに……なぜ?殺される前、誰かにそう言っている」

(まだ犯人の顔は映らない。これで母子が顔見知りに殺されたことはわかったけど……男の人は二人より前に死んでいる。もう少し前に……戻ろう)

瞳の体にさらに負荷がかかる。

その負荷で、体が潰されそうな錯覚に陥るがこれは幻だと言い聞かせて、さらに前に遡るように念じた。

「あれ?男の人と母子が死ぬ時間に、少しタイムラグがある。この鉛筆がここに来た時、もう、男の人は死んでる……床に座ったままだわ。この人はすでに……刺されている……」

瞳は、ごくっと息を呑んだ。

女性に近づいてくる男性の体が見える。

「あなたとの事が夫にバレてしまった。揉み合いになって……殺すつもりはなかった……優希さん!どうしたらいい?って女の人が泣いてて、子供も亡くなった男の人にパパって叫んでる……」

「優希……さん?川村係長の名前と同じ!それ本当か?」

目を閉じている中で、遠くから届く流星の声が聞こえて、瞳は頷く。

「女性が血まみれの刃物を持ってる……それを……あ、川村が映った。受けとって……川村は、手袋をしている……悪いようにはしないけど、証拠品になるから……って」

「だから、指紋は奥さんのものが残されているだけだったのか……」

そんな呟きが聞こえる。

「他に川村以外の人は映ってない。目の前の女の人が子供を庇って刺され、次に子供が死んだわ。少なくとも殺害された時川村はこの現場にいた。男の人は女性と揉み合って刺されたようだけど……男の人が亡くなった後に、鉛筆がこの現場に来ているから、決定的なものは見えない。あと何か聞きたいことはある?」

瞳は、どんどん負荷に耐えきれなくなり、意識が途切れそうになるのを必死で堪える。

今、自分は20年前の殺人現場にいる。

これ以上は……

「……え、川村係長が……本当にそこにいるのか?」

「早く何が聞きたいか……教えて……私ずっと殺人現場にいるの。そろそろしんどい……」

「ええっ!な、何か川村係長は言ってない?何か」

流星の慌てた声が、自分が見ている20年前の子供の泣き声、女性が叫ぶ声と混ざり、何が現実かわからなくなっていく。

「あなたを愛していたのに……なぜ?一緒になろうって……お父さん!お父さん!……」

何を自分で言っているのかわからなくなる。

鉛筆の記憶……男の子の……女性の……苦しみが伝わってくる。

息が……苦しい。

うううううっ!と首が締まったような息苦しさがより一層増すと、体が思い通りに動かない状況になる。

「おい!大丈夫か?もういいから……もう……」

遠くで、そんな知っている声が聞こえてくる。

「苦しい……苦しい!」

瞳は、自分の体が思い通りに動かなくなり、バタバタして暴れ始める。

「お、おい!おい!」

その瞬間、その声と自分にしか触れる温かい感触が瞳の体にあり、こっちが現実だと自分が帰るべき方向が見えた。

誰かが支えようとしてくれている……

瞳は急いでその方向に手を伸ばそうと思って、目を必死で開こうとした。

ぼんやり何かが視界に映り始める。

これは依頼人……の大川……流星……

「おい!救急車呼ぼうか?おい!」

ダメ……医療費……ダメ!

頭の中にそんな言葉が浮かび、瞳はハッと現実に戻っていく。

だが、必死で薄目を開けると、目の前に流星、そして背後に何かの気配が――

「あぶな……」

だが、そこまでで、瞳の意識はがくっと落ちる。

瞳が必死で目を開いた時、流星の後ろにいた人物。

それは、ナイフを持った川村だった。

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