苦手な上司が義兄になりましたが、どうやら私を妹として見ていないようです

苦手な上司が義兄になりましたが、どうやら私を妹として見ていないようです

last update最終更新日 : 2026-10-24
作家:  三毛沢しっぽたった今更新されました
言語: Japanese
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概要

現代

三人称

溺愛

CEO・社長・御曹司

犬猿の仲

冷徹

禁断の恋

オフィス

秘密恋愛

仕事は完璧、容姿端麗。だけど口を開けばお説教ばかり。 そんな冷徹部長・波多野直樹(はたのなおき)が苦手な遠藤杏(えんどうあん)。 ある日、母親から突然の再婚報告。 新しい家族との顔合わせに向かった杏だったが、なんと再婚相手の息子は、あの苦手な上司だった! まさかの義兄妹関係に戸惑う二人。 とはいえ、職場以外で顔を合わせることもないだろう。 そう安心していた杏だったが、思いがけない事情から直樹とひとつ屋根の下で暮らすことに!? 会社では相変わらず冷たいのに、家ではどこか様子がおかしい。 時折見せる優しさに、妙な距離の近さ。 苦手だったはずの上司の知らない一面に、杏の心は少しずつ乱されていく。

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第1話

01.波多野部長は容赦がない

 ――遠藤えんどう杏あん、27歳。

 家具や照明、空間デザインなどをトータルで手がける総合インテリアメーカー〝株式会社いろのわ〟に勤めて、今年で3年目になる営業部社員だ。

 幼い頃に両親が離婚してからは母子家庭で育ち、現在は都内の小さなアパートで一人暮らしをしている。

 仕事はそれなりに順調で、やりがいも感じている。

 ただ一つ、直属の上司である波多野はたの直樹なおき営業部長との相性がすこぶる悪いことだけが、会社生活における唯一の悩みの種だった。

 顔を合わせれば小言を言われ、冷たい視線で射抜かれる。

 仕事ができるのは認めているけれど、どうにも苦手な相手だ。

「遠藤。この見積書、どういうつもりだ?」

 営業部のオフィスに、波多野の低く冷ややかな声が響いた。

 提出したばかりの見積書を指差され、杏は小さく瞬きをする。

 それは、取引先から依頼されたオフィス改装用の家具や照明のリストだった。先方の要望を最大限に取り入れた結果、一部の輸入家具が予算を少しオーバーしてしまっているのだ。

「先方の予算は確認したのか?」

「はい。ですので、品質を落とさずに価格を抑えられる代替案もご用意しています」

 杏が手元のファイルから別の資料を差し出そうとすると、波多野はそれを目で制した。

「ならば最初から比較できる資料としてまとめろ。相手に判断を委ねるつもりなら、必要な情報をひと目でわかるように揃えるのが先だ」

「……おっしゃる通りです。申し訳ありません、すぐに修正します」

 杏は反論することなく、素直に頭を下げた。

 特に落ち込むこともなく、杏が資料の修正に取りかかろうとしたときだった。

 波多野が背を向けて歩き去った途端、近くにいた男性社員たちがわらわらと杏のデスクに集まってきた。

「遠藤さん、大丈夫? また波多野部長に絞られてたね」

「あの人、遠藤さんにだけ当たりキツくない? 資料の修正、俺も手伝おうか?」

「俺、ちょうど午後の予定空いてるからさ。手分けしようよ」

 次々とかけられる労いの言葉に、杏はきょとんと首を傾げた。

「ありがとうございます。でも、資料をまとめるだけなので、これくらい自分でできますよ」

 杏は柔らかく微笑んで、気遣いを丁重に断った。

 男性社員たちは、そんな彼女の反応にかえって鼻の下を伸ばしている。

 杏は少し吊り上がり気味の切れ長な目元をしていて、黙っていると気が強そうに見られがちだ。

 しかし実際の性格は穏やかで、飾らないほんわかとした空気をまとっている。

 その見事なギャップが、男性社員たちの間で密かに人気を集めているらしい。

 とはいえ、当の本人にはそんな自覚など微塵もなかった。

 一方、少し離れた席では、数人の女性社員がパソコンのモニター越しに冷ややかな視線を向けている。

「また遠藤さんのところに男が集まってる」

「別に大したこと言われてなかったのにね。大袈裟じゃない?」

 そんなひそひそ話も、仕事モードに入りかけた杏の耳には届かない。

 そこへ、自分の席へ戻ったはずの波多野が、なぜか足音を荒立てて引き返してきた。

「……随分と余裕があるようだな」

 氷点下の声に、男性社員たちが一斉に肩を跳ねさせて振り返る。

 波多野は彼らを冷たく見下ろすと、手元のタブレットを叩きながら次々と指示を飛ばし始めた。

「田山、午後の商談で使う例の資料はできているのか。確認するから今すぐ出せ。石橋はC社案件の見積書を作成しろ。全員、終業までに提出するように」

「は、はいっ!」

 男性社員たちは蜘蛛の子を散らすように慌てて自分の席へ逃げ帰っていく。

 あっという間に静かになった周囲を見渡し、杏はパソコンに向かったまま(……さて、仕事の続きをしよう)

と、何事もなかったかのように作業を再開した。

 そんな杏を、波多野が何か言いたげな眼差しで見つめていたことなど、彼女は知る由もなかった。

 そして迎えた昼休み。

 午前中の業務をどうにか片付けた杏は、以前から気になっていた会社近くの和菓子屋へと足を運んだ。

 先月オープンしたばかりのその小さな店は、和モダンな内装が可愛らしく、店頭に飾られたどら焼きの写真がいつも杏の目を惹いていた。

 甘いものが大好きな杏は、実は朝からここへ来るのを楽しみにしていたのだ。

 紺色の暖簾をくぐると、店内には上品な餡の香りが漂っている。空いている奥のテーブル席へ案内され、杏はメニューを開いた。

 迷うことなく、お目当てのどら焼きと温かい緑茶のセットを注文する。

(午前中はちょっとバタバタしたけど、美味しいものを食べたら午後も頑張れそう)

 手元のおしぼりで指を拭きながら、運ばれてくるであろう甘い和菓子を想像して頬を緩ませる。

 しかし、その直後だった。

 通路を挟んだ斜め向かいの席から、どこか聞き覚えのある低い声が鼓膜を揺らした。

「みたらし団子のセットと、ほうじ茶を」

 オーダーを通すその落ち着いたトーンに、杏は何気なく顔を上げる。

 視線の先、小綺麗な和の空間に似合わない、仕立てのいいダークスーツを着た広い背中。

 そこに座っていたのは、つい先ほどまでオフィスで顔を突き合わせていた、波多野部長その人だった。

(……げっ!)

 思わず心の中で悲鳴を上げ、杏は反射的にメニュー表で顔を隠した。

 まさか、心安らぐはずの昼休みにまであの天敵と遭遇するなんて。

 幸い、波多野はスマートフォンに視線を落としており、まだこちらに気づいている様子はない。

 杏はそっと視線を伏せ、どら焼きが運ばれてくるまで、できる限り気配を消してやり過ごすことを心に誓った。

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01.波多野部長は容赦がない
 ――遠藤杏、27歳。 家具や照明、空間デザインなどをトータルで手がける総合インテリアメーカー〝株式会社いろのわ〟に勤めて、今年で3年目になる営業部社員だ。 幼い頃に両親が離婚してからは母子家庭で育ち、現在は都内の小さなアパートで一人暮らしをしている。 仕事はそれなりに順調で、やりがいも感じている。 ただ一つ、直属の上司である波多野直樹営業部長との相性がすこぶる悪いことだけが、会社生活における唯一の悩みの種だった。 顔を合わせれば小言を言われ、冷たい視線で射抜かれる。 仕事ができるのは認めているけれど、どうにも苦手な相手だ。「遠藤。この見積書、どういうつもりだ?」 営業部のオフィスに、波多野の低く冷ややかな声が響いた。 提出したばかりの見積書を指差され、杏は小さく瞬きをする。 それは、取引先から依頼されたオフィス改装用の家具や照明のリストだった。先方の要望を最大限に取り入れた結果、一部の輸入家具が予算を少しオーバーしてしまっているのだ。「先方の予算は確認したのか?」「はい。ですので、品質を落とさずに価格を抑えられる代替案もご用意しています」 杏が手元のファイルから別の資料を差し出そうとすると、波多野はそれを目で制した。「ならば最初から比較できる資料としてまとめろ。相手に判断を委ねるつもりなら、必要な情報をひと目でわかるように揃えるのが先だ」「……おっしゃる通りです。申し訳ありません、すぐに修正します」 杏は反論することなく、素直に頭を下げた。 特に落ち込むこともなく、杏が資料の修正に取りかかろうとしたときだった。 波多野が背を向けて歩き去った途端、近くにいた男性社員たちがわらわらと杏のデスクに集まってきた。「遠藤さん、大丈夫? また波多野部長に絞られてたね」「あの人、遠藤さんにだけ当たりキツくない? 資料の修正、俺も手伝おうか?」「俺、ちょうど午後の予定空いてるからさ。手分けしようよ」 次々とかけられる労いの言葉に、杏はきょとんと首を傾げた。「ありがとうございます。でも、資料をまとめるだけなので、これくらい自分でできますよ」 杏は柔らかく微笑んで、気遣いを丁重に断った。 男性社員たちは、そんな彼女の反応にかえって鼻の下を伸ばしている。 杏は少し吊り上がり気味の切れ長
last update最終更新日 : 2026-10-24
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02.このどら焼きを、ひとつ持ち帰りで
 やがて杏のテーブルに、美しい焼き色がついたどら焼きと、湯気を立てる緑茶が運ばれてきた。  ふっくらとした生地の間には、艶やかな粒あんがたっぷりと挟まっている。  たまらず頬を緩ませ、さっそくひと口かじりついた。  しっとりした生地の優しい甘さと、小豆の豊かな風味が口いっぱいに広がる。「ん〜っ……!」 あまりの美味しさに、思わずとろけるような声が漏れた。  その瞬間、斜め向かいから強い視線を感じた。  ハッとして顔を上げると、まさに串に刺さったみたらし団子を口へ運ぼうとしていた波多野と、ばっちり目が合ってしまった。(しまった……!) 見つからないように息を潜めていたのに、自ら台無しにしてしまった。  波多野も一瞬、ピタリと動きを止めた。  まさか自分の部下に見られているとは思わなかったのだろう。常に冷静沈着な鉄仮面が、ほんのわずかに崩れたように見えた。「……遠藤?」 「こ、こんにちは。部長」 「……ああ」 何とも言えない気まずい沈黙が、二人の間にふわりと降り下りる。  波多野は手にしていた団子の串を静かに小皿へ戻すと、誤魔化すようにコホンと軽く咳払いをした。「遠藤。昼飯はちゃんと栄養のあるものを食べたほうがいい」 「それ、お団子を食べている部長が言います?」 杏はすかさず、彼の目の前に置かれたみたらし団子の皿を見つめた。波多野もつられたように視線を落とす。「俺は……今日はたまたま食欲がなかっただけだ」 「私は食欲ありますよ。このどら焼き、とっても美味しいですし」 「そういう問題じゃないだろう」 「部長だってお団子だけじゃないですか」 杏が小首を傾げて反論すると、波多野は珍しく言葉に詰まった。  普段のオフィスなら息もつかせぬ正論の連発で部下を完膚なきまでに論破する上司が、たかが昼食のメニューごときで言い返せなくなっている。  その不器用な姿がなんだかとてもおかしくて、杏はふふっと小さく吹き出してしまった。  波多野は目を丸くして杏を見つめ、すぐに気まずそうにスッと視線を逸らす。「……笑うな」 「すみません。でも部長も、こういう和菓子屋さんとかに来るんですね」 「悪いか」 「いえ。ちょっと意外だっただけです」 杏の中の波多野は、昼休みも高級なビジネスランチで優雅に商談をしているイメージだった。  少な
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03.仕事はすごくできる人だと思うよ
 昼休みが終わり、静かな活気が戻った午後の営業部。 そこに、空気を凍らせるような鋭い声が落ちた。「吉田。これでは前回の提案より明らかに質が落ちている。先方がこれで納得すると思うか?」 波多野の厳しい視線の先で、杏の同期である吉田風夏が身を縮こまらせていた。 風夏が担当しているのは、長年付き合いのある企業の応接室改装案件だった。つい先日、先方から急な予算削減を求められ、風夏は泣く泣く家具や照明の構成を見直していたのだ。「申し訳ありません……。ですが、ご提示いただいた予算内に収めるためには、どうしても一部の家具のグレードを下げる必要がありまして」「予算が減ったからといって、安易に提案の質を落とすのは営業として三流のやることだ」 波多野はピシャリと切り捨てた。「今日中に、当初の品質を維持したまま予算に近づけた新しい提案を作り直せ」 無慈悲な指示に、風夏は言葉を失った。 すでに複数の取引先メーカーに頭を下げ、できる限りの価格調整を重ねた上でのギリギリの提案だったのだ。 これ以上、予算と品質を両立させるのはどう考えても限界がある。 しかし、冷徹な部長を前に反論する勇気などあるはずもなく、風夏は悔しそうに俯くことしかできない。 周囲の社員たちも息を潜め、嵐が過ぎ去るのを見て見ぬふりでやり過ごそうとしていた。 ――そのときだった。「部長。それは少し、無理があると思います」 静寂を破る穏やかな声に、風夏を含めた周囲の社員たちが弾かれたように顔を上げた。 声の主は、自分のデスクからすくっと立ち上がった杏だった。「……遠藤。今は吉田と話している」 波多野がわずかに眉間を寄せるが、杏はまったく怯むことなく彼の正面へと歩み寄った。「はい。存じております。でも、吉田さんの仕事の進め方に問題があったとは思えません」 杏は普段と変わらないトーンで言葉を続ける。「品質を維持することはもちろん重要です。ですが、予算が大幅に削減された以上、すべてを以前と同じ条件で揃えるのは現実的ではありません。現状で可能な選択肢をいくつもシミュレーションして提示した吉田さんの判断は、決して間違っていないと思います」 波多野は無言で杏を見下ろしている。それでも杏は、大きな瞳で彼を真っ直ぐに見つめ返した。「それに、今日中に全部やり直せとおっしゃいま
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