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6 家賃の立て替えをお願いします

Penulis: 缶小豆
last update Tanggal publikasi: 2026-08-28 20:55:01

瞳は、大家から渡された請求書を前に、朝から真剣に悩んでいた。

「どうしよう。多分振り込みのほうがいいよね。証拠をちゃんと残さないと、昨日みたいに現金を奪って、これは利息だって言いかねない」

でも……その前に18万だ。

昨日は欲張らず、その半額で交渉をすべきだったかしら?

でも川村の態度を見たら、タダで能力を使うのは当然って言いそう。

もし、次に来たとしても、最初にきちんと請求しないと踏み倒されそうだわ。

「うん、絶対全額請求しよう」

瞳は手を握りしめて、固く決意する。

今日は外に稼ぎに行かず、あの二人を待たないといけない。

占いで稼げても、せいぜい1万稼げたら良いほうだ。

でも、彼らは18万に変わるかもしれない。

「来るなら早く来てくれないかな……」

瞳は、ごろっとその場に横になった。

その目に映るのは、四畳半の部屋にある段ボールの机と小さな冷蔵庫……そして、小さな鍋。

テレビどころかタンスすらないし、服も下着もバッグ一つに収まる量だ。

占い師でもないのに、演出に使うための占い道具の方が多かったが、それも昨日大家に壊されたまま置かれている。

贅沢をしているつもりはないけど……

結局、母と同じように占いと夜職をしないと支払いは出来ないのかもしれない。

でも、夜職といっても、今の話題すら知らないのにお客さんと話せるだろうか?

彼氏すらいたこともないのに、色気が出せるだろうか?

テレビに出たこともあったから、能力を見せろって言われたらどうしよう……

その時、金属のカンカンという音が聞こえて、ガバッと起き上がる。

来たっ!

ドアを叩く音が聞こえて、昨日の大川流星の声がした。

「すいません。大川です」

気を遣っているのか?

周りに知られたくないのか?

警察とは言わず、少し小声で声を出す。

瞳は慌てて髪を整えて、そっと玄関横の窓を開けた。

「あら?ひとり?」

川村がいない。

周辺に誰もいないことを確認する。

流星は背筋を伸ばし、引き攣った顔で窓を開けた瞳の方を見る。

そして、瞳と視線が交差すると軽く会釈した。

瞳も思わず会釈を返し、自分の心臓がバクバクと音を立てるのを感じ取っていた。

(来た!ということは……家賃を返せるチャンス!)

心の中で、いやっほぉ!とガッツポーズをする。

いや、待って!まだ分からない。

無料で見ろという昨日の話の続きかもしれない。

ここは、気合を入れて――

瞳は、グッと唇を引き締めて無表情を装う。

「やっぱり来ると思った。家賃……支払ってくれるの?」

私はあなたが来ることがわかっていたのよ。

そんなクールな対応をするフリをしながら、建て付けの悪いドアを開ける。

「お邪魔します……」

そう言って、流星は室内に体を滑らせた。

そしてきっちり閉めようとするが、ここのドアは建て付けが悪い。ちゃんと閉まらない。

えっ?と言う顔で、何度か流星はドアを頑張って閉める。

「それ、建て付けが悪いの。しっかり閉めなくてもいいから」

「そう……なの?女の子1人だと、ちゃんとロックしないと危ないよ……あ、俺は今日、客だから……でも、あまり知らない人は家に入れないことをお勧めしたい……です」

言っている自分も追い出される可能性があると考えたのだろう。

流星は、決まり悪そうに視線を逸らした。

だが、今度は室内を見て、困ったように目が泳いでいる。

「何も物がないから驚いた?」

「は、はあ……まあ……」

流星は、言いにくそうにもじもじしている。

この人大丈夫かしら?警官なのよね?

あまりに考えていることが分かりすぎる。

これは、能力を使わなくても分かるわ。

その反応を見て瞳は軽くため息をつきながら、話を続けた。

「川村は来なかったのね。1人だとは思わなかったわ」

「君が、川村係長に気をつけるようにと言っていたから……」

こちらが気を利かせて話を振っているのに、もじもじとしたまま流星は瞳と目を合わさない。

「そう。言っておくけど、私もいつもはこんなに無防備に人を入れたりしないから心配は無用よ。それより本題に入っていいかしら?」

瞳は、目の前に滞納した家賃18万円の請求書を取り出して、それを見せた。

「お茶も出さずに悪いけど、すぐ支払ってくれる?出来れば振り込みで、記録に残る形でお金を入れたいの」

「あの、申し訳ないんだけど……」

ただでさえ女性と話すことが得意ではない流星は、今度は目を伏せて、ボソボソと呟くように話す。

「先に依頼を調べてくれないかな?後払いは?」

瞳はその言葉に落胆して、首を横に振った。

「ごめんなさい。これが終わると、私はバタバタ暴れて苦しみ始める。だから、支払い請求ができない」

「なんで苦しむ予定なんだ?」

驚いたように、流星は顔を上げた。

「20年の記憶を遡るのは、とてつもなく精神が削られる。ましてや殺人ならその遺留品が見た歴史を、私はそのまま目の前で再現させられる。間違いなくダメージが大きいの」

「なぜ、20年前のものだと?」

流星は、驚いたように視線をあげて、あんぐりと口を開いた。

「川村の電子タバコの記憶をみたからよ。川村は、地下2階の奥から2番目の部屋の棚から、資料を取り出していた。その棚に、一家殺人事件の文字と遺留品の書類の日付が見えたわ」

それを聞いた流星は、思いっきり眉をひそめて、気持ち悪いものを見たような顔つきになる。

その反応に、この人もそう言う目で自分を見るのかと少し落胆する。

「あの電子タバコからそんなものが読めるのか?」

「あら?まだ続きがあるわ。あなた達は、上司の久保田課長という人からその事件の依頼に来たんでしょ。タバコの見た過去が切れ切れになっていたけど、その会話からも20年前の事件とか、同僚の事件とかそんな会話が聞こえていた。新幹線と旅館も久保田課長のポケットマネー……あっているでしょう?」

「……合って……いる」

流星は、実際に自分たちの身の上にあったことを、話されたからだろう。目を見開き、呆然としたように瞳を見返した。

「家賃滞納さえなければ、そんな仕事受けない。今回は、緊急事態よ。あと……私は後払いで何度も痛い目に遭っているから先に払って欲しい」

「でたらめを言ったわけではないと確認してから、払おうとした奴が今までにもいたの?」

「そのつもりの人が大半だけど、ほら……その後言った通り遺体が発見されちゃったりすると、そちらの方で気持ちが……」

どこかに生きているのではないかと最後の望みをかけた人がやってくる。でも、その結果が求めるものではなかった時、それを受け入れることに精一杯。

受け入れたとしても、その不幸を言い当てたことで逆恨みする人だっている。どちらにしても後日、落ち着いてお金を払った人などいなかった。

「占いなら当たらなくても払ってもらえるけど、私は見たままを答えるだけだもの。お客様の求めるような返答ばかりは出来ないわ」

「で、でも、川村係長からのタバコは?あの時は、別に苦しがってなかったよね?」

流星は、なおも食い下がって反論を試みた。

だが、それも瞳にとっては単純なことだった。

「川村の電子タバコから探ったのは、数日前の記憶に過ぎないし、あなた達はここ2日で誰かを殺してきたわけじゃないもの。その程度なら負担はないの。でも20年ぐらい前で、しかも壮絶な現場なら、のたうち回るぐらいの苦しさはある。ああ、必要な情報を得たら、私のことは放置して姿を消してくれたらいいから」

瞳は、決して大事にしないように念押しした。

時々、病院に運ぶ人がいるが、治療費が払えない。

少ししたら治るのだから、目的を達成したら姿を消して欲しいのだ。

そこまで伝えると、流星は少し目を閉じて迷っているようだった。

「見て欲しいのは……鉛筆だよね?ここまで言っても、私の力が信用できない?」

最後のダメ押しで、瞳が流星にそう告げるとビクッと肩を振るわせる。

だが、それが決定打になったようだ。

請求書に書かれている大家の銀行の振込先に、流星は目の前でインターネットバンキングで振り込んだ。

「ほら、全部入金したぞ」

入金完了画面を流星は瞳に見せる。

瞳はそれを見て、ほっと胸を撫で下ろした。

「川村はね、血がついた物品が大量にある中から、かなり時間をかけて、あえて何もついていない鉛筆を選んだの。そして、事件の風化を望む発言をしていた。何か隠したいことがあるのよ」

「そんなことまでわかるのかよ……」

流星は、少しショックを受けたようにカバンから袋に入った鉛筆を取り出した。

瞳が、過去に遡って見た鉛筆だ。

「では、事件のあったところに置かれていたものに私は触れさせてもらうわ。ああ、袋の上からでいいわ。指紋がついたら困るし、十分読み取れるから」

瞳は、袋から鉛筆を取り出そうとする流星の手を止め、ビニール袋の上から、遺留品の鉛筆に触れ始めた。

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