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10-3

Author: 琉斗六
last update publish date: 2026-04-24 21:00:33

 式典を終え館に戻ったところで、アルとマークそれにカイルはジュリアンに呼び出された。

「なぜ、旧第七分隊の騎士が、あんなにいたんだ?」

「彼らは、ローデン泉館を運営するに辺り、募集に応じてやってきた〝従業員〟ですが」

 アルがしれっと答える。

「それがなにか? みたいな顔をするな! ちらと見ただけで五人は見たが、本当は何人来ている?」

「連れては来ていません。実際に、希望者のみです」

「それに、必要な人材の起用に関して、ジュリアン様は一任されたじゃないですか」

 カイルが、先日ジュリアンがサインをした書類を出した。

「待て。私は、村人に充分な報酬を出せるようにと、これにサインを……」

「私は、現場で働く者と、それをまとめて指揮をする者を雇う……と言いました」

 ジュリアンは頭を抱える。

「それで……本当は何人来ているんだ?」

「元第七分隊の者は、&he
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  • 触れるたびに溺れる浅ましさ   11-4

     アルは、ジュリアンの指が左右に振れたのを見て、ただ剣の柄を強く握るに押し留めた。──このクソ野郎。いますぐブッ殺してやりたい……。 と思っていたが。 もし本当に〝ブッ殺す〟としても、ジュリアンの目のないところですべきだ……という、理性も残っている。 だが、実際に縊り殺したいと思っているのは、本音だった。 ギルバートが今までジュリアンに強いた理不尽の数々は、決して許せるものではない。 ましてや、アルの知らないところで、体も尊厳も貶めるようなことまでしていたなどと……。 更にそれを、領民がいる場で蔑みながら嘲り、揶揄するギルバートに、腑が煮え繰り返る思いだ。 しかしそのギルバートを前に、ジュリアンは微かな動揺を見せはしたものの、冷静さを欠くことなく、淡々と対応している。 そう、思って抜剣をせずに耐えていたのに。「兄上が、この地も地位も欲しいとおっしゃるのでしたら、それをお渡しするのは、やぶさかではありません」 易々とギルバートの無体に応じるようなジュリアンの発言に、アルはもちろん、場にいる一同が狼狽え、ざわめきが波紋のように広がる。 だが、それに続くジュリアンの言葉に、ざわめきが静かに引いた。「今後一切、私の人生に関わりを持たないでいただきたい」──ああ、イアン様は本気で怒っているんだ。 ジュリアンは、唯々諾々と流されているのではない。 ただ湧いた怒りを、わざわざぶつけることすら煩わしいと思っているのだ。「なん…だと?」 ギルバートの顔に浮かんだのは、動揺だった。──なんだこいつ。イアン様が目障りなくせに……。 そう思ったのだが。 ギラギラした瞳で、ジュリアンの顔を……体を、執拗なまでに見つめる様子に、アルは気がついた。──違う。目障りなんじゃない、執着してるんだ。「貴様&hell

  • 触れるたびに溺れる浅ましさ   11-3

     ローデン泉館の入口に立ち、ジュリアンはラファエルから説明を受けていた。「先日、その向こうの開墾地に、簡易の宿泊施設の建設が終わりました。現在、皆が湯上がりに休憩用スペースとして使っている場所を、飲食ができるように改装する準備を進めています」「食料は足りているのか? 村から無理に徴発したりはしてないだろうな?」「とんでもありません。ローデン泉館で働く者たちの食料は、クリストファー様が王都の商会から買い付けたもので賄っています。また、飲食スペースで提供する食事は、一部の荒れ地を開墾して、野菜を栽培し、それで賄う予定です」「うん、それなら……」 表で騒ぎが起きているような喧騒が聞こえ、ジュリアンは会話を中断して振り返る。「様子を見て参りましょうか?」「いや、私が自分で行こう」 表の扉を開くと、そこで汚らしい男とアルがもみ合っていた。「アル、どうした?」「イアン様?!」「出てきたな、この穢らわしい娼婦の息子めがっ!」 アルを突き飛ばし、ジュリアンの正面に立った男を見て、ジュリアンは──咄嗟に全身が強張るのが止められなかった。 やつれた顔に、ギラギラと光る瞳。「あ……にうえ……」 ブルネットの髪にヘーゼルブラウンの瞳、大柄な体格までも、父ヴィクトルの姿形を受け継いでいる、腹違いの兄──ギルバート。「ギルバート様……?」 アルも、ラファエルも、そこにいる騎士団に所属していた──一度はギルバートを見たことがある者の全てが、ジュリアンの言葉を信じられないようにギョッとする。 それほどギルバートの姿は、騎士団当時とは様変わりしていた。「おまえが! 娼婦の性根の貴様の所為で! この俺がこのざまだっ!」「お待ち下さい。一体、ジュリアン様がなにをしたと言うのです?」 割って入ったラファエルを、ギルバートは乱暴に突き飛ばす。「寄るな! この平民風情がっ!」

  • 触れるたびに溺れる浅ましさ   11-2

     王都。 ヴァレンティン伯爵家のタウンハウスの前に、馬車が停まっていた。 窓のない黒塗りの馬車には、騎士団の紋章が描かれている。「それでは、失礼いたします」 襟に憲兵の徽章を付けた二人の騎士が、敬礼をして玄関先から辞す。 二人はそのまま、黒塗りの馬車に戻ると馬にムチを入れて走り去った。「奥様、ギルバート様が帰宅されました」 執務室の窓から、騎士団の護送馬車が立ち去るまでの一部始終を見ていたアデラインは、執事の報告にちらと目線をやる。「身支度をさせたら、寄越してちょうだい」「かしこまりました」 アデラインの執務机の上には、騎士団から送られてきた報告書が置かれている。──我がヴァレンティン家の嫡男が、なんてこと……。 窓辺から執務机に戻ったアデラインは、眉間を抑えてため息を吐く。 何度見直しても、内容が変わるわけではない。 マンティコアの護送における失態をきっかけに、ギルバートの醜態が次々と明らかになった。 いや、ギルバートのあれこれを、アデラインが知らなかったわけではない。 ただ聞こえてくる噂の内容と、派閥をまとめる能力を比較し、醜聞よりも能力が上回っている──引いては騎士団を、伯爵家を運営する力があると見做していた。──若い頃に、羽目を外すのは誰にでもあること……。 貴族として、裏の駆け引きは必要悪であり、それはアデライン自身も社交界を泳ぎ渡るために使っている。 しかし……。──あの哀れな子供に、なんてことを……。 報告書を手から離し、アデラインは両手でこめかみを抑え、止まらぬ頭痛に顔をしかめた。「奥様、ギルバート様がおいでになりました」「通しなさい」 扉を開いて入ってきたギルバートは、少しやつれた様子をしていたが。 瞳だけはギラギラと、異様に光っていた。「報告書を読みまし

  • 触れるたびに溺れる浅ましさ   11-1

     ローデン泉館の噂は、すぐにも広まった。 なにより、ジュリアンが式典で杖を手放していたことが、大きな宣伝効果をもたらしたのだ。「第三騎士団の遠征隊が、帰路に立ち寄ってくれているのも大きいですが」 ジュリアンの左腕をマッサージしながら、アルが言った。「個人的に休暇を取って、湯治に来てくれている者もいるな。村の集会場を、簡易な宿泊施設にしてくれているが、近々もっときちんとした宿を作らなければ」「芋以外の収穫物も増えていますし、湯治に来る者は、自身で食料を用意してくれています。そろそろローデン泉館に、飲食用の施設も追加して大丈夫なんじゃないですか?」「それは良いんだが……、また王都から、人を連れてくるなよ?」「以前にも言いましたが、こちらが引き抜いているわけではありません」 手首から肘、肘から肩と、香油を塗った肌を少し力を込めてマッサージされると、ビリビリと痺れるような感覚が走る。「んう……」「すみません、痛かったですか?」「いや、痛いわけじゃないんだ」 全く動かせず、ただぶら下がっていただけの左腕が、最近、わずかだが動くようになった。「痛覚が残っていたから、奇跡の泉の効果が出たのかな?」 ジュリアンの左手に、アルが自身の右手の指を絡めてくる。 目を上げると、アルの顔が間近に迫っていた。 求められるままに、唇を開く。──アルフォンスの唇が、気持ちいい……。 そこから、肌へと繋がる愛撫。 触れる指先も、唇も。 最初から一貫して、アルはジュリアンを宝物のように扱う。「私は……、きみに相応しくはないのに……」「それを決めるのは、俺ですよ」 耳朶を食んでいたアルが、そう言葉を返してきて。 ジュリアンは、自分が思ったことを言葉に出していたことに気がついた。「……私は

  • 触れるたびに溺れる浅ましさ   10-3

     式典を終え館に戻ったところで、アルとマークそれにカイルはジュリアンに呼び出された。「なぜ、旧第七分隊の騎士が、あんなにいたんだ?」「彼らは、ローデン泉館を運営するに辺り、募集に応じてやってきた〝従業員〟ですが」 アルがしれっと答える。「それがなにか? みたいな顔をするな! ちらと見ただけで五人は見たが、本当は何人来ている?」「連れては来ていません。実際に、希望者のみです」「それに、必要な人材の起用に関して、ジュリアン様は一任されたじゃないですか」 カイルが、先日ジュリアンがサインをした書類を出した。「待て。私は、村人に充分な報酬を出せるようにと、これにサインを……」「私は、現場で働く者と、それをまとめて指揮をする者を雇う……と言いました」 ジュリアンは頭を抱える。「それで……本当は何人来ているんだ?」「元第七分隊の者は、……全員です」 マークが、現状報告のように告げる。 当時、ジュリアンが指揮していたのは〝分隊〟だが、全部で十五人ほどいたはずだ。「現役の騎士が……、いきなり十五人抜けた……だと?」 額を抑えて、ジュリアンは椅子にどさりと腰を下ろした。「ジュリアン様。ローデン泉館で働きたいと言っている者は、第七分隊の者だけではございません」「はっ?」「ジュリアン様が務めておいでだった警邏隊や、王都で巡回をされていた地域の商店主など、こちらで働きたいと言ってる者は数多おります」 とうとうジュリアンは、返事もできずに口をぱくぱくさせるだけになる。「村への移住希望もございます。領民の受け入れに関しては、ジュリアン様のご判断が必要ですので、待ってもらっているところです」「無茶を言うな! そもそも十五人もいきなり増えて、食料はどうしているんだ? 騎士のような厳つい者が現れ

  • 触れるたびに溺れる浅ましさ   10-2

     馬車の扉が開くと、周囲から歓声が上がった。──ああ、夢のようだな……。 初めてローデンフェルの地を踏んだ日。 期待にざわめく領民たちの声が、ジュリアンの姿を見た瞬間にしんと静まり返った。 そうなることが分かっていても、なにも感じなかったわけではない。 それが、今は── 皆が笑顔で、ジュリアンを迎え入れてくれている。 それが、なんとも感慨深い。「ヴァレンティン準男爵殿」「シンフィールド子爵様! 申し訳ない、私が出迎えるべき立場なのに……」「いや。私が貴殿を出迎えたくて、先に来させてもらったのだ」 ステップを降りきったところで、アンソニーがジュリアンの手をグッと握る。「聞けば、泉にアンデッドが出たとか?」「奇跡の力の素晴らしさが、別の方向で証明されてしまいまして……」 そこで歩き始めたジュリアンを見て、アンソニーは驚き顔になった。「準男爵殿、杖はどうされました?」「あの泉の水を引いた風呂に浸かっていたら、少し楽になりました。未だ片足を引きずりますので、お見苦しくてすみません」「いや……、王都を救った英雄の体を癒せたのなら、こんなに嬉しいことはありません」 二人が並んで進むと、領民たちの間から自然と拍手が起きる。 建物へと続く道は、整地されて石畳になっていた。 そこをぎこちないながらも、ジュリアンは杖を使わずにゆっくりと進む。 警備に立っているアルが、なぜか誇らしげにこちらを見ている。 領民たちの間から「ご領主様が、杖を使わずに歩いていらっしゃる」と、囁く声が聞こえた。「あれは……アントン?」 その晴れがましい舞台に進む中、ふと人混みの整理をしている人物の顔を見て、ジュリアンは眉をひそめる。「……いや、あっちはコンラッド? それに、モーリスに、ピーターまで&he

  • 触れるたびに溺れる浅ましさ   3-4

     ジュリアンは奉仕をしながら、ちらりとアルの顔を見た。 真っ赤になって、唇を震わせ、快感に呑まれている表情。 髪を掴んでいる手が、さらなる刺激を欲して力を込めたいが、ジュリアンを慮って力を込めるべきではないと押しとどまっているのか、迷いで震えている。 かなり常軌を逸した行為ではあるが、ジュリアン自身はそれをさほども気にしてはいない。 騎士団に入ってから、背中の負傷で退団するまでの十二年間。 嫌がらせの噂が広がるにつれ、望まぬ場所で望まぬ行為を強いられることもままあった。 あまりに日常的に繰り返される暴行に、嫌悪も

  • 触れるたびに溺れる浅ましさ   2-3

     婦人に示された方へ走ると、山の林へと足跡が続いていた。──熊が二頭……となると、かなり厄介だぞ……。 そう思い、気配察知と身体強化に魔力を割いて、先へと進む。  少し行くと、木々や草が倒された場所があった。  その向こうに、熊が一頭、頭蓋を割られて倒れている。 そして、その傍には、折れた杖が落ちていた。  アルの喉が、ヒュッと鳴る。  杖がここにある……ということは、ジュリアンは現在、無手ということだ。──どっちだ? 急がねば……っ! 気ばかり焦る。  アル

  • 触れるたびに溺れる浅ましさ   4-1

     翌日、ジュリアンは執務室に顔を出した。「ジュリアン様、もう起きてよろしいのですか?」 執務室で仕事をしていたマークが、驚き顔で問う。「寝ていると、落ち着かなくてね。それよりマーク」 改まった口調のジュリアンを見て、持っていた資料を置き、マークは向き直る。「なんでしょう」「私のことを思いやってくれるのは嬉しい。だが、……きみほどの騎士が抜けてしまったら、損失は計り知れないぞ。今からでも、戻って……」「申し訳ありません。ですが、戻る

  • 触れるたびに溺れる浅ましさ   6-3

     書斎で書類に目を通していたアンソニー・シンフィールドは、扉のノックに「入れ」と返した。「ジュリアン・ヴァレンティン準男爵様がご到着にございます」「分かった。応接間に通しておいてくれ」 執事が出ていくと、奥の安楽椅子に座っていた老人が、意味ありげに咳払いをする。「なんですか、お父さん」「会ってやる必要なぞ、なかったんじゃないのか?」 しわがれたガラガラ声の、小柄な老人。 だが未だ矍鑠とした前シンフィールド子爵であるオーガストは、不満げに息子の顔を見やる。「ローデンフェルを父

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