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第6話

Author: 猫ちゃん
名家に生まれた人間であれば、直美に染み付いた育ちの悪さは一目で見抜けるものだ。

どんなに取り繕ったところで、無駄なことだった。

静香は凪のことすら気に入らないのだから、直美のことなど好きになるはずもなかった。

凪が現れると、静香の怒りは一気にそちらへ向かった。

「自分の男もろくに繋ぎ止められないなんて、だらしないわね。あんな女を家に上げるなんて」

渉は直美を背後にかばい、冷たく威圧するような声で言った。

「直美は俺の友達だ。おばさん、言葉には気をつけて!」

凪は初めて中島家に来たときのことを思い出した。

あの頃は家に入る前から、渉に何度も念を押されたものだった。中島家の人たちとは絶対に揉めるな、二人の将来のためだって。

それもそうか。あの頃の彼は、やっと家に認められただけの隠し子だったから。

でも今は、誰もが認める中島家の次期当主だ。

守りたいと思う人を、守れるだけの力がある。

直美は、おびえたように渉の手を握った。その瞳は感動と憧れでキラキラしていた。

まるで神でも見るかのように。

「渉さん、ごめん。迷惑をかけちゃった」

渉は大きな満足感を覚え、思わず凪の方に視線を向けた。

でも、凪はただ無表情な顔をしているだけだった。

自分が甘やかしすぎたせいで、こんなわがままで、決して折れることを知らない女になってしまった。

不機嫌になると、ふくれっつらをして口をきかない。

気が済まないとダメなんだから。ここがどこだか分かっているのか?

好きにさせてやれる場所だとでも思ってるのか?と、渉はすごく不満なんだ。

「凪ちゃん、直美と一緒に座ってて。すぐ戻るから」

直美に掴まれていた手をそっと離すと、渉は二階の書斎へと上がっていった。

静香はソファに腰かけていた。全身から気品が漂っているが、その表情には傲慢な軽蔑の色が浮かんでいた。

「凪、あなたを見くびっていたわ。中島家に嫁ぎたい一心で、ずいぶん我慢強いじゃない」

凪は彼女と口論する気になれなかった。

「おばさん、冗談がお上手ですね。私はおじいさんに食事を作ってきます」

凪は袖をまくって台所へ向かった。

食事を作るのを最後のお礼にしよう。これで、もう中島家とは関わることもない。

直美は、思わず凪の後を追おうとした。

だが、すぐに何かを思いついたように、その足をぴたりと止めた。

自分は、渉の妻になるのだ。台所みたいに使用人がいるような場所へ、自分が行くわけにはいかない。

凪が三品目の料理に取り掛かったばかりの時、外からけたたましい平手打ちの音と、直美の甲高い悲鳴が聞こえてきた。

凪はフライ返しを持ったまま、様子を見に出て行った。

しかし彼女より一足早く、二階から駆け下りてきた影が、床にへたりこむ直美を抱きかかえた。

「おばさん、何をしてるのか?」

賢治も悠斗を支えながら降りてきた。

二人とも、険しい表情をしていた。

静香はプレゼントの箱を床に投げつけた。

「渉、私はあなたの実の母親ではないけれど、義理の母親ではあるのよ。あなたが友人を食事に連れてくるなら、ちゃんともてなすつもりだった。なのに、私に偽物を贈るなんてどういうつもり?まるで、私が恥をかかされたみたいじゃない?」

賢治と静香は政略結婚だった。

政略結婚だから、もともと愛情はほとんどなかった。

そして運悪く、静香は娘しか産めなかった。一方で、賢治が外に囲っていた愛人は、息子の渉を産んだのだ。

渉が優秀で、今や中島グループの社長にまでなった。

多くのセレブ仲間が、静香はいつか今の地位から転げ落ちると、陰で嘲笑していた。

そんな状況で直美が偽物で彼女をこけにしたのだ。怒らないはずがない。

叩かれて顔を腫らした直美は、恐怖に震えながら渉の腕の中にうずくまった。

「渉さん、違うの。あれはあなたからのプレゼントでしょ。一番高価なものを選んだのに、どうして偽物なの」

中島家に来られると聞いて、直美は惜しいと思いながらも宝石箱の中から一番いいものを選んだ。これを機にうまく取り入ろうと、思ったのだ。

凪は、壊れた腕輪に目をやった。

それは渉の金庫で見たことがあった。オークションで落札した品で、腕輪のほかにティアラもあったはずだ。結婚式で使おう、と彼は言っていたのに。

それをあっさり直美にあげてしまうなんて、思いもしなかった。

だが、床に落ちているこれは、一目でわかる偽物だった。

渉は突然、凪の方を振り返った。

「直美の宝石箱に触ったか?」

凪はきょとんとした。

直美は、はらはらと涙をこぼしながら訴えた。

「凪さん、大学に行かせてもらったし、渉さんにも会わせてもらった。すごく感謝してるの。私のものなんて、何でもあげる。欲しかったなら言ってくれればよかったのに、どうして偽物とすり替えるなんてことするの……」

凪は、心の底から腹が立った。

「渉、あなたも私がやったと思ってるの?」

渉は直美の背中を優しく叩きながら、重々しく口を開いた。

「いい加減にしろ。おじいさんがお腹を空かせている。料理ができたら運んでくれ」

明らかに、彼は直美の言葉を信じていた。

凪は、フッと自嘲の笑みを漏らした。

「じゃあ、警察を呼ぼう。こんなに高価な腕輪なら、事件として扱ってくれるはずよ」

渉は、さらに顔をしかめた。

「凪、俺のそばへおいで」

悠斗の一言が、張り詰めた空気を断ち切った。

凪は、やつれた様子の老人を見て、さすがに無下にはできなかった。

素直に歩み寄り、悠斗を支えてダイニングルームへ向かった。

すぐに使用人が料理を運び、凪が作った数品はすべて悠斗の前に並べられた。

「やはり凪は気が利くなあ。俺がこれが食いたがってるの、よく分かってるじゃないか」

テーブルの一角は、和やかな空気に包まれていた。

その時、直美が不意に立ち上がった。

「おじいさん、おばさん、申し訳ありませんでした。すべて私のせいでご迷惑をおかけしました。この通り、お詫びいたします」

その瞬間、渉が直美の腕を掴んで止めた。

「君のせいじゃない。謝らないで」

直美は涙に濡れた瞳で渉を見つめた。

「でも、やっぱり気が咎めるんだよ」

渉は顔を上げて凪を見た。

「凪ちゃん、直美の代わりに、おばさんに謝って。それでこの話はおしまいだ」

渉はまるで絶対的な支配者のように、次期当主たる威厳を見せつけていた。

凪は心の中で冷たく笑った。

悠斗に料理を取り分けていた取り箸を置くと、彼女は静かに答えた。

「言ったはずよ、私を疑うなら警察を呼べば?」

渉の表情が固まった。もしかして、本当に誤解なのか?

彼は、昨夜凪が胃痛を訴えていたことを思い出した。

渉の瞳に、罪悪感と複雑な思いがよぎった。

しかし、直美は突然、渉の胸に倒れ込んだ。

彼女がげほげほと咳き、その様子に、渉の意識はすぐに引き戻された。

「渉さん、私は大丈夫。あなたが困らないなら、私はどうなってもいいの」

渉はすぐさま使用人に薬を準備させ、痛ましげに眉を寄せた。

「凪、どうして君はいつも、そんなに意地を張るんだ?少しでも我慢できないのか?」

ちょっと譲ってくれれば済む話なのに。

どうして中島家で事を大きくしてしまうんだろう。

あれほど忠告したというのに。

父からは名家の令嬢との縁談を押し付けられている。それでもずっと、凪を守り続け、全てのプレッシャーに耐えてきたのだ。

なのになぜ、凪は少しも分かってくれないのか。

凪の心は、その言葉にずたずたに引き裂かれ、胸が張り裂けるほど痛んだ。

かつては渉の未来のために、命を投げ出す覚悟で、戦ってきたのに。

今更になって、どうして我慢できないのかって聞くの?

我慢する理由なんて、どこにもない。

「渉、下心でプレゼントを渡して問題を起こしたのは私じゃないわ。わざわざ謝罪して、話を蒸し返したのも私じゃない。あなたの目は節穴?それとも耳が聞こえないの?」

渉は、凪が中島家の面々の前で、自分にそんな口を利くとは思ってもみなかった。

渉の端正な顔は、恐ろしいほどに暗く沈んでいた。

「フッ」

静香が鼻で笑う声が、渉の一番気まずく、デリケートな神経をぷっつりと断ち切った。

隠し子だと知られた時の屈辱感が、荒波のように押し寄せてきた。

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