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第7話

Penulis: 猫ちゃん
「渉、食事が冷めるぞ」

悠斗はそう言うと、エビを一つ、凪のお皿に乗せてやった。

悠斗がその場を収めてくれてはいたものの、食事は気まずい雰囲気のまま、お開きとなった。

帰り際、渉は凪をバス停に置き去りにすると、何も言わずに車を走らせて行ってしまった。

……

そのことについて、凪は特に何も感じなかった。静かにホテルに戻ると、彼女から渉に連絡することはなかった。

凪はテキパキと雑務を片付けて、Y市でのしがらみを一つ一つ断ち切っていった。

時折、直美から送られてくるメッセージを開いた。

トーク画面には、ここ数日、二人が何をしたのかが、細かく報告されていた。

心の痛みが麻痺してくると、逆に少し可笑しく思えてきた。

メッセージを送りつけてはしゃいでいる直美が、まるで哀れなピエロのように思えた。

凪は一度も返信せず、ただ後々のために、静かにスクリーンショットを保存した。

……

やがて月曜日になった。凪が買ったのは、午前11時半の飛行機のチケットだ。

彼女は朝早くに起きて荷物をまとめ、朝食をとるために部屋を出ようとした。その時、渉がスペアキーでドアを開けて入ってきた。

パリッとしたスーツを着こなしていたけれど、彼の表情はあまり良くなかった。

凪はとっさにスーツケースを背後に隠し、一瞬、心が乱れた。

彼女が渉のそばを離れることなど、今までほとんどなかったのだ。

以前、二人が喧嘩をした後、酔っ払った渉が凪の手を掴んで言ったことがある。「もし俺から離れようとしたら、家に閉じ込めてやる。一生、誰にも会わせない」と。

あの頃は、どんなにおかしい言葉でさえ、凪には甘く感じられた。

愛していたから。

でも今は、ただ嫌悪感しか残っていなかった。

渉はしばらく凪をじっと見つめていた。

この二日間、彼はずっとイライラを溜め込んでいた。

なのに凪から連絡がなかったことで、渉は抑えきれない焦りを感じていたのだ。

今、彼女が部屋でおとなしく待っているのを見て、重苦しかった胸が少し軽くなった。

「荷物は置いていけ。後で仁に取りに来させる。さあ、行くぞ、婚姻届を出しに」

かつてあれほど強く望んでいたことなのに、今はもう心に何の波も立たなかった。

凪はリュックを背負い直し、差し出された渉の綺麗な手を見つめた。

「急がないで。その前に、ちょっと付き合ってほしい場所があるの」

渉は腕時計に目をやり、珍しく少しだけ辛抱強い態度を見せた。

「わかった。あまり長居はできないよ。十時から会議があるんだ」

まったく、多忙なスケジュールの合間を縫って、自分と籍を入れに来てくれたんだね。

車はすぐに旧市街に停まった。

まだらになった石畳の道の両脇には、古い住宅が立ち並んでいる。

観光地として再開発されてからは、二人がここに来ることはなかった。

「どうして急にここへ来たくなったんだ?」

車を停めた渉は、凛々しい眉をわずかにひそめた。心の中で、不安な気持ちが再び渦巻き始めた。

彼は無意識に凪の手を握り、自分の手のひらの中に収めて、ようやく安心した。

凪は抵抗せず、もう片方の手で遠くの公園を指さした。

そこはかつてバスケットボールコートだったが、後にとり壊された。

「高校二年生の時、隣の学校の男子に告白されたことがあったよね。それに腹を立てたあなたは、その人たちと3on3で勝負した。あなたは勝ったけど、足を骨折してしまった。あなたは痛くて泣きじゃくりながら私に抱きついて、責任を取れって言ったわね。

大学一年生の時、付き合い始めてから、あなたは真夜中に私をここに連れてきた。そして、花火を打ち上げてプロポーズしてくれた。まだ学生なのに、あなたはすごく焦って、先に婚約だけしておこうって言った」

……

「凪ちゃん、一体どうしたんだ?」

渉の声に、思い出が遮られた。

凪は振り返って彼を見た。

「初めて直美のことで喧嘩したのもここだった。あなたは、取り壊し途中のバスケットコートに、私を一人置き去りにした。方向音痴の私は、二時間以上も歩いてやっと家にたどり着いたけど、足はもうマメだらけだった」

それ以来、彼女は二度とここには来なかった。

渉の心臓は、まるで大きな力で締め付けられるようだった。

彼は彼女を腕の中へと引き寄せた。

「凪ちゃん、そんなのはもう過去のことだ。俺が直美の面倒を見るのは……」

凪はそっと身を引いた。

「行こう。新しくできた公園がどうなってるか見てみたい。昔よく飯食いに行った店、残ってるらしいし。久しぶりに、ちょっと味見してみない?」

彼女は強く握られていた手を引き抜き、一人で前を歩き始めた。

渉は胸にこみ上げる感情を抑えて後を追った。この時間、観光客はいなかったけれど、いくつかのパン屋は開いていて、近所の住民をもてなしていた。

店の誰かが、水を道にざっとまいた。

渉は眉をひそめてそれを避け、とっさに凪を自分のそばへ引き寄せた。

「今日は特別な日だ。高級な料理予約したのに。どうしてもここで食べたいのか?」

この通りの店はどこも、渉が彼女を連れてきた場所だった。

自転車に乗り、笑い声の絶えない人々の間を駆け抜けた。

あの頃の渉は、まだY市の富豪に認められていない、ただの隠し子に過ぎなかった。

コネもなく、金もなく、誰にも相手にされなかった。

恒業グループが今の渉を作り上げ、彼を中島家の次期当主の座に押し上げた。

絶大な権力を手にしたのだ。

でも、渉は自分がどこから来たのかを忘れ、凪への約束も忘れてしまった。

「今日は、これが食べたいの」

凪の突然のわがままに、渉は一瞬、戸惑った。

十数年もそばで見てきた彼女は、甘えん坊で、生き生きとしていた。

でも、いつも彼のことを中心に考えていたはずだった。

なのに、いつからだろう、すべてが変わってしまったのは。

渉はまた、あの夜の中島家の屋敷での出来事を思い出した。以前の凪なら、中島家で自分の顔に泥を塗るようなことは決してしなかっただろう。

彼女は、自分が何を一番気にしているのかをよく知っていたからだ。

古い木製の椅子に座り、凪はパンとコーヒーを注文した。

渉は彼女から渡されたコーヒーを受け取り、心の中はますます空っぽになっていった。

「凪ちゃん、今日、仁に直美を迎えに行かせる。これからは、あの家には俺たち二人だけだ。昔みたいに」

渉の世界では、凪はいつだって、やりたい放題でいられる。

そして彼女は、彼だけのものだ。

それは変わらない。

絶対に変わるはずがない。

「さあ、食べろ。食べ終わったら、すぐ婚姻届を出しに行くぞ」

渉は少し焦っているようだった。

凪の心は、激しく揺さぶられた。

昔みたいに?

その時、唐突にスマホの着信音が鳴り響いた。

それは、渉が直美のために特別に設定した着信音だった。

以前、直美が発作を起こして電話してきた時、渉はスマホをマナーモードにしていて出られなかった。そのことをひどく後悔した彼は、病室の外で自分の髪を激しくかきむしっていた。

あの時、凪は初めて、渉が自分以外の女性に情を移しているのを目の当たりにしたのだ。

「出れば」

凪は俯いて食事を続けた。

渉は彼女の顔を見つめた。鳴り響く着信音にイライラを抑えきれなかったが、それでも通話ボタンを押した。

「直美、今日はちょっと忙しんだ。何かあったら仁に電話して……」

電話の向こうから聞こえてきたのは、仁の声だった。

「社長。山下さんが、二宮さんを元気づけようと温室で花の手入れをしていたんですが、喘息の発作が起きても休もうとしなくて……結局、温室で倒れてしまったんです。今は救急処置室にいます。社長には連絡するなと言われたんですが、容態があまり良くないです」

渉の表情が、みるみるうちに険しくなった。

「すぐ行く」

電話を切ると、彼は冷たい視線で凪を見つめた。

「庭は元通りに直すと言っただろ。どうしてそんな些細なことで直美を追い詰めるんだ?婚姻届はまた今度にしよう」

そう言うと、渉は背を向けて去って行った。

またしても、同じ場所で。彼は凪を一人置き去りにした。

籍を入れるはずだった、その日に。

大股で去っていく渉の後ろ姿を見ても、凪の心は大きく揺らぐことはなかった。

以前はよく考えたものだ。もし自分も病気だったら、渉は公平に扱ってくれるのだろうか、と。

でも、どうしてそんな必要が?

愛していると言いながら誓いを裏切った男なんて、もう価値がない。

コーヒーの湯気で目の奥がツンとした。凪は静かに食事を終え、歩きたかった道を最後まで歩いた。そしてホテルに戻って荷物を持つと、まっすぐ空港へ向かった。
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