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第6話

Auteur: 山田奈々子
介護士が箱を私に差し出し、何か言いたげに口を開きかけては閉じた。

歩き出そうとしたとき、彼女が私を呼び止めた。

「佐藤さん……一つ、お話ししていいのか迷ったんですが……」

「ええ、どうぞ」

「お母さまが入院なさっていた間、夏目さんが何度かいらっしゃいました。ご不在の時もあれば、藤原さんとご一緒の時も……」

彼女は顔色をうかがいながら、恐る恐る言葉を続けた。

「お母さまと何かお話しされていたようですが、中身までは存じ上げません。ただ、夏目さんがお帰りになった後は、お母さまはお顔を曇らせていらっしゃいました」

箱を抱えたまま、指先に冷たさがじわりと広がっていくのを感じた。

「……分かりました。お知らせくださり、ありがとうございます」

箱を抱えて階段を下り、入院棟の出口で、真正面から人とぶつかりそうになった。その相手は橙子だった。

彼女は患者衣に、ニットのカーディガンを羽織っている。左手首には、分厚い包帯が巻かれている。

その横を、信夫が彼女の腕をガッチりと支えている。

三人は病院の自動ドアの前で、立ちすくんだ。

一瞬、周りの雑音が消え、三人の時間だけが止まった。

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